ポーランド・メタボ士官
●まさに現在進行形で鋭意製作中というわけではないのだが、たまには模型話でもしないと、モデラーとしてのアイデンティティが自分自身でも怪しくなってくるので、ちょっとヒマネタを一本。
ちなみに、盟友・青木伸也氏がかつて言ったことだが、単純に「模型を作る人」は「モ↑デ↓ラー↓」であるのに対して、「模型作りに入れ込んじゃってる人」(いわゆるマニア層)は「モ↓デ↑ ラー→」と、同じモデラーでも呼称が(イントネーションが)異なるのだそうだ。なんだそりゃ。
●まあ、そんなこんなでヒマネタ。
私は基本、車両は作るがフィギュアは作らない(作れない)ので、フィギュアのセットは滅多なことでは買わないし(たまにネタとして面白いものは、単純に「持っている」目的のために買う)、車両キットに付属のフィギュアも“持ち腐れ”状態にしてしまうのだが、なんとなく気に入って、ちょっとだけいじっているフィギュアが一体。
IBG社製、TKS豆戦車 20mm砲装備型(通常仕様キット)に付属の、「見るからにメタボ体型のポーランド機械化部隊士官」である。
4,5年前に同キットのレビューを書いた時にも触れたが、特定の個人を表現したわけではない無名将兵のインジェクションキットのフィギュアで、ここまでのデブはいなかったのではないか、とも思う(今ならICMとかMBとかで、これと競るくらいの体格が出ているかもしれないが)。これ、2人乗りの車両に2体入っているフィギュアの片割れだから、当然、TKSの車長兼砲手っていう設定のはずだよなあ……。あの小さいTKSに、この腹でちゃんと乗れるのか。そもそも、2人乗りの豆戦車にこんなヤツが乗ったら、車体が右に傾いちゃったりしないのか。
ちなみに同じIBGのTKSでも、機銃装備型にはまた別のフィギュア2体がついている。
さて、問題のフィギュアは下のような感じ。
1939年戦役までのポーランド陸軍戦車兵の標準的な軍装は、カーキ色のツナギに編上げショートブーツで、IBGのTKS付属のフィギュアも、他3体(20mm砲型の残り1体と機銃型の2体)はすべてその格好をしている。
このメタボさんだけは、黒革のハーフコートと乗馬靴。
1939年時点で、ポーランド陸軍で唯一の完全機械化部隊であったという第10自動車化騎兵旅団は、独特の黒革コートから「黒旅団」と呼ばれていたそうな。このフィギュアの乗馬靴とハーフコートは、同旅団所属であることを示すのではないか……と思うのだが、どうもこれについてはキットの説明書でも一言も触れられていないし、手元に詳しい資料があるわけでもないので、いちはっきりしない。
下写真はwikimedia commonsから、戦争直前の第10自動車化騎兵旅団の1シーン(File:01938 10th Motorized Cavalry Brigade, Zaolzie, col. Stanisław Maczek.png)。
ご覧のように、「同旅団の独特の黒コート」といっても、一般の兵のものはロングコート。ドイツ軍の第一次大戦型ヘルメットを被っているのも、ポーランド軍のなかでこの部隊だけの特徴。そして中央2人のベレー帽の高級将校のみ、乗馬ブーツとハーフコートを着ている。このハーフコートも第10旅団だけの軍装なのか、それとも他部隊でも着用例があるものなのかは、よく判らない。
ちなみにオスプレイ「Men-at-Arms」シリーズの一冊、ザロガ先生の「The Polish Army 1939-45」のカラー図版にも、黒革コートを着た第10旅団の兵士が出ているのだが、その黒革コートはほぼ膝丈で、上写真のロングコートとハーフコートのちょうど中間くらいの感じ。そういう丈の第三のコートもあったのか、単なる誤りなのか、これまたよく判らない。
ちょっと脱線話を足しておくと、上写真の中央右側のちょっと背が低めなのが、第10自動車化騎兵旅団長、スタニスワフ・マチェク。この当時は大佐かな? 後にはフランス軍下の亡命ポーランド部隊(部隊名も本国時代を引き継いで第10装甲騎兵旅団)を率い、さらには英軍下で編成されたポーランド第一戦車師団を率いてノルマンディー以後の北ヨーロッパ戦線で戦っている。タミヤのクロムウェルには、マチェク将軍乗車の指揮戦車のデカールも入っている(ただしキット自体に指揮戦車仕様に組むためのパーツはない)。
●さて、このメタボさんのフィギュアは、胴体はごろんと一体成型、脚はハーフコートの裾のラインから下が別部品。
というわけで、コートの裾の内側はスパッと一平面に埋まっている(昔のタミヤのフィギュア、例えば「将校セット」とか「BMWサイドカー」のコート姿の兵士などと似た感じ)。まあ、普通に立てておけばまず見えない部分ではあるが、なんとなくキモチワルイので、脚を接着した後に、自作のノミやペンナイフでカリカリと削り込んだ(右写真)。
ついでに、コート裾近くの前合わせ部分も深く削り込み。ブーツの靴底も(昔のタミヤふうに)ペッタンコだったので、かかとが独立するよう段差を削った。もともと、それほどモールドがシャープというわけでもないので、他もできる範囲でちょっとずつ彫刻を強調した。
●このフィギュアの頭部は、前にも書いたが、メタボ体型によく似合った感じのヒゲのおっさん顔。モールドの甘さはあるが、「シュラフタ(ポーランド貴族)って、こんな感じかな?」と思わせるものがある。いや、知らんけど。
そんなわけで、頭部はそのままキットのこれを使いたいのだが、残念なことに、頭部と一体成型されたヘルメットの形状がよくないうえに、そもそも小さい(「風の谷のナウシカ」のジオラマか何かに城オジとして使うにはよさそうだが)。
ポーランド装甲車両乗員用のヘルメットはフランス軍式のもので、第一次大戦中に開発された、世界初の近代戦用ヘルメットとして有名なアドリアン・ヘルメットのバリエーション。戦車兵用ヘルメットは、通常のアドリアン・ヘルメットの、四周に張り出した“つば”部分のうち前部・左右部を除き(バリエーションによって若干の差があるものの、後部のつばは逆に拡大してある場合が多いようだ)、前面には革製?のパッドが取り付けられている。頭にかぶさるクラウン?部分の形状は基本のアドリアン・ヘルメットと変わりない感じで、IBGのフィギュアのように後ろ広がりになってしまっているのはやはり格好が悪い。そこで、ヘルメット部分だけを他社製と挿げ替えることを計画する。
右写真は、その検討用に手元の同型ヘルメットのパーツを並べてみたもの。右端がこのフィギュアの頭部、上のモールド色が最も濃いのがエレールのR35/H35付属のもの、左がタミヤのルノーUE付属のもの。後になって「あ、そういえばminiartのも持ってたな」と思い出したが写していない。
ご覧のように、エレールのものも全体の形状バランスは悪くないが、昔のエレールのフィギュアは、他社製フィギュアでよくある「頭を半分切って(中の埋まった)ヘルメット部品を付ける」式ではなく、「中空のヘルメットパーツを実際にフィギュアの頭にかぶせる」形式のため、やや大きめになっている。先述のようにIBGの頭部のヘルメットは小さいが、同時に頭部自体もかなり“小顔”なので、エレールのヘルメットでは似合わないかもしれない。――で、結局タミヤ製を採用することにした。
●ここからまたひと手間。
アドリアン・ヘルメットは、頂部に前後方向の「とさか」が付いている。ちょっと古めかしく見える理由でもあるが、これは塹壕の中で、頭上で炸裂する砲弾の破片や降ってくる岩などの衝撃をそらし、頭部を守る役割を担っている。ちなみに、ソ連軍の戦前型ヘルメット(СШ-36)も頂部に「とさか」があるが、これは通風孔のカバーだそうだ。
さて、戦車兵用ヘルメットの場合、ポーランド軍用ではこの「とさか」が残っているのだが、この時期の本国フランス軍仕様では通常付いていない(フランス軍用でも時期によっては付いている模様)。当然、タミヤやエレールのフランス戦車兵用ヘルメットには付いていないので、流用に際しては「どうにかする」必要がある。
形状的にもなんだか面倒くさく、ここはタミヤのキットに一緒に入っている通常型のアドリアン・ヘルメット(とさか付き)からつばを削り落としてパッドを付けるほうが、もしかしたら楽なのでは?とも考えたのだが、結局は「戦車兵用にとさか増設」の道を選んだ。この際、フランス軍仕様では付いている、ヘルメット前面の兵科エンブレムを削り落とした。
●そして腕も付けた。
正規の接着位置だと、まさに双眼鏡を覗き込んでいる格好になるようなのだが、それだとせっかくの「シュラフタ顔」(←勝手な決め付け)が隠れてしまうので、肩の接合部があまり不自然にならない範囲で、やや腕を下ろして、双眼鏡を少し目から離した状態にした(双眼鏡自体は、この写真では未取り付け)。
ただ、腕側に、肩章に対応した位置にちょっと出っ張りがあって、これがやや前方にずれてしまったので、今後削って付け直すかも。
なお、キットのままだとやや後ろへの「そっくり返り」がきつい感じがしたので、ブーツのかかと部分に0.2mmのプラペーパーを貼り増しした。
●現時点での製作に関しては以上。
ただ、ここから先に関しては個人的にちょっと悩みどころ。
当記事の最初に、「私は基本、車両は作るがフィギュアは作らない(作れない)」と書いたが、実際、私はここ数十年(!)ミリタリーフィギュアは作って(塗って)いない。いや、ミリタリー以外でも作っていないけれども。
もともと私はちまちまと対象のディテールをいじるのは(いつも面倒くさいと言いつつも)好きだが、塗装にはあまり熱意を持てないでいる。車輛においてもそうなのだが、特に製作上、組立:塗装の重要性の比率が大きく後者に傾いているフィギュアの場合は、はなから製作しようという気が起きないくらいに縁遠い。
そんな私がフィギュアについてあれこれ言うこと自体がおこがましいのはもちろんのことなのだが、そもそもが、無生物で基本「金属の塊」である車輛(やら飛行機やら)と、柔らかく固定した形状がない生物とでは、「模型にする」切り口自体がまったく異なっている、ような気もする。
もうちょっと補足すると、形がきちんと定まっている「モノ」である車輛や航空機を縮小して模型化するのはあまり無理がないのに対して、「ある一瞬を固定化して縮小する」という過程が一つ加わってしまうフィギュアの場合は、より実物と模型との間に距離があって、「ホンモノらしさ」の追求はさらに難しい気がしている。実際のところ、模型の展示会や、あるいはweb上の写真でフィギュア作品を見て、「うわっ、これスゲー!」と思うことはしばしばあるのだけれど、それは、その作品が「まるで人間に見える」からではなくて、「フィギュア作品として素晴らしい完成度を持っている」から、という場合が多い(と、個人的には感じている)。現実の精緻な復元ではなく、何か、フィギュア製作ならではの la bella maniera がある、というか。
だからといってフィギュア製作を車輛製作より一段下に見ている、ということではなく、単に、例えばテレビで素晴らしい職人芸を見て、「うわ、こりゃスゲーな!」と思いはするけれど、それを自分でする気にはならない、という感じ。
もちろん、車輛やら砲やらを作るうえで、「これはフィギュアが欲しいな」と思う場合もある。例えばトラックや砲の場合など、国籍マークなど付いているのは稀なので、それだけでは何軍所属かもわかない場合も多い。そんな時は、特徴的な軍装のフィギュアを添えておきたくなる。
とはいえ、そのために改めてフィギュア製作のスキルを磨くのも面倒だし、特に最近は老眼が進んで1:35フィギュアの細部塗装などますます無理感が強くなってきたこともあり、「フィギュアを作るだけは作って、サーフェサー吹いてスミイレだけして車輛(ほか)の隣に置いておくのもアリかなあ、などとも思い始めている。この「ポーランド・メタボ士官」も、もしかしたらサーフェサー仕上げになるかも。
最近のコメント