III号戦車D型 FIRST TO FIGHT 1:72
●先月末に川崎の実家に行った帰り、横浜のVOLKSで、FIRST TO FIGHTの比較的最近出た製品、III号戦車D型(1:72)を買ったので、そのレビューなど。
以前にも書いているように、「FIRST TO FOGHT / WRSESIEŃ 1939」は、1939年9月(WRSESIEŃ 1939)のドイツのポーランド侵攻当時の両軍の車輛、火砲、兵士などを1:72で展開しているシリーズ。他ではキット化されづらいポーランド軍車輛や、ドイツ軍車輛のなかでもちょっとマイナーな初期の仕様のものを取り上げているうえ、このIII号戦車D型でシリーズの通し番号はすでに73と、なかなか充実したラインナップに成長している。キットの開発・生産はポーランドのIBG社が請け負っているそうで、IBG自体が展開している「THE WORLD AT WAR」シリーズのキットとはパーツ設計上かなりの共通点がある。
関連する先行キットのレビュー。
あれ。THE WORLD AT WARのIII号B型のレビュー書いてないや。
●というわけでキット内容。
構成はシリーズ共通のもので、モノの大小にかかわらず同一サイズの箱に、戦史、実車解説、組立・塗装説明などが書かれた表紙含め全12ページの小冊子付き。もっとも冊子は全編ポーランド語のみの対訳無しなので、基本は絵を見て「ふーん」と思う程度(もちろん、本気で読むつもりがあればスキャンしてOCRソフトにかけてGoogle翻訳さんに助けてもらうという手もないわけでもない)。
パーツは枝三枚、それからデカール。デカールはポーランド戦時の国籍マークの白十字だけで、複数キットで共通のもの。
8つ転輪の初期型III号としては、THE WORLD AT WARシリーズでしばらく前に出たIII号戦車B型に次ぐもので、前述のように両キットは同じIBG社の手によるもののため、砲塔パーツの基本設計などは共通(ただしディテールはきちんと両型で違えている)、モールドの精密さなども似通っているが、こちらのD型のほうが後発キットであるため、「改良されてるなあ」と思わせる部分もある。
E型以降の「標準型」III号戦車とは基本、何から何まで違うので、むしろ、同じFIRST TO FOGHTのIII号戦車E型/III号指揮戦車E型とは部品設計上共通する部分はない。また、いささかトンデモな部分があったIII号戦車E型/III号指揮戦車E型よりも今回のこのキットのほうがだいぶ出来がいいように思う。
▼足回り
その「改良されてるなあ」と思う新機軸が足回り。このシリーズ、足回りは基本、履帯含めて一体成型のいわゆる「ロコ方式」なのだが、その場合、複列の転輪類は表裏一緒、逆に転輪が単列の場合は履帯の複列のガイドホーンが繋がってしまって、ちょっと斜めから見た時に実感を損ねることになる。
が、このキットでは、転輪・上部転輪は履帯の半分と一緒に別パーツ化され、また起動輪・誘導輪も履帯とは別にして(起動輪は表側のみ)、全体の再現度を上げている。
- 転輪のボギーアームが内側転輪のリム部分と一体化していてやや実感を損ねている。
- 起動輪の歯部分がやや分厚い上、表側と裏側で厚みが違っている。
- THE WORLD AT WARシリーズを含めての欠点だが、CADデータのコピペのせいか転輪のパターンの向きがすべて揃っているのが不自然。
- とにかくパーツのゲートが多くて処理・整形が面倒。
などの欠点はあるものの、従来の処理よりはかなり精密度が上がっている感じがする。なお、分割された転輪部分の部品の合いはそれほど悪くなく、若干のすり合わせのみで歪みも隙間もなく接着できる(どのみち、変に曲がったりしなければ多少隙間が出来ても見えないが)。
上の2枚の写真は、とりあえず組んでみたこのD型キット(左)と、比較用の THE WORLD AT WAR のB型の足回り。B型キットでは起動輪も一体成型のため、表裏の歯が繋がって「厚切りなると」状態になってしまっている。
▼車体
常識的な上下分割。複雑なサスペンションはスライド型を用いた一発抜き。ショックアブソーバーの細いアームなどは「ロッド」ではなく「板」になってしまっているが、どのみち足回りの間からチラ見えする程度なので、(個人的には)これで十分。シャーシの後面はマフラー等一体。オーバーハング下は実車ではルーバーとかメッシュとかになっているのではと思うが、このキットではべったり埋まっている(が、これまたひっくり返さない限りは見えないので、このスケールなら気にしない)。
D型って、こんなにシャーシ後面が鋭くナナメなの? というのが若干気になったが、実車写真では陰になるのでばっちり確認できるものが見当たらない。なお、miniartの35のD型も似たような感じのようだ。
エンジンルーム左右の通風孔は別部品。
- OVM類は、ジャッキなど縦に高いもの以外は一体モールド。シリーズ共通ではあるが、消火器が「カマボコ形」になっているのはちょっと寂しい。THE WORLD AT WARシリーズのII号戦車のように別部品だったら嬉しかったが、まあ、この程度は我慢。
- このシリーズ共通だが、操縦席左側のクラッペは車体上部と一体成型。抜きの方向の関係で形が潰れているのは致し方ないとして、THE WORLD AT WARのB型のクラッペはまだまだクラッペらしく見えなくもない感じだったのが、このキットではもっと崩れた形状。クローズアップで撮っておくのを忘れた。
- シャーシ前面の四角いブレーキ点検パネルはシャーシと一体成型で、抜きの関係で上辺のエッジが斜めになっている。
- 本来、B~D型では、主砲のクリーニングロッドはアンテナケース側面に取り付けられているが、キットではアンテナケース横のフェンダー上に取り付けるようになっているうえ、75mmクラスの主砲でないとおかしいくらいに太い。フェンダー上に取付穴が開いているのも困りもの。
- 戦闘室とエンジンルームの間に本来あるべき分割線がない。
- 車体前部牽引具上の左右の前照灯、車体後部のスモークキャンドルの取付位置が曖昧。前照灯はもしかしたら牽引具上にポチッと出っ張っている極小の突起の上に接着しろということなのかもしれないが、その場合は接着面が小さすぎてとてもまともに取り付けられない。
- 車体前部の牽引具のL字ピンの頭が成型の都合で水平になっていて、見た目上もちょっとよくない上に折れやすい。
もっとも、ミニスケールのキットとしてはディテールは比較的細かい方だと思う。
▼砲塔
シリーズは違うものの、同じIBG社の手によるTHE WORLD AT WARシリーズのA型、B型と基本設計は同じパーツ。ただし細部ディテールのモールドは微妙に違っている。キューポラはB型までの単純な円筒形のものではなく、IV号戦車B型以降と同型のがっちりした装甲シャッター付きのもの。パーツは一発抜きだがそれなりの形になっている、と思う。
内部防盾と一体の主砲・同軸機銃のパーツは、明らかにTHE WORLD AT WARシリーズのB型と同じ設計データに基づくものなのだが、THE WORLD AT WARシリーズのB型ではスライド型を用いて砲口に穴のモールドを付けていたのに対して、こちらは単純な2面抜きで砲口部にランナーゲートが来ている。
ちなみにD型までの砲塔は、主砲は同じ37mmKwKでも、E型以降の砲塔とは(側面ハッチが片開きだ、というだけではなくて)基本設計自体が別物。砲塔前半部の傾斜もきつく、その分、砲塔前面はE型以降の砲塔よりも狭いはず。……というのを、最近まで「まあ、何か違うっぽいよね」くらいにしか認識しておらず、改めて資料をひっくり返して再確認した。
- 周囲のハッチ/クラッペ類は一体モールドで、そのため、下辺はきちんとエッジが出ておらず、砲塔本体とナナメに接続している。THE WORLD AT WARシリーズのA型、B型でも同様だったのだが、よりパーツを抜きやすくするためか、さらに下辺エッジがダルく感じる。
- THE WORLD AT WARシリーズのA型、B型同様、同軸機銃が太過ぎ。車体前面機銃も同じMG34だが、そちらのパーツはまだマシ。
- 主砲の駐退器カバー部分にヒケが出ていた。
●そんなこんなで、とりあえず組み上げてみた。
8つ転輪の初期型III号戦車は後の6つ転輪の標準型よりも車体が長く、特にD型はB/C型よりも後端オーバーハング部が長いので、さらに間延び感がある(車体長はIV号戦車よりも長い)。
▼気になった箇所のみ、若干手を入れた。
砲塔クラッペ・ピストルポートは一体モールドのため下辺エッジが斜めになっていて印象が悪かったので削り込んでエッジを立てた。側面ハッチについては、下側にある小リベットを再生するのが面倒くさかったのでそのままとした。砲塔上の手すりは0.3mm金属線に交換。
操縦手席左側のクラッペは、一体モールドでまるっきり形が崩れていたので(一度はそのままにしようと思ったのだが、結局我慢できずに)作り直した。対空機銃架左側に飛び出した部分がクラッペにかぶさるような形になっていて、このままでクラッペが開閉できない格好になってしまっているのだが、そのままとした。ちなみにTHE WORLD AT WARのB型も操縦手席左のクラッペは一体モールドなのだが、本キットほどは形が崩れていなかった。
クリーニングロッドは作り直し、装着位置もアンテナケース側面に。フェンダーにあったパーツ取付穴は埋めた。気合の入った(そして工作力のある)ミニスケール・モデラーなら、埋めた後のフェンダーパターンも再生するかもしれないが、私はそのまま。ちなみに元パーツは右写真のように巨大。先端どころかロッド部分さえ37mm砲身に入りそうにない。
戦闘室とエンジンデッキの間には筋彫りを追加した。
主砲と同軸機銃には穴開け加工。同軸機銃はいかにも太く、以前にIII号A型を作った際にはフジミ76のI号戦車のMG15のパーツの銃身と交換したのだが、ストックが尽きてきたのでこのキットに関しては左右から削り込んでほんの少し細くしただけ。
フェンダー先端裏側は削り込んで薄くした(前後とも)。牽引具のL字ピンは0.3mm金属線、前照灯の柄の部分は0.5mm金属線に交換した。
●FIRST TO FIGHT、THE WORLD AT WARの初期型III号戦車勢揃いの図。
左からA型、B型(ここまでがTHE WORLD AT WARシリーズ)、D型(本キット)、E型(後2者がFIRST TO FIGHT)。E型はキットとしては指揮戦車E型のものだが、以前のレビューで書いたように中身は「通常の戦車型にアンテナを付けただけ」のお手軽キット。しかも履帯、フェンダー、転輪ディテールは40cmm履帯幅仕様になってしまっているなど、出来としては一段落ちる。
なお、FIRST TO FIGHTでは本キットのバリエーションとしてIII号指揮戦車D1型も出ているのだが、これは指揮戦車E型のキットとは大違いで、砲塔や車体上部は戦車型と別に新規にパーツを起こしているらしい。これはぜひ欲しい。
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コメント
飛行機は1/72が自分的にはいいなーと思ってるのだけど、AFVは1/72だと履帯、転輪の表現がネックで手を出しにくいところでもあるのですが、D形の転輪のパーツ分割は面白いですね。
こうしてみると3号戦車のB〜D形ってずいぶん胴長なんだな。
投稿: hn-nh | 2020年9月13日 (日) 17時59分
>hn-nhさん
確かにミニスケールAFVの出来に関しては、足回りが最大のネックですね。
逆に言えば、足回りさえきちんと出来ていれば、他の部分はそれなりにきちんと表現できるだけの金型技術等は、現在はすでにあるわけなので、このキットのような工夫は方向性としてはなかなかいい感じじゃないかと思います。
(もっともこの方法の場合、履帯表面のパターンはどうしても表現不可能になってしまうわけですが)
贅沢を言えば、せっかく横からモールドしているわけなので、III号初期型特有の尖がった背の高いセンターガイドと、その穴(貫通していなくても窪みだけでも可)は表現してほしかったですね。
投稿: かば◎ | 2020年9月13日 (日) 23時44分
>この方法の場合、履帯表面のパターンはどうしても表現不可能
トラペあたりはスライド金型を使って
接地面全周にモールドを入れてましたが
IBGもチヌあたりからこの方式ですね。
https://henk.fox3000.com/ibg/72057/2/16.jpg
ゲートが無いのも驚きますが、コストかかりそう。
ランズベルクアンティはまだかい。
投稿: めがーぬ | 2020年9月14日 (月) 12時28分
>めがーぬさん
FTFでもWOWでもないIBG本体の72シリーズでは、履帯は部分連結式だと思っていたんですが、最近のキットはこんなふうになっていたんですね。
それにしてもこれ、いったいどんな型分割になっているんだろう……。
履帯上部の垂れ下がり表現も申し分なく、ミニスケールの履帯表現としては十分以上ですね。
何か気に入りの車種が出ないかな……。
投稿: かば◎ | 2020年9月14日 (月) 14時47分