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2022年3月

郵便機がらみの脱線話(3)

●うっかりYouTubeでCMを見てしまい、「関西、電気保~安協会っ♪」が耳に染みついてちょっと困り気味。

●ノビルを今季初収穫し、タマの部分はジップロックに入れて市販のそばつゆに漬け、葉の方は刻んで「ノビルのパジョン」にして食べた。パジョンは1枚は焼いた後にポン酢、1枚は焼きながら醤油を掛けまわした(焼けた醤油の匂いが良いので)。

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写真はそれほど美味しそうに見えないかもしれないが、美味しいんだよ! 本当だよ!(意味のない力説)

●名越の大切岸前の平場で、疥癬症のタヌキを目撃(11日)。

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そして2日後(13日)、今度は名越切通の平場で。

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すぐ近くで野良ネコに餌付けしている人がいて、その上前を撥ねようと草むらに身を潜めているところ。場所は上写真のすぐ近くだが、因幡の白兎ではあるまいし、2日で毛がふさふさになるとは思えないので明らかに別個体。とはいえ、毛並みの様子が万全とは言い難い様子なので、やはり皮膚疥癬に罹っているようだ。

20220311_135938 ●郵便機がらみの脱線話の第3弾。エレールの1:75、クジネ 70.02 アルカンシエル(Couzinet 70.02 Arc-en-ciel)。

scalematesによれば、初版発売は1964年という古いキットで、1:75といういかにも半端なスケールも、おそらく箱合わせで適当に作ったためと思われる。

私が手に入れたキットは、エレールが黒箱時代になってからのものだが、箱絵は初版と同じで、暴風雨の大西洋(たぶん)を、海面すれすれに飛ぶ同機を油絵調で描いたもの。当然、ここにも箱写真を添えたいと思ったのだが、機体本体の作り掛けは出てきたものの、キットの箱(小部品入り)はストックの山の奥にあるようで発掘できなかった。というわけで、箱絵を見たい方はscalematesのページでどうぞ。

1:75といっても3発のかなり大柄な機体で、作り掛けの1:35のトランペッター KV-2と並べてもご覧のような感じ。ウィングスパンは、ほぼ40cmピッタリある。

▼メルモーズと大西洋に架かる虹

クジネ 70~71 アルカンシエル(「虹」号)は、戦間期の有名な郵便機パイロット/冒険飛行家であり、フランスの国民的英雄でもあったジャン・メルモーズの名と密接に結びついている。メルモーズはこの機に乗って、1933年、パリ-ブエノスアイレスの往復飛行を成功させているが、これは初の陸上機による南大西洋無着陸横断飛行だそうだ(水上機型のラテコエール28を使った南大西洋横断飛行は、同じくメルモーズが1930年に成功させている)。

これは、アルカンシエルの長距離飛行試験であるとともに陸上機による横断航空路確立のための飛行であったようで、1934年にはメルモーズの操縦でなお数回の南大西洋横断飛行を行っている。

しかし、やはりこの時代、大西洋横断飛行は相当な冒険であったことは否めず、不時着水時のリスクに加え、木造機であることから耐候性や火災リスクも不安視されたようで、1934年を最後に横断飛行は行っておらず、そのまま表舞台から姿を消してしまったらしい。

エールフランス(アエロポスタル社を前身として1933年に発足)は横断飛行用機体として、代わって4発飛行艇のラテコエール300「南十字星」号を使用することになるが、皮肉なことに、1936年、メルモーズはこの「南十字星」号で、セネガル(ダカール)からブラジル(ナタール)に向け飛び立った直後に行方不明となっている。

 

メルモーズと代表的乗機の動画をYouTubeで見つけたが、最初に写っているのがラテコエール28の陸上機型と、1930年の横断飛行を成功させた水上機型。続いて30秒あたりからアルカンシエル。最後に、ラテコエール300「南十字星」号が写っている。

ラテコの「南十字星」はドルニエ式のスポンソン付き飛行艇で(従って翼下の補助フロートはない)、櫛形配置でナセル2つにまとめた4発エンジン、スマートな艇体、なだらかな曲線でつながった尾翼などなかなか美しい(ちょっと尾翼が「しゃもじ」っぽいが)。ただし、どうもエンジンに不安を抱えていたらしく、メルモーズの最後の飛行でも、右後ろのエンジンの不調を伝える無線を最後に消息を絶ったという。

ちなみにArc-en-ciel(虹)の発音は、カタカナ表記すると「アルカンシエル(もしくはアルカンスィエル)」が近い。「アルカンシェル」でも「アルカンシェール」でもないので注意(時空管理局の「すっごい兵器」はアルカンシェルだが)。意味は分解して逐語訳すると「空の弓」で、ハイフンで繋げて1単語にすると「虹」になる。設計者の姓でもあるCouzinetは、日本語だと「クジーネ」と書かれたり「クージネ」と書かれたりするが、アクセントは「ou(ウ)」のところにあるものの伸ばした感はないので(発音サイトで聞く限り)カタカナ表記は「クジネ」が近い。

▼実機の特徴

佐貫亦男先生は、クジネ 70~71 アルカンシエルを評して、「航空技術史上もっともスタイリストである機体の一つ」と記している(「続々・ヒコーキの心」)。

もちろんここでいう「スタイリスト」は職業ではなく「オシャレ」くらいの意味だが、その最大のポイントは、木製機ならではの滑らかなラインと、ルネ・クジネ設計によるアルカンシエル・シリーズ共通の、胴体がそのまませり上がって薄くなり垂直尾翼になるという独特すぎる形態だろう。

「鍛えた日本刀のような」というのは喩えとしてほめ過ぎで、実際にそのような隙の無さは感じないし、むしろ「え、大丈夫なのコレ?」的な印象。側面形だけで言うと「バナナみたい」。ラインとして美しさはあるが、一方では圧倒的な珍機感を打ち出している。それがこの機の個性と魅力ではあるが。空力への並々ならぬこだわりは、巨大な主車輪だけでなく、尾輪にまで水滴状のカバーを被せたところにも感じられる(ただし、これらのカバーは後の改修で取り払われている)。

設計者のルネ・クジネは主に戦間期に活動した航空機デザイナーで、初期は(以前にエレールのキットを紹介したことがある)ANFレ・ミュロー社の協力を得て、後には独立して会社を構えて(ルネ・クジネ航空機:Société des Avions René Couzinet)何種かの航空機を生み出している。もっとも、まともに量産された機体は一種もないようだから、要するに「自分のアイデアに溺れちゃった」タイプの技術者臭い。

実機に関しては、ネット上にものすごく詳しい資料がPDFで公開されているので、興味をお持ちの方はダウンロードして目を通してみるとよいと思う。

サイト「Association Le Nouveau Souffle de l'Arc En Ciel

資料は「Quand les Arcs-en-Ciel traversaient l’Atlantique(虹が大西洋を渡った時)」(著:Claude FAIX)、上下43ページずつで、「pour aller plus loin」のページに置かれている。以下の説明も、基本、この資料に拠っている。おそらく、お金を出して買おうと思っても、なかなかこれを上回る資料はないんじゃないか? というくらいの上質な資料である(ただし全編フランス語)。

クジネによる最初の「アルカンシエル」は、1927年のクジネ 10 アルカンシエルNo.1で、これは小改修されてクジネ 11 アルカンシエルNo.1bisとなるが、1928年に事故で失われ、別機のアルカンシエルNo.2も格納庫火災で失われている。他にも数種の「アルカンシエル」タイプの大小の航空機が作られているらしい。

今回の主役のクジネ 70~71 アルカンシエルは、クジネ 10~11よりやや大型の機体として企画されたもので、1930年にクジネ 70.01 アルカンシエルNo.3として製作開始、翌年2月に初飛行している。

ここまでの文章中で、私が「クジネ 70~71」と書いているのは、初飛行以降、1934年までの間にやたらに改修が繰り返されて、そのたびに名前が変更になっているため。

クジネ 70.01 アルカンシエルNo.3:初飛行時。全長16.13m。全幅30m。1時間半飛行。イスパノ・スイザ12Lb(650馬力)3基に、グノーム&ローン製3翅ペラの組み合わせ。車輪カバー未装着。

クジネ 70.01 アルカンシエルNo.3bis:初飛行後、小改修を受ける。エンジンフレーム、エンジンカウルなど変更。左右エンジンが翼前縁に対して垂直(機軸に対して3°外向き)なのはこの改修以降? 大型の車輪カバーが付く。登録され、「F-AMBV」の登録記号を得て、これが記入されるのもこの時から。胴体下面に「René Couzinet」と大書(当初は横書き、長胴体型になってからは縦書き?)。これらのマーキングは、少なくともこの時点では赤だったらしい。32年12月に、ショヴィエール製2翅ペラに交換。全長変わらず16.13m。1933年に2度の南大西洋横断(メルモーズによる最初の往復飛行を指すと思われる)。

クジネ 70.01 アルカンシエルNo.4~No.4bis :大改修。延長型の新しい胴体。全長21.45m、全幅は変わらず30m。エンジンカウルも再び新しくなる(胴体に合わせて機首も伸びる)。ラジエーター形状変更。胴体窓は前後が角形から丸型に変更。主翼、胴体間に大型のフィレットを追加(フィレットが追加されて当初は、翼の登録記号の一部が隠れた状態)。水平尾翼形状変更。胴体窓上に「FRANCE - AMERIQUE DE SUD」。水平安定板上に、「豚の耳」と呼ばれる補助方向舵を追加。一時(1933年12月?)エンジンに減速ギアを取り付けて4翅ペラを装着。

クジネ 71.01 アルカンシエルNo.5:胴体を後部で若干短縮。全長20.18m。エンジンも減速機を外され通常のイスパノ・スイザ12Nbになり、ペラも2翅に戻る。エンジンカウル形状等にさらに改修。フィレットは大型だが、No.4~No.4bisに比べるとやや小型化? 1934年に6回の大西洋横断飛行。最後の横断飛行(8回目)の後、胴体右の虹の帯の後ろに、1回目~8回目の横断飛行の記録(達成年月日)が、胴体左の同位置には南米の都市名が記入される。

クジネ 71.01 アルカンシエルNo.6:エンジンカウルに大幅改修。前面ラジエーターをやめ、顎下ラジエーターに。機首・ナセル前面は尖った形状になる。ハミルトン・スタンダード製ペラを装着。大きな車輪カバーは外される。全長20.18mで変わらず。国が購入しエールフランス所属に? ただし実際の商業飛行には使われなかったようで、その後、エンジンを取り外された状態で競売に掛けられ、ルネ・クジネ自身が買い取ったらしい。結局修理再生されることもなく、第2次大戦中に破壊されてしまったようだ。

とにかく、1機しかないにも関わらず、やたら小刻みにあちこち変更されていてややこしい。

ちなみに上に埋め込んだYouTubeの動画中でも、最初に登場するのは短胴体の70.01(たぶんアルカンシエルNo.3bis)。フィレットも小さく、側面窓が角形なのが45秒あたりから確認できる。1分15秒から写っているのは長胴体型(アルカンシエルNo.5?)で、大きなフィレットと前後が丸くなった窓がわかる。

ワンオフの特別な機体を、極限の飛行に合わせて細かくカスタマイズしていったと言えば聞こえはいいが、胴体の延長や大型フィレットの追加、補助方向舵の増設などは安定性や方向舵の効きを改善するための措置で、どうもルネ・クジネがこだわり続けた尾部形状が悪さをしている可能性は高いように感じる。その後、誰もこの「新機軸」を真似ていないのも、その傍証のように思う。

▼エレールのキットについて

上述のように、キット名称は「70.02」で、これは上記のリストでは、おそらく胴体延長改修後のアルカンシエルNo.4もしくはNo.4bisを指しているのだと思う。とはいえ、なにぶんにも古いキットということもあってか、細部の特徴はいくつかの時期のものが混ざっている。

  • キットの全幅は40cmで、これは実機各型の全幅30mのきっちり1:75。全長は26.6~26.7cm(スピンナーの分は適当に足しているのでいい加減)で、75倍すると約20m。アルカンシエルNo.5とおおよそ等しい。半端スケールではあるが、一応スケールに拘っているようなのは嬉しい。
  • 主翼・胴体間は大型フィレット付き(おそらくアルカンシエルNo.5の形状に近い)。
  • 胴体窓は角形でアルカンシエルNo.3bis以前。
  • プロペラは3翅で最も初期のアルカンシエルNo.3仕様。
  • 機首も胴体に合わせて長く、エンジンカウル形状はおおよそアルカンシエルNo.4?
  • 水平尾翼形状はアルカンシエルNo.4以降の改修型。「豚の耳」補助方向舵付き。
  • 主車輪、尾輪は大型カバー付き(アルカンシエルNo.3bis以降)。

とにかく、胴体と機首が長く、大型のフィレット付きの形状になっているという時点で、アルカンシエルNo.5として作るのが最も素直な道ということになる(もちろん、実機の仕様を追おうなどと考えずにキットのままに作るという方針を取らないのであれば、という前提のもとでだが)。

ちなみに、最初の横断飛行を成功させた短胴体時代の70.01 アルカンシエルは、1:72のレジンキットが模型友達である小柳氏の「赤とんぼワークス」から出ていた。

上記のように、各時期の特徴が混在していること以前の問題として、キット自体が古く、全体のスタイルの捉え方も甘く、パーツ構成やモールドも大味であることなどが挙げられる。

私がこのエレールのキットをいじったのは、ずいぶん昔のことで、以来、たぶん20年くらいは放置していたものなので、工作自体も曖昧になっているが、とりあえず、大掛かりにいじったところなどを中心に。

20220311_161213アルカンシエルの胴体は合板張りの強みを活かして、やたらに滑らかな曲線で構成されている。実機の胴体断面形は中心部あたりでも上すぼまり。側面窓が途切れたあたりからは、もうほとんどおむすび型になっているはず。エレールのキットは、胴体中心部あたりでは長方形断面に近く、そこからだんだん上部が狭くなっていくのだが、垂直尾翼として立ち上がっていくあたりになっても、まだ上に平面部を残している。キットをストレートに仕上げた作例がネット上で見られるので、参考までにそちらへのリンクを(もちろんこれはこれで、デスクトップモデル風に美しく仕上げてあって良い感じ)。

(おそらく、その他のさまざまな不都合を無視してまで)ルネ・クジネが追及したかった、抵抗の少ない流麗なラインがだいぶ損なわれている感じがあり、内側から裏打ちし、胴体後半を大胆にゴリゴリと削り込んだ。古いキットの大振りなパーツなのでプラの厚みも結構あるのだが、削り込みの結果、(写真にもちょっと写っているが)胴体上端あたりに裏打ちがちょっと見え始めている。

実はこれでも削り込みが不足で、もっと胴体の前側からなだらかに丸まっていないといけないのだが、そうすると胴体に穴が開いてしまいそう。

20220311_140053「うーん、もうちょっと削りたかったなー」と思いつつも削れないのは、胴体窓の形状を変更(角形→丸形)したいというのもあって、透明プラバンをはめ殺しにしてあるためでもある。とにかく外形を何とかしたかったということもあって、「どうせほとんど見えないよね」と、キャビン内部は何も工作していないのでがらんどう(もともとキットにも機内パーツは何も入っていなかったと思う)。

天井の明り取り窓は、キットでは確か四角くモールドがあっただけ(あるいはモールド自体なかったかも)で、ここは開口だけして放ってあった。

20220311_161121キットの機首はやや細すぎる感じ。機首下面が直線的に上がっていて、ふっくら感が足りないので、プラバン片とパテを盛って、ちょっと膨らましている。

その際に、機首の細かいルーバーのモールドは(もともとちょっと頼りないが)一部消えてしまっていて、これは将来的にはまとめて再生する必要がある。

排気管は一目で「あ、イスパノ・スイザだ」と判る「1・2・2・1」構成。機首左右下側には、イスパノ独特の三連の吸気口も製作する必要がある。機首前面にはラジエーターがあるのだが、キットのパーツはプリミティブな出来で、これも自作覚悟。

コクピットの窓枠が破損しているが、これは、そもそも「コクピット側面窓の形状もおかしい」「凸モールドがあるだけで天窓が表現されていない」などの問題があり、ここはノコギリで天井から大きく切り開き、作り替える予定があるので構わない。コクピット内も現在はがらんどうだが、その際についでに最低限の表現を制作するつもり。ちなみにこの機は、これだけ大型機であるにもかかわらず、操縦輪は左側に1つだけで、副操縦装置はない。

20220311_140355機首が細すぎる感じな一方で、両ナセルは寸詰まりで、とても同じエンジンが入っているように見えないので、こちらは一度ノコギリで切り離して、プラバンを挟んで3mm延長した(延長した長さは目分量)。

この際の工作で、ナセルの表面モールドは完全に削り落としてしまっている。機首もそうだが、細かいルーバーの再現ってどうしたらいいんだろう……というのが放置に至った直接の原因だったような気もする。

ちなみに実機では、左右ナセルに向けて厚翼の翼内に通路があり、這って行ってエンジンの点検修理ができるようになっていたらしい。宮崎駿さんあたり、好きそうだ……。

20220313_121409下面は、前述の機首を膨らませた以外にも、段差やヒケなどが多く工作跡(あるいは工作途中跡)がだいぶ汚らしい。左主翼下面が白いプラバンに替わっているのは、キットのパーツが複雑にねじくれ、波打っていて、修正して使うよりも交換してしまった方が話が早かったため。

ちなみにこの下面パーツはナセル下面と一体になっているので、ナセル部分だけは切り取ってキットのパーツを使っている。

上面、下面ともエルロンの表現は凸筋+パーツの分割線のみ(それを言うなら機首のパネルラインや方向舵も凸筋だが)。凸筋は削ってしまったしパーツ分割線は埋めたので、後々資料を見つつ彫り直す必要がある。

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郵便機がらみの脱線話(2)

20220227_200939 ●前回に続いて押入れの守り神的ストックのレビュー(守り神がやおよろず状態)。フランス製の簡易インジェクション、HiTech 1:48のブレゲー14B2。

武骨で、四角くて、頑丈そうで……およそ「洗練された格好良さ」とは無縁な感じだが、しばらく見ていると、それが逆にちょっと魅力的に見えてくる感じの機体。

フランスお得意の(というか、戦間期までは各国がしきりに開発していた)多座多用途機のハシリにして初期の成功例のひとつで、これの後継機が前回のポテーズ25や、同メーカーのブレゲー19あたり、ということになる。

大昔、オーロラの1:48シリーズにも取り上げられていたくらいなので、第一次大戦機のキット化アイテムとしては最古参の部類ということになる。実は、私は子供時代にオーロラのブレゲーを組み立てたことがある……らしい。「らしい」というのは、おぼろげな記憶で、「やけに角ばった感じの、それなりの大きさがある複葉機のキットだったこと」「主翼を前から押している地上員のフィギュアが付いていたように思うこと」くらいしか覚えていないからだが、該当するキットは、おそらく、オーロラのブレゲー14しかない。

まだプラモデル趣味に目覚める前で、当時の子どもの常として「時々プラモデルを接着剤ベタベタで捏ね上げるだけ」だった私が、なぜ輸入品の第一次大戦機などというマニアックな品を手にすることになったのか、今では確かめようもない謎である。

閑話休題。そんなキット化史を持つブレゲー14だが、その後は長く後継キットに恵まれない時代が続いた。

80年代、悪名高い草創期の簡易インジェクションメーカー、マーリンから72キットが発売され、(よせばいいのに)入手したことがあるが、でろでろのプラパーツ(前回のHITKITの比ではない)というだけでやる気を無くすのに、なんと私の入手したキットは、胴体の同じ側が2つ入っていた。購入した模型店に連絡をしたら、「えっ!? では、すぐに交換します。在庫確認しますんで……。あっ! 申し訳ありません、こっちの在庫も同じ側が2つでした……」と言われた。右左別々で2枚ずつならパーツだけ交換で済んだのに……(これって前にも書いたような気がする)。

そうした前史の末に、ようやく手に入れた比較的まともなキットが、このHiTech製の1:48 ブレゲー14B2ということになる。なお、72ではペガサス、その後AZmodelからもキットが出ている。

ちなみにキット名称末尾の「B2」は(たとえばメッサーシュミットBf109E-4、みたいな)生産順によるサブタイプ記号ではなく、フランス独自の機種識別記号で、爆撃機(Bombardier)で複座(2人乗り)を示す。ニューポール17C1、モランソルニエ406C1とかも同様で、これは戦闘機(Chasseur)で単座。

ブレゲー14の主要生産型としては、他に偵察機型のA2があって、これも「偵察機・2人」の略号だが、Aが何の頭文字なのかはよく判らない。フランス語で偵察機は「Avion de reconnaissance」だが、「Avion」は単純に航空機のことだから略号にするならRを使いそう。Accompagné(随伴)とか、あるいは実際にこのA2機が配属されたCorps d'Armeéを示しているのかも。

ちなみにこの頃のフランスの陸上の航空隊は全体が陸軍に所属していたはずなので、後者のCorps d'Armeé(直訳すれば陸上部隊)は陸軍所属を示すのではなく、爆撃隊とか戦闘機隊とかと並列で、偵察・空撮・弾着観測・リエゾンなどの地上支援を担当する部隊のことであるらしい。

●前置きが長くなったが、そろそろキットの中身を。

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中身は簡易インジェクション製の主要プラパーツ、レジンとメタルの小物パーツ、エッチング、デカールとインスト。

単発機とはいえ結構大柄な機体で、2枚目写真にあるように、手のひらと比べても主翼はだいぶ大きい。胴体横・後席脇に窓があるのはたぶん爆撃型の特徴。下翼に出っ張りがあるのも爆撃型の特徴で、この出っ張りは下翼下面に装着されたミシュラン製の爆弾架(小型爆弾なら左右各16個懸架可能)のもの。下翼後縁が、ほぼ全スパンに渡ってフラップになっているのも爆撃機型だけの特徴らしい。ちなみにアエロポスタル社で使用された郵便機は、おそらく窓や爆弾架のないA2仕様をベースにしているのではないかと思う。また郵便機型は(ネット上で作例等見ると)下翼左右(B型で爆弾架のあるあたり)に貨物(郵便袋?)収納用のコンテナをぶら下げているようだ。

胴体表面の布張りの縫い目、翼のリブ表現などはそれなり。簡易インジェクションで第一次大戦機を出し始めたころのエデュアルド並み、くらいか(通じにくい評価)。私の入手したキットでは、下翼の爆弾架部分の表側に、あまり目立たないながらも、わずかにヒケがあった。裏側ならエッチングを貼るので、いくらヒケててもいいのに……。

胴体下面はモールドの方向もあってつんつるてんだが、実機は何かディテールがあるかもしれない(資料不足でよく判らない)。

びっしりとルーバーの入った機首側面は、プラパーツは一段窪んでいて、エッチングパーツを貼る構成。

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割と大判のエッチング(横約10センチ)は、前述の機首側面パネル、爆弾架、後席機銃架、窓枠、前面ラジエーターのシャッターなど。機首側面のルーバーがペッタンコ表現なのはちょっと残念な感じがするが、かといって、ここを綺麗に膨らませて、かつ綺麗に形を揃えるというのは非常に面倒くさそうだ。

メタルキャストパーツはペラ、脚柱、機銃。本機に使われたプロペラは数種あるらしいが、キットは最も標準的に用いられたラチエ製。レジンパーツは機首前面のラジエター、車輪、座席と、オカリナのような形の排気管。

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デカールシートは、確か今はもう活動停止してしまったエアロマスターデカール製の美しい印刷のもの。縦横13cmちょっと程度あるが、塗装例1種のみに対応。シリアルNo1333はボックスアートの実機写真にある機体で、説明書によれば1918年6月、エスカドリーユBR117所属である由。フランス航空隊の中隊(エスカドリーユ)名は機種別になっていて、BRはブレゲー装備を示す。

たとえばエースとして名高いジョルジュ・ギヌメールの所属は第3戦闘機中隊だが、モラン・ソルニエ装備時代はMS3、ニューポール時代はN3、スパッドに替わってからはSpa3と変遷している。

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郵便機がらみの脱線話(1)

●ロシアのウクライナ侵攻が始まってしまった。

独ソ戦の話ではなく、まさか21世紀の今になって「ハリコフ攻防戦」が現実に起きるなどとは思わなかった。

多くのウクライナ人にとっては「隣国(他国)の侵攻」である一方で、プーチンにとっては(あるいは多くのロシア人にとっては)「自国内の問題」という意識なんだろうなあ、と思ったりする。そういえば、ロシアの民族的英雄であるイリヤ・ムロメッツは「キエフの大公」に忠誠を使っているのだった。

それはそれとして、NHKのニュースにおいても、「第二の都市ハリコフへ云々」と言っているのがちょっと気になった。当然ながら報道は立場としてはウクライナ寄りなのだけれど、それでいてなぜに都市名はロシア語? ハルキウって言うべきなんじゃないの? いや、それを言うならキエフもロシア語名で、ウクライナ名はキィフ? 一方でなぜリヴィウだけは各ニュースでウクライナ名? などと、なんだか脇道に逸れたあたりが気になったりする。

ちなみに、ウクライナ外務省推奨の正しい地名呼称(より現地発音に近い表記)は、キエフ→クィイヴ、ハリコフ→ハルキヴ、そして国名は「ウクライーナ」だそうだ。

●24日木曜日に3回目のCOVID-19ワクチン接種。当初2回はファイザーで今回はモデルナ。もともと1,2回目の時は「同種のワクチンを」と言っていたのが、なんで急に「交互接種は有効」ということになったのか、どうにアヤシイものを感じてしまうのだが、明確に「そりゃおかしいだろ」という根拠を持っているわけでもないので大勢に流される。翌日肩が痛かったが、特に発熱などはなかった。

20220226_153957_burst01 ●久しぶりに佐助稲荷に行く。

どうも小学生女子としては趣味の方向がよくわからない我が家のお嬢が、先週末だったか、一人で佐助稲荷に行って来たのを聞いて、「そういえばすっかりご無沙汰だな」と思い出したため。

数年前の台風による倒木で大被害を受け、本殿と拝殿が潰れてしまったと聞いてから行っていないから、少なくとも3年以上行っていないかも。考えてみれば、近年、山歩きは逗子から南側・西側が主で、衣張山・朝比奈方面以外の鎌倉外縁の山もほとんど歩いていない。

久々に行った佐助稲荷は、拝殿は白木造りの新しいものが建っていたが、その奥の本殿は倒壊・撤去されたままで、陶器の小さな狐がぎっしりと並べられた中に、神棚に毛の生えたような小さな仮の本殿が置かれていた。本殿脇からは、本来は尾根上の大仏ハイキングコースに上がる道があるのだが、そちらはなお通行止めのようだ。参道の鳥居の列も、以前は木製の古いものが混じり、また腐って倒れて根元しか残っていないものもちらほらあったような気がするのだが、ほぼすべて樹脂製の新しいものになり、抜けも補充されているようだ。

●hn-nhさんが昨年買ったキットのリストを挙げた中に、AZUR-FRROMの1:72 ポテーズ25があって中身が非常に気になっていたのだが、hn-nhさんのブログ「ミカンセーキ」にレビューが上がった。

Le Potez25 de l'Aeropostale

hn-nhさんのことなので、単に「キットの出来はこーじゃ」みたいな味気ないものではなく、(もともと軍用の多用途機として開発されたものの)サンテクスの著作でも有名な郵便飛行の使用機として活躍したあたりをじっくり書いていて、読んでワクワクする。

もちろんキットの紹介も抜かりなく、一緒に購入されたらしいSpecial Hobbyの郵便機入りデカールのインストに従って、後部銃座を普通の座席に改造する作業も済ましていたりしてなかなか楽しい。

もともと、AZURはチェコのMPM/Special Hobby系の中で、フランス企画の機体をリリースするラインナップだったと思う(箱に「Design and conception in France. Tooling and molding in Czech Republic(設計・企画はフランスで、製造・生産はチェコで)」と書かれている)。FRROMはそのまた派生レーベルで、今度はルーマニア企画でキット開発が行われているらしく、FRROMは「From Romania」の意味ではないかと思う。それを示すかのように、最初はルーマニア国産のIAR-39とか、ルーマニア型(双発型)のサヴォイア・マルケッティ79とか、ルーマニア関わりの機体が多かったのだが、その後は割と曖昧で、同じキットのバリエーションが、AZURとAZUR-FRROM、Special Hobbyとレーベルをまたがったりしていることも多い。

ポテーズ25は、さすが戦間期に割合ヒットした機体だけに、ロレーヌ型もイスパノ型もルーマニア軍で使用されているらしく、FRROMで取り上げるだけの関連性はあるようだ。

●さて、そのフランスの郵便飛行会社でエールフランスの前身でもある「アエロポスタル」は、いろいろな機体を郵便機として使用しているのだが、なかでも代表的なものが、第一次大戦機払い下げのブレゲー14、上記のポテーズ25、そしてより新型で大型のラテコエール(ラテ)28が三羽烏、というところではないかと思う。

hn-nhさんのところで新しいAZUR FRROMのキットを見ると、ビシッとキレもよく、私も一つ欲しくなってしまうのだが、実は我が家には、もっと古いポーランド製の簡易インジェクションキットであるHITKIT製の1:72 ポテーズ25が、エンジン違いで2、3種ストックがある。一方では、第一次大戦直後の郵便飛行草創期の主役だったブレゲー14も、フランス製簡易インジェクションのHiTech製、1:48キットがある(もしかしたらペガサス製の1:72キットもある)。

特に前者については、AZUR FRROMのキットを見てしまうととてもこれから作る気にはなれないシロモノだが、せめて賑やかしで(くやしんぼうで)キット紹介くらいはしておこうと思う(どちらも純軍用機仕様なので、郵便機としての話題からは逸れてしまうが)。

20220227_201100 ●まずはHITKIT、1:72のポテーズ25。

ポーランド製の簡易インジェクションで、scalematesによれば90年代半ばのリリースだったらしい。各種搭載エンジン別にバリエーションキット化されていて、私も「まさかこんな機種がキット化されるとは!」と舞い上がってしまって、数種買い込んで、そのまま死蔵して今に至る。紹介するのは、たまたま押し入れの目につくところにあった、グノーム・ローン「ジュピター」エンジン搭載型。輸出仕様で、キットのデカールはフィンランド空軍1、エストニア空軍2、クロアチア空軍2、ユーゴスラビア空軍1に対応。マニアック過ぎる……。

キットは薄っぺらいキャラメル箱入りで、構成は、「いかにも(一昔前の)簡易インジェクション」という基本プラパーツ、エッチングパーツ、メタルキャストパーツ(エンジンのみ)、デカールと説明書。

肝心のプラパーツはこんな感じ。

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1枚目は2枚合わせの上翼と左右胴体。貼り合せる内側は、粘土をこねくり回した跡?みたいな表面。胴体は、左側はまだいいとして、右側は下縁に沿ってウネウネとヒケ(というか波打ち?)が生じていた(写真2枚目)。小物パーツ(3,4枚目)は、モールドの状態は見ての通りで、取り付ける前にバリだの荒れだのをクリーニングするの大変そうだが、コクピット内のフレームもパーツ化されていたり(それがキットの胴体パーツにきちんと収まるのかどうかは別問題)、たぶんエンジンの別に応じてペラも2種入っていたりと、キット企画・設計者の気合は十分に感じられる。……のが、逆にわびしい。この気合に見合う技術があればなあ。

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ジュピター・エンジンは、ころんと、これだけ一つメタルキャストのパーツが入っている。このエンジンが付く機首部分のパーツが右写真で、上で紹介した胴体パーツの先端を切り飛ばして挿げ替えろという、なかなかスパルタンな構成。なお、キットの基本胴体はロレーヌやイスパノ装備型にはとても見えないので、おそらく、ポーランド仕様のブリストル・ジュピター装備型を基本にしているのだと思う。さすがポーランド製キット。ちなみにポーランド軍仕様は、同じジュピター装備でも、エンジンにタウネンドリングが付いているなどの違いもある。

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エッチングパーツは左写真のような感じで、プラパーツとは隔絶の出来。しかし、AZUR-FRROMのポテーズにも専用のエッチングは付いているだろうし、これだけ有効活用する必然性も高そうにない。デカールはシート自体が端の方で変色していて、今でもちゃんと使えるかどうか不安な状態。

●長くなったので、HiTech 1:48のブレゲー14B2のレビューは改めて。

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