TRUMPETER 1:35 KV-2量産型――レビューと製作記と若干の考証(暫定版)(『KV maniacs』より)
以下は、以前私が開設していた「KV maniacs」(の消失直前くらい)にアップしていた、トランペッター1:35の製作記事。今になってみると、「え、そうだっけ?」「そこ、違ってない?」みたいな記述もあったりするが、その後「かばぶ」にupしたKV関連記事の前段に当たるような内容も含まれるため、改めてupしておくことにした。
記事内容は、基本、2008年5月に「KV maniacs」にupした時のままなので、その辺、お含み置きを。
KV maniacsどころかweb上の活動も休止久しい私・かば◎ですが、発作的に(今頃)トランペッターのKV-2を組み上げてみたので、そのあれこれを書いてみたいと思います。
トランペッターは、メーカー初期のキットは「ありゃま」なものもありましたが、ご存じのように品質向上著しく、KVシリーズは、その「よくなったトラペ」を象徴するようなキット群と言えそうです。タミヤの古典キットから30年以上?の時を隔てて発売されただけあって、モールドもディテールもよく、(若干すりあわせが必要な部分もあるものの)組立も容易です。バリエーションも豊富で、KV-1、KV-2の各形式がほぼ網羅できるのも魅力です。
というわけで、以下、KV-2(キット名称 “Russian KV-2 Tank”、item no.00312)の製作と気付いたことの諸々を。
なお、考証部分については、KV maniacsの形式説明の項からの若干の修正を含みます。
●全体
基本形状は、「ФРОНТВАЯ ИЛЛЮСТРАЦИЯ」(フロントライン・イラストレーション)の「ИСТОРИЯ ТАНКА КВ」(KV戦車史)に掲載されているKV-2の図面にほぼ合致していて、キット設計の際にここから寸法を採った可能性があります。全体的に破綻はなく、そのまま組み上げても雰囲気的に良好ですが、フロントラインの図面自体が実車に比べてどこまで正確かという問題はあり、後述のように、こだわって見れば多少疑問な点もあります。
●車体基本形
車体はあらかじめ箱状の底面・側面に、モールドのある側板をはめ合わせる構成です。基本的に部品の合わせが悪いキットではないのですが、この部分は多少の難があり、すり合わせ工作が必要になります。シャーシ前端部と上部前面装甲板部分、上部後端のオーバーハング部分とを削り合わせるとうまく入るようです。
エンジンルーム上面も、ダボ位置の関係で多少左右が開きすぎるようで、これを放置すると後端曲面板左右に隙間が出てしまう可能性があります。総じて、車体基本形はしっかり仮組みとすり合わせをしておくと、あとで辻褄合わせの余計な手間が減ります。
●足回り
転輪は初期標準の緩衝ゴム内蔵型。ちなみにKVの緩衝ゴム内蔵型転輪には、
(1).極初期型。SMKと同じタイプ。ハブのゴム押さえ板の穴が8つ、リブも8本。試作車、極初期型で使用。
(2).同上。ゴム押さえ板の穴は8つだかリブがない。
(3).初期標準型。ゴム押さえ板のリブは12本に増え、穴は逆にリブ間で一つ置きになって6箇所になる。
(4).穴無しリム型。外周部(リム部)の穴がないもの。KV-1Eで使用例。
(5).後期型。外周部、穴と同数(12箇所)の小リブが追加される。
……などのバリエーションがあります(トランペッターでは、このうち(1)(3)(5)の3種類がパーツ化されていて、キットのバリエーションに応じてセットされています)。KV-2量産型の場合は、私の知る限りでは(3)のタイプしか使われていないようです。
上部転輪もゴム付きの初期標準型。量産型KV-2でも試作型・増加試作型同様のリブ付き上部転輪を使っている例がありますが、これは極初期型転輪とともに増加試作型KV-2のキットにセットされています。誘導輪もキャップ部のグリース注入口までちゃんとモールドしてあり、総じて満足の行ける出来だと思います。サスアーム基部も初期型形状です。
ただし、3箇所の上部転輪基部は、取り付け位置がキットではほぼ等間隔になっていますが、実車は不均等で、1番目~2番目間のほうが、2番目~3番目間よりも広くなっています。実車写真から正しい位置を読み取るのはなかなか難しいのですが、作例では第一上部転輪を3mm程度前進させました。2番目の位置もわずかにずれている可能性はありますが、微妙。
ダンパー基部は時期によって多少の形状変化があるようで、後の1sあたりになると両側の取り付けボルトが平頭のリベットになり、さらに車体にがっちり溶接されたりしています。アバディーンにある鋳造砲塔搭載の1941年型では、三角のリブの間で座金がくぼんでいるのですが、これがそれ以前の型ですべてそうなっているかどうかは確証がありません。私はKV-2ではキットのまま、続けて手を付けた2両目のKVでは座金の窪みを付けてみようと工作してみましたが、綺麗に窪ませるのがなかなか面倒だったのと、工作してもほとんど目立たないことが判って、片側だけで挫折。ヌルいです。
起動輪は、中央の皿形カバーが別部品(C12)で、カバーのボルトの多い初期型形状を再現しています。しかし問題は、起動輪本体の、外周スプロケット(歯車)の取り付けボルト位置がズレていること。本来、ボルトはスプロケットの歯1つ1つの根本にあたる位置にあります。
外側・内側の2列あるスプロケットそれぞれに、表裏にボルト頭側・ナット側がありますが、キットでは、なぜか4面のうちほとんど見えない3面では位置が正しく、一番問題の外側1面だけ、ボルトがずれています(写真左)。
どうやらキットでは、この1面だけ、ボルト列部分が別金型ではめ込み式で成型しているらしく、私が買ったトランペッターのKVのキット2つを比較してみたところ、まったく同じ部品枝であるにもかかわらず、ボルト位置がそれぞれ違っていました。内側列では正しい位置にボルトがあるので、設計段階では正しかったのでしょうが、生産の際にいい加減に金型をセットしてしまったようです。
ちなみに、今私の手元にある2つのキットでは、1つ(エクラナミ)は起動輪2個ともボルトがずれており、もう一つ(KV-2)では片側はほぼ正位置、片側はずれていました。というわけで、運が良ければ(生産ロット次第では)2個ともボルト位置が正しい起動輪パーツの入ったキットに巡り会える可能性もあるのかもしれません。
起動輪の表裏を入れ替えるだけで済めば話は早いのですが、裏側のほうがフランジが狭く、皿形カバーとの間に隙間が開いてしまうためにこれは断念。作例ではずれた側のボルトを一度そぎ取って接着し直しました(写真右)。最近視力低下が著しいこともあり、作業中に数個飛ばして紛失。見えなくなる裏側から不足分を調達するという情けない始末となりました。皿形カバー(C12)のボルト位置は、スプロケットのボルト位置とは特に関連性はないようです。
履帯はベルト式と、部分連結式の2種が入っています。ベルト式も彫刻は悪くありませんが、ゲートにあたる部分で多少成型状態がヨレているところがあります。また、柔らかすぎるのと、塗料が乗りにくそうなのでちょっと扱いにくい感じはあります。
部分連結式はその点の不安はありませんが、裏側に押し出しピン跡が盛大についています。また、前記の上部転輪位置修正を行うと、せっかく表現された上側の“たるみ”が合わなくなってしまいますが、強制的に曲げ位置を修正することは可能です。
アフターパーツの連結式履帯を用意するという贅沢な解決手段もありますが、少なくとも、手元にあったモデルカステンの履帯は起動輪の歯数が余計なタミヤに準拠しているのでピッチが狭く、キットの履帯には合いませんでした。私の持っているカステン履帯は発売初期のもので履帯のみでしたが、最近のものは起動輪もセットされているとか。とはいえ、履帯が改設計されているのではなく、むしろ履帯に合わせたものが入っているのではないかと推察しています。
●車体ディテール
車体機銃用跳弾リブ(D6)は、本来、中央下辺に雨水抜きの穴(というか隙間?)を作ってあります。H7はライトとホーン用のコードのカバーで、その下端からライトとホーンにコードを追加。KV-1/1941年型あたりだと、コードが丸いコネクター?のような部品に引き込まれたあとで左右にコードが分配されているのですが、KV-2や初期のKV-1では直接左右に分かれているようです。
KV-2でも末期の生産型なのか、現場での改修なのかははっきりしませんが、操縦手ハッチ前方、戦闘室前面装甲板の上に、跳弾リブを溶接している車両もあります。
また、KV-1の1940年型後期型のように、操縦手ハッチ前方の跳弾リブに加えて、戦闘室左右に増加装甲を溶接した車両の写真もあるのですが、これはバルケンクロイツが描き込まれたドイツ軍鹵獲車両なので、仕様として鵜呑みにしていいか、ちょっと疑問があります。増加装甲そのものは明らかにソ連式ですが、車体はKV-1から持ってきた再生車両という“離れ業”の可能性もあるかも?
まあ模型ならまだしも、実車の場合は車内装備品とかも違うだろうと思うので、やはり「元からこの仕様」のほうに分がありそうですが。
エンジンデッキ上面パネルは、前後4箇所ずつに吊り下げリング(A28)の取り付けが指示されていますが、後端左右2箇所は余計。モスクワの中央軍事博物館でしたっけ……に現存するKV-2は確かにこの位置に吊り下げリングがあるのですが、戦時中の写真で確認する限りありません。これはKV-1も同様。
パネル外周の取り付けボルトは、KV maniacsの形式説明の項に「平頭ボルト」が使用されていると記述していますが、これはどの写真で確認したものやら……。実際に平頭ボルトが使われていた可能性もありますが、尖頭ボルトとはっきり判る写真もあるので、キットのままで問題なし。
(エンジン上面パネルは、砲塔リングに掛かる円弧の両側にボルトが2箇所ずつモールドされていますが、KV-2を含む初期型KVでは3箇所ずつ(中央にもう1本)だったようです。2008/7追記)
エンジン点検ハッチは、オプションで、凸部中央のポッチのパーツ(A18)も用意されていますが、少なくとも私が見た限りでは、戦時中のKV-2の写真でこれが付いている仕様のものは確認できませんでした。
ラジエーターグリルのメッシュは、カマボコ型の最前部が平たく潰れたタイプ。作例ではアベールのエッチング(KV-I/II用グリルセット、商品番号G16)を使用しましたが、枠の折り曲げ工作が非常に面倒だったので、プラバンでベースを作って、枠部は後端の円弧状の板だけ使用。それでもなお、中のフレームの組立とメッシュの曲げはやたら面倒で、途中、多少安直でもキットのパーツを使うべきだったかと後悔するほどでした。ちなみにキットのパーツもメッシュのタレ具合などもそれらしく、ムクのパーツにしてはなかなか頑張っています。なお、左右のリベットの数は、アベールのものは多すぎ、キットのモールドはそのアベールよりさらに多くなっています。本来は左右4つずつでいいようです。
後部オーバーハング部下は、アベールの上記セットではメッシュと整風板が一体になっていますが、メッシュ部だけを切り離し、整風板はキットのパーツ(A11)をメッシュ取り付け枠のモールドを削って使用しました。キットのパーツも見える範囲での薄さの表現は充分なのと、アベールの整風板を使うとなると、その分、組立自体の面倒と車体側の窪みを埋める面倒が出てくるため。
なお、アベールのKV用グリルのエッチングパーツは、上記グリルのみのセットと、その他小部品もあれこれついている「ベーシックセット」の2種があります。どういうわけかこの2者ではパーツ構成が別で、後者では後部オーバーハング下のメッシュは、整風板と別パーツになっています。
尾灯にはカバーをプラペーパーで追加。コードも付けましたがメッシュに隠れてどうせ見えません。
●フェンダーと装備品
KVは履帯に比べてフェンダーの幅が狭く、だいぶ履帯が外にはみ出すのですが、キットはほんの少し履帯が顔を出す程度になっています。なお、同じトランペッターでも後期型のキットではフェンダー幅が狭くなっているとか。フロントラインに掲載の図面でも、初期型は広く、後期型は狭くなっているので、この点でもキット設計の参考にした可能性が濃くなります。
ただし、初期型のフェンダーと後期型のフェンダーではフェンダー支持架の“ベロ”部分の取り付けビスの数が違うので(初期型:6本、後期型:4本)、そのままパーツ流用は利きません。
作例では外側から幅を切り詰め、フランジを再生しています。フランジのフェンダー側折り返しはプラペーパー細切りの裏から針でつついて小リベットを再現したもの。ステイの“ベロ”の6本ビスを活かすため、ベロとフランジの折り返しとの関係がちょっと誤魔化し加減になっていますが、そこは目をつぶっています。
フェンダー裏側の補強リブは、キットでは全長に渡ってモールドされています。モスクワの中央軍事博物館の現存車両では、KV-1、KV-2ともこのような状態であるのが確認できます。ただ、戦時中の写真では、(KV-1も含めて)フェンダー裏がはっきり写っているものなどめったにないので確認しづらいのですが、前後のカーブ裏側にはリブがなかったんじゃないか?……と思わせるような写真もあります
フェンダー上に乗る工具箱は2種類がセットされています。現存写真で確認すると、KV-2増加試作型やKV-1/1939年型では、フタに、側面に掛かるベロがないタイプ(キットのパーツ、H1)が使われているので、こちらが初期型、ベロのある方(D20)が後期型のようです。キットの説明書では両方とも搭載位置が同じですが、実車ではなぜか標準の搭載位置が違い、初期型は右1・左2、後期型では右2・左1が普通です。
先のフェンダー幅詰め工作の結果、工具箱もそのままでは乗らなくなるので、内側で一度ノコで切断して幅を詰めています。
タグロープも同様に、H4?H6が初期型、D8が後期型のようです。初期型ではフェンダー支持架の穴を通し、後期型では上を通すのが標準。まあ、キットのパーツD8自体、ステイの穴を通りませんが。タグロープの拘束フック(H12)は、後期型でもステイの穴を通している例が見られます(ステイの上を通している例もあり)。後期型のロープが使われるようになって、ステイの穴を通さなくなってから、拘束フック用座金の取り付け位置も若干上に移動しているような気もするのですが、単なる個体差かもしれません。作例ではキット指示位置に付けています。
通常、KV-2の車外装備品というと工具箱とタグロープ程度なのですが、希に角形燃料タンクを搭載している車両もあります。
●砲塔
砲塔は(砲身を除いて)フロントラインの図面にピッタリ乗ります。
そのままで雰囲気は十分いいのですが、後からの姿を実車写真とよくよく見比べると、砲交換用の後部ハッチも、後部パネル自体の縦横比も、若干キットのほうが縦長になっているようです。車体幅とのバランスは特段おかしくはないので、砲塔それ自体の高さが強調されているのかもしれません。組んでしまってから気付いたので、作例ではこの点の修正はしていません。
砲身はフロントラインの図面に比べても短く、そのフロントラインの図面も実車に比べると若干短めかもしれません。これまた写真から正確な長さを読み取るというのは難しいのですが、横から撮った写真複数で判断するに、駐退機カバーを含めず、そこから表に出ている部分の砲身の長さだけで砲塔の高さよりも心持ち長いようです。キット寸法では表に出ている部分だけで4cm強というところでしょうか。
作例ではキットの砲身のリング状のモールドを削って、さらに根本の段のところまで、付け根で前進させています。そのままだと逆に長すぎるので、砲口側で多少縮めています。「伸ばして縮める」ことになりますが、付け根に新たに段を作るよりは楽が出来ます。砲身に掘られた2本の筋彫り(青木氏によれば砲身の装甲スリーブの分割線である由)は大げさ過ぎるのと、前述の工作の結果位置もがずれるので埋めてあります。これは実車でもほとんど見えない程度のものなので、気が向いたら基本塗装後にケガく予定。
砲口リングには、おそらく固定用のビス穴があります。フロントラインでは×方向に4箇所ですが、どうやら特に方向が決まっているものではなさそうで、作例ではたまたま写真でほぼ真横に見えているものがあったので、+方向に開けています。
砲耳部上のカバー(パーツL2)は外形的には悪くないのですが、そのぶん、パーツの肉厚で内側で防盾に干渉し、砲に最大仰角を取らせることができなくなります。作例でもちょっと内側をサラってみたのですが、それでも写真の位置程度までしか上がりません。どうしても砲身をめいっぱい動かしたい!というニーズがどこまであるかは判りませんが、その場合はペラペラになるまで内側を削る必要がありそうです。
砲塔側面・上面の片側3箇所の手すりは、実車では生産現場の裁量で割といい加減に作っているのか、車両ごとに大きさにバラツキがあるような気がします。キット程度の大きさに見える写真もありますが、幅も高さも、より大きいものが付いている方が普通のようです。作例ではキットのパーツをそのまま使っています。
上面の回転式ペリスコープは、てっぺんに小穴を追加。
後面の機銃マウントは、キットの基部パーツの外周が、ボルトとボルトの間で外側に膨らんだような形状になってしまっているため、すんなりと丸くなるよう多少ヤスっています。
●マーキング
キットには「スターリンのために」のスローガン、赤星2種のデカールがセットされています。確かにこの馬鹿でかくのっぺりした砲塔には何か書かないことには寂しい気がするのは確かなのですが、戦時中の写真では、鹵獲したドイツ軍が書いたものを除けば、何らかのマーキングが施されたKV-2を見たことはありません。
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