●空恐ろしいものを入手してしまった。
CHINO MODEL製、TKS用連結可動履帯。
当今流行の3Dプリント製品。まあ、さまざまなアフターパーツが3Dプリントで出るようになってきたので、私もそのうち何か必ず手にすることになるだろうと思っていたが、最初がまさかこんなに“とんがった”アイテムになるとは思わなかった。
CHINO、といっても中国製ではなくて(スペイン語だとchineseの意味になる……たぶん)日本製。
●(製品の必要性に関する)バックグラウンド。
これまでにポーランドの豆戦車、TK系のインジェクションキットは、大別して以下の3社から出ている。(約20年前に書いたTK系の実車解説はこちら)
TOM/RPM:たぶん90年代に、当初TOMからTKS(20mm)とTK-3が発売され、後にRPMに移って、TKS(オチキス機銃型)だけでなく、TKDやらTKWやらドイツ軍鹵獲仕様やら現実に存在しない変な改造トラクターやら、やたらたくさんのバリエーション展開がなされた。
MIRAGE HOBBY:最初のキットは90年代末? TOMの箱替えかと思ったらまさかの新規開発キットだった。どういう風の吹き回しなのか、たった1輌だけ試作された(既存のTKSから改造)試作改良型のTKS-Bとして発売されたが、実際には通常のTKSとしても組めるコンパチキット。バリエーションとして、前後して出た同社ルノーUE用のトレーラーカーゴを付けたドイツ軍鹵獲仕様も発売された。
IBG:2018年発売の最新キット。基本的なバリエーションは20mm装備型とオチキス機銃装備型の2種だが、それぞれポーランド迷彩色の塗料付きセット、足回りの組立をロコ方式で簡略化させたイージーキット仕様も発売。機銃型(通常キットのみ?)はたぶんフィギュアとデカールを替えて、ドイツ軍鹵獲仕様も出ている。
うち、IBGについては当ブログでもキットレビューを載せている。
履帯に関しては、TOM/RPMとIBGはインジェクションの部分連結式、MIRAGE HOBBYは軟質樹脂のベルト式のものが付属している。3社の履帯は、おおよそ写真のような感じ(左から、TOM、MIRAGE、IBG)。
実際、車輛そのものに関しては新キットになるほど出来がよく、それぞれが旧キットに比べて、「うん、さすが、一日の長がある」と思わせる出来だったのだが(TOMのキットも初のインジェクションキットとして結構頑張っていたが)、履帯は別で、最新のIBGのキットのものは履板表面の窪みもなくぱっと見でディテール不足(もちろん足回りが一体化されたイージーキット仕様はパターンを云々する以前の問題)。MIRAGEのベルト式はまるでハシゴのような代物で、むしろ最古のTOM製の履帯が一番マトモという状況だった。
そんなわけで、TKマニアであることを自認する私にとっては、ぜひとも手を出してみたいアイテム、ということになる。
●そんな履帯セットの中身はこんな感じ(金尺は私の)。

3Dプリントされた履板が整然と並んだ板が一枚。パッと見ると目の焦点が変な風に合ってしまってクラクラした(ステレオグラムで変な模様や文字が浮かび上がってくるようなことはなかった)。
ベースの上に並んだ履板は13×20列で、計260枚。付属の説明書によれば、TOM/RPMのキットに使用した場合に片側に必要な枚数は113枚だそうなので、1輌分組んで十分にお釣りが来ることになる。これだけ細かいと破損や紛失が怖いので、十分な余裕は有り難い。例えばMIRAGE HOBBYのキットで(やや足回りが長い)TKS-Bを組み立てたいなんて言う場合でも対応可能だと思う。まあ、わざわざ試作車のTKS-Bを作ろう!なんて人がそんなに多いとは思わないけれど。
流石にこれだけ細かいと、「連結可動」にこだわらなくても、むしろキットに合わせて「リンク&レングス方式(部分連結式)」になっていたほうが組み立てのハードルはずっと低くなるが、TKSはインジェクションキットだけで3種も出ているので、そのどれにも使えることを考えれば、1リンクずつバラバラの方がよい。それに、3Dプリントするにあたっても、同じ図形の単純な繰り返しである現状のほうが、少しずつ傾きが変わる連結体よりも楽なのではないかと思う(素人の想像)。
●組立に関しては、説明書ではおおよそ以下のように指示されている。
- ニッパー等を使ってサポート材(役割は異なるが、形状的にはインジェクションプラキットのランナーゲートに当たる部分)を根元部分で丁寧に切り離す。その後、サポート材を部品の至近位置で1つずつ切り離し除去。
- 履板を繋げ、かみ合わせ部に連結ピンを通す(0.1~0.2mmの金属線を推奨)。
- ピン外側を瞬着で固定。
1に関しては、当初はニッパーで数リンクを切り離してみたが、そもそも極小の履板にサポート材の「脚」は6本も繋がっていて、しかもその脚の位置が一直線ではないので、一度には切り離せない。そのため、どうしても切断中にパーツに余計な力がかかることになって不安なので、現状、ベース板の端から、ペンナイフでそぎ取るような形で切り離す方式をとることにした。

「エッチング・ソーで切り離すのはどうだろう?」などとも考えたが、まだ試していない。ちなみに樹脂の“質感”は、通常のインジェクションキットのスチロール樹脂よりはやや硬めでもろい感じがするが、レジンキットの無発砲ウレタンよりはずっと粘りがある印象(それが3Dプリントの樹脂で一般的なものなのかどうかは経験値が低いので何とも言えない)。
現時点で20数枚切り離し、サポート材を除去したが、そこまでの過程で、2リンク、ガイドホーン部を破損した。そこそこ慣れてきたので、今後はもっと歩留まりがよくなるはず。
それにしても、とにかく履板が小さい。72のIV号戦車(レベル)と比べてみたが、TKS用のほうが小さかった。なるほど、つまり72のIV号戦車の連結可動履帯も可能ってことか……(もちろん欲しいと言っているわけではない。言ってないよ! 本当だよ!)。
さて。
とりあえず履板それ自体は切り出したが、これを繋ぐという激しく大変な作業が待ち受けている。
繋ぐにあたっては、指先で一つ一つ繋げていくのは流石に無理があるように感じたので、写真のような治具を自作した。ガイドホーン間の寸法におおよそ合わせ、タミヤの3mm角棒に0.3mmプラバンを両側に貼り増して3.6mm幅のガイドを作ってプラバンのベースに接着。作業中に位置決めしやすいよう、片側にはストッパーを付けた。

それでもこれで格段に作業がやりやすくなったかというと微妙なところ。なお、CHINO MODELさん自身も繋ぐ作業をやり易くするため、もっと本格的な(ちゃんと一枚一枚位置決めできる)治具を検討中とのこと。
ピン通しは、プリント上の都合で噛み合わせの中心部分にピン穴が開いていないため、一本のピンを突き通すことはできず、いわばカステン方式で左右からそれぞれ挿すことになる。一本で行ければもう少し繋ぎ作業が楽そうだが、自分で開けようにも、私が持っている0.2mm(~0.4mm)のドリル刃は、チャックに噛ませやすいように根元が太くなっているタイプで、刃先が短いので中央の噛み合わせまで届かない。もちろん根元が太くなっていないドリル刃なら、長く出せば行けそうだが、200枚以上開け直す間にポキポキ折ってしまう未来が想像できてコワイ。
なお、左右の穴に関しても、プリント時の誤差その他で一部狭まったり塞がったりしている可能性があり、作業前に一度ドリルでさらっておくことが推奨されている。私が作業した感じでいうと、サポート材が長い方の側で一部狭まっていることがあったが、低い方の側はしっかり貫通していることが多かった(といっても、まだほんの一部しか作業していないが)。
ピンに使用する線材については、伸ばしランナーも試してみたが、現在では細い(0.2mm程度?)のエナメル線を使用。たまたま手元にあったから、だけでなく、挿した後の切り詰めを考えると柔らかい線材のほうが都合がよかったため。もともとパーツが極小なので、線材があまり硬い必要はない。もっとも、ちゃんと内側の噛み合わせの穴に入れるまでが非常に大変で、それを考えると、穴を探り当てやすい硬い線材(真鍮線など)のほうがいいかも。……今度都会に出たら買ってきて試してみよう。
●長くなったので、実際のキットとの整合性等については改めて。
最近のコメント