ANF レ・ミュロー117 SMĚR(ex-Heller)1:72
●リニューアルに伴うトラブルと仕様変更もあって更新意欲が削がれ気味なブログだが、かといって書かずにいると「書かないことが常態」化してしまうので、暇ネタ的にキットレビュー。取り上げるのは、前々回の試験投稿、「続・ココログ謎メンテ」で画像を貼った、チェコ、スムニェル(SMĚR)のミュロー117(A.N.F. MUREAUX 117)。
●逗子にはもともと、私が引っ越してきた頃には模型屋が3軒あったのだが、延命寺の斜め向かいにあった老舗の航研堂はもうだいぶ前に閉店。披露山入り口近くにあった八風堂も先日閉店。残るは延命寺前から沼間方面に行く途中のつばさ模型だけだが、こちらも最近は週末だけの限定営業になってしまった。
先月末の日曜日、前を通りかかったら開いていて、知り合いが中にいたので入ってちょっと世間話。このキットは、そのついでに購入したもの。
●スムニェル(SMĚR)は、あっちこっちの古キットを箱替え、デカール替えで出しているチェコのレーベルで、1:50のアルティプラストの一連のキットもあるが、1:72は基本、エレールなのかな?
とにかくこのミュローもエレールのキット。そもそもこんな戦前フランスの偵察機なんていうマイナー機種、エレールじゃなきゃ出さないと思う……(もっとも今はAZURという強力なフランス・マイナー機推しレーベルが別にあるが)。実際には私は昔々エレール版も買って持っているのだが、そちらは作りかけてどこかストック棚の奥底に堆積しているはず。もしかしたらスムニェル版も一つ持っていたかも。
こんなマイナー機、いったいいくつ(そしていつ)作るつもりなんだ……。
●実機については、原型機「ANFレ・ミュロー 110」の項目名でwikipediaにも立項されている。一応簡単に記しておくと、レ・ミュロー110シリーズは高翼単葉単発複座の偵察機で、ブレゲー19/ポテーズ25の代替として1930年代半ばにフランス空軍に配備されたもの。117はイスパノ・スイザ12Ybrsエンジンを搭載した後期の主生産型。wikipediaだと、爆撃能力を付加した「117R2B2」ということになっているが、キットの説明書だと、偵察専用の「117R2」と、偵察・爆撃型の「117R2B2」の2通りが生産されたような書き方がなされている。第二次大戦時にもまだ現役だったが、最高速が300キロ台の旧式機でもあり、キットの説明書でも「they were scarcely used and without remarkable success」(ほとんど使われず、目立った活躍もなかった)と、身も蓋もない。
スムニェルのキットでは名称が「MUREAUX」になっているが、本家エレールでは「Les MUREAUX」と冠詞が付いている(wikipediaでも)。mureauxという単語自体は「壁」とかいう意味で(複数形)、「いくらなんでも飛行機に壁なんて名前を付けるか?」と思っていたのだが、改めて検索すると、パリ近郊にレ・ミュロー(Les Mureaux)という工業都市がある(古くは中心部が城壁に囲まれていたのが名前の由来であるらしい)。そして、この機を開発・生産したメーカーがこの街にある「A.N.F. レ・ミュロー社」(フルネームは“Les Ateliers de Construction du Nord de la France et des Mureaux”(desはde+lesの縮約形)で、要するにこの時期の他のフランス機と同様、「メーカー名+型番」の機名だった――というのを、今頃になってようやく知った。それにしてもこの社名、「北フランスおよびレ・ミュロー製作所」くらいの意味かと思うが、なんで北フランスとレ・ミュローが並列(et=英語のand)なんだ?
●キット内容は、ざっと以下のような感じ。前述のようにもともと自国フランスのエレール製で、SCALEMATEの年表を見ると、初版発売はなんと1967年。50年以上前という大ベテランキットということになる。エレールの一連の戦間期~第二次大戦国産機キットのなかでもどちらかといえば古いほうだと思うのだが、これが妙に気合が入っている。
上下張り合わせの長大な主翼と左右分割の胴体のほかは、小パーツ類の枝が1枚。あとは透明パーツとデカール。デカールは本家エレール版と違って一頃のチェコ製キットお馴染みのPROPACTEAM製。印刷も鮮明、ズレもなく(といってもコケイドの青丸は別印刷だが)クリアニス部も極薄のもので、キットの箱にも何やら誇らしげに「スーパー・デカール」と書いてある(ただし使い勝手のほうはよく知らない)。
「妙に気合が入っている」中身に関しては、とにかく「コリャスゴイ」と思うのが、機体側面の外板の薄さの表現。リベットに囲まれた内側が、ごくわずかに膨らんだ表現が丹念に施されている。もっとも実機のクローズアップ写真(自体、ネットを漁ってもあまり出てこないが)では、それなりに外板のベコベコが見て取れるものはあるものの、こんなふうに全部外側に膨らむということはなく、割とランダムに凹凸があるというのが真相のようだ(与圧胴体ではないのでそれが当然かもしれない)。とはいえ、キットの表現はメーカーの気合に敬意を表して、そのまま生かしたい(そしてそれがなんとなくわかるような塗装にしたい)気がする。
一方でトホホな部分もあり、水平尾翼は裏面に押し出しピン痕が2か所。幸い裏面なので、削り落として、消えたリベット列は針先でつつく程度で誤魔化せるかな?
コクピットは年代物らしく、床板・壁に一体のプリミティブな椅子がモールドされたL字パーツ(後席も基本同様)。操縦桿もない。計器盤は一応あるが、つんつるてんの半月状の板のみ。当然ながら胴体側面内側のモールドも何もない。
後席の旋回機銃は、説明書の諸元ではルイス機銃と出ていて、キットのパーツもそんな感じだが、実際には、30年代後半には国産のレイベル機銃(MAC 1934)に替わっているらしい。円形弾倉が上部に水平に付くルイス機銃と違い、レイベル機銃は右側面に縦につく独特の形状だが、ネット上で拾ったミュロー117の塗装図等でもレイベルを付けて描かれているものが多いようだ。
開放式コクピットなので、風防は断面がはっきり出てしまうが、キットのパーツはこれも古めかしく分厚い(ただし透明度は高い)。
●そこまで来て、「そういえば……」と思い出したのが、昔々買った、ファルコンのクリアヴァックス(CLEARVAX)の別売クリアパーツセット。探したら、珍しくストック棚のすぐ表にあった。
ファルコン(Falcon Models)はニュージーランドのバキュームフォーム・キットのメーカーで、クリアヴァックス・シリーズは、古くて質のあまりよくない古いキットの透明部品を代替する、バキュームフォームの透明部品セット。実質的に同じ仕立てだが、出版社のsquadron/signalとの提携(?)で一機種ずつバラ売りのものもあった。今はキットの透明部品の質が上がって、好んで古キットに手を出さない限り切実に代替部品が必要ということはあまりないため、この手の物を店頭で見る機会も少なくなった。ただ、「もうファルコンなんてないんだろうなー」と思ったら、一応、会社のサイトがあった。まだ生き残ってたのか!?
今回掘り出したのはフランス機セット第一集で、どういう基準なのかよく判らないが、戦間機から戦後のジェット機まで14機種分(そのうち、モラン・ソルニエ406、ドボアチン520、ブロック152は2機分ずつ)入っている。そして一個も使った形跡がないのがまた……とほほ。
このなかにミュロー117も含まれていて、3枚目の写真、下段中央がミュロー用。
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