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ソミュアのケグレス――着手

20210130_103656 ●そんなわけで、急遽製作に入った、DESの1:35、ソミュアMCG5ハーフトラック。同社からMCG5は2種類出ていて、私が作り始めたのは、キット番号#35023、"SOMUA MCG5 d'accompagnement 1935/40"というヤツ。

"accompagnement"というのは随伴といった意味の言葉で、ということは補給とか回収とかの用途のために装甲部隊に配属されている車輛なのか?……と思ったのだが、そうではなくて、105mm野砲(シュナイダー105L Mle.1936)とか155mm野砲(シュナイダー155C Mle.1917)、あるいはそれらの弾薬トレーラーの牽引に用いられたものらしい。それがなぜ随伴?

一方、同社から出ているもう一つのMCG5がキット番号#35025の“Somus MCG5 de dépannage 1935/45”で、こちらがキャビンの形状がちょっと違い、荷台後部に簡易クレーンのようなものが付いている。“dépannage”は修理の意味で、こちらのほうが回収型。ただしこちらも主として、牽引車型と組み合わせて砲兵部隊用だったらしい。

いずれにしても、同じくケグレス方式のフランス軍のハーフトラック、ユニックP107のNKC製のキットを作ったことがあるが、姿形は似ていても、キットの出来は雲泥。NKCのユニックはパーツの一つ一つが繊細で完成した姿も素晴らしかったが、このDESのキットは大味で、細部ディテールも結構怪しい。

●実車について。

何はともあれ、フランスのケグレス方式のハーフトラックはどれも似通っていて、どうにも区別がつきづらい(それを言うならドイツのハーフトラックだってみんなほとんど相似形だが、そちらは長年資料で見てきたせいか、それなりに区別できる)。

特にソミュアのハーフトラックは、最初の量産型のMCG4があり、改良型(エンジン強化型)のMCG5とMCG11があり、さらにその発展型で155mmGPF牽引用に開発されたMCL5とMCL11があって、それぞれ似ているの混乱する。

MCLは(たぶん)起動輪の形が大きく変わり上部転輪が2つになっているので区別がつき、また(MCG、MCLともに)5と11は、5が通常の荷台付きなのに対して11はカプラー付きで、大きな砲の脚の先端を背中に担ぎ上げるような格好になるので区別しやすい。が、MCG4とMCG5の区別がよくわからん……(ちなみに4にはカプラー付きのタイプもあるので、4と11の区別もよくわからん)。

一度整理すると、こうなる。

MCG4:最初のソミュア・ケグレス。荷台付きの「通常牽引車型」、荷台に簡易クレーン付きの「回収車型」、牽引用だがカプラー付きの「カプラー牽引車型」の3種がある。エンジンは55HP。

MCG5:MCG4の「通常牽引車型」「回収車型」のエンジン強化型(60HP)。

MCG11:MCG4の「カプラー牽引車型」のエンジン強化型(60HP)。

MCL5:MCG5の発展型でエンジンを大幅強化(80HP、後に90HP)。

MCL11:同じくMCG11の発展型。

まあ、このキットを完成させる頃には、MCG5の判別もできるようになっているかもしれない(なっていないかもしれない)。

ちなみに「ケグレス式」というのは、ハーフトラックの元祖であるアドルフ・ケグレス技師考案・特許の方式を指すが、なんとなくわかった風に言葉を使っていながら、では「ズバリ、どういう特徴を備えているのがケグレス式なのか」という点に関しては、私自身あやふや。とりあえず、英語版wikipediaの「Kégresse track」によれば、

・一般的な、金属履板をピンで繋いだ履帯ではなく、ゴムやキャンバス地などのフレキシブル素材のベルト式履帯を使用。

・転輪ボギーと後部の誘導輪をビームで一体化させた足回り。

ということになるらしい。となると、ユニックTU1とかは「ケグレス式」とは言わないのか? サスペンション形式が異なり、誘導輪が独立していて、かつハーフトラックでもないルノー・ケグレス・インスタンの場合はどういう扱いに?

●資料。

文献としてはフランス車輛の虎の巻、「L'AUTOMOBILE SOUS L'UNIFORM 1939-40」が手元にあるが、基本、写真はそれほどなく、車両の概略を知るためのお勉強本。……なのに全編フランス語。仏和辞典は手の届くところに置いてあるけれど、web上の文章をgoogle翻訳さんに放り込むことに慣れてしまった私に、単語を逐一辞書で引く気力はもう残っていない(もちろん、ちょっと手間を惜しまなければ、本のページをスマホで写して翻訳に掛けるという方法もあるが)。

現存実車の写真資料は、ソミュールの実車のwalkaround写真集がSVSM Galleryに出ている。

Somua MCG5, Musee des Blindes, Saumur, France, by Vladimir Yakubov

写真枚数は81枚。残念なことに、履帯は本来のものではなく、正体不明の金属製履帯に替わっている。荷台はキットのように中央が窪んでおらずフラットで、そのため、荷台床とシャーシフレームとの間には空間がある。こういうタイプもあったのか、レストアの結果なのか、あるいはキットの形状が違うのかなど、よく判らない(当時の実車写真を見ると荷台とシャーシフレームの間に空間があるようには見えないが)。

他にも、ドイツによる装甲ボディ架装型含め、現存実車は数輌あるようなのだが、それらのwalkaround写真は今のところ発見できていない。

●製作下準備。

まずは、ある程度以上の歪みが目につくパーツを釜茹での刑に処す。

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レジンキットではお決まりのステップ。若干ねじれた状態だった荷台(この状態で一体成型)、ゆるくカーブしていたキャビン前面はおおよそ修正できたが、ドアは歪みがうまく取れていない。全体的に寝ぼけたキットの中で「ビシッと」感を出すためにも、プラバンで新調したほうがいいかも……なんて思っていたのだが、その後キャビン周りを仮組みしてみたら、寸法的にもうまく合わないことが判明。新調決定。

SUMICON掲示板で、me20さんに「ドアが閉まらない予感が……」と言われたのが大当たり。

●そしていきなり最初の難関。

ごろんと一体成型の転輪ユニットは、ダブルの転輪の間が埋まり加減で、そのままでは履帯のセンターガイドが通らないのは一目瞭然。転輪間を削り込むか、履帯のガイドを切り飛ばすか、どちらかが必要なのは最初から覚悟していたが……。改めてパーツをチェックしてみて、「もっと面倒くさいことになっている」のが判明した。

▼まず、履帯パーツはこんな感じ。

20210203_125346 20210204_183947

第一次大戦~20年代くらいの各種ケグレス式ハーフトラックはいかにも「ゴムベルト!」という感じの履帯が多かったが、30年代のものは、ゴムベルト(たぶん鋼芯入り)に、金属のシュープレートとゴムパッドをボルトで止めたと思しき履帯が登場して、シトロエンもユニックもソミュアもシュナイダーP16も、基本同じ形式のものを使っている。

キットの履帯は先述のように、起動輪・誘導輪に絡む部分はそれぞれのパーツと一体。残りが4本のベルト。上側はたぶんそのままで大丈夫だが、下側は転輪と起動輪の位置に合わせて曲げる必要がある。……まあ、それは後々考えよう(問題の先送りその1)。

接地面のディテールは、それなりに表現できている感じ。右写真で確認できるが、端の切断部が一部(特に左側の2枚の上端)、斜めになってしまっている(当然接地面側のモールドも斜めになっている)が、これまた後で考えよう(問題の先送りその2)。

なお、履帯のセンターガイドは凹形の中央に棒状の突起が出た形になっている。これに関しては、最初、「気泡が出来ないようにするためのゲート?」とも思ったのだが、どうやら、表のパッドを固定するためのボルトであるらしい。

▼転輪ユニットと履帯の関係だが、単純に履帯に転輪ユニットを乗せると、以下のようになる。

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1.「ダブルの転輪間が埋まっているのでセンターガイドがはまらない」のは前述の通りだが、それだけでなく、

2.転輪の全体幅が広く、履帯左右のガイドの間に収まらない。

3.しかも転輪自体が八の字シャコタン状態で(低まっているわけではないが)、さらに事態を悪化させている。

4.一方で履帯の側も、センターガイドと左右のガイドの間隔が不均等。

5.センターガイド自体も高すぎで、転輪間が埋まっていなかったとしても、そのままでは(見た目上も)前記の突起(ボルト)が転輪軸を直撃してしまう。ランズベルク軽戦車か、ってぇの(ランズベルクのセンターガイド問題に関してはこちら、かさぱのす氏による感動巨編を参照のこと)。

▼そんなこんなで、いきなり転輪と履帯の擦り合わせ(というより削り合わせ)から実際の作業を始めることになってしまった。

転輪、および上部転輪の間をガリゴリと彫り込み、さらに転輪の外側も若干削って厚みを減らす。この時、裏にする予定の側に関しては、転輪のリムのモールドもお構いなしに削り落としてしまうことにする。

また、履帯に関してはセンターガイドを削って低める一方、サイドのガイドは内側を削って転輪がはまる部分の幅を増した。なお、センターガイド中央の突起(ボルト)に関しては、そもそもキットのように明らかに棒状のものが突き出ているような大げさなものではない(少なくとも現存のユニックの履帯を見る限り)。

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上写真は、それぞれ左側がすでに削り終わったパーツ、右側が未加工のパーツ。

これらの工作の結果、なんとか履帯に転輪ユニットがちゃんと接地するようになった。

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なんだか前途多難だなあ……。

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コメント

うわわ、またすごいキットが!
足回りで行き詰まったら、ブラチのキットから持ってこよう...なんて悪い考えが思いつきました。笑

投稿: vol de nuit | 2021年2月 5日 (金) 16時20分

>vol de nuitさん

そうなんですよね。
私も着手後、facebookで、ブラチからこのMCGベースのドイツ製魔改造装甲車のキットが出ているのを教わりました(そういえばそんなの出てたっけー、という感じ)。

ブラチからということであれば、もう格段に出来が優れているのは確実で、むしろブラチのキットをベースに改造してMCG5にバックデートさせたほうがいいんじゃないかと……。

少なくとも、ブラチから原型のMCG5も既に発売されていたら、このキットに手を付ける気にはなれなかったかもしれません。
(ブラチのことなのでそのうち出しそう)

投稿: かば◎ | 2021年2月 5日 (金) 16時57分

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