« ロレーヌへの道(4)――とりあえずの着手 | トップページ | ロレーヌへの道(5)――車体前部 »

巡航戦車Mk.I(A9)CS THE WORLD AT WAR 1:72

20201204_193345 ●タミヤのロレーヌ製作記は一回お休み。

数日前に横浜VOLKSで買った、“THE WORLD AT WAR”シリーズの1:72、巡航戦車Mk.Iのキットレビューを。

“THE WORLD AT WAR”シリーズは、ポーランドIBG社による、主に大戦初期のAFVを出しているレーベル。これまではドイツ物ばかりだったが、今回、初めてそれ以外のアイテムとして、巡航戦車Mk.I(A9)を出してきた。2ポンド砲装備の通常型と、3.7インチ榴弾砲装備のCS(近接支援型)の2種の(たぶん)同時発売で、私が入手したのは、そのうちCSのほう(製品番号W-012、キット名称“A9 CS CLOSE SUPPORT BRITISH CRUISER TANK”)。

巡航戦車Mk.Iはポンコツ感あふれる外観が好きで、“THE WORLD AT WAR”から出ると聞いた時から「ぜひ欲しい」と待っていたもの。

Geckoの1:35(ブロンコからも出ているが、Geckoのほうがよさそう)も欲しいと思っていたのだが、私の製作ペースからすると35は買っても持て余しそうだし、キット自体も高いし……。お手軽なミニスケールで、それなりによいキットが出そうなら、それでもいいかな、と。

●実車について。

このA9は、「巡航戦車Mk.I」、つまり巡航戦車の第一弾ということになるが、設計そのものはイギリス陸軍が「巡航戦車」「歩兵戦車」の2本立てで行くと決める以前のもので、若干の紆余曲折はあったものの、中戦車Mk.IIIに替わる主力中戦車として開発が進められていたものだが、試作完成と前後して「2本立て」方針が決定する。

実際には本車輛は「足回りが高速走行には不向き」「エンジンが非力」と、巡航戦車に求められる要件(軽快さ)を満たしていなかったが、「いや、もう作っちゃったし」「装甲、薄いし」という消極的理由で、より本格的な、高速走行に適したクリスティー式の巡航戦車(A13)完成までの繋ぎとして採用された。

ちなみに、このA9をベースに歩兵支援用の「重装甲」の車輛として開発されたA10も、新たに設定された歩兵戦車の基準からすると軽装甲だと判断されて、「巡航戦車Mk.II」として採用されている。なんて場当たり的な。

内容は良くも悪くもメーカーのヴィッカーズ社らしさテンコ盛りな感じで、サスペンションはヴィッカーズ軽戦車やキャリア―系列同様の「スローモーション」タイプ。ただし前端・後端は大転輪とし、対になる内側は2つの小転輪とする特異な構成で、これはそのまま発展形である歩兵戦車バレンタインに引き継がれることになる(が、他にこの方式を真似た車輛は登場しなかった。「まあ、当たり前だよな」という感じ)。

操縦席左右に銃塔を備えた、要するに「多砲塔戦車」形式になったのは、開発者ジョン・カーデンの強硬な主張に基づくものだそうな(ちなみにそのカーデン自身は、開発途中の1935年末に飛行機事故で死亡している)。カーデンと言えば、カーデン・ロイド豆戦車の生みの親として名高いが、一方で、多砲塔の夢に憑りつかれた人でもあったらしい。が、結局はそのぶん乗員も増え、内部も窮屈で居住性・操作性は悪化している。そもそもこの銃塔、給弾ベルトが邪魔をして旋回範囲は見た目よりもっと狭かったらしい。ダメじゃん。

一方で、主砲塔は恐らく世界初の動力旋回式で、これはヴィッカーズ社が手掛けていた爆撃機の動力銃座から技術を応用したもの(時期を考えるとウェリントンか?)。航空機用動力銃座はボールトン・ポール社が開発、同社のオーバーストランドに初搭載され、その後各メーカーの機体に搭載されている。ちなみに巡航戦車Mk.Iの動力砲塔は油圧式だが、後の戦車は電動式に改められている、らしい。

また、対地雷の耐性を高めるための船底型車体も新しく、これは戦中の車輛では採用例は多くないものの、戦後はアメリカのパットン系列で一貫して用いられるなどそれなりに広まっている。

キット付属の小冊子によれば、50輌がヴィッカーズ社で生産され(T3492~T3542)、これらはすべて2ポンド砲搭載型。75輌がハーランド&ウルフ社で生産され(T7196~T7270)、うち39輌が2ポンド砲搭載、残り(前記登録番号のうちT7231~T7270)が3.7インチ榴弾砲(迫撃砲)搭載のCS型。合計で125輌が生産された。

実戦では1940年のフランス戦と、アフリカ戦の初期に用いられたのみで早々に姿を消している。

●キット内容。このシリーズ標準の構成で、いわゆるロコ組みの一体成型の足回りだが、そもそも車輛自体が複雑なのでパーツは多め。同シリーズのII号戦車a1/a2/a3型は枝2枚、II号戦車b型はごく小さな枝を含めて3枚、III号戦車A型はこのキットと同じく枝5枚だったがパーツ枝の大きさが違い、全体のパーツ数ではそれなりに差がありそう。表紙含め全12ページの実車解説/組立説明の小冊子付きで、本文はFIRST TO FIGHTシリーズとは違い、おそらく輸出仕様として英独対訳。

20201204_204506 20201206_165946

車体上部は下写真のような感じ。操縦席バルジの左右面は、IBG系キットの常としては一体成型しそうな部分だが、このキットでは別パーツとして細かいリベットやビジョンスリット部分などを表現している。一方でエンジンルーム左右の通風孔は一体で単純な階段状表現。

20201204_204708

主砲塔は側・後面が一体成型。側面のリベットは抜きの関係で涙滴形に、後面は垂直なのでリベットは一切省略されている。このシリーズにしては珍しくメインハッチは別パーツで開閉選択式。砲塔前面/防盾パーツは通常のA9とA9CSとで差し替えている枝。2ポンド砲の砲身はサスペンション他小パーツメインの枝(Kパーツ)に含まれているが、砲塔前面/防盾の形状が違うので、このキットから通常型の組み立ては不可。

20201204_204732 20201204_204927

2つの副砲塔(銃塔)は、側面はスライド型を用いた一体成型。モールドはなかなか細かい。車体開口部に引っかけるツメなどはないので、接着しない場合は(何らかの工夫をしない限り)ポロポロ落ちることになる。

20201204_204818 

足回り関係。丸ごと一体成型の足回りの弱点は、履帯の接地面のパターンがどうしてもほとんど省略されてしまうこと、転輪が複列である場合には間が埋まってしまうこと、逆に転輪が単列の場合は複列になった履帯のガイドホーンの間が埋まってしまうこと、などがある。このキットの場合は、まさに「履帯のガイドホーンの間が埋まっている」典型例のような状態で、長方形のブロックが続いているような状態はかなり情けない。

最近では足回りが一体成型でもスライド型等を用いて接地面パターンを再現したり、少し前にレビューしたFIRST TO FIGHTのIII号戦車D型のように、一部部品を分けて複列の転輪の間を表現したりするキットもあり、このキットでもちょっと一工夫欲しかったところ。

一方、おそらく船底型車体でサスペンションが車体からかなり浮いている状態のためか、サス関係は車体と一体化しておらず別パーツ化されていて、これがこのキットのパーツ数を増やす主因となっている。もちろんこれ自体はキットの細密度を上げていてよいのだが、このために、それ以上のパーツ数増加を招く履帯部分の分割化はできなかったのかも、とも想像される。

20201204_204842 20201204_204905

もうひとつ、このキットで大きな問題と言えるのが、なぜかフェンダーが、大型のサンドシールド付きのアフリカ仕様のものになっていること。しかもその形状が左右で異なっている(左側は大きなサンドシールド付き、右側はほぼオープン)のもよくわからない。GeckoのA10/A10CSのキットもそうなっているようなので、アフリカ型としてはこれはスタンダードなのだろうか? 通風孔の吸気側で砂をなるべく吸い込まないようにするためとか?

いずれにしても、このキット自体は箱絵も付属デカールも1940年戦役時のものだし、キットの塗装図もサンドシールドなしの初期型形状となっている。

不思議なのは、2ポンド砲搭載型のキット(製品番号W-011、キット名称“A9 BRITISH CRUISER TANK MK.I WITH 2PDR. GUN”)では初期標準型形状のフェンダーのパーツが入っていること。そちらの枝記号はJ、このキットのフェンダーパーツの枝記号はE。キットの組み立て説明図のパーツ番号でもE4、E3と書かれているので、たまたま私が入手したキットでパーツを入れ間違えました、ということでもないらしい。謎。ちなみに、“THE WORLD AT WAR”シリーズではこのあとA10(巡航戦車Mk.II)の発売も予定されているらしく、このアフリカ仕様のフェンダーは、もともとはそちら向けにパーツ化されたものかもしれない。

とにかく、キット指定の(そして私が作りたい)1940年戦役時の仕様で作る場合にはフェンダーの改造が必至。面倒な……。

というわけで、フランス戦当時のA9が作りたい場合(特にこだわりがなければ)2ポンド砲型を購入する方が楽ができる。

20201206_202201 20201206_202216

そしてデカール。ブンデスアルヒーフにある、まさにこの写真の車輛のもの。第1師団所属、1940年5月27日、カレーにて。いや、だったらなんでアフリカ型のフェンダーのパーツを入れちゃうのか、と。

20201204_205202

●履帯のガイドの問題、フェンダーの問題(これについては2ポンド砲型ならOK)などあるものの、それなりに細かく再現された好キットではないかと思う。

ただし、HENK OF HOLLANDのキット評によれば、全長は1:72としてはややオーバーサイズだそうだ。実際、付属の小冊子に載っている諸元によれば全長は5.79mで、1:72なら80.4mm。キットはフェンダー部分の実測値で85mm弱。アフリカ型で若干フェンダー前後のサイズが大きくなっているとしても、4mm程度は長いことになる。全幅はおおよそOK。

なお、HENK OF HOLLANDの作例では、キットの履帯部分を削り落とし、イタレリ(旧エッシー)のバレンタインの履帯に交換している。エッシーのバレンタインはバンダイ48の縮小コピーで、バレンタインとしては極初期にしか用いられていない履帯が入っている。キット指定のアフリカ戦線仕様で作るには問題があるが、そのおかげで、このキットには流用が可能になっている。とはいっても、 もともとデッドストックで持っているならまだしも、わざわざそのために探し出して買うのもなあ……。

|

« ロレーヌへの道(4)――とりあえずの着手 | トップページ | ロレーヌへの道(5)――車体前部 »

製作記・レビュー」カテゴリの記事

ミニスケールAFV」カテゴリの記事

コメント

>エッシーのバレンタイン
簡易キットを色々出してるプラスチックソルジャーからA9が発売されると聞いて
それならイタレリ箱のバレンタイン/ビショップの足回りを!
と考えましたが
その後すぐGecko modelsの1/35が発表されたので、そっちを選びました。

しかし
そろそろバレンタインの1/72も、決定版が出ても良さそうなのに。
ズベズダあたりなら安いだろうし。

投稿: めがーぬ | 2020年12月 6日 (日) 22時35分

>めがーぬさん

めがーぬさんのコメントを見て、ちょっとおぼろげに思い出したのですが……。
もしかしたら、エッシーのビショップ、持ってたかも……。ビショップも、バレンタイン同様の初期型足回りのままなんですね。ぱっと出れば流用してもいいんですが、ストックの山の奥に埋もれて出てこなさそう(いや、そもそも持っているかどうかも100%確証はないのですが)。

Geckoの35はいいですよね~。とても惹かれるんですが、買ったら買ったで作らなさそうな気が。

投稿: かば◎ | 2020年12月 8日 (火) 13時24分

ゲッコーのはキャタピラが可動なのです。まだ作ってません・・・

投稿: みやまえ | 2020年12月 9日 (水) 21時24分

>みやまえさん

たぶんブロンコのキットも可動履帯だと思うんですが、やはり新興の未知のメーカーだというのと、ネット上で中身をチラ見した感じでもかなり気合が入っていそうだということから、ゲッコーに惹かれます。
ブロンコは、Mk.IIで当初、操縦席前面装甲板のリベットの数を間違えてたりしたので、ちょっと不安が(その後修正パーツが入ったようですが)。

投稿: かば◎ | 2020年12月13日 (日) 19時43分

ブロンコの履帯は部分連結です。
履帯に限らず(ブロンコとしては)全体的にパーツ数も抑えめで
割とラクに組めるらしいですね。

A9とA10は砲塔形状が少し違うのですが(A10の前面装甲は立ち気味)
ブロンコのキットは差異が微妙だったような。

投稿: めがーぬ | 2020年12月14日 (月) 22時27分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« ロレーヌへの道(4)――とりあえずの着手 | トップページ | ロレーヌへの道(5)――車体前部 »