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駆け足の夏

●なんだかんだで1か月近くもブログの更新が滞ってしまった。

「締切がある仕事は頻繁に遅れるくせに締切のないブログは割とマメに更新する」のがスタイルだが(あかんヤツ)、これだけ間を開けてしまったのは久々かも。

ずっと書かずにいるうち、(更新のためにログインする前の)ココログのトップ画面がこれまでと別のデザインに変わっていてびっくり。

●8月15日の終戦記念日が近くなると、わらわらと戦争ネタが取り上げられるのは日本の夏の風物詩のようなものだが、ちょうどその時期、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの「戦争は女の顔をしていない」(岩波現代教養文庫)を読む。

ちなみに「そのタイミングだから読んだ」というわけではなく、ずいぶん前に市立図書館に予約を入れていたのが、ようやく順番が回ってきたため。もちろん、「べっ、別に、世間が回顧ムードだから読んだわけじゃないんだからねっ!」と言いたいわけではなく、むしろ「読む時期としてはいいかも」と思ったりもした(実際には“大祖国戦争”の終戦は5月なので、8月15日はあくまで読者たるこっちの感傷でしかないが)。

もともとは数か月前にマンガ版を読んだのをきっかけに、「これは原作のほうも読まねば」と思ったのだが、実際に読んでみると、マンガ版は話を壊すことなく、なかなかうまくイメージを補完しながら描けている気がする。とはいっても、マンガ版では書き尽くせていないところも、また、これはちょっと印象が違うかも、というところも若干はある感じ。マンガ版を読んだ時の感想はこちら

マンガ版を読んでイメージしていたのとちょっと違ったのは、1人のエピソード(1人に対するインタビュー)が基本、だいたい同じくらいのボリュームで載っているのかと思ったらそうではなくて、数ページにわたるものもあれば、ほんの数行しかないものもある、ということ。ただし、その後で改めてマンガ版を読んだら、マンガ版の方でも(他人のエピソードにくっつけて)断片的エピソードも取り上げられていた。

この本を読むうえで、ミリオタ的知識が必要とは言わないが、それがイメージを補ってくれる部分は確かにある。何人かのエピソードに「(古い)1トン半トラック」という言い回しが出てくるが、「ああ! たぶんインタビューに答えているばあちゃん(たち)は、ポルトルカ(GAZ-AAの愛称)って言ってるんだな」というのが判るし、その大きさ、ガタピシ具合もイメージできる。

レニングラードの話で、「市電の三番でキーロフ工場まで行くことができて、そこはもう前線」(p157)という一文が出てきて、中身が疎開した後のキーロフスキー工場が交戦の場になっていたことも判る。女性戦車兵が、中戦車では割といた一方で、重戦車(IS)に乗っていたのは希少だったという話も興味深い。弾が重いから? 「自動小銃は七十一個の薬莢でとても重い」(p175)とあるのは、弾数からPPSh-41(のドラム弾倉)であるのが判る。自動小銃ではなくて短機関銃と表現する方が一般的な気がするが、これは元の語が「アヴトマット」だったのだろうか?

訳として「これはちょっとどうなの?」という部分もいくつかあった。「戦車のハッチから引きずり出すのはとても大変。ことに砲台から引きずり出すのは」(p144)は、「砲塔」と訳すべきだろうし、「私たちのところにあったのは? 三十四型の戦車で、たちまち燃えてしまうんです」(p443-444)は普通に「T-34」と書いて欲しかった。「友軍のY-2型飛行機が降りてきました」(p341)とあるのは、元のキリル文字をそのまま残してしまったための判りづらさで、これはおそらくU-2(複葉の練習機、ポリカルポフPo-2の初期の名称)のことだろう。

●ディテールの感想から入ってしまったが、話の中身は話が詳細なぶん(そしてイメージが固定化されないぶん?)マンガ版よりさらにツラい。実際の戦いの凄惨さだけでなく、戦争が終わってからも、個人にとっての戦争(の傷跡)が終わらないのがまたツラい。

語る元女性兵士たちに対しても、この著作自体に対しても、「祖国を守り抜いた(英雄的な)戦いの勝利の暗部をほじくり出すな」的批判がずっと付きまとっていることが、前書き等々からも判る。あるいは、語って欲しい元女性兵士自身からそう言われることもあるし、いちどは語った人が、それを理由に「表に出さないで欲しい」と言い出すこともある。

もちろん、「戦勝国」だからこそその圧力も強いのかもしれないが、戦争の悲惨さ、汚さを振り返ることが「立派に戦った人たちを貶めることになる」との非難に繋がるのは日本も同じことで、むしろ近年(実際に戦争を知る世代が減るにつれて)ますますそうした声が強まっているように思えるのが、どうにも薄ら寒い。

なお、著者のスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチは、その姓からベラルーシ人だろうなとは思っていたが(実際には後から調べたら、父がベラルーシ人で母はウクライナ人だそうだ)、 今のベラルーシでは体制に嫌われて著作は発禁状態だそうだ。

その昔、渡辺ミッチーが外務大臣だった時代(ソ連崩壊直後の頃)に国会で「ベルラーシ、ベルラーシ」と言っていて、それを後藤田正晴が苦笑いして聞いているのがテレビに映ったことがある。……というのを思い出した(関係ない)。

●ついに逗子市にもカラーマンホールが登場。お隣の葉山町同様に1枚だけの特注品。逗子駅前ロータリー、マクドナルド前のちょっと駅寄りに設置された(8月17日に設置された由)。

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葉山のカラーマンホールは、スタンダードの図柄そのままをカラー化したものだが、逗子市のものは標準品(右)とは別図柄で、逗子海岸の田越川河口側に立っている「太陽の季節」碑越しの海と富士山。石原慎太郎という人は好きではないので「結局逗子ってシンタローなのかよぅ」と思わなくはないが、まあ、その辺はこれ以上ぐじぐじ言わない。

これを機会にマンホールカードの申請も行うそうな。

なお、3月に発行予定だったがコロナ禍で延期されてしまった、東京都の特別版マンホールカードは、どうやらまだ発行時期未定らしい。

●ヒメグルミ(と若干のオニグルミ)のその後。

数日放置して果肉部分をもう少し腐らせた後で足で踏んでとりあえず剥ける分だけ剥き、さらに残った果肉をまた放置して腐らせたり洗ったりを何度か繰り返して、核果を取り出した。写真2枚目、左のハート形がヒメグルミで右の普通のクルミっぽいのがオニグルミ。ずいぶん形が違うが、生物種としては同じJuglans mandshurica の変種なのだそうだ(一般に流通しているシナノグルミ/カシグルミは別種でJuglans regia )。

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思ったより歩留まりが悪く、核果を割ってみると中身が腐っているものも(体感)1割くらいあったが、1/4ほどは川崎の実家に持っていき、残りのほとんどは溶かした砂糖をからめた(4枚目)。

●8月の後半だったと思うが、セブンイレブンの店内にいたら、BGMで「あれ、聞き覚えがあるけど何だったっけな」という曲が掛かって、ちょっと考えて、トラベリング・ウィルベリーズの「Handle with care」だと思い至った。選曲シブい!

店内で掛かっているのはインストゥルメンタルだが、原曲はこちら。

ちなみに私自身は自分ではそこそこヘビーなビートルズ・マニアだと思っていたのだが、ジョージ・ハリソンが中心になって数枚のアルバム(公式には2枚)を出した覆面バンド、トラベリング・ウィルベリーズのことを知ったのは比較的最近。ヌルし。

もっとも覆面バンドとは言っても、上のようにまるっきり顔出しでPVなど作っているので、正体を隠す気は皆無。ボブ・ディランがシレッとバックボーカルを務めていたりして妙に贅沢(リードボーカルを取っている曲もある)。

ちなみにセブンイレブンの店内BGMの曲目は同社のサイトで公開されているが、それを見ると、トラベリング・ウィルベリーズの「ハンドル・ウィズ・ケア」は、9月16日~24日の曲目リストにも名前が出ている。同期間に(トラベリング・ウィルベリーズのメンバーだった)ロイ・オービソンの「プリティ・ウーマン」も取り上げられている。担当者がロイ・オービソンのファンなのか?

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コメント

翻訳もので一番のストレスは、やっぱり用語関係ですよね。
うちの親父は、ある小説で「トラック想定駐屯地」という妙な言葉に引っかかって、
「トラック集結地だろ!?監修が空自のやつだって?・・・空自とかろくなもんじゃねえな)とか悪態ついてたの思い出します。
サブマシンガンを軽機関銃ってのはもう麻痺レベルですな・・・

ところで、「勝ち戦」ですが、日露戦争の従軍者は日露戦争のことを語らなかったという話を思い出しました。
ひどい戦いだったって言っちゃいけない空気?

投稿: みやまえ | 2020年9月12日 (土) 21時21分

「1トン半トラック」という表現は複数出て来ますよね。いきなり積載量を語るはずもないので、私もこれは「ポルトルカ」と言ったんだろうなと思いました。
してみると「三十四型の戦車」は「トリーチャチチェトベルカ」と言ったのかも?

でもあれですね。この本を読んだ後だと「タミヤのソ連女性兵士フィギュアはガッカリ…」とか言うのは(模型と実際の戦争は別と認識していても)一寸躊躇しちゃいますね。

アレクシエーヴィチは、先般のベラルーシ大統領選挙後に反政権派が結成した調整評議会の執行委員だそうですが、7人の委員のうち、拘束又は国外追放を免れているのはアレクシエーヴィチ氏1人だけなのだそう。
他の役員が次々と拘束されていく中、リトアニアやオーストリアの駐ベラルーシ大使や外交官がアレクシエーヴィチ氏自宅に駆けつけて「盾」的な役割を果たしたのだそうです。ただ余談は許さない感じですね。

投稿: セータ☆ | 2020年9月12日 (土) 23時12分

>みやまえさん

専門用語では、時々トンデモ訳になっているのに遭遇することがありますね。

そういえば、映画の廉価版DVDとかは翻訳の予算もケチっているのでとんでもないものが多いようで、ずいぶん昔、「スピットファイア」(レジナルド・ミッチェル技師の半生記)のモノクロ映画のビデオ(確かDVDとか以前の時代)を見たら、スーパーマリーン社を「超海軍」と訳していて呆気にとられたことがあります。

あとは、「監修」というのもクセモノで、どの時点で監修に出しているか、というのもあります。
いい加減な会社だと、最後の最後に「ちらっと眼を通してください」で名前だけ拍付けに使っちゃうこともありますし。

ものすごく昔のことですが、人づてで、とある第一次大戦空中戦物の輸入ゲームの取説か何かをチェックして貰えます?と言われて、その中に「リヒトフォーフェン」と書かれていたので「いくら何でもコリャ恥ずかしいので『リヒトホーフェン』に直しましょう」と言ったら、「そこはもう印刷しちゃったんで直せません」と言われたことがあります。
まあ、ギャラが発生した仕事だったかどうかも覚えていませんし、少なくとも「監修」として私の名前がでるようなものではなかったと思いますが……監修として名前を出すようなネームバリューも無いですし。

投稿: かば◎ | 2020年9月13日 (日) 15時09分

>セータ☆さん

どうもベラルーシは「ロシアのオマケ」的扱いで、ウクライナに比べて日本ではニュース等々で名前の出ることが少ない国ですが、ルカシェンコ政権の専横っぷりはものすごいらしいですね。

アレクシエーヴィチの著書も、これのほかにももう少し読みたい気になってきました。

タミヤの「ガッカリねーちゃん」は置くとして、私は、ズベズダの衛生兵の「いかにもロシアの田舎のおねーちゃん」な顔が大好きです(と言いつつ買ってませんが)。

あとは、miniartの下着干しおねーちゃんズが、いかにノメンクラツーラであるかも判りますね。(追記。miniartじゃなくてICMでしたね)

投稿: かば◎ | 2020年9月13日 (日) 15時24分

ズベズダの衛生兵のおねーちゃん。また入荷あったみたいですね。
お近づきになるチャンスですよ〜
https://www.1999.co.jp/10159551

逗子のマンホールは「太陽の季節」なのか...なんだか微妙。
このあいだ、 BSで「太陽の季節」の映画やってましたね。原作は読む気しなかったので、見てみましたがあんまり響かなかったなー。太陽族って。映画は背景の見覚えのある海岸線や山の稜線ぐらいかな見所は。

「戦争は女の顔をしていない」は原作も読んでみようかな。
翻訳は難しいですね。原文に忠実に訳すのか、こちらでも知られている名前に置き換えるのか、わかりやすく意訳するのか。「三四式中戦車」なんて感じで訳しちゃいそう。

投稿: hn-nh | 2020年9月13日 (日) 17時53分

>かば◎さん
「超海軍」のDVD、わたしも持ってます。熱い物語なんですが・・・どうも日本人は戦後の軍隊アレルギーのせいで軍事用語とか名詞に拒絶反応を示したのか、
英語辞典とかかなり高くて分厚いのじゃないと軍事系は何も乗ってないですよね。文学的なのばっかり・・・
逆にスペイン語辞典とかは結構ミリタリー色強くてびっくりした記憶があります。

>hn-nh さん
「三四式中戦車」とかグランパあたりでそう書きそうな人もいますね・・・一時期三四式機関銃とか落ち着かない名前で語ってたライターさんがいました・・・

投稿: みやまえ | 2020年9月13日 (日) 20時43分

>みやまえさん

ああっ。あの映画、今でもあのトンデモ訳のままで出てるんですか(笑)。なんだかなあ。

確か冒頭の時代背景解説のナレーションの字幕も、ゲッベルスが「ゴッパー博士」だったり、ヘルマン・ゲーリングが「ハーマン親父」とか訳されてたりしたような気もするのですが。

ここまで来ると、見る側に字幕を補完する知識が必要になってきますね。

投稿: かば◎ | 2020年9月13日 (日) 23時47分

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