ポテーズ540 SMĚR(ex-Heller)1:72
●エレールの戦間期~第二次大戦初頭の72スケールの自国フランス製飛行機群は、基本、結構年季の入っているものの、技術的に至らぬ点はあっても、その機体への並々ならぬ愛情がにじみ出ている感じがして、手に取って眺めるだけでなんだかワクワクしてしまうキットがいくつかある(古すぎて今更ちょっと手を出しづらいものも混じっているが)。
というわけで、今回紹介するのはポテーズ540。以前紹介したレ・ミュロー117同様、チェコ、SMĚRによる箱替え再販版。以前にも書いたが、SMĚRは「スムニェル」と読むらしい。
ちなみに、私はしばしば「**は(現地の発音では)**と読むらしい」という話題を出すが、これは単純に「文字の読み方っていろいろで面白いわぁ」という野次馬的興味に基づくもので、「**はこう読む!正しい読み以外認めん!」という意図はない。そもそも元の読みが気になる(そしてそれを面白く感じる)のは、主に、日本語の場合「カナに写す」という工程が挟まるからで、同じアルファベット使用言語の場合、例えばフランス人は「チャールズ・チャップリン」を「シャルル・シャプラン」と呼んで(読んで)はばからないように、「どう読むか」はあまり問題にならないのではと思う。……とはいっても、「ファレホ」のようにどこ読みでもない変な読み方をひねり出してしまうのは、さすがにどうかと思うが。
閑話休題。ポテーズ540の実機について。原型機(ポテ-ズ54)は1933年初飛行、四角い断面の胴体に高翼単葉、吊り下げ式エンジンナセルのクラシカルなスタイルの双発機だが、一応引込脚を装備しているというのが当時としてはちょっと新しい。宮崎駿の「雑草ノート」(元ネタはスペイン内乱に参戦したアンドレ・マルローの「希望」)に取り上げられたため、この手のマイナー機としてはそれなりに知られているほうではないかと思う。ちなみに「雑草ノート」の中では、スタイルに関して、確か「風邪をひいたワトソン」(宮崎アニメの「名探偵ホームズ」に出てくる犬型の)と形容されていたと思う。
ぱっと見、「双発の中型旧式爆撃機」だが、戦間期の、航空機の性能と軍事的役割が未だ定まっていない時期の機体なので、設計要求は「爆撃・戦闘・偵察」という、“全部乗せ定食”みたいなものであったらしい。窓が多めなのはそのためか。
生産型のポテ-ズ540はイスパノ・スイザ12Xirs/12Xjrsエンジン(左回転・右回転)を搭載、185機生産。空冷のグノーム・ローン14Kdrs搭載のポテーズ541は1機のみの試作だが、同エンジンのルーマニア向けの輸出型ポテーズ543は10機程度生産。ロレーヌ12Hfrsエンジン搭載のポテーズ542が74機生産。ほか、胴体をまるっきり新造した旅客機/輸送機のポテーズ62系(620、621、650)がある。これは(やはり四角断面ながら)なだらかなラインの側面形をしていて、妙に格好いい。
「雑草ノート」にあるように、ポテーズ540はスペイン内乱で共和国政府軍側で使われ、第二次大戦勃発時にもまだそこそこ残っていて、輸送機等として使われたらしい。
●キットは、横浜のヨドバシで見かけて、「今時、72とはいえ双発のそこそこ大型の機体のキットが1000円台前半で買えるなんて!(税込1370円)」と、思わず衝動買いしてしまったもの。
実を言うと旧エレール版はしっかり持っているのだが、過去、中途半端にいじってあるので、せっかくなら1から新しくいじりたい(いつ?)と思ったのも動機のひとつ。……とはいえ、よくよく考えると以前にもそんなことを考えてSMĚR版かハセガワ版をもうひとつ買っているかもしれない。こんなふうにして、我が家にダブっている旧エレールのキットは多い(hn-nhさんやhiranumaさんのところに里子に行ったシムーンもまた然り)。
Scalematesによれば1967年発売という超ベテラン・キット。
なお、ポテーズ540およびその輸送機型のキットはチェコのAZmodelからも出ているのだが、実はそれもエレールの箱替えだそうだ。ネット通販のサイトを見ると、今回買ったSMĚR版の倍以上の価格が普通のようだ。「わ、新キットだ!」と飛びつかなくてよかった……。
●パーツ構成。
最近の多くのキットのようにパーツ枝に記号は振られていないが、とりあえずグレーの基本パーツ群は枝が6つ。透明パーツが1枝。そしてデカール。写真順に言うと、
写真1枚目:胴体左右と主翼上下面(枝2枝)
写真2枚目:胴体上下面と水平尾翼(枝2枚)
写真3枚目:エンジンナセル、翼支柱その他。
写真4枚目:プロペラ、垂直尾翼、操縦席、脚その他。左右のペラはちゃんと逆のヒネリになっている。
写真5枚目:透明部品。余計な傷を防ぐため現時点では開封せず。
写真6枚目:デカール。フランス空軍1種、スペイン共和国軍1種。
まるっきり四角い胴体断面を持っているので、飛行機キットとしては珍しく4面の箱組み。各角は、上下面に側面パーツの厚みと接合線が出てしまう方式(板の接ぎ方の専門用語を知らないが)。各面の端が45°に削られていて接合線がエッジに出るようになっているのが理想的だが、とはいっても、50年以上前のキットにそれを求めるのは酷かも(部品の精度が悪くエッジが波打てしまったりすると、かえって困る)。
●若干の細部ディテールのクローズアップ。
旧式機らしく翼は布張り。これまた古いキットらしく細かく布目のモールドが入っている。スケールを考えれば(しかも実物はドープで塗り潰しているはずなので)モールドは明らかに誇張表現なのだが、雰囲気は悪くない。
エンジンナセルとその前面。基本、キットのモールドは凸筋・凸リベットだが、大げさ過ぎず、この時代の機体としてはいい雰囲気が出ていると思う。ナセル側面の何カ所かのエアスクープは開口部が埋まっているので何とかしたい。ナセル前面のパーツは、何カ所かにヒケが発生している。ラジエーター開口部のルーバーはちょっとゴツめのモールドだが、実機はもうちょっと薄い感じで、おそらく可動式。キットのものはルーバー(というかシャッター?)が2段で、おそらくこれが標準なのだが、ここが一段のものもあるようだ(540と542の違い、などという可能性もあるかも)。
なお、外形のバリエーションということで言えば、wikimedia commonsにあるこの写真の機体は垂直尾翼の形も少し違う。ただ、画像ファイルのタイトルがPotez54となっているので、原型機ポテーズ54が、当初の双尾翼から単尾翼に改修された後の時期(そして量産型の尾翼形状とはやや異なる)ということなのかもしれない。
胴体表面の細かいリベット列の雰囲気も悪くない。乗降ドアの輪郭も凸筋なのはちょっと気になる。なお、クローズアップ写真を撮っていないが、胴体各部の平板の窓は、「のりしろ」部分が広がった「凸形」断面の分厚いもので、中央部分がややヒケた凹レンズ状になってしまっている。できれば薄い透明プラバンなどに交換したいところだが、その場合接着や塗り分けの方法などどうするか、ちょっと悩ましい。
左写真の右下に写っているのは計器盤。コクピット内はとりあえず操縦席や操縦席床、操縦桿やフットペダルなどもあるが、割とプリミティブな感じ。操縦席自体もちょっと「なんだなこりゃ」な形状だが、そもそも機内の資料に乏しい(ネット上で一応2枚ほど写真を見つけたが)。左写真左側のV字の尾翼支柱は一カ所折れていた(このキットで唯一の破損個所)。
右写真は旋回機銃。実機はダルヌ33年型かMAC1934が搭載されているらしいが、「どっちなんだろう」と考えるのも無駄に思える大ざっぱな形状。
デカールはそれなりに薄く綺麗な印刷なのだが、赤の発色をよくするために白に重ねて赤を印刷してあって、その赤が下地の白をややはみ出している。左写真のフランスのコケイド(ラウンデル)は比較的気にならないが、右写真のスペイン共和国軍の赤帯の端は切り詰めて使うべきだと思う。もっとも、このデカールの塗装例は尾部が丸ごと真っ赤で、その部分は塗装するよう指示されているので、主翼の帯も一緒に塗装してしまった方が色合わせの手間も要らなくてよい気がする。右写真のスペインの尾翼塗り分けは、写真の写りの問題で下段が真っ黒で「ベルギー国旗か?」みたいな感じになってしまっているが、実際には正しく紫色(ちょっとくすんで暗いが)。
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