TKS用履帯・改訂版 CHINO MODEL 1:35
●昨年秋、国内の3Dプリント・ガレージ・メーカー、CHINO MODEL製のTKS用連結可動履帯の紹介をしたが(当該記事はこちら)、その後、CHINO MODELさんから、改訂版2種をご提供いただいた――という話をちらりと書いたのは初夏(6月21日付)のことで、その時に「近々、きちんとレビューをアップ予定」と書いたにも関わらず、延々と放置してしまった。情けないやら申し訳ないやら。
というわけで、改めてレビュー記事を。
CHINO MODELさんはfacebookのAFV関連のグループでも活動していて、製品化の要望や改良に関してかなり柔軟に対応している。国内メーカーというだけでなく、3Dプリントという生産方式の強みを発揮しているとは言えるが、そもそもご本人のフットワークが軽くなければここまではできないと思う。
TKSの履帯に関しても、最新キットであるIBGの起動輪とのフィッティングがうまくいかない(これについては後述するが、全面的にIBGが悪い)と連絡したところ、かなりの試行錯誤をしていただいた。今回の改訂版は、そうしたあれこれを踏まえたもの。
改訂版は2種類あり、
(1).連結可動式
連結可動式の履板がびっしりモールドされた1枚のパーツと、起動輪1組およびTOM、MIRAGEキットへの起動輪フィット用アダプター、履帯組立用治具(連結用治具と金属線切断用治具)、20mm機関砲FK-A wz.38砲身のセット。
(2).足回りが一体成型された「イージー・パーツ」
連結状態の履帯に、起動輪・誘導輪・転輪・上部転輪が丸ごと一体で成型されたもの。各転輪類の間隔や起動輪の取付部はIBGのキットに準拠。つまり、こちらはほぼIBG製キット専用のパーツといえる。
●それぞれについて、もう少し細かいチェックしてみることにする。まずは(1)の連結可動式について。
初期生産分は連結部の穴が中央で貫通しておらず、連結用の金属線を左右からそれぞれ別々に挿し込む必要があったが、今回の改訂版は一気に挿し込めるようになっている。拡大してよく見ると、穴の詰まりを防ぐため、真ん中のかみ合わせを無理にチューブ状にせず、C字断面にすることでピンを挿しやすくしているようだ。
もともとこの履板は1:72の中戦車クラスと同等の大きさしかなく、私もこうして写真に撮って拡大して、ようやく「あ、筒じゃないのか!」と分かったくらいなので、こういう工夫は十分「あり」ではないかと思う。とにかく、一つ繋ぐたびに2本金属線を挿すのはなかなか大変で、実を言えば旧版は20コマくらい繋いだところで息切れしてそのままになっている(しばらく模型から遠ざかっていたためもあるが)。
旧版のパーツの取り外しの際は、サポート材を根元から切って、その後ニッパーで1本ずつ切り離していたのだが、新版の説明書には「履帯はサポート材から剥がして外すことが出来ます。爪で引っ掛け、履帯の前後方向へ力を掛けるようにすると破損しにくいです」とある(バラバラにしてなくしてしまうと怖いのでまだ試していない)。
履板は300枚入り。説明書によれば、IBGの場合で片側115枚、RPM/TOMは117枚、Mirageは121枚だそう。Mirageのキットは試作車のTKS-BとTKSのコンパチだが、使用枚数が多いのは、もしかしたらTKS-B仕様でカウントしたものかも。旧版を30コマくらい切り離し、20コマくらい繋ぐ過程で2,3枚破損させてしまったが、これくらい余裕があれば足りなくなることはなさそう。
起動輪はボルトや歯もシャープでなかなか美しい。IBGのキットにはそのまま、TOM/RPM、Mirageのキットには付属のアダプターを介して取り付けられる由。わざわざ専用の起動輪が必要な理由は、既存のインジェクションキット3種の起動輪が、イマイチ~イマサンくらいの出来だったため。
やや寄り道して、以下、それらの検証を。
①は、TKSの初のインジェクション・キットだったTOM/RPMのもの。初キットとしてなかなか頑張った!とは言えるが、歯が奥まっていることを筆頭に、起動輪のディテールはあまりよくなく、はっきり言えば「似ていない」。
②はMirage HOBBYのもの。ディテールはやや甘さがあるものの、きちんと「あ、TKSの起動輪だ」とわかる出来。
③は最新のIBGの起動輪。ホイール部のディテール、ボルトのメリハリなどはさすが最新キットで、実物にもよく似ている……のだが、前2者の起動輪と比べ、これだけ歯数が2つも多い! 実車の起動輪の歯数を数えてみたところ、どうやら前2者の30が正解の様子。
このメーカー、アイテム選択等々、(特に私のようなモデラーにとって)絶妙なところを突いてくるのに、どうも詰めが甘いところがあると常々感じていたのだが、今回もやってくれたぜIBG。そりゃCHINO MODELのせっかくの履帯のピッチが合わないわけだよ……。
もちろん、起動輪の歯数が若干違っていたとしてもそのキットに付属の履帯がきっちり使えるのであれば、キットとしては破綻はないし、そもそもパッと見で「あ、歯数が多い/少ない」なんて判ることはまずないと思う。ただ、別途アフターパーツが出てくるとか、他社製パーツと交換したいとかいう場合には、それぞれ正確さがあって初めて「互換性」が成り立つわけなので、やはりこういうところはちゃんと押さえておいてほしいと思う。次出すII号戦車初期型、期待してますよ~IBGさん。
ついでと言っては何だが、wikimedia commonsから、実物の足回り&履帯写真を引用しておく(履帯が掛かっていると歯数は数えづらいが)。
左は「File:TKS Pict0167.jpg」、1939年戦時のポーランドAFVに関しては虎の巻的なサイト、PIBWLのDerelaさん撮影のもの。右は「File:TK gasienica.jpg」。
こちらのセットのもう一つの目玉は、20mm機関砲身。
IBGのTKS/20mmのキットには、足回りパーツがバラバラの通常キットと、転輪と履帯が一発成型の「イージーキット」とがあるが、通常版のほうは真鍮挽き物の砲身付き(右写真下側)。当然強度的には金属砲身だが、CHINO MODEL製はフラッシュハイダー根元の穴もしっかり抜けているのがアドバンテージ。3Dプリントならではだが、CHINO MODELのパーツは根元まで砲腔が開いており、中に0.7mm金属線を入れて強度を確保/変形を防止するよう推奨されている。
なお、実物のフラッシュハイダーは、三脚付きの重機型の場合はキット(IBG&CHINO MODEL)のような感じだが(下左)、車載型では穴の部分が太くなっておらず、穴の形状自体も細長いものがみられる(下右)。どちらが一般的だったかはよくわからない。そもそも20mm搭載車輛の実車写真があまり多くないうえ、砲口部にカバーをかけていたりするので。写真はいずれもwikimedia commons(パブリック・ドメイン)。
●(2)の「イージー・パーツ」版について。
こちらは片側ずつ、履帯はすべて繋がった状態で、起動輪・誘導輪・転輪・上部転輪と一体で成型されている。IBGの「イージーキット」の足回りの当該パーツをそのまま交換する形となっている。
インジェクションのパーツでこのような構成とした場合、当然ながら、複雑なスライド型でも使わない限り抜きの方向に直交したディテールは再現できないが、3Dプリントパーツの場合は、連結可動式と遜色のないレベルで再現できる。起動輪の歯が噛みあう部分も、単純に「履帯の穴が埋まっている」のではなく、しっかり歯が噛んだ形状が再現されている。
ここまで再現されていれば、わざわざ連結する手間を考えれば、(少なくとも個人的には)連結可動式よりも圧倒的にこちらの製品が魅力的。私はIBGのキットはオチキス機銃型、20mm機関砲型、両方とも通常版を買ってしまったが、このパーツを使うことが前提なら、日本での流通価格で1000円近く安い「イージーキット」で済むというのも魅力。もちろん、連結可動式のほうは塗り分けしやすく、IBG以外のキットにも使いやすいというメリットはある。
このセットのもうひとつ良いところは、もとのIBGのパーツ(右写真右側)に比べ、誘導輪の華奢さがよりよく再現されていること。IBGのパーツはスポーク部が分厚いだけでなく、私の入手したキットは一部樹脂のショートなどもあり、手を入れる必要を感じていたので、これは有り難い。
サポート材から取り外し(サポート材との接続部はおそらく200か所くらいあるので、切り離しにはかなり気を使った)、上部転輪と転輪とにキットのビーム(桁)のパーツを合わせてみたもの。間隔はぴったりで、無改造でキットに使用できる。
ただし、通常、インジェクションキットでこういう一体成型の構成になっている場合、一体のパーツはそれなりの強度があるが、このパーツの場合は「ちょっと連結ピンが堅めの可動履帯です」くらいぐにょぐにょ動く。3Dプリントの特徴で、各パーツの隙間まである程度再現されているためで、キットのビーム裏の軸を各転輪に通すのにちょっと手間取った。
しかしそんなことよりも、ここまで繊細な履帯を使うと、今度は、写真にも写っているビームを含め、キットのサスペンション周りのパーツの大味さが逆に気になってしまう。もういっそのこと、サスまでまるごと一体でパーツ化してほしかったような……。
上部転輪のビームやその他細部に関しては、ABERのエッチングパーツ(下)にも含まれているが、このエッチングはそもそもTOM/RPMのキット用なので、どこまで使えるかは未知数。また、パーツの大きさ的にもことに厚みが目立つ転輪部の主桁はエッチングには含まれていない。
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