馬丁式重轟炸機

model 139WC/WSM/WT special hobby 1:72

●仕事から私事から、妙に忙しい。

前月末には、兄が勤めるビジネスホテルが立地する商店街が主催する“まちゼミ”で講師が足りないというので無理矢理駆り出されて第一回の講座をした(オンラインで)。「何の話でもいい、模型でもいい」と頼まれて、なるべく一般の人でも聞ける話題をということで、鎌倉・三浦の山歩きをネタに喋ったのだが、コロナ禍で「おうち趣味」がクローズアップされている今、模型ネタの方がよかったんじゃないかと思ったりもする。今週末に第二回の予定。

ほか、医者嫌いの母を大学病院に連れて行ったり、仕事で久々に(しかし2週続けて)多摩川を渡って都内に行ったり。

●その都内行きの2回目。行き帰り井の頭線を利用したので、帰りに下北沢のサニーへ行く。

20211004_234650 実はICMのFCM35(フランス戦車)を買う気十分で行ったのだが、店内をあれこれ見て回っているうち、こんなキットを発見。うわ。こんなん出てるの知らんかったわ!

そもそも「model 139」という名称でそれがナニモノかわかる人はほとんどいないのではないかと思うのだが、正体は戦間期のアメリカ製の双発爆撃機、マーチンB-10の輸出型。宮崎駿の「雑想ノート」でも有名な、

馬丁式重轟炸機

である(馬丁はメーカー名のマーチンの音写)。

私自身は、「雑想ノート」よりもだいぶ以前、大学時代に、当時絶版だった「中国的天空」をコウ中村さんに借りて読んだ時からのこの機体のファンで、いつかは作りたいと思っていたもの。実をいえば、そのためにずーーーーーっと昔にWilliams Bros製の1:72のマーチンB-10のキットは買って持っているのだが(そしてこれはこれで気合の入ったいいキットなのだが)、「まさか、これが新キットで出ていたなんて!」という衝撃と誘惑に負けた。

●サニーの店頭で見たとき、このキットと重ねてAZUR FRROMの同じマーチン139も積んであったのだが、こちらのspecial hobbyのキットの方が、ほんの少しだけ安かった。AZURもspecial hobbyも、どちらもチェコのMPM系列(そもそもMPMというもの自体が今も存続しているのかよくわからないが)なので、基本同一のキットのようだ。Scalematesを見ても同系キットとして扱われている。

AZUR FRROM版はいくつかバリエーションが出ていて、最初が「B-10 Export WC/WAN」(中国軍、アルゼンチン軍)、2番目が「B-10 Export WH-2/WAA」(オランダ東インド軍、オランダ軍)、3番目が「B-10B in US Service」(米陸軍)。私が買ったspecial hobby版は中国軍、タイ軍、トルコ軍のデカール入りで、基本、AZUR FRROM版の最初のキットの箱替え・デカール替えのようだ。Scalematesでは新パーツが加わっているように書かれているが、ネット上でAZUR FRROM版の中身を見る限り、パーツの差異は判らなかった。

●一応、簡単に実機解説。マーチンB-10は。米陸軍航空隊の双発爆撃機として初の低翼単葉・全金属機。原型機は1932年初飛行、量産型のB-10は1934年から配備が始まっている、らしい(wikipediaによる)。機内に爆弾槽を持つ金属機としては初期のもので、胴体は左右幅に比べ縦幅が大きい。……そんな不細工な魚みたいな外観と、中国での呼び名である「馬丁式」から来る荷車的イメージとが合致するのが魅力(私の中では)。

本国アメリカの軍用機としては、第二次大戦前に一線を退いているが、戦前に輸出型を購入したいくつかの国では大戦中も使用している。輸出型としてのこの機の名称はmodel 139Wで、special hobbyのキット名称になっている139WCはChina(中国仕様)、139WSMはShiam(タイ仕様)、139WTはTurkey(トルコ仕様)と、それぞれの輸出先の頭文字をくっつけたものであるらしい。

中国はこの機を9機購入。1938年の5月には、宮崎駿が「雑想ノート」で描いた日本本土「紙片爆撃」を敢行している。

●キット内容。とりあえずパーツをざっと。

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Aパーツ(写真上左):胴体と尾翼。レシプロ機のキットでは胴体パーツは左右分割が普通だが、このキットは、珍しく上下分割。

Bパーツ(写真上右):主翼とカウリング前面。

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Hパーツ(写真上左):エンジンおよび機内パーツ。

Iパーツ(写真上右):プロペラ、脚など。

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クリアパーツ/エッチングとデカール。デカールは中国空軍2塗装例(1403と3001)、タイ空軍、トルコ空軍各1例に対応。

枝記号がA、B以降かなり飛んでいるので、バリエーションキット間で結構パーツの入れ替えがあるらしい。H、Iパーツにおいても、不要パーツや選択パーツがそれなりにある。

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説明書はカラー印刷。

●内容についてもういくつか。

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ユンカースのような「全面トタン板」ではないが、ほぼ平らな側面は平滑な外板、丸まった上下面は波板を使っているのが本機の特徴。胴体を上下分割にしているのは、この波板部分を綺麗にモールドしたかったかららしい。ちなみに先行する(50年近く!)ウィリアムズのキットは左右分割。ウィリアムズの波板の具合はどうだったかなあ……。フィレットの中に主翼を差し込む!という他にほとんど類を見ない部品分割だったイメージばかり強く残っていて、他を覚えていない。なお、このキットの場合は、胴体(フィレット)と主翼は普通に突き合わせ。

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胴体上側の内面。下側もそうだが、細かいリブモールド付きで、床板や内壁の装置類も、72キットとしては十分な感じでパーツ化されている。リブモールド自体は細いものなので、胴体外側にヒケ等の影響は全く出ていない。

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主翼上下面はこんな感じ。あれ?と思ったのが、カウリングが小さなイボ付きであることと、上面部分でカウリング後端がまっすぐでなく後ろに長くなった形状であること。

ただ、説明書をよく見たら、イボについては削り落とすよう指示があった。どうやらエンジン違いの別の国向けの輸出型に対応したモールドであるらしい。

しかしもう一点のカウリングの後端に関しては未解決。確かウィリアムズのキットはもっと素直にまっすぐな後端だったと思う。実機が(特に中国空軍型が)どうだったかは、なにしろクローズアップ写真等に乏しいので今のところ判断できず。できればもうちょっと写真をかき集めて調べたい。

謎と言えば、キットのデカールに取り上げられている、中国空軍の「1403」号機。これは僚機の「1404」号機とともに、九州へ「紙片爆撃」を敢行したとされる機体。さてこの機番、キットのデカールでは白縁付きの赤で表現されているのだが、同一メーカーのレーベル違い?でプラパーツ自体は同一のはずのAzur FRROMの「B-10 Export WC/WAN」では、なぜか同じ「1403号機」が白縁付き青の番号になっている。

Azur FRROM版よりこのspecial hobby版のほうが発売が新しいので、より有力な説に従って赤に変えたのか(実際に赤が有力であるかどうかは知らない)、それとも「青だか赤だか判らないから、両方出しちゃえ~」ということだったのか、どうもよく判らない。ちなみに「1403号機」はほぼ真横から写した写真が残っているが、当然ながらモノクロ写真なので、「何かの色に白縁付きの番号」ということしか判らない。なお、その写真では胴体下面が上側面より淡い別の色で塗られているようにも見えるが、単に波板のせいでそう見えている可能性もある。いろいろ悩ましい。

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