« ロレーヌへの道(3)――タミヤ以外のキットと若干の補足 | トップページ | 巡航戦車Mk.I(A9)CS THE WORLD AT WAR 1:72 »

ロレーヌへの道(4)――とりあえずの着手

マーダーじゃなくてロレーヌを作るぞお。

……という不退転の決意(大げさ)を示すために、キットに最初のメス(じゃなくてペンナイフとヤスリ)を入れる。

●そんなわけで、タミヤ「ドイツ対戦車自走砲 マーダーI」改め「フランス軍ロレーヌ牽引車」の(ここでようやく)製作記。

まずはシャーシの後面板。マーダーIは弾薬トレーラーを牽引するため、後面バルジ中央に大きな連結器を増設していて、キットの後面板にもその基部がモールドされている(写真左、初回に出した写真の再掲)。

20201125_23175220201204_224429

ロレーヌに先祖返りさせる場合、これは不要なので削り取る。必要なモールドは消さないように注意しながら、この基部の凸部だけ削るのはひどく難儀な(それなのに地味な)作業で、さらに「二の字」のダボ穴はベースとなる装甲板表面よりさらに窪んでいるので埋める作業も必要になる。

いっそこの面のモールドはすべて削り落としてしまって後から再生するか、あるいはこの面自体を除去してしまってプラバンで作り直すかしたほうがよかったかもしれない(もっとも、オープントップの車輛なので、後者の場合は面の裏側のモールドも作り直す必要が出てくる……それが嫌だったのでちまちま削る道を選んだのだが)。

削り取った後は、牽引基部に隠れていた個所のリベットを再生。ここで悩んだのがリベットの位置。普通に考えれば上辺と同じ間隔・数でいいようにも思うが、もしかしたら、牽引基部下辺のリベットは、元のロレーヌのリベット穴を利用しているかもしれない。

と、一番最初の工作でいきなり行き詰ってしまいそうになったが、幸いなことに、セータ☆さんから、後面のリベット列がしっかり写ったロレーヌの実車写真を教えて貰い、上辺と同じ配置であることが確認できた。さらに、モスクワにある10.5cm自走砲のwalkaroundでも同様の配置であることが判って考証を補強できた。

なお、パーツの裏面にも連結具基部に対応したリベットがモールドしてあるので、そちらも削り取る(一部は位置をずらす)必要がある。

初回にも書いた、貨物室(戦闘室)床板問題。一部繰り返しになるが、簡単にまとめてみると、

  • タミヤのキットの戦闘室(貨物室)床板は、後端部の補強リブとツライチのかさ上げされたものになっており、前端はそのまま砲弾ラック下部になっている。
  • RPM、IRONSIDEのキットはシャーシ底面がそのまま床。
  • PandaのマーダーIは、底面とタミヤの床板の間くらいの位置で、これも別の床板がある解釈。砲弾ラック下部は床板から一段上にある。
  • ソミュールのマーダーIの現存車はシャーシ底面がそのまま床。
  • モスクワの10.5cm自走砲の現存車は、現在はかなり高い位置(左右の張り出しと同一レベル?)くらいに縞板(滑り止め模様付き鉄板)の床板が作ってある感じ(例えばこれ)だが、砲搭載レストア前はシャーシ底面がそのまま床。
  • 15cm自走砲は、戦時中の記録写真によれば、タミヤのキットと同一レベルで床があり、その下が何らかの収納部になっているらしい(シュピールベルガーの鹵獲車輛本に上方から撮った写真あり。ドイツ語版ではp137)。
  • 同じくシュピールベルガー本に出ている、出典不明のVBCP 38Lの透過図では、タミヤのキットと同一レベルに床板?と思われなくもないものが描かれている(char-farancois.netの同一図)。どこかでTRC 37Lの同様の図も見たような……。

悩ましいが、ロレーヌそれ自体の貨物室内の写真が手元にない以上、どう作るにしても想像の域を出ない。

一方で、タミヤのキットの側壁は上げ底の床板があるのが前提のパーツ形状になっていて、床板から下が一段厚くなっている。つまり、床板をなくすと芋づる式に手間が増えてしまうわけで、それが面倒で、とりあえず「タミヤのパーツに準拠した床板あり」設定で行くことにする。

もちろん、前端がPaK40の弾薬ラックのままではまずいので、この部分を切り飛ばし、プラバンで再生する。

20201204_224237

●……という床板工作は、実は、モスクワの10.5cm自走砲のwalkaround写真集を見つける前にやったもの。しかし、同車の砲搭載前のこの写真などを見ると、もともとかさ上げされた床板があったような痕跡すらない(補強リブより前方に、床板を付けてあったようなボルト跡とか、溶接跡とかが存在しない)。これは、ソミュールのマーダーに床板がないのも、元からだったんじゃ……。

そんなこんなで、改めて「床板無し設定」に大きく傾いた結果、今度は車台側面パーツを床板無しに合わせるための工作を始める。

20201204_224345

上がキットパーツママ。下が加工済み。床板パーツに隠れる下の部分は厚くなっているので、これを上側と同じになるまで削り込む。均一に厚みを削り飛ばす電動工具などあると楽そうだが(以前にkunihitoさんがIV号戦車D型の製作でそのような工具を使っているのを同氏のサイトで見た)、そのような文明の利器は我が家にないので、ペンナイフとマイナスドライバーを研いだノミでちまちま削っていく。

すごく面倒くさい。

マシニングセンタの摺動部をキサゲで削る職人になった気分(判りにくい例え)。後端部で少し段差が残っているのは、どうせリブに隠れるため。ああ。もう一枚これをやるのかあ……。

なお、パーツ上端に飛び出している三角形のモールドは、マーダーIの7.5cm砲弾用ラックの上板を支えるものなのでロレーヌには不要。これも綺麗に削り落とす。

●一般に、タミヤのキットは「部品の合いもよいうえ、取付間違いなどもないよう十分に配慮されていて非常に作りやすい」という評価だが、これはあくまで「説明書の指示通りに、指定のタイプ・仕様で作る」範囲であって、ちょっと型を変えてみようとか、考証上違っていると思われる部分を訂正しようと思ったりすると、むしろかなり面倒になることが多い。

これは、前述の「組み立てやすさ」とのバーターで、実物とは違う構造になっていたり、(指定の仕様で作る分には隠れてしまうところに)大穴があったりして、単純に「ここを変えよう」という作業以前に、ベーシック/ベアな状態に戻すための作業が加わってしまうため。結局のところ、普通に作る分にはやや面倒である他のメーカーの製品のほうが、ちょっと改造する場合には格段に楽になったりする。

もちろん、これはキット設計上のメーカーのポリシーの問題だし、それで得られる「ストレートに作る際の容易さ」はタミヤキットの大きなメリットでもあるので、それをことさらにとやかく言うつもりはない。

ただ、「これだけは作ろう」で、AFV模型の「改造する楽しみ」を最初に広めてくれたメーカーであるタミヤが、実は改造のベースとしては結構厄介だというのは、ちょっと皮肉な気もする。

|

« ロレーヌへの道(3)――タミヤ以外のキットと若干の補足 | トップページ | 巡航戦車Mk.I(A9)CS THE WORLD AT WAR 1:72 »

製作記・レビュー」カテゴリの記事

ロレーヌ」カテゴリの記事

コメント

かば◎さん

いよいよロレーヌの製作開始、おめでとうございます(!?)。
私も面倒くさい工作で職人になった様な気分はいつも味わっているので分かります。
完成までのプロセスを興味深く拝見したいと思います。
工作を楽しんでください。

投稿: hiranuma | 2020年12月 5日 (土) 16時40分

>hiranumaさん

フランス軍車輛を作りたいのであればR35を作るなり、SOMUAを作るなり、もっと先にお手付きがあるだろう……と自分でも思うわけですが、新しいものが手に入ると、つい。

投稿: かば◎ | 2020年12月 5日 (土) 21時36分

うん、これは楽しい! 
タミヤのキットは横道にそれると急に手強くなりますもんね。
バレンタイン戦車もAFVクラブかミニアート をベースに作ったほうが楽だったなーとひしひしと感じました。(まだ作ってますけど)

ロレーヌシュレッパーの床板問題は悩ましいですね。
当時の写真があるといいのだけど...

https://imgur.com/yRHlQsU
https://imgur.com/AtW3Jvy
15cm砲搭載型の鹵獲時の写真では嵩上げ床板は確認できますね
レストア車の写真見ると床を貼らないと使いにくそう

投稿: hn-nh | 2020年12月 8日 (火) 23時21分

そう言えば、横浜のヨドバシにはなぜかタミヤのR35だけずっと6個以上ずらっと積まれてますが、
発注ミス?

投稿: みやまえ | 2020年12月 9日 (水) 21時26分

>hn-nhさん

元のロレーヌでは(一応、人が座るための椅子は付いていますが)単なる荷台だったのに対して、自走砲だと動き回る必要がありますから、床に足を引っかけそうなリブがあったりすると面倒ですよね。

あとは、砲の操作ハンドルや照準装置の高さとの兼ね合いもあるかと思います。ロレーヌだと元が小さいから、車体底板の高さでもそんなに問題はないのかなあ。

上で、シュピールベルガーの鹵獲車輛本ドイツ語版のp137に載っていると書いたのが、まさにhn-nhさんに貼っていただいたURLの1枚目の写真です。

>みやまえさん

実は局地的に横浜ではR35に対する需要が著しく高く、常に在庫に余裕がないとダメとか……。

投稿: かば◎ | 2020年12月13日 (日) 19時49分

最近見かけた写真で、東部戦線で遺棄されたドイツ軍運用のロレーヌ牽引車ですが、左側の誘導輪基部が外れてしまっており、その開口部内側に床板の桁(?)ような物が見えてます。チラッと白く見えるのは恐らく荷台側から積もった雪でしょう。
この段階で既にドイツ軍による改造は受けているので、何ともなぁな案件ではありますが、一応参考まで。

面白いのがドイツ軍に追加された牽引具基部の所の「W 26」で、車両番号の「WH 1223726」は元々ここに書かれてたんでしょうね。その後に牽引具基部を追加したので隠れちゃったものと推察。

https://gizmolog.cocolog-nifty.com/photos/zl/lorraine37_01.jpg

https://gizmolog.cocolog-nifty.com/photos/zl/lorraine37_02.jpg

投稿: セータ☆ | 2020年12月14日 (月) 19時59分

>セータ☆さん

おお。これはまたまたいい写真ですね。
マーダーじゃなく、牽引車のまま使っている車体でも、牽引具を追加した例があるんですね~。
それがまた、仰る通りナンバーから見るように明らかに後付けなのも面白いです。私自身はフランス軍で作りたいのですが、「思わず模型で表現したくなっちゃう」的な。

「取れちゃった基部から覗く桁」に関してですが、ここのリブは床板の有無に関わらずあります(タミヤの床板のスジボリ以降の部分)。
もっとも、荷物を載せるにも人が乗るにもすごく邪魔くさいので、このリブの高さで床を張っている、という解釈にもある程度の説得力はあるんですよね……。

投稿: かば◎ | 2020年12月14日 (月) 23時47分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« ロレーヌへの道(3)――タミヤ以外のキットと若干の補足 | トップページ | 巡航戦車Mk.I(A9)CS THE WORLD AT WAR 1:72 »