●前回予告の通り、“かさぴー”こと、かさぱのす氏から頂いたフィンランド土産写真を何枚か。
最近、フィンランドでは、戦時中に使用されたダグラスDC-2「ハンシン・ユッカ」号が美しくレストアされて公開され、かさぱのす氏は遠路それを見に行ったのだそう(うらやましい)。ハンシン・ユッカ号とはどんな飛行機だったのかというエピソードも面白いのだが、ここでは割愛する(興味のある方は「北欧空戦史」を読んでいただきたい)。
さて、氏曰く、「今回もやたらあちこちでPaK97/38に出くわし」たのだそうで、モデラー視点の思わずウヒウヒ言ってしまうような(←キモチワルイ)写真を撮ってきてくれた。実際は頂いた分だけでももっと数があるが、今回はそのなかから、個人的にこれは面白いと思うものをいくつかピックアップした。
全部見たい!という人は、いずれ、かさぱのす氏のサイト「あんてーくし」に載ることを期待しよう。
●まずはミッケリ歩兵博物館にある屋外展示品。
▼写真右下隅に見える車体後端でわかるように、T-20コムソモレッツに牽引された状態で展示されている。wikimedia commonsに何枚か写真が上げられているものと同一個体だが、commonsでは牽引状態になっていないので、その後展示状態が変更になったのだと思う。
車輪はスポークが凹凸交互になった穴開きタイプで、基本、イタレリのキットに入っているのと同じもの(ただし、イタレリのパーツはリムの取付が表裏逆のようだ)。フィンランド軍が使用したPaK97/38は、写真で確認できる限りどれも穴開きタイプを使っている。このタイプは、穴なしタイプに比べ、ゴムリムの幅が増しているようだ。
▼そしてこういうのがモデラー視点の有難いところで、かさぴー氏は、わざわざ砲身の主要寸法を計ってきた由。私自身はPaK97/38をもう一度は作らないと思うが(さすがにあれを再度やるのはちょっと……)、今後作る方は参考にしてほしい。
写真に示された部分はそれぞれ、
A:マズルブレーキ先端(謎突起の手前まで)の長さ=305mm
B:マズルブレーキから謎突起後端までの全長=405mm
C:マズルブレーキから砲身前端中央(第一の窪み)までの全長=1110mm
D:中央の窪みから砲身前端後部(砲盾手前、第二の窪み)までの長さ=870mm
なお、謎突起とあるのは、実際には、砲身が後座した際に駐退復座レールにはまり込むローラー(これについての考察は、過去記事を参照のこと)。また、砲身前端(マズルブレーキから砲盾手前まで)の全長は1980mmだそうだ。数値には若干の測定誤差もありえるのであくまで参考に、とのこと。
現行2種あるPaK97/38の1:35インジェクションキットだが、ドラゴンは各部バランスがだいぶおかしく、イタレリ製のほうがスタイルがよいが、寸法的にもイタレリが近いのが確認できると思う(ただしイタレリのものはマズルブレーキが大きすぎ?)。
▼防盾正面。
防盾は50mmPaK38からの流用なのだが、PaK38より砲身が太いので、開口部上部の形状は修正されている。この写真を見ると、開口部上端のカーブはなんだかちょっとガタガタしているので、PaK38用としてすでに生産されていた装甲板を削り直して使っているのかもしれない。
砲身が一段太くなり、駐退複座レールにかかっている部分には、左右2カ所の突起とボルト頭がある。この写真ではボルト頭が突起の上に付いているが、私は突起の横に付けてしまった。うわあ、間違えた!?……と思ったのだが、横に付いている個体も確かにあった。謎。
謎といえば、下部防盾の上下に付いている、ちょっとつぶれた筒状の突起も用途不明。下の小さいほうの筒は、表裏両方に付いているらしい。
なお、これを1:35の模型で再現するのは難しそうだが、防盾の尖頭ボルトにはすべて横穴が開いている。ゆるみ止めの針金通し用? それともスパナ無しで棒で締緩できるように?
▼砲尾。砲身それ自体は、もともとフランス製のM1978 75mm野砲のものなので、フランスの工廠の刻印、製造番号が入っている。写真ではちょっと見づらいが、この個体の製造年は1915年。メーカー名は、この「A.BS」が最もよく見られるが、他にも何種類か確認できるようだ。
尾栓は隔螺式でも鎖栓式でもない独特の形式(円形であるという点では隔螺式に似ているが、スライドさせて開閉する機構的には鎖栓式に近い)。
尾栓中央にある撃針をハンマーでパッチンと叩いて発射するのは拳銃などと同じ。右写真では頭が見切れているが、ハンマーが起きた状態になっている。撃針部分は安全装置が掛かった状態になっている。意外だったのは、安全装置のノッチ上に刻まれているのがドイツ語であることで、左はSICHER(安全)、右はおそらくFEUER(発射)。つまり、砲身はフランス製でも尾栓はドイツ製ということになる。尾栓は発射の圧力を受け止めるので、砲身より寿命が短い?
砲身上のブロック状の部品はオリジナルのM1978 75mm野砲には見られず、また、一部製造番号を削って取付られているので、ドイツで付けられたものらしい。この写真には写っていないが、左側にある照準器の台座と同形のように見える。もっとも、繊細な光学機器をこんな場所には取り付けないように思うし、防盾も邪魔になる。何に使われるのか謎。この部分にカバーが被せられていることも多い。
▼脚後端の駐鋤。ちなみに脚は50mmPaK38と基本同一。
開閉用(?)の取っ手は、向こう側が畳んだ状態、手前側が起こした状態になっているので、それぞれ、どのようにロックされるのかがよく判って興味深い。
牽引用のリングは手前側の脚の駐鋤に取り付けられていて、リング基部は駐鋤上端で3カ所、面部分で左右3カ所ずつ、計9カ所でボルト止めされている(右写真では面部分の3カ所と上端の1カ所だけ確認できる)。別個体では面部分のボルト頭がキャッスルナットのものも確認できる(単純に方向が逆になっているだけかも)。手前側の脚だけ、駐鋤付け根部分が一段太くなっているのは牽引時に力が掛かるための補強かと思われるが、拡大型のPaK40では両方同じ太さになっているようだ。
▼右脚中ほどに付いているトラベルロック。左右の脚を閉じ、砲に若干の仰角をかけ、このロックアームの前面にある2つのくさびを駐退複座レール後端の穴(写真右上にわずかに見える)に差し込み、ロックアーム左側は左脚に固定する。
2つのくさびは、この写真では右が縦、左が横になっているが、自由回転してこんなふうになっているのか、もともとこういう形に固定されているのか不明。なお、私は左右同形に作ってしまった。
脚上に付いている可倒式のツメは、駐鋤部に取り付ける、人力移動用補助車輪用。補助車輪も砲の車輪と同形なのだが、(このツメの寸法から考えて)穴なしホイールの薄いタイプしか使えないようだ。
●パロラ所蔵のもの。
▼駐退複座器前面や、砲身先端のローラー部分のディテールがよく判る。このローラーはオリジナルのM1978 75mm野砲にもあって、この砲の特徴になっている。
ただし、オリジナルのM1897 75mm野砲ではローラー基部は砲身から直接出ているのに対して、PaK38/97では、マズルブレーキを取り付けるための都合なのかどうかよく判らないが、砲身とは別体の基部が新造されている。この写真でよく判るように、新造されたローラー基部の円筒は、砲身よりも下方に偏心している。いい加減に取り付けられているわけではなく、最初からそのような形状。
なお、上で触れたように、下部防盾に付いている筒状の突起(小)が、防盾裏にもあるのがこの写真で確認できる。
▼同一個体の車輪。
よく見ると、ミッケリ歩兵博物館所蔵の砲とはリム部分の形状が違っていて、スポークにボルト止めする部分だけがフランジになっている。
画像検索すると、カナダのバーデン基地博物館で保存されている個体もこの車輪を付けているようなので、これももともとドイツ製なのは確かなようだ。
●最後の1枚はハメーンリンナのもの。砲身先端の上面。
前述の、砲身前端ローラー部の別体で、
Lose ←→ Fest
と刻まれているが、大体想像が付くとおり、「緩め」「締め」の意味だそうで、ここは新造部品なので当然ドイツ語。後方の溝がちょっと食い違っているが、これを合わせると前方に抜けるとか、そんな感じなのだろうか?(その後他の写真を見ていたら、後ろ側のリングの溝は結構位置がいい加減だということが判った。前後の溝位置を合わせるものではなさそう) 前方に刻まれているのは製造番号とメーカー名?
●そして「+α」。オマケで頂いたミッケリ歩兵博物館所蔵の75mmPaK40の写真。
▼まずは全景。PaK40も、継続戦争終盤に大量に供与されたので、フィンランド国内にはだいぶ残っているらしい。PaK40は、PaK97/38(というよりPaK38)よりもさらに車輪にバリエーションがあるようなのだが、この個体は、8本スポーク穴開きタイプを付け、さらにゴムリムも側面に穴のあるタイプを使っている。
どうもPaK40というとタミヤのキットの刷り込みのせいか、穴のない、リブが凹凸交互になった車輪が普通のような気がしてしまうのだが、少なくともフィンランドに渡ったものに関しては、穴無しホイールは一般的ではないようだ。
なお、かさぱのす氏によれば、「マズルブレーキから第一のクビレ(駐退器に載る手前まで)の長さは2190mm」だそうな。
▼車輪クローズアップ。
ゴムリムの穴が向こう側にしっかり貫通しているのが確認できる。おそらく、空気入りではないソリッドなゴムリムの柔軟性を上げるためのもので、ソ連のBTやT-34のゴムリムの穴と同じものなのだと思う。BTやT-34のゴムリムの穴も貫通している。
ホイール部は、スポーク間の「水かき」状のヒレが、小穴つきのものは大きく、無しのものは小さく、交互になっているタイプだが、これが全部同じ大きさになっているものもある。スポーク裏側は窪んでいるがプレス製ではなく、リブなどもあって鋳造部品であることが別写真で確認できる。
ほか、車輪形状としては、リブ(スポーク)が凹凸交互になっていて穴開きのもの(上に写真がある、同じくミッケリのPaK97/38のものとよく似た形状)もある。
車軸部外側のリングは、人力移動時に牽引用ロープを掛けるためのもの(野砲には一般的な装備)。
▼さらにゴムリムをクローズアップ。単純な長円形断面ではなく、まず上下に2つ穴を開けて、その間を後から切り欠いたような形状。おそらくゴムリムのための木型をそんなふうに作ったのではないだろうか。
ちなみに、ドラゴンのPaK40のキットには3種のホイールが入っていて、そのうちひとつは(少なくとも一番最初に出たキットでは)このタイプを表現しているものになっている。ただし、ゴムリム側ではなく、ホイール側の外周側面に穴(というか窪み)があるような、妙な表現になっているようだ(現行のキットでは別タイプのホイールに差し替えになっている可能性がある)。
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