I号戦車B型 アカデミー 1:35(2)
●アカデミー 1:35、I号戦車B型のキットレビューの続き。寸法チェックや他社キットとの比較など。もっとも他社キットとの比較とはいっても、本当に比較してみたい直近新キットのTAKOM製は持っていないので、いまひとつ役立ち度は低めかも。
なお、ドラゴン、イタレリ、トライスターの寸法/パーツ比較については、尾藤満さんの「パンツァーメモ」のI号戦車B型製作記にも詳しい。もちろん、パーツ比較だけではなく製作そのものに関しても大いに助けになる。
●まずは、PANZER TRACTS No.1-1、I号戦車の巻の図面と突き合わせてみることにする。
当然ながら、寸法がどれだけ正確かは実車・実測データと比べるべきもので、本の図面には「それがどれだけ正確なの?」という問題が付きまとうわけだが、一応、PANZER TRACTSは実測データに基づいて作図しているとのこと。実際には、PANZER TRACTS掲載の図面も、部分的には「え、それどうなの?」と感じるところがないわけではないが、とりあえずは、今のところ最も信頼性が高いものと考えて、頼りにしてみる。
PANZER TRACTS I号戦車の巻の図面は1:35ではないので、まずは縮小コピーを取る。
PANZER TRACTSによれば、I号戦車B型の寸法は、
全長:4.42m(126.3mm)
全幅:2.06m(58.9mm)
全高:1.72m(49.1mm)
(カッコ内は1:35の計算結果、小数点2位以下四捨五入)
そもそもこの「全長」とか「全幅」とかが、どこからどこまで?というのがちょっと戸惑うのだが、全長は前後のマッドフラップ、全幅はフェンダー両端間――ではなくて、そこからちょっとだけ横に飛び出す転輪ボギーの補強レールまでを含めた寸法と判断。スキャンデータの印刷倍率を細かく変えて、上記カッコ内寸法の図とした。
で、そんな図面とキットの車体上部を重ねてみたところ。
マッドフラップ部分を含めないフェンダー長は、PANZER TRACTSを縮尺してみた図面は108.8mmというところ(小数点以下はかなり適当)、キットは108.2mmくらいで、やや短い。上写真はフェンダー後端で合わせてしまったのでやや前側にズレが見られるが、フェンダー前端で合わせると、車体前部装甲板の継ぎ目とか、戦闘室の位置などは、ほぼ図面とぴったり重なる。ちなみに先行他社のキットの寸法は、
イタレリ:109.7mm
ドラゴン:105.7mm
イタレリが最も長く、ドラゴンは最短。尾藤さんによれば、ドラゴンはマッドフラップ部分で全長の帳尻を合わせているらしい。
戦闘室部分の前後長は、
PT図面:32.8mm
アカデミー:32.8mm
イタレリ:33.7mm
ドラゴン:31.7mm
トライスター:33.3mm
で、アカデミーはピッタリ、イタレリとトライスターA型でやや長く、ドラゴンは短かった。
各社の車体上部と砲塔を並べてみたのが上写真。左からトライスターA型(新)、イタレリ、アカデミー、ドラゴン。PANZER TRACTSの図面によれば、戦闘室前後長と砲塔前後長はほぼピッタリ同じ長さらしいのだが、砲塔はトライスター用が最も大きく、イタレリが次点で、戦闘室の長さと順位が逆。このため、イタレリのキットでは砲塔前側で、やや戦闘室に“余り”が出る。
一方でドラゴンは戦闘室が最も短いが、砲塔前後長はそれよりさらに短い。そのため、砲塔を並べてみても明らかにドラゴン製だけ小さい。ドラゴンは後発のA型キットでは砲塔パーツを改めて大きくしている(実車では細部ディテールは違うものの、A型・B型で砲塔基本形は変わらない)。
なお、本来、砲塔リング中心は前後位置で戦闘室のちょうど真ん中にあるらしく、アカデミーのキットでもそうなっているが、砲塔前半の寸法の違いもあり、イタレリ、トライスターではやや後ろに、ドラゴンではやや前にズレている。
というわけで、とりあえず、ごく大まかに主要部だけ検証してみたが、寸法的にはアカデミーのキットはなかなかスグレモノといえそう。
●細部に関するチェックの続きと比較。
▼フェンダーの滑り止めパターンはこんな感じ。
上がイタレリ、下左がアカデミー、下右がドラゴン。前回書いたように、アカデミーが最も細かく、実車にも近いようだ(フェンダー幅が、実車では網目15目。アカデミーが14目)。まあ、個人的にはイタレリくらいでもいいかなな、という感じだが、タミヤのII号戦車くらい粗くされるとさすがにちょっと……。
▼各社の転輪を比べてみたのが、以下の写真。
左から、イタレリ、トライスター(上:改修版、下:旧版)、アカデミー、ドラゴン(上:改修版、下:旧版)。ドラゴンの改修版は、自走砲のキットにセットされているもので、トライスター改修版と同様、リム外側リングが別パーツになっているが、写真はそのパーツを取り付けていない状態。
以前、トライスターのA型旧版でブレダ20mm搭載型を作った際のチェックでも書いたが、トライスター旧版はちょっと“オムスビ穴”の底の角が丸すぎる感じ。各社ともスポーク付け根のグリースポイント?と思われるバルジも表現されているが、イタレリは本来2か所にあるべきバルジが1カ所しかない。また、アカデミーのパーツはグリースポイント?のバルジが、転輪の表裏両方にある(他社は片側にしかない)。これは実車の同一の転輪の表裏を確認したことがないので、正解は不明。
また、リム部外周のディテールに段付き・段無しの2種類あるが、これは実車でも確認できるバリエーション。また、前回書いたように、アカデミーのみ、ゴムリム部およびスポークに刻印が表現されている(TAKOMはスポークの方の刻印のみある模様)。
転輪の厚みは、イタレリのものが最も薄く、アカデミーとドラゴンはほぼ同一。トライスターのものが最も厚い。PANZER TRACTS掲載の諸元表のなかに、「Tires: 530/72 Rubber」という記述があり、この72(mm)が幅だと思われるが、35で割ると2.1mm。トライスターが2.3mmでやや厚め、アカデミーは1.8mmで薄め。アカデミーやドラゴンで薄めなのは、履帯のガイドホーンにそれなりのプラの厚みを持たせたかったからか。
新しめの転輪3種でのディテール比較。トライスター新版と、ドラゴンの自走砲キットの新パーツは、リム部外周を別部品にすることでポケット状になっていることを表現。ドラゴンのキットは外周パーツを金属パーツで用意しているが、写真では取り付けていない。この部分においては、アカデミーのパーツは一歩譲るが、一方で前述のように刻印のモールドでは勝っている。なお、トライスター新版の転輪はややゴムリム部に軽くテーパーがあること、それもあってエッジの丸さが強調されて見えることも、ちょっと気になるかも。
▼誘導輪は、イタレリとドラゴンのB型(戦車型)ではムクの1パーツだが、アカデミーのキットや、ドラゴンの指揮戦車~自走砲の新パーツではリム部が表裏別パーツになって、空隙部が表現されるようになった。ドラゴンは指揮戦車と自走砲で、これまたパーツが違っている(自走砲のパーツの方が新しく優れている)。写真は、アカデミーと、ドラゴンの自走砲用パーツの比較。
左がドラゴン(三代目)、右がアカデミー。リム部はドラゴンのものの方が薄く、空隙も広い。……だけではなく、ドラゴンのもののほうがハブ部の突出が大きくメリハリがある。ただ、実車写真と見比べた感じでは、ハブの突出具合はアカデミーの方が近い。
なお、空隙間のリブは、両社パーツともスポークとスポークの間にもあって、計12枚となっているが、実車は、スポーク部にしかない(つまり6枚)ものもあるようだ。
ボーヴィントンの指揮戦車もどうやらリブの少ないタイプを装着しているほか、PANZER TRACTS No.1-1の中の写真でも確認できる(p83)。右写真はボーヴィントンの指揮戦車実車、wikimedia commons、File:SdKfz 265 Panzerbefehlswagen I Ausf B rear view at the Bovington Tank Museum.jpg(作者:Mightyhansa/Vauxhall Bridgefoot)より切り出し加工。
▼パーツ状態でフィット具合が気になっていた、戦闘室前・側面装甲板の検証。
前回書いたように、おそらくクラッペ/ハッチ周りのモールドのツブレを防ぐために、このキットでは戦闘室側面・前面が別パーツ。そのために、接合ラインに隙間など空いてしまわないかが心配なところ。
工作の手順としては、車体上部パーツに、戦闘室左右の装甲板(A22、A23)を先に着け、その後で前面装甲板(A20)を着けた。なお、組立説明書の手順としては、これらのパーツを付けるのはステップ20とだいぶ後半だが、私は当然、間はすっ飛ばしている(こういうことをしていると、たまに、後から着けられないパーツが出てきたりして慌てることになる)。
側面パーツ(A22、A23)は裏側に複数の押し出しピン痕があり、そのため、多少凸凹している。これが接合時に多少の悪さをしそうなので、その辺を中心に、パーツのすり合わせを入念に行う。そこそこ頑張った結果、接着後の様子は写真のようになった。パーツの接合線は、2枚の写真の①③④の部分。若干、「パーツの合わせ目だなあ」感はあるので、この後、極細伸ばしランナーなど貼って整形をしたい。
なお、前述のように側面パーツを貼った後に前面パーツを合わせたが、その際、接合線③の部分に少々隙間が空いたので、側面パーツ前端の④の部分をヤスってやや後退させた。側面パーツ側の溶接線モールドを削り落とすくらいの感じでちょうどよくなった(そこまでの部品の擦り合わせ具合でも変わってきそうだが)。
関連して、戦闘室の後ろに取り付けることになるエンジンデッキは、前端部(写真の②)に溶接線のモールドがある。しかし実車では、戦闘室とエンジンルームは分離しており、かつ各々取り外し可能なはずなので、ここに溶接線はない(はず)。綺麗に削っておきたい。
●とまあ、こんな感じ。
戦闘室周りのパーツの接合など、一部面倒なところはあるが、全体の寸法、個々のパーツの出来などもよく、「アカデミー、やるじゃん!」と言いたい佳作キット。今後、噂の通りタミヤからもI号戦車が出るとして、まあ、まだ何の情報も出ていないキットとの間で優劣は付けようがないが、少なくとも、コストパフォーマンス的にもいい勝負には持ち込めそう。
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