« III号指揮戦車D1型 FIRST TO FIGHT 1:72 | トップページ | ロレーヌへの道――タミヤのキットチェック »

コンクリート・タワー

●毎年夏秋恒例の季節労働が、先週末でやっと、おおよそ終了。

今年は割と取り掛かりが早く、それなりにテンポよく片付けてきたつもり……だったのだが、結局最後は例年通りバタバタした。

最初にチーム内で担当分けをする時に後々のことを考えず、うっかり、「なるべく最新の状況を反映するためにギリギリまで待って制作する」部分を、担当21テーマ中5テーマも抱えてしまっていたため。迂闊すぎる。

●とにかく一仕事終わってぽっかり時間が空いたので、この機会にと、保土ヶ谷の「謎塔」を見に行くことにする。

20201117_142139 湘南方面の住民で、通勤・通学等で都心方向に電車を使う人にとって、車窓から目に付く「異様な巨大人工物」の筆頭は、何と言っても大船観音だが、それに次ぐものとして、東戸塚-保土ヶ谷間で、北の方に(それなりに隔たったところに)見える謎の塔を挙げることが出来るのではと思う。車窓から撮った写真が右。

なお、塔のすぐ脇を横浜新道が通っているので、車をよく使う人にはもっとお馴染みかもしれない。

見た目からして通信関係の何かだということは判るが、それにしても異様な姿で、巨大な仏塔(あるいはその上の相輪)という感じ。

そもそも私は特に土木建築マニアというわけでもないが(そうした基礎的素養もあまりないし)、「なんだありゃ」と思うくらい目立つものがあれば見に行きたいと思うくらいにはミーハーで、ずいぶん以前から気に掛かっていたもの。

正体についてはさっさと種明かしをしてしまうと(もちろん私もネットで調べて知ったのだが)、これは旧電電公社時代に建設された無線中継用の塔で、保土ヶ谷区仏向町(ぶっこうちょう)の小高い丘の上にあり、施設名称は「仏向無線中継所」。現在はNTTドコモ所有の施設になっているらしい。「仏向」という地名もまた、見るからに仏塔然とした姿と妙に符合している(wikipedia「仏向町」によれば、「新編武蔵風土記稿」に、仏に供える食物=「佛餉」に由来するという説が出ている由)。

主にマイクロ波通信用としての鉄塔の建設は1950年代半ばから始まる。アングル架台型、アングルトラス型、パイプトラス型、シリンダー型など、さまざまな鉄塔が作られるなか、1970年代後半を中心にわずかに作られたのが「コンクリートタワー型」通信塔で、NTT技術資料館の記事によると、全国に5基だけ作られたらしい。

これまたググって調べてみると、その5基のコンクリートタワーは2基が北海道(樽前、帯広木野)、1基が青森(石崎)、もう1基が沖縄(首里)にある。要するに、この保土ヶ谷「仏向無線中継所」は、私が気軽に見に行ける唯一のコンクリートタワー型通信塔ということになる。……ということも判って、「なるほど、そりゃ見に行かなきゃなるめぇ」という思いを強くし、いそいそと見物に出掛ける。

●公共交通機関を利用していく場合には、JR保土ヶ谷駅西口あるいは相鉄線和田町駅から、市営バスの22系統もしくは33系統。ほとんど塔の真下に「仏向無線塔」という、そのものズバリな名の停留所がある。とりあえず、到着直後に下から見上げて撮った写真を数葉。

20201117_151544 20201117_151552 20201117_151849 20201117_152010

下から見上げるとなかなか威圧感がある。wikipediaによれば、高さは103m。

こうしたコンクリート製通信塔が建てられた理由は、前出のNTTの資料によれば「地域との環境調和を目指して」だそうな。なぜ鉄塔だと環境と不調和で、コンクリートタワーだと調和していることになるのか、何やら判ったような判らないような。

確かに、剥き出しの鉄塔というのはなんとなく威圧的というか、景観的によろしくないと感じられる場合もある。建設当時のエッフェル塔にかなり強い不評の声があったというのも比較的有名な話。生物である人間は、スケルトンのものを見ると生理的に薄ら怖くなる、とかあるんですかね? しかしコンクリートの円柱になったからといって、格段に「環境への溶け込み度」が上がったりするものなのかどうか。

仏塔の相輪だと輪は「九輪」だが、この無線塔では微妙に大きさが不統一のものが7つ(実は上の写真では建物に隠れて、根本付近にもう一輪あるので、正確には8つ)。都心のビルの上の円盤型ヘリポートなどと同様グレーチング(スノコ)で、もしも上がることがあったら、足元が地面まで素通しでものすごく怖いこと間違いなし。うはー。登ってみてぇ。

ちなみに上の写真だと輪に隠れて見えづらいが、各輪に対応して、北側にドアのようなものがあるので、塔の内部を上がることが出来るようになっているらしい。螺旋階段かなあ。何らかのリフト装置かなあ。頻繁に上がる用事はなさそうなので階段のような気もするし、機材を上げることを考えたら簡易エレベーターとか付いていそうな気もするし。いや、機材は内側てっぺんにホイストとかウインチとかあって吊るすのかなあ。

ちなみに5基作られたというコンクリートタワーの通信塔のうち、北海道・帯広木野のものは六角柱、青森・石崎のものはもっと変わっていて、なだらかに裾広がりになった長方形断面。残り3基が円柱。なお、街の真ん中のNTT局の屋上にももっと小型の円柱状通信塔が立っているのをしばしば見かけるが、あれは鋼管製の「シリンダー型鉄塔」。

●ちょっと塔から離れて、綺麗に全体形を撮ってみたいと思ったのだが、そうすると電線とか建物とかにさえぎられて、なかなかうまい撮影ポイントがない。右写真は、結局、谷一つ隔てたところから取った。塔の向かって左下に横浜のランドマークタワーが見える。この2枚の写真だと、根元の「8枚目の輪」も見える。

20201117_154536 20201117_153822

塔の高さを感じるには、横位置で撮ったもののほうがいいかもしれない。上右写真と同じ場所から取ったものと、帰り、和田町方面に歩く途中で振り返って撮ったシルエット。

20201117_153847 20201117_155255

●横須賀線の車窓から、初めてこの塔に気付いた時には、上部の輪の間にいくつもパラボラアンテナが付いてもっと派手だったような記憶がある。マイクロ波通信が光ファイバーに代替されて、この手の通信塔は、ほとんど役目を終わりつつあるらしい。パラボラがなくなって、いわば「ベア状態」になったことで、ますます仏塔っぽくなったが、今後の運命や如何に。

もっとも、これだけ大きいコンクリートの構造物となると解体するにもかなりのコストが掛かるはずで、となると、ベルリンの高射砲塔よろしく、当分はこのままで残るのかもしれないし……。

|

« III号指揮戦車D1型 FIRST TO FIGHT 1:72 | トップページ | ロレーヌへの道――タミヤのキットチェック »

かば◎の迂闊な日々」カテゴリの記事

コメント

時は25世紀。仏向寺の森に頂部の相輪のみ地上に突き出した古代の塔の全貌を確かめようと発掘を試みるも硬い岩盤に阻まれ埋没した塔身は未だ明らかになっていない.....

不思議な塔があるのですね。 NTTの塔というと各地の電電公社ビルの上の赤白鉄塔や新宿南口のマンハッタンみたいな電波塔のイメージでしたが、70年代にコンクリートで塔を作っていたのか。

どう見ても五重塔の相輪をイメージしてますね。逓信省系の山田守が京都タワーを作ったのは1964年で、賛否両論、京都の景観規制ができたのが72年のようなので、そんな流れでランドマーク的な構造物に五重塔をイメージしたのは想像できます。というか、日本的な高層建築物というと五重塔か天守閣しかないので選択肢が限られますが.. 72年の大阪万博で東大寺創建時の七重塔を模したパビリオンなんかもありましたし。
時代は降って、新宿の電波塔(NTTドコモ代々木ビル)を超高層だからマンハッタンの摩天楼のイメージみたいな安直さで建ててしまうのは、電電公社的伝統なんですかね。

中はコンクリートの円筒の内壁に沿って螺旋階段が貼り付いていて中心の吹き抜けに巨大なホイストがあって... みたいな構造になってるのだと想像します。

ガスタンクの表面を回りながら上がっていく階段もいつか登ってみたい。


投稿: hn-nh | 2020年11月20日 (金) 17時38分

>hn-nhさん

>>ガスタンクの表面を回りながら上がっていく階段もいつか登ってみたい。

ああ。本当に、あれは惹かれます。
そんな機会が巡ってくることはまずなさそうですが、あったら逃したくないですね。

昔行ったイタリアとスペインでは、いくつか塔とかドゥオモとか登っていて、だいたい狭い石段をせっせと上る羽目になるのですが、あれはなかなか楽しかった。もう、個々の階段の様子とかはすっかり忘れてしまいましたが。

仏向無線塔は、周りに高い建物がないこともあってものすごく存在感があるんですが、改めて考えると、東京タワーの約3分の1、スカイツリーの約6分の1しか高さがないんですよね。なんだか不思議な気がします。

京都タワーって裾広がりの形状から「もしかしてあれもコンクリートタワー?」などと思って、上の記事を書くときに検索してみたんですが、あれは鋼製モノコックなんですね。

旧電電公社のコンクリートタワーも、結局5基しか作られていないことを考えると、やはり何か大きなデメリットがあったのかもしれません(コストとか重量とか)。

投稿: かば◎ | 2020年11月20日 (金) 22時20分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« III号指揮戦車D1型 FIRST TO FIGHT 1:72 | トップページ | ロレーヌへの道――タミヤのキットチェック »