KV maniacsメモ(緩衝ゴム内蔵転輪)その1
●調べものついでの備忘録。
基本、「今、私がわかっていること」を羅列しているだけなので、あっと驚く新事実の類はない(はず)。むしろ「他にもこんなタイプが確認できる」とか、「触れておいたほうがいいことに触れていない」とか、事実誤認とか、その手の問題があったらビシビシ指摘して頂けると有り難いです。
KV重戦車は、その直接の祖先であるSMK多砲塔戦車時代から、チェリャビンスクに工場が移転して直後のZIS-5搭載型(いわゆる1941年型)の初期(サイト「Тяжелые танки КВ-1」の解説によれば、1941年11月初旬)まで、一貫して緩衝ゴムを内蔵した鋼製リム転輪を使用している。
一般に(第二次大戦直前あたりからの)戦車の転輪は外周にゴムリムを付けて緩衝用とするが、KVのこの転輪は外周(リム)部は鋼製とし、これとハブ部との間に緩衝ゴムを挟み込んでいる。この形式の場合、履帯と転輪の接触音はやかましくなりそうだが、ゴムの損耗は抑えることができる。
緩衝ゴム内蔵転輪はT-34の一部やT-50軽戦車にも使われたほか、敵国ドイツもこれを模倣し、ティーガーIIほかに同様の構造の転輪を導入している。
●構造の概観
複列式で外側・内側は同形。ついでにそれぞれ表裏も同形。鋼製のリムを、緩衝ゴムとゴム抑え板で両側からサンドイッチする形になっている。つまり、リム部は1組2枚、ゴム抑え板は片側表裏2枚×2で4枚。リム部とゴム抑え板の間にあるドーナツ状の緩衝ゴムも表裏2枚×2で計4枚。ハブキャップ、ハブキャップ周りのリング(ゴム抑え板をハブキャップに固定するもの?)各1、などという構成になっている。
Tankograd - Soviet Special No.2003 "KV-1 Soviet Heavy Tank of WWII - Late Version" に緩衝ゴム内蔵転輪の簡単な断面図や、ゴム抑え板・リム部それぞれ単体のイラストも出ているので、可能な方はチェックするよろし(p.54)。
生産時期によって形状にはいくつかのバリエーションがあるが、標準型を例に基本ディテールを見てみることにする。写真はフィンランド、パロラ戦車博物館所蔵のKV-1、1942年型。wikimedia commons、File:KV-1 1942 Parola.jpg(VT1978)より切り出し加工した。この車両は戦時中にフィンランド軍が鹵獲使用した2両のKV-1のうちのひとつで、損耗部品を撃破車輛から調達しているため、1942年型であるにもかかわらず初期型の緩衝ゴム内蔵転輪を混ぜ履きしている。
①:ハブキャップの中央には尖頭ボルト(あるいは丸頭ボルト)が1つ。単純にハブキャップ表面にあるのではなく、周囲は軽く一段、丸く窪んでいる。SMK用~極初期にはないようなので、グリースアップ用に追加されたもの?
②:ハブキャップ端2か所に小さい平頭ボルト。ハブキャップの固定用? Ⅾ字型の座金?を介していて、土台のハブキャップもU字型に窪み、取付面を平らにしている。ボルト頭自体は①の中央のボルトよりやや小さい。D字型の座金は③で述べる段差と一体化しているように見えるケース(パロラの1940年型エクラナミ)も、まったく独立しているケース(キーロフスクの1940年型後期型)もある。もしかしたら時期的な差もあるかも。上写真のものは……うーん、よくわかんないやー。
③:ハブキャップ周囲にわずかな段差。内側の低い段には、miniarmの別売転輪で表現されているように、どうやら一か所に切れ目がある(Cリング状態)。切れ目はおおよそ、②のボルト位置と直交する近辺にあることが多いようだが(90度よりはちょっとずれているのが普通?)、明らかにまるっきりずれているものもある。実は適当? 現存博物館車両でちょっと状態の悪いものだと、この低い段の部分が剥がれて浮き上がっているものが確認できるので、ハブキャップにもともとモールドされているわけではないらしい。
上写真の転輪ではその切れ目がはっきり確認できないが、角度のせいで見えないのか、そもそも切れ目がないのか、ちょっとよくわからない。上写真以外、もっときちんとクローズアップでも、この切れ目がないように見えるものもあって、(1).基本、切れ目は必ずあって、ないように見えるものはたまたそう見えるだけ、(2).実は切れ目があるものと無いもの、バリエーションがある、(3).そもそも切れ目があるように見えるもの自体、破損によるもので、正規の状態ではない――のどれに当たるのか、私自身どうもよくわかっていない。
④:ハブキャップ周囲のリング。周囲8カ所に刻み目がある。ハブ部へのゴム抑え板の固定用か何か? ハブキャップ外側がスクリューになっていて、そこにこのリングを取り付けるらしい。リング部が二重に見える内側はハブキャップ外周(たぶん)。タミヤの新KVのパーツでは再現されておらず、単純にリング状に盛り上がっているだけで別体表現も刻み目もない。
⑤:ゴム抑え板。内外、表裏合計4枚同形。タミヤの新KVでは、内側2か所では再現されていない。
⑥:ゴム抑え板には初期型で8カ所、標準型で6カ所の丸穴。穴の中はおそらく緩衝用ゴムが露出している。写真の車両は展示場所にずっと置きっぱなしなので丸穴の中も車体色になっているが、余所の展示車両では伸縮のためかゴム部分は塗装が剥げてゴム色になっているものが散見される。標準型は12本の放射状リブ。初期型では8本のリブがあったりなかったり。
⑦:リム部とゴム抑え板の間には僅かにサンドイッチされた緩衝用ゴムが覗いている。リム部はゴム外周に当たる部分でゴムを受けるようにわずかに盛り上がっている。ゴムが(というよりリム部が)ずれないようにするためか。このため、この「サンドイッチの断面」部分では、ゴム抑え板・緩衝ゴム・リムの立ち上がり部分、の三段重ね構造が見える。緩衝ゴムにパーティングラインが入って四段状態に見えることも。
⑧:一部のタイプを除いて、リム部には12個の軽め穴。リム部は緩衝ゴムを介してハブから独立しているため、ゴム抑え板の穴やリブと、リム部の穴の位置関係は一定しない(はず)。またこの写真では内外のリム部の穴がたまたまほぼ同じ位置にあるが、これも適当にずれているのが普通と思われる。トランぺッターのキットでは内外のリム穴位置が揃うように、またタミヤの新キットでは内外のリム位置に加えてゴム抑え板の位置も一定になるようにパーツにダボが作られているが、むしろかえって不自然ではないかと思う。
⑨:一部のタイプを除いて、リム外周の縁部は僅かに内側に向けて巻いた形状になっており、そのため外周部内側は窪んだ状態になる。既存のインジェクションキットのパーツでこの形状を再現しているものはない。リム外周の接地面(履帯に当たる面)中央には、摩耗が進んでいない場合には製造時のパーティングラインが残っている。
●転輪の寸法
転輪の寸法に関しては、ポーランド、PELTAのKV本によれば、緩衝ゴム内蔵転輪の直径は590mm(後期の全鋼製転輪は600mm)だそうだ。青木伸也氏のtwitterに書いてあった(まさにその本を私自身も持っているのだが、今パッと出てこない)。えっ、緩衝ゴム内蔵転輪と全鋼製転輪で直径違うの!?
これに関しては実測データも複数あり、まさに上で触れたフィンランド、パロラ戦車博物館所蔵のKV-1、1942年型の転輪にメジャーを当てて測ってきた値が「困ったときのかさぴー頼み」かさぱのす氏のレポートにある。一応主要なところだけ引用すると、「直径:約570mm、厚み:約300mm、内外転輪各々の厚み:約110mm」(ちなみに後期の全鋼製転輪は直径:約590mm、厚み:約300mm )だそうだ。「約」が付くのは事後変形等々で、「ひとつひとつ、また測るところによっても、わずかながらにいちいち寸法が違う!」 ためである由。
もうひとつ実測データとしては、キーロフスクに現存する371工場製強化砲塔搭載の1940年型後期型の転輪にメジャーを当てた写真が「www.dishmodels.ru」に上がっており、そちらではおおよそ直径590mm、リム部の幅は95mmを指している。うーん。
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