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ロレーヌへの道――タミヤのキットチェック

20201124_204604 ●タミヤからロレーヌ牽引車ベースの対戦車自走砲、マーダーIが発売された。いやいやほんとに、こんなものまでタミヤが出すようになるとは。……って、もう何度も同じようなことを言っている気もするけれど。

ちなみに、発売になったという話を聞いて、先週の日曜日、実家からの帰りに買う気充分で横浜のVOLKSとヨドバシカメラに寄ったのだが、そのどちらも品切れ。「ええっ、あんなアイテムが入荷直後に売り切れちゃうなんて、あるの?」と思ったのだが、それは私の頭の中のイメージが、あくまで「マイナーなフランス車輛のロレーヌ牽引車」(マイナーな、は、フランス車輛とロレーヌ牽引車の両方に掛かる)だったからで、改めて考えてみると、発売されたのは曲がりなりにもドイツ軍車輛のマーダーなのだった。

結局、それから数日後、(コンクリート・タワー見物の帰りに)再び横浜に寄ったら、(VOLKSには相変わらずなかったが)ヨドバシでなんとか入手できた。

●さて、「ドイツ車輛」として発売されたこのキットではあるものの、個人的にはフランス軍用のロレーヌ牽引車として作るつもり100%。というわけで、パーツチェックもそれを念頭に。プラパーツはこんな感じ。

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  • Aパーツ:転輪類、履帯、75mm砲弾など。×2。
  • Bパーツ:車台基本パーツ。
  • Cパーツ:車体上部、戦闘室装甲板。
  • Dパーツ:足回りの一部、PaK40、フィギュア。

このほかにポリキャップ、デカール。

上のパーツの枝ごとの組み合わせ状況を見ても、ベース車両であるロレーヌの基本パーツと、マーダーI用のパーツがまったく入り混じっていて、どうやら、タミヤはロレーヌ牽引車の発売は想定していないらしい。また、足回りと75mm砲弾が一緒であることを考えると、ロレーヌ車体の10.5cm自走砲や15cm自走砲への展開の可能性も低そう。もっとも、そのおかげで「本当に発売されるかな~。いつかな~。まだかな~」などと思い悩むことなく、ロレーヌへの先祖返り改造を試みることが出来る。

ロレーヌのキットは、昔のAl.ByのレジンキットにRPM、IRONSIDEの両レジンキットと3つもストックしているのだが、それに比べてもこの新しいタミヤのキットから作った方がマトモなものが出来そうな気がする。

もっとも、元車体をほとんどいじっていないとはいえ、「砲と戦闘室装甲板を取り去ったら、ハイOK」というほどお手軽ではなさそうで、それに関しては以下に。

●パーツの細かいあれこれ。「個人的気になりポイント」的なもので、今後、実際に製作していく段になったら、もうちょっとアレコレあるはず。

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1枚目:車体上部側面、2枚目:エンジンルーム上面、3枚目:シャーシ後面。元のロレーヌ牽引車の車体基本形に関わるパーツだが、それぞれ、対戦車自走砲への改修に伴う変更があり、このパーツのままではロレーヌは組み立てられない。ロレーヌに先祖返りさせる場合は、

  • 上部側面に関しては、戦闘室装甲板を装着するための出っ張りや窪みがある。本来の貨物室側面は単純な平板なので、キットのパーツを「削って埋めて」するか、それとも綺麗さっぱり作り変えるか、ちょっと考えどころ。
  • エンジンルーム上面は、前半はトラベルクランプ基部の取付穴を埋める程度だが、後半の砲架が乗る部分は本来はラジエーターグリルがあるので(マーダーでは左右側面に振り分けていて、側面パーツに三角の大きな出っ張りがあるのはそのダクト)、作り変える必要がある。私自身はIRONSIDEのキットからパーツ流用を検討中だが、IRONSIDEのパーツはタミヤよりやや幅が狭く、そのままでは使えない感じ。
  • シャーシ後面版に関しては、中央の「二の字」のダボがある部分はドイツ側で追加された牽引具基部なので、綺麗に除去する必要あり。

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エンジンルームと戦闘室の隔壁パーツ(上)と戦闘室の床板(下)。床板パーツの前側の穴は砲弾ラック。砲弾の先端がはまる穴と床板がツライチであることから判るように、キットは床板がシャーシ底面から一段上げ底になっている解釈。ソミュールの実車では後端部分にリブがあるだけで(キットパーツのスジボリから下側部分)、上写真の黄緑斜線部分は抜けている。

もっともソミュールの実車はエンジンルーム上面がただの鉄板で塞がれていたり、とても状態がいいとは言えないものなので、もともとあった床板が無くなってしまった、ということも考えられる。昔の戦車マガジン別冊「シュトルム&ドランク ドイツ対戦車自走砲」に、マーダーIの戦闘室内の写真が載っているはずだが(たんくたんくろうさんのブログ記事で見た)、埋もれてしまって出てこない。資料の持ち腐れ。

ちなみに先行のパンダホビーのマーダーIは、これまた悩ましいことに、タミヤの位置よりやや下に、やはり別に床板がある構成になっているようだ。

もちろん、私にとって問題なのは、「マーダーIの戦闘室に上げ底の床板があったかどうか」ではなく、「ロレーヌ牽引車に床板があったかどうか」なのだが、これまたよく判らない。「戦時中の(元々の)ロレーヌの荷台の床が写ってる写真、ここにあるよ~」というのをご存知の方、ぜひご教示ください(もちろんダイレクトに「こうなってるで~」という話でも)。

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操縦席ハッチは閉状態で一体モールド。下部ハッチはまだしも、上部ハッチは通常は開け放っていることのほうが多いので、別パーツにして欲しかった。

上部ハッチの視察スリットは左右2カ所にモールドがあるが、ソミュールの実車では、操縦手側の一カ所(向かって右側)しかない。これに関しては、「また例によっていい加減なレストア?」とも思ったのだが、戦時中のマーダーIの写真を漁ってみると、片目タイプが実在していることが判明。ソミュールさん疑って済みません。なお、オリジナルのロレーヌの場合は、現時点では片目タイプと言い切れる例は発見できなかった。ドイツ専用仕様かなあ(無線機は戦闘室に置いてあるし、ドイツ軍は「助手席」は使用しなかったのかも)。一方で、マーダーIでも両目タイプのものも存在していることは確認できた。以下、ブンデスアルヒーフの写真(wikimedia commons)より

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左が片目タイプ(Bundesarchiv, Bild 101I-297-1701-21 / Müller, Karl / CC-BY-SA 3.0)。一連の写真が多数残されており、単に写真写りの問題でたまたま片側だけに見えているわけではないことは判る。また、塗装パターンが違う別車輛でも片目仕様があり、もしかしたらマーダーIではこちらのほうが多数派の可能性も?

右が両目タイプ(Bundesarchiv, Bild 101I-258-1326-22 / Wegner / CC-BY-SA 3.0)。こちらはタミヤのキットのデカールでも取り上げられている車輛。

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シャーシ前面。ロレーヌ車体の装甲板の接合はリベットではなく、尖頭六角ボルトが使われている。タミヤのキットは、なんとなくそれを表現しているようなしていないような(老眼鏡を掛けてもよく判らないので、それなら、改造の途中で植え替える必要が出てきたときに気にすればいいか、くらいのスタンス)。

なお、特にこのシャーシ前面に関して言えば、実車の場合はボルト周辺に軽くザグリがあるのだが、キットでは再現されていない。

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なんだか無駄に凝っている感じがするロレーヌの足回りだが、サス部は3連のボギーの前面を上部転輪ごと丸々1パーツにするという大胆設計。組み立てやすく、足回りにゆがみも出ないという点ではいいアイデアではないかと思う(もっとも、先行のパンダホビーも似たような処理)。

しかし問題はリーフスプリング。実車はバネ板が10枚程度重ねられているが、キットのパーツは、ご覧のように「ここはリーフスプリングなんですよ」ということを記号的に示すだけ。実車の形状を再現する意思はあまり感じられず、非常に残念。かといって、同じ寸法で6組もリーフスプリングを自作するのは遠慮したいし(その昔、邦人さんはマーダーIのロレーヌ車体を丸々自作していたが)。

長くなったのでロレーヌの実車解説やら資料やらはまた次回。

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コメント

マーダー1の素晴らしいレビュー! これは嬉しい。買ったはものの、ロレーヌへの改修がままならなそうというのを確認して箱を閉じてました(笑)

床板問題ですが、15cm自走砲もブラチモデルでは嵩上げ床板があるという解釈でした。アバディーンの現存車両は床板は失われていて、床板があったのかなかったのかの確証はないですね。嵩上げ床のフトコロは床下砲弾収納になっている可能性大ですがエビデンスには欠けますね。

ロレーヌ牽引車に嵩上げ床があったかなかったですが、38Lのこの写真を見ると、乗り込んでる兵員の足の位置から推測すると、床板は貼ってあった可能性が高いですね。
https://imgur.com/fPBHnNX

しかし、リーフスプリングの枚数をタミヤさんが改変したのは目眩がしますね。
確かにブラチモデルなんかは10枚くらいありそうなモールドですが細かくてモヤモヤしちゃってるのを見ると、枚数を減らしてもシャープなモールドで見せるというタミヤの判断はわからないでもないですが。

投稿: hn-nh | 2020年11月27日 (金) 00時37分

>hn-nhさん

>>38Lのこの写真を見ると、

この写真は私の手元にもあるんですが、これ、38L本体ではなくて、38Lが牽引する兵員輸送トレーラーではないかと思います。

履帯にかぶさる部分に三角板が付いていること、奥の壁に見える視察口が二つであることがその根拠です(38Lの場合は中央に1つ)。

トレーラーは本体よりもそもそも床高が高いようなんですが、それを差し引いてもさらに足の位置が浅いですね。床下は何かの収納に使っているのかしらん。

たぶん38L本体の車内と思われる写真は他にあって、

https://topwar.ru/uploads/posts/2017-01/1485090481_foto-3-1.jpg

これも床は本来のシャーシより高くなっているような気もします。その場合、床下が何だったのかも気になります。燃料タンク?

car-farancais.netのこの図面――

https://www.chars-francais.net/2015/images/stories/galery/1938_lorraine_vbcp/lorraine%201938l%20vbcp%20coupe.jpg

にも、床板らしきものが描かれています(もちろん、単純に内壁にリブ的なものがくっついているだけ、という可能性もあるわけですが)。
後面の四角い出っ張りとの位置関係からすると、この高さはタミヤの床板と同レベルですね。

投稿: かば◎ | 2020年11月27日 (金) 02時08分

ロレーヌ牽引車の資料はあまり持ち合わせていないんですが、HDに以前ebayに出ていた車両の写真があったので、既にweb等に上がってるかもですが一応。
残念ながら床板までは写っておらず、撃破された状態ですが。

https://gizmolog.cocolog-nifty.com/photos/zl/lo_20201202003601.jpg

投稿: セータ☆ | 2020年12月 2日 (水) 00時44分

>セータ☆さん

うわっ。これはものすごく有り難いです。
シャーシ後面の四角い出っ張り部分の、ドイツ軍が追加した牽引具がない状態の鮮明な写真がなかなかなくてモヤモヤしていたところでした。
荷物室前側の壁も、途中に継ぎ目があるのかないのかで若干悩んでいました。

壁の左上にある謎装置は何でしょうね。
運転席からの連絡用の信号灯とか……?

投稿: かば◎ | 2020年12月 2日 (水) 01時00分

最近すっかり世事に疎くなっていて(?)、タミヤからマーダーⅠが出ているなんて、つい最近まで知りませんでした(汗)。
この車両、私は、昔、アイアンサイドのキットをひーひー言いながら作ったことがあって、今さら新しいキットを作る気はないのですが、タミヤのキットをベースに、ヴェスぺのパーツを使って、105ミリ砲搭載の軽支援型が作れないかな…なんて妄想してしまいました。
手許の資料をパラパラと眺めていますが、前面装甲板下部の凝った形状あたり、なかなかそそられるものがあります。
砲基部がわかる写真とか、ご存知ですか?

投稿: マンリーコ | 2021年1月31日 (日) 21時59分

>マンリーコさん

次の記事を読んでいただければと。
モスクワの車輛、砲を積む前の砲架部分の写真もあったはずです。

投稿: かば◎ | 2021年1月31日 (日) 22時30分

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