III号指揮戦車D1型 FIRST TO FIGHT 1:72
●先日、FIRST TO FIGHTのIII号戦車D型のキットレビューの最後に「これはぜひ欲しい」と書いた、同シリーズのIII号指揮戦車D1型。行動範囲の模型屋の店頭では見かけなかったが、秋葉原のイエサブで取り寄せてもらうことができた。というわけで組む前のチェックなど。
●実車について簡単に。
III号指揮戦車D1型(本来の名称は「III号」は付かず、単に「指揮戦車D1型」)は、III号戦車ベースの指揮戦車としては最初に作られたもので、「ジャーマン・タンクス」によれば1938年6月から1939年3月にかけて30輌が生産されている。ベースとなったIII号戦車D型は1938年1月から6月の生産なので、基本、戦車型の生産が終了した後に新たに生産されたことになる。
私自身、ちょっと前までは指揮戦車型(D1、E、H)では「砲塔が固定で、戦車型よりも前にある」のは前提として、その他は「無線装備その他のためにちょこちょこと細かいところの仕様が違う」くらいの認識でいたのだが、実際には、特にこのD1型においては、
- 足回りのコンポーネントと動力系は基本同じものを流用、
- 車輛全体のレイアウトもよく似ている(似せている)ものの、
- 車体の装甲は全体的に戦車型より厚く各部の形状にも微妙に差がある全くの別物、
- 砲塔基本形状も戦車型A~D型のものより前半の厚みが増したE型以降の型に準じたもの。
であるなど、要するに「似ているけれど車体から砲塔から実は全然別物」。これに関しては、しばらく前にはい人28号さんが1:35で、miniartのD型改造で製作された際の記事で教えて貰ってビックリした。
より小型のI号指揮戦車においても、エンジンが強化され車体が延長されたB型車体はもともと指揮戦車専用として開発されたことを見ても、この時代のドイツの戦車開発陣は、「指揮戦車は戦車型からちょろっと中身を改造するようなものではなく、コンポーネントを流用はするけれども全体を作り直すくらいの手間とコストを掛けるべき贅沢車輛」と考えていたらしいことが判る。
●というわけでキット。
上記のように「似ているけれど、いちいち全部違う」ことで二の足を踏んだか、結局miniartも指揮戦車D1型は出していないので、このFTFの1:72キットが、各スケールを通して初のインジェクションキットということになる(はず)。
先に発売されたIII号指揮戦車E型は、以前にレビューしたように、単に戦車型キットにアンテナパーツを足しただけというトンデモキットだったが、このキットは打って変わって、かなりの気合と頑張りが見て取れる。
パーツ構成は左写真の3つの枝+白十字のみの小さなデカールシートが1枚。パーツ枝のうち、
- Aパーツ:車体下部ほか
- Bパーツ:足回り
は戦車型キットと共通。
- Cパーツ:車体上部+砲塔ほか
は指揮戦車型専用に新たに型起こしされている。加えて、このシリーズ共通のものとして戦歴や開発史、組立・塗装説明の書かれた小冊子(表紙含め12ページ、テキストはポーランド語のみ)が付いている。右写真は同小冊子の組立・塗装説明ページ。
●車体上部を先行のD型キットと比較してみた。きちんと同サイズに撮れていないが、上が本キット、下が戦車D型。
- エンジンルーム上の点検ハッチの違い。戦車型は左右開き、指揮戦車型は前後開き。ハッチの大きさも異なる。
- 砲塔位置が指揮戦車型のほうが前。指揮戦車は砲塔が固定式のため、エンジン交換等でエンジンデッキを取り外す際に邪魔にならないよう、砲塔後端がエンジンデッキに掛からない位置にある。
- 戦闘室部分の延長。指揮戦車型の戦闘室は戦車型より若干前方に長いらしい(実はこのキットでようやく気付いて、確認してみたらトラクツでもそのように描かれていた)。のちの指揮戦車E型、H型では砲塔の前方移動に伴って砲塔前面と戦闘室前面の間が狭く、この位置に乗せた予備履帯が前方にかなりはみ出している写真がよく見られるが、指揮戦車D1の場合は狭くなったように見えないのはそういうわけだったのか!と改めて納得。
- 車体前部ハッチが操縦手側だけ。
- フェンダー上のOVM類の配置の違い。とはいえ、指揮戦車型キットのOVM配置はトラクツの図と比べると違いがあり、これが正しいかどうかは検証の必要あり。
――など、戦車型とは異なる車体を再現しようという意図がしっかり感じられるパーツとなっている。ただし、戦闘室上面とエンジンルームとの間に本来あるべき分割線が忘れられているのは戦車型キットと同様。
車体側面には、一体モールドのため形状はイマイチであるものの、指揮戦車型の配置のクラッペが付いている。
ただし、右フェンダー前方のジャッキ台のモールドは、型抜きのためにしては大げさ過ぎるテーパーが前後に付けられていて、はなはだ見た目がよろしくない(加えて、ジャッキ台の正規の搭載位置は実際にはここではない可能性がある)。ドットのモールドの関係上、削り取るだけでは済まないのが悩ましい。上の比較写真のIII号戦車D型ではジャッキ台はごく普通であることが確認できると思うが、これまで私が買ったFTF、WAWのキットでここまで変な処理は例がなく、なぜこんなことになったのか謎過ぎる。
●砲塔パーツ概観。
D型までの初期型砲塔とは違い、E型以降の標準型砲塔に準じた外形を持つ砲塔パーツがセットされている。砲塔上面も(以前のナンチャッテ指揮戦車E型キットと異なり)きちんと指揮戦車型のディテールを模したものになっている。
その一方で、抜きの関係で砲塔後面のアンテナ線引込部や(本来円錐形であるべき)ピストルポートはかなり大胆に形状が崩れていて、なんとかしたいところ。実は同じシリーズのIII号戦車E型のキットでは――
金型をやや傾けているのか、上のようにきれいな形状で一体モールドで抜けており、今回はなぜそうしてくれなかったのか惜しまれる。ただ、E型キットでは側面ハッチが別部品になっているので、そのぶん成型方向に自由がきいたのかも。
指揮戦車キットの砲塔側面ハッチ、クラッペは下辺のエッジの処理もダルいので、この際、(車体の再現度などで)トホホ度が高いE型キットを犠牲にして側面ハッチやピストルポートを移植してしまおうかなどという考えも、ちらちら頭をかすめ中。なお、側面のハッチストッパーのモールドもかなりゴツい。また、本来指揮戦車型の側面クラッペは左右で高さが違うのだが、キットではその点は再現されていない。
なお、キットの砲塔と車体の接合は戦車型同様に回転可能な状態になっているが、実車は固定されており回転しない。
●細かいパーツ類。
左写真は指揮戦車仕様の戦闘室前面やダミー主砲、フレームアンテナなど。戦闘室前面のピストルポートは、ちょっと枠部分が強調されすぎかも。砲塔前面は実際は一番端の機銃だけが本物だが、本来あるべき、その根元のボールマウントの表現は省略されている(ダミーのものも含め機銃が太すぎる点もマイナス)。フレームアンテナは柱部分も一体成型で、そのため、柱は単なる棒になっている。
右写真は誘導輪。なぜかIII号戦車D型と指揮戦車D1型では誘導輪形状が全く違うのだが、キットではフォローされていて有り難い。
●車体下部と誘導輪を除く足回りはIII号戦車D型キットからまるまる流用。
実際には前述のように車体は別物で、シャーシ前面のブレーキ点検パネルは指揮戦車D1型にはないので、モールドを削り取る必要がある(加えて、指揮戦車D1型では前面装甲板が組み継ぎになっている)。ちなみにキットの箱絵でもこのパネルが間違って描かれている。
はい人28さんによれば、その他にも上部転輪配置が僅かに違っているそうで、それに付随して、前方の第一転輪ボギーのショックアブソーバーの作動アームは、戦車型では上掲パーツ写真のようにほぼ垂直だが、指揮戦車型ではショックアブソーバー本体が前方に移動しているのでもっと斜めになっている。これは作動アームも含めて一体成型になっているので改修は面倒だし、そもそも履帯と一体成型になっている上部転輪の配置を直すのはなかなか難事となる。……たぶん私は手を付けない。
さらにはい人28さんによればシャーシ幅自体も若干拡幅されているそうなのだが、これは見た目ではよく判らない。
●というわけで若干の問題はあるものの、なかなか興味深いキットであるのは確かで、III号戦車D型と並べて形状の違いを楽しむためにも、とりあえず早々に組んでみたい気も。
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