I号戦車B型 タミヤ 1:35
●つい先日発売された(そして出張先の関西でわざわざ買ってきた)タミヤのI号戦車B型の簡単なレビューと、ちょっとしたチェック。
箱は35戦車キットとしてはだいぶ小さめ。物が小さいので当たり前とも言えるし、ツュンダップKS750サイドカーが“オマケ”に入っていたアカデミーより小さいのも、これまた当たり前。
中身は、グレーの整形色の基本プラパーツが5枝。透明パーツ1枝。ポリキャップ、エッチングパーツ、デカールという構成。
写真1枚目:Aパーツ(×2枚)。足回り。履帯は最近一般的で、アカデミーI号とも同じ部分連結式。
写真2枚目:Bパーツ。車輛全体のディテール関係と、膝上の戦車兵(車長)フィギュア1体。
写真3枚目:Cパーツ。箱組の車体と、Bパーツからこぼれたディテール少し。
写真4枚目:Dパーツ(上)はスライド型を使用した車体上部と砲塔。Gパーツ(透明パーツ)は前照灯と車幅表示灯の前面レンズ。エッチング(排気マフラーカバーのみ)とデカール。
概観としては、「タミヤらしく、きっちりとよく出来たキット」で、組立もしやすそう。実際、少し進めてみた感じでも気持ちよく組めた。
寸法的にも、ざっとチェックしてみた感じ、トラクツ(PANZER TRACTS No.1-1 Panzerkampfwagen I Kleintraktor to Ausf.B)の図面とはほぼピッタリ整合。少しだけ先行したアカデミーのキットとは、ごく僅かな出入りはあるものの、これまたほぼ合致した。
デカールは(上の写真では隠れてしまっているが)3種の塗装例に対応。
- A:1939年、ポーランド戦時の第4戦車師団
- B:1940年、フランス戦時の第4戦車師団
- C:1941年、ロシア戦線の所属部隊不明。
塗装指定は3種ともグレー単色。しばらく前に、「電撃戦当時は戦前のグレー時にブラウンの雲形迷彩だった」というのが定説になったと思ったのだが、また変わったのだろうか。もともとこの迷彩は2色とも暗めなので、当時のあまり鮮明でないモノクロ写真では迷彩かどうか判別できないものも多く、「本当に2色迷彩だったの?」と思うことも多かったのだが、こうしていきなり説明なく「単色説」を提示されると、それはそれでちょっとモヤモヤする。
●おそらく、気になっている人が多いと思うのが、「で、結局、(発売時期が近かった)アカデミーのキットと比べてどうなのよ?」という点だと思う。
結論から言ってしまうと一長一短、どちらもいいキットだし、どちらが圧倒的に優れているということもない感じ。日本国内での値段的にもほぼ同等(サイドカー付きのアカデミーの方が、その分わずかに高い程度)で、あとは個々のモデラーのお好み次第、というところだろうか。
両者の特徴としては、タミヤの方が(おそらく一般的なイメージとしてもそうだろうが)組み立てやすくカッチリ仕上がりそう。アカデミーの方がディテール的には優れた点がいくつかあるものの、特に面ごとの分割が多い戦闘室の組み上げはちょっと面倒。また、タミヤのキットはフェンダー前後のマッドフラップは最初からパーツ化されていないので、特定の実車を再現したいと思うような場合、追加工作無しでは選択肢が狭まることになる。
なお、個々のパーツで見ても一長一短あったりするので、「両キットのいいとこ取りのニコイチで決定版を目指そう」というアプローチはちょっと不毛かも。
アカデミーのキットに関しては、以前に割と詳し目にレビュー(および先行キットとの比較)を書いているので、お暇な方はそちらも見て頂きたい。
それにしても、「アカデミーのキットがタミヤに全然負けてない、部分的には優れている」という時代が来るとはなあ……。
●以下、パッと目に付いたポイントごとの比較など。2社比較の写真では、グレーがタミヤでベージュがアカデミー。
▼車体
車体に関しては、こうして基本形を組み上げてしまうと大差ないように見えるが、パーツ構成はだいぶ違っていて、タミヤは車体上部がスライド型を使った一体成型で組立にストレスなし。アカデミーの場合、戦闘室のベースはフェンダーと一体なのだが、両側面・前面は別パーツで、若干すり合わせや接合部の処理に気を遣う。
エンジンルームもアカデミーは別部品。アカデミーは点検ハッチ類が別パーツで、(既発売のノーマル版では不用部品扱いだが)熱帯型のパーツと交換可能。一方タミヤはハッチ類は一体成型で、逆に右後ろの通気グリルが別パーツになっている。
車体下部は両社とも箱組だが、車軸(ボギー軸)の扱いがちょっと違っていて、タミヤは車体底面と軸が一体。アカデミーも(ボギー側の)軸は別に短くないので位置決めでガタ付く怖れは低そうだが、タミヤの方がより強固そうな気はする。タミヤは第4上部転輪基部だけ別パーツで、この第4上部転輪は履帯取り付けの基準にするために特殊な形状になっているのだが、それにしてもわざわざ基部を別にする理由は、ちょっとよく判らない。
なお、車体下部内部、エンジンルームとの隔壁は、アカデミーは今後の自走砲系列へのバリエーション展開も見越してか隔壁ディテールのモールドがあったが、タミヤのキットでは単純に側面板の位置決め/補強用で、これを見る限りでは自走砲等への展開の可能性は低そう。
興味深いのが底面で、なぜかドレン蓋類?の配置が鏡写し。これはトラクツNo.1-1、p81の写真と図面で正解が判るが、タミヤが正しくアカデミーが誤り。もっとも、車輛をひっくり返して眺める用事は少なそうで、私も個人的にあまり問題とは思わない。
ちなみにイタレリのキットではまるで違うディテールになっており、ドラゴンのB型シャーシもそれを真似たと思われるデザインになっている。
フェンダーの滑り止めパターンはアカデミーが細かく、タミヤはやや粗め。これはアカデミーのレビューを書いた時に検証したが、アカデミーの目の細かさがほぼ正しい。とはいえ、タミヤのキットも以前のII号戦車A~C型ほどは粗くはなく、大きな違和感はないと言えるかも。ちなみに、イタレリやドラゴンはタミヤとほぼ同じくらい。
エンジンルーム右後ろのグリルは、タミヤのキットは別パーツ。一応、ルーバーが斜めになっているのは表現されているものの、一見「鋳造かよ!?」みたいな出来。これは流石にお粗末。
エンジンルームと一体成型のアカデミー製の方がずっと優れた表現で、エッチングほどではないがルーバーもタミヤより薄いし、奥に見えるグリル取付用のベロもしっかり表現されている。
たぶん、20年くらい前の自分に、「ベージュの方がタミヤ製で、グレーの方は東欧の新興メーカー製だよ」と言ったら、そのまま信じてしまいそう。「そう、こういうところに手を抜かないのが、流石タミヤだよね!」とか。
「本気で取り組む人は、どうせエッチングに交換するんだから、別部品になってるタミヤの方が楽でいいんだよ」というヒネクレた見方もできるかもしれないが。
なお、グリルの奥にはメッシュがあるらしい(当時の写真で存在が確認できるものがざっと見たところで手元にないが、少なくともボービントンの指揮戦車にはある)。ドラゴンのキットにはメッシュのエッチングが付属していたが、タミヤ、アカデミーは両方とも付属していない。写真のアカデミーのキットのメッシュはハセガワ・トライパーツのメッシュ41(東京AFVの会の折にサニーで買った)。
ただ、タミヤのほうにメッシュを追加しようと考えた場合、接着ベロなど裏側形状がちょっと複雑で、簡単には取り付けられそうにない。
エンジンルーム前方のグリルについても、アカデミーの方が優れている。どうせ中に何があるわけでもないので、タミヤの方が「抜けていない」のはそれほど大きな問題ではないかもしれないが、グリル取付用のベロの再現など、アカデミーの方がより神経が行き届いている。グリル両端が単純に装甲板に合わせて斜めになっていないところも、アカデミーの方が正しい。
なお、このグリル部上面に、タミヤのキッでトは皿ネジ列のモールドがあるが、アカデミーにはない。ただし、実車にこのようなネジ列があるかどうかがいまいちよく判らない。
シャーシ後端は、太い補強用シャフトが付いた後期(改修?)仕様の一択。アカデミーは同仕様と、細い補強用ロッド付きの、より初期のものと思われる仕様の選択なので、それに比べるとタミヤは選択の自由度が低い。(訂正:アカデミーもキットの指定は太いシャフト付きのタミヤと同じ仕様で、細いロッドは不要部品扱い。今後出るバリエーションで、この仕様を使うようだ)
もっとも実際には(当時の写真を見る限りでは)太いシャフト付きがほぼ標準仕様くらいの感じに見えるので、あまり大きな問題ではない。
誘導輪基部内側のキャップ?パーツは、リングが二重にはまったような形状なのだが、タミヤのパーツは金型の方向からもわかるように1段に簡略化されている。こちらはアカデミーのパーツに軍配が上がる。
▼足回り
タミヤの大きなアドバンテージと思えるのが、外周の“ポケット”が再現された転輪。
これは「I号戦車キット史」的に見ると、トライスター製A型キットの新版から再現されるようになったディテールで、その後、ドラゴンの後期のバリエーションの一群やTAKOM製キットでもフォローされている。
ただ、トライスター、ドラゴン、TAKOM製キットでは、ホイール・リムのみが別部品だったのに対し、今回のタミヤのキットでは、ゴムリムを含めて内外に分割、スポーク部を挟み込むように組む型式にしたのが新機軸。これは、実際に見てみると至極もっともな部品分割なのだが、安易に先行キットの分割を真似せず、独自の、よりよい分割を考案したのは流石タミヤという感じ。
写真1枚目、2枚目は、右からタミヤ、アカデミー、トライスター新版。ご覧のようにトライスター新版も“ポケット”部は再現されているが、別部品のホイール・リムのリングと、ゴムリムとの接合部分は、隙間が空いたり接着剤がはみ出したりしないよう、やや気を遣う。
ドラゴン、TACOMの場合はリングがエッチングパーツなのでさらに取り付けは面倒、かつ、TAKOMのキットは(ネットでのレビューを見る限り)だいぶ隙間が空くようなので問題がある。タミヤの新方式の場合、接合線はゴムリム外周トレッド面の中央に来るので、通常の転輪パーツのパーティングライン消しと同等の手間しか要らない。
また、タミヤの転輪は、スポーク部外周の強化リブの縁に立ち上がり部分があるのも表現している(他社キットでは、TAKOM製のものにはある?)。
ただ、一体成型のアカデミーの転輪がダメかというと、こちらはゴムリムに「CONTINENTAL」のメーカーロゴ、そしてスポークにも何かの刻印がモールドされているというメリットがあり、これはこれで捨てたものではない。
なお、タミヤ、アカデミーとも、スポークの根元部分2か所にグリースポイントと思われる突起がモールドされている。この突起が、トライスター、ドラゴンでは片面にしかなかったが、アカデミー、タミヤでは両面にモールドされている。ただし、アカデミーのキットでは表裏とも同じスポークだが、タミヤのキットでは別のスポークになっている。どちらが正しいのかは不詳。
サスペンションボギーは、アカデミーではスライド型を用いて横の窪みがモールドされている。ボギー軸上のグリースポイントと思しき小突起も、タミヤでは省略されているが、アカデミーは表現している。この部分に関してはアカデミーに分があると言えそう。
しかし一方で、サス下面のディテール(サススプリング根元の結束具、先述の窪みに対応する下面のボルト頭もしくはナット)はタミヤの方がよく、アカデミーが完璧、というわけでもない。
誘導輪は、アカデミーのキット・レビューの中で、「ドラゴンとアカデミーの誘導輪を比べると、ドラゴンはハブ部の突出が大きく、比べてアカデミーは全体に平べったい形状であること」「実車写真と見比べるとアカデミーの方が近いこと」を書いたが、タミヤとアカデミーを比べると、タミヤ製の誘導輪のほうがさらに平べったい。
実車写真と比べると、見る角度によってタミヤの方が近く見えたり、アカデミーの方が近く見えたり。なお、タミヤの誘導輪は表裏の分割がちょっと奇抜だが、そこはタミヤのこと、変な隙間など出ずに綺麗に組める。内外で分かれているリム部の間隙は、タミヤ/アカデミーともちょっと狭いかな。内外リム間のリブは実車では6枚タイプと12枚タイプがあるが、タミヤ/アカデミーともに後者。
タミヤの起動輪は、ホイールディスクに外周のスプロケット(歯車)部分を取り付けるボルト列はあるが、ホイールディスクとスプロケットの分割線が省略されている。中心のハブカバープレートは、アカデミーに比べやや大きめ。
第一転輪のコイルスプリングのサスペンションは、意外になかなか満足できるパーツがない。そもそもコイルスプリングが、左右で巻きが鏡写しになっていたり、コイルスプリングじゃなくて蛇腹になっていたり……。その点、タミヤの新キットのコイルスプリングはちゃんと左右で同じ巻きだし、ちゃんとコイルスプリングを表現している……のはよいのだが、バネ線が細くて強化前のA型用に近い。残念。
2枚目の比較写真で見るように、アカデミーのキットはバネ線が太くB型用としてふさわしいが、これまた残念なことに裏面ではバネ線が逆斜めになっていて、要するにコイル状ではなく、「斜め蛇腹」になっている。なんだそりゃ……。まあ、組んでしまえばほぼ見えないけれど。
▼砲塔
砲塔は両社ともスライド型を用いて上側面一発抜き。外周はほんのわずかにタミヤの方が大きい。
砲塔に関しての2社間の大きな違いが防盾の処理。タミヤは内部防盾と防盾カバーが一体で、当然ながら非可動。アカデミーは別(可動)。一方で防盾前面のクラッペはタミヤは別部品、アカデミーは一体。
機銃(MG13k)については、2社とも、インジェクションのパーツとしては十分な出来ではないかと思う。満足できない人は、アドラーズネストなど張りこむよろし。タミヤは機関部もあり、別に照準器もあるので、ハッチを開けた際に多少有利。ただし、クラッペ内側機構など、その他砲塔内部のパーツはない。
▼その他ディテール
排気管基部カバーは、アカデミーが2か所のボルト付きの後期仕様であるのに対して、タミヤはそれがない前期仕様。手元の写真(指揮戦車)で、ボルト突起がないカバー付きで、誘導輪基部の補強シャフト付きのものが確認できたので、仕様的な齟齬は特に無いようだ。
一方、排気口はタミヤは単に外形だけのパーツだが、アカデミーはスライド型を用いて開口表現がなされている。
なお、アカデミーのキットは不用部品扱い(たぶん今後発売されるアフリカ仕様用?)ながら、車体後部に付けられる発煙筒ラックのパーツが入っているが、タミヤのキットの方にはその手のパーツはない。
タミヤのキットのアンテナラックは木目表現入り。やや大げさな感じはしないでもないが、努力は感じる。
工具のクランプは、両社とも一応ハンドル部分も表現。ただし、タミヤの方はハンドル内側が抜けていない。アカデミーの方は一応抜けているが、形状が単純な四角という感じで、こちらもイマイチ。個人的にはエッチングや3Dプリントのクランプは「そこまで張り込むのもなあ……」という気がしているのだが、ハンドルだけは交換してもいいかも。
前照灯、車幅表示灯は、タミヤは前面レンズ部が透明部品。アカデミーは透明部品無し。2枚目写真のアカデミーのパーツは、中央のものが車幅表示灯で、前面部品は別パーツ(その前面部品も通常のプラ)。
なお、写真に見るように、タミヤのパーツはちょっと厚みがあり過ぎるものの車幅表示灯の「逆さへの字」の座金もしっかり形状を表現している。アカデミーの方は単純にフェンダー上にイモ付けする構造。
オマケ。フェンダー前後のマッドフラップ。アカデミー製。タミヤのキットには付属していない。
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