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“イン・アクションもどき”の素敵な世界

●前回更新からすっかり間が開いてしまった。

その間、「横浜AFVの会(仮)」参加など、イベント的にもあれこれあったのだが、なんとなく書きそびれてしまった。模型もいじらなかったわけではないが、いつも以上につまみ食い状態なので、記事に書くほどの進展なし。というわけで、ヒマネタを一本。

●実車・実機の洋書資料なんて、ベロナ・タンク・プリントとかプロファイル・シリーズくらいしか……というのは流石に大昔過ぎるとして、それからちょっと時代が下った一頃。今ほど資料が豊富でなかった「昭和のモデラー」にとって、当時の水準を1つ抜けた感じの内容で有難さ抜群だったのが、スコードロン・シグナルの「イン・アクション」(squadron/signal publicationsの「airclaft in action」および「armor in action」シリーズ)ではないかと思う。

横長A4のソフトカバー、ページ数はおおよそ50pあるかないかくらいの手頃さ。基本、1機種・車種1冊のモノグラフなので、「**を作ろう」と思ったときに、そのネタがイン・アクションで出ているというだけで、ある程度間に合ってしまう感じだった。

そんな具合なので、この「イン・アクション」シリーズが、世界中で、ある種モノグラフのスタンダードとして扱われたことは想像に難くなく、それを示すように、ほとんど同じ体裁の「イン・アクション」フォロワーというか「イン・アクション」もどきが、一時期、あっちこっちから出版された。

先日、旧スポジニア~ミラージュ・ホビーの1:48、ルブリンR-XIIIDをちょっといじった際に、そんな「イン・アクション」もどきのモノグラフを引っ張り出したのだが、ついでに、我が家にどれくらい「もどき」があるかをチェックしてみた。以下、その紹介。

PODZUN-PALLAS-VERLAG(Waffen-Arsenal)およびSCHIFFER MILITARY

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左上3冊がPODZUN-PALLAS-VERLAG(Waffen-Arsenal)。大学時代の模型サークルでは、「ぽっつんのいんあくしょん」なんて言われていたような。出版しているPODZUN-PALLAS-VERLAGはドイツの会社で、Waffen-Arsenalはシリーズ名。中身は全面ドイツ語のみ。

その後に出版されている緑表紙・縦長判型のWaffen-Arsenalも同じPODZUN-PALLAS-VERLAG社刊だが、この横長イン・アクションもどきシリーズと、緑表紙シリーズに連続性があるのかどうか(つまりある時点から判型が切り替わったのか、それとも別のシリーズとして出されたのか)は不明。なお、出版社名は初期のものはPODZUN-VERLAGとなっているので(左下の35(t)など)、途中で(合併等の理由で?)社名が変わったらしい。

単純に「スコードロンのイン・アクションの真似」で終わらないのは、一部、スコードロンのイン・アクション・シリーズに、このPODZUN 版からの翻訳ものがあったり(例えば「German Railroad Guns in Action」)、逆にスコドロのイン・アクションの独訳版がPODZUNのシリーズに含まれていること。何らかの提携関係のようなものがあったのかも。

スコドロのイン・アクションでは出ていない(あるいは出ていなかった)ネタを扱っていたり、同一ネタでも写真選択が違うのが魅力だが、中身の質はちょっと落ちる感じ。例えば上写真中上の「T-34とバリエーション」は、(少なくとも私の持っている版は)1988年刊だが、T-34-76の分類は、生産時期に係りなく砲塔の見た目で分けた、大戦中のドイツ軍のA型~F型を採用している。ちなみに1983年刊のスコドロの「T-34 in action」(S. Zaloga, J. Grandsen)では、すでに年式・生産工場別の分類がなされている。なお、「T-34とバリエーション」の表紙は表2~表4まで含めてタミヤのボックスアートを借用しているが、奥付(洋書なので前付?)に「TAMIYA」の名前があるので、許可を取って使用しているものらしい。

初期に出た、左下の35(t)の巻は表紙に「mit Poster(ポスター付き)」と書かれているが、これは2つ折りになった表紙と同じカラーイラストが挟まれていた。……特に嬉しくない。

さて、「ぽっつんのいんあくしょん」は本家で出ていないネタがあるのが魅力といっても、記述が全面ドイツ語というのは敷居が高すぎる。そんな状況を救ってくれたのがSCHIFFER PUBLISHINGから出た、「ぽっつんのいんあくしょん」の英訳版。それまで読めなかったものが多少なりとも読めるとあって、例えば写真右上の「第一次大戦のドイツ戦車」は、PODZUN版も持っていたのに改めてSCHIFFER版を買いなおした覚えがある(その際にPODZUN版は誰かにあげたか売ったかしたような気がする)。

もっとも流石に軒並み買い直すような余裕はなく、「ちっ、英語版が出るならもうちょっと待ってればよかったぜー」なんて思ったような覚えも。

Wydawnictwo Militaria

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ポーランドの一大モノグラフ・シリーズのWydawnictwo Militariaだが、初期(1990年代中頃)にはイン・アクション・スタイルのものを出していた。たぶん、このスタイルで出ていたのは航空機のみ。スコドロのイン・アクションと同様、カラー側面図のページも挟まっている。ただし、イン・アクションと違ってカラー図はセンターページではなく、センターの見開きは基本、透視構造解説図。

特色はなんといっても、他ではなかなか取り上げられない機種を扱っていること。ドイツ機も「He59」などずいぶんなマイナー機まで取り上げているが、さすがにこれについては素材不足だったと見えて、表紙も含めて20ページしかない。「He60 He114 Ar95」は一山ナンボ的に3機種まとめて32ページ。一方で自国ポーランド機は、第1集の「ルブリンR-XIII」が48ページ、第2集の「PZL P-24」は58ページもあって、内容も非常に濃い。なお、本文はポーランド語だが、写真キャプションは英語併記なのが有り難い。

他にも、この判型のシリーズのひとつとして、「WINGS IN DISTRESS ~ POLISH AIRCRAFT 1918-1939」――戦間期のポーランド機の、事故で壊れた状態のものばかりを集めているという、ちょっと変わった写真集などもある。

АРМАДА

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出版社はおそらくЭКСПРИНТ(エクスプリント)というところで、АРМАДА(アルマダ)はシリーズ名。ロシアの出版物で、後には縦長判型になるのだが、これも上記のWydawnictwo Militaria同様、初期にはイン・アクション・スタイルのものを出していた(たぶん1990年代後半から2000年代初頭)。ウェブ上の英語ソースだと「ARMADA horizontal(アルマダの横版)」などと呼ばれていたりする。

スコドロのイン・アクションのようなセンターカラーページはなく、基本、表2~表4がカラー側面図ページ(表4=裏表紙はシリーズ紹介の自社広告の場合あり)。個々の写真は割と小さ目な印象。解説はロシア語オンリーだが、写真キャプションは英語併記。

ネタ的にはさすがロシアという感じで、イリヤ・ムロメッツとか草創期のソ連戦車とか、他では到底望めないものを取り上げていたり、BTだけで3分冊だったり。T-26は、私は1巻目しか持っていなくて「ああ、続きは買いそびれていたか」と思ったのだが、改めて検索すると、2巻以降の情報が出てこない。そもそも2巻以降は出ていないまま?(ちなみにT-26の著者はスヴィリン、コロミェツの2人で、「フロントバヤ・イルストラツィヤ」のT-26と同一)

ФАРК ООД / FARK OOD

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ブルガリアのФАРК ООДというところから出た、「AIR POWER OF THE KINGDOM OF BULGARIA(ブルガリア王国の航空戦力)」と題する「うん、さすがにそれは他の国では出ようがないよね」という内容の4冊組。2001年刊。確かnifty模型フォーラム仲間のはほちん氏に頼んで、通販で一緒に入手して貰ったような覚えがある。

1巻目が同国の航空黎明期~バルカン戦争期、2巻目が第一次世界大戦、3巻目が戦間期で、4巻目が第二次世界大戦。ネタ的な珍しさもさることながら、ページを基本左右に区切って、本文もブルガリア語と英語の完全併記(表紙の題名も2言語併記)なのが有り難い。同国のミリタリー系の資料だと、アンジェラ出版というところから出た「Armored Vehicles 1935-1945」もブルガリア語と英語の完全言語併記だった。国際的にはマイナーな言語であることを自覚して、少しでも海外の読者にも読んでもらえるようにという配慮なのだろうと思う。当然、解説の分量は半分になってしまうわけだが、「全然読めない100」よりも「なんとか少しは読める50」のほうがはるかによい。

表紙以外のカラーページは無し。写真自体は比較的鮮明なものが多く収録されている。

▼その他(Hawk publicationMPM

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Hawk publicationはポーランドの出版社。模型資料的なものは、検索してもこのI.A.R. 80/81しか見当たらない。これ一冊しか出ていない可能性も……。1991年刊。

写真のレイアウト、センターのカラー側面図、イラストの配置など、内容的には、今回取り上げた中で、本家スコドロの「イン・アクション」に最も近い。ただしページ数は表紙含め18ページしかない。なぜか8つ折りの1:25巨大図面付き。今でこそI.A.R. 80/81の資料は他でもちらほら出ているが、なかなか要所を突いた内容で、生産ロット別の主翼パネルの変遷イラストなど、模型製作的にも有用度が高い。ただし記述は写真キャプション含めて全面ポーランド語のみ。惜しい。

もう一方の「Junkers Ju87A STUKA」は、言わずと知れたチェコの模型メーカー、MPM(現Special Hobby)が出したもの。これも同じく1991年刊。奥付(前付?)を見ると、どうも中身自体は、その後AVIA B-534や38(t)の優れたモノグラフを出しているMBIが請け負ったものらしい。まだチェコとスロバキアが分かれる前なので、「Printed in Czechoslovakia」とある。

モノグラフ資料として、ある程度サブタイプを区切って出すことは(特に生産時期が長く生産数も多かった機種・車種の場合は)ままあるが、Ju87Aのようにドマイナーな初期型の1タイプだけで出すというのはちょっと奇異に感じるかも。もっともこれは、もともとバキュームフォームキット・メーカーだったMPMが、簡易インジェクションのフルキットに乗り出した最初期にJu87Aを出したことによるもので(実は我が家にストックあり)、写真にもあるように、表紙の隅には「for MPM model of Ju87A」と、自社キット用に出した資料であると明記されている。

ページ数は表紙含め26ページ。冒頭解説文は3ページずつ、チェコ語と英語。あとのページに文章はなく、写真とイラストのみ。コクピット内部や機構などは、かなり資料性の高いイラストが入っている。

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コメント

ドイツ人が出すと、なんか外側の解説で淡白に終わっちゃうのがほとんどなのに、
チェコやポーランドの本はすごく内部構造を濃い目に解説したがる傾向があって、
読めないんだけども好きです。

投稿: みやまえ | 2022年4月11日 (月) 20時48分

なんか見たことあるやつ買った覚えのあるやつがチラホラして胸が苦しい(^^;) 繰り返す地震のおかげで書棚やクローゼットの地層が激しく褶曲逆転して掘り出すのも難行苦行の日々であります。以下略。

投稿: donji | 2022年4月11日 (月) 22時01分

>みやまえさん

チェコとかポーランドとかの資料は、だいたい、少なくともキャプションは英語併記なのもありがたいです。

チェコは「東側諸国」だった時代から模型メーカーがありましたし、そのためでしょうか、資料の質が高いですね。

投稿: かば◎ | 2022年4月12日 (火) 05時14分

>donjiさん

おお。流石です。
ちなみに我が家は地震でズレたり崩れたりしていなくてもあれこれ積もって、模型も資料も掘り出せないです。

(イン・アクションの判型のヤツだけは埋もれない本棚の上のほうにあって取り出せた)

投稿: かば◎ | 2022年4月12日 (火) 05時17分

スコードロン・シグナルも廃業してしまい、寂しくなりましたね。

「AIR POWER OF THE KINGDOM OF BULGARIA(ブルガリア王国の航空戦力)」...いいですね、惹かれます。
ボックスアートレベルの表紙も◎

投稿: vol de nuit | 2022年4月12日 (火) 14時07分

>vol de nuitさん

えっ。スコドロ廃業しちゃったんですか?
検索してみたら、ネット上で噂になってるの1年以上前だ……。
動向に疎くて知りませんでした。

うーん。今からどうしても欲しい「in action」の持ってない巻とかあったかなあ……。

vol de nuitさんのブログに出てきたレゴのタイプライター、いいですね。

投稿: かば◎ | 2022年4月13日 (水) 13時07分

”インアクションもどき”は何持ってたかなーと思い出したら、SCHIFFER MILITARY のMarderIIIなんか買った覚えがあるな。コンパクトにまとまってていい本でした。確か地下に降りてく本屋さんで買ったような.. イタレリ の38t戦車を改造して7.62mmPAK自走砲を作ろうと、プラ板切り出して形を作ったことで力尽きた記憶。その後、TAMIYAからまさかキット化されるとは思いませんでした。

今みたいにネットがなかった頃は資料に飢えてましたね。私は90年代に買った資料本は模型から一度足洗った時に全部処分してしまったから、今に思えばもったいないことしました。

Wydawnictwo Militaria はこの「ライブラリー」をよく使わせてもらってますね...
http://www.armourbook.com/forum/topic_503

投稿: ミカンセーキ | 2022年4月14日 (木) 14時59分

>ミカンセーキさん

>>確か地下に降りてく本屋さんで買ったような..

渋谷の公園通り入り口向かいにあった大盛堂(だったかな?)の地下の「アルバン」じゃないですか?
確か洋書に交じって、少量、海外のガレージキットも扱っていたような覚えがあります。

私が模型の洋書資料を初めて買ったのは、たぶん横浜・大口の国道沿いにあった頃のモケイラッキーだったと思いますが(その頃はプロファイルとかだった)、後に洋書屋に行くようになると、初期は青山の嶋田洋書、それから東銀座と(ちょっと後になって)池袋の西山洋書、時々アルバン、という感じだった気がします。

>>SCHIFFER MILITARY のMarderIII

それは我が家にはないですね。でも「MarderIIIだけの資料」なんて、他にはなかなかない時代に、手頃なボリュームで出していたというのは、PODZUN~Schifferならではという感じですね。

>>私は90年代に買った資料本は模型から一度足洗った時に全部処分してしまったから

うっわー。もったいない……。
でも、「一度足を洗ったときに処分してしまった」って人、結構多いですよね。

投稿: かば◎ | 2022年4月15日 (金) 09時59分

そうだ、「アルバン」でした。モーターブーフのIV号戦車本もそこで買いました。
それも大粛清の犠牲になりましたが....90年代から0年代の本って、結構充実してたのにネットに回収されてないのは多いですよね。

いろいろ捨てたな.." ENCYCLOPEDIA OF GERMAN TANKS"はだいたい暗記したからいいとして、 大塚康生さんの"JEEP JEEP JEEP”は残しておけば良かったと今にして思います。

投稿: ミカンセーキ | 2022年4月15日 (金) 17時22分

>ミカンセーキさん

「ジャーマン・タンクス」は版元品切れになっていますが、ネットで検索しても古本が割とリーズナブルなお値段で出回っているのでいいとして、「JEEP JEEP JEEP」は惜しいですね。
持っている人が皆、割と大事にして放出しないのか、古本も結構なお値段がついているものが多い感じです。

投稿: かば◎ | 2022年4月15日 (金) 22時21分

かば◎さんご無沙汰しております。
私、現在、エアフのミニスケのクルセーダーを作っていてブログに製作記を同時に書いているのですが、かば◎さんが以前に作られていてこのブログでも製作記を載せられていて、製作の参考にさせて頂いておりまして、それでかば◎さんの記事もブログで紹介させて頂きました。
事後承諾になって済みません。
もし文章に不具合がありましたら修正させて頂きますので宜しくお願い致しますm()m。
ではでは^^。

投稿: コウ中村 | 2022年4月17日 (日) 23時05分

>中村さん

S-modelのキットもお持ちのようなのに、そこでなぜかエアフィックスを作り始めてしまうところが、さすが中村さん!

出来上がりを楽しみにしています。

投稿: かば◎ | 2022年4月18日 (月) 05時56分

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