FIAT CR-32 "Chirri" AZ model 1:72
●しばらく前にチェコ、AZmodel製の1:72、FIAT CR32のキットを買ってきて、そのままキットの山の上に積んであったのだが、こういう、日本語でレビューの上りそうのないキットの紹介をするのも意味がなくもない気がするので、とりあえず簡単に(だいぶ飛行機製作から遠ざかっていて、このキットを近々いじる予定もないので本当に簡単に)。
同社からは同じ72のCR.32キットが数種出ていて、私が買ったのはそのうちExport(輸出仕様)と但し書きのあるもの(キット番号AZ7612)。ボックスアートは中国空軍機。箱裏がオーストリア空軍、ドイツ空軍、中国空軍の塗装/デカール説明。
実際にはCR.32の最大の国外ユーザーはハンガリーだと思うのだが、これに関してはハンガリーだけで別キット(AZ7613)。他、本家イタリア空軍(AZ7620)とスペイン内乱(AZ7621)が出ている、らしい。プラパーツは全キットおそらく共通で、箱とデカールだけの違いではないかと思う。
●実機は1933年初飛行、34年から生産開始された、世代的にはソ連のI-15やイギリスのグラディエーター、ドイツのHe51や日本の九五戦、チェコのアヴィアB-534あたりと同じ「最後の複葉戦闘機」群のひとつ。もっともイタリアが恐ろしいのは、これの後にもう一度新設計でCR.42という(まさに「最後の最後」の)複葉戦闘機を開発・生産していることで、その保守性が目立つ。ソ連もI-152、I-153とI-15の改良型を開発・生産しているが、一方で世界初の低翼単葉引込脚の戦闘機I-16を実用化したりしている。
形式名のCRは設計者チェレスティーノ・ロザテッリの頭文字とされることもあるようだが、同じロザテッリ設計の爆撃機BR.20(日本が輸入したイ式重爆)のことを考えると、「カッチャ・ロザテッリ=ロザテッリ(設計)の戦闘機」の頭文字ではないかと思う。もっとも、マッキのMC.202などは「マッキ/カストルディ(設計者)」の略だというし、レッジャーネRe.2000、サボイア・マルケッティSM.79、カプローニCa.311などはメーカー名の頭文字。さらに同じフィアット社でもG.55などは設計者のカブリエリの頭文字だけという具合で、イタリア機の型番はおよそ統一性がない。
CR.32はまっさらの新型というよりは、直前のCR.30をちょっと絞って小型化し性能向上させた改良型という感じ。CR.1に始まるロザテッリの戦闘機の共通の特徴としてW型トラスの支柱がある。第一次大戦中のフィアット・アンサルドS.V.Aも同じ支柱形式だが、これもロザテッリが関わっているらしい。
飛行張り線と着陸張り線を省くその支柱形式はオシャレと言えなくもないが、機首周りは液冷エンジンのくせに割とゴツゴツしていて、尾翼のアウトラインなども含め、AVIA B-534やハインケルHe-51のようなスマートさには欠ける。
スペイン内乱時にはすでにやや旧式化していたもののそれなりに活躍。第二次大戦突入時にもイタリア空軍ではなお戦闘機として最多(保有戦闘機の約3分の2!!)だったらしい。何なんでしょう、この中途半端ぶり(ここまで来ると逆に「イタリア空軍、パねぇな!」と言いたくなる感じ)。
●キットは海外産の72レシプロ単発機キットとしてはよくあるキャラメル箱入りで、プラパーツの枝は2枚。
風防パーツはインジェクションではなく、透明シートに輪郭が印刷されたもの。綺麗に切り抜いて折るのはやや面倒な気もするが、仮に分厚いインジェクションパーツが入っていたりするよりは、こちらのほうがはるかにマシ。デカールは上掲の箱裏塗装図にある4種に対応。印刷は綺麗でズレもない。
説明書は3色刷り? もっとも色付きが活かされているのはメーカーロゴと機種名、塗料リストくらいなものなので特に意味なし。
機種名部分にあるように、一応、CR.32と小改良型(武装強化型)のCR.32bis、消炎延長排気管付きのCR.32CNのコンパチということになっていて、実際、後2者に対応したパーツも入っているのだが、付属のデカールの塗装例にCR.32CNは含まれておらず、果たしてこれをコンパチに含めていいのやら、ちょっと怪しい。
●余談。過去、CR.32の1:72キットとしては、往年の名作、Supermodelのものがある(大学生の時、初めて行った海外旅行の際にフィレンツェの模型屋で買ったキットが、まだ未完成のままストック棚の奥に眠っているはず)。
SupermodelのCR.32は、scalematesによれば1973年の発売。確か翼面、胴体の布張り部は手彫りっぽい有機的な布目模様、リブなども強調気味で、コクピット後方、胴体側面のパネルはなんだか大げさな筋彫りだったような。Supermodelはイタレリの初期に内紛で?分離独立したメーカーで、大戦中のイタリア空軍機を中心に製品展開していたが、その後活動停滞。現在、旧製品の金型の多くはイタレリに移っているようで、いくつかは基本設計はそのままに、部分的に金型がアップデートされてイタレリブランドで再版されている。以前(もう10年以上前)、イタレリから1:72のレッジャーネRe2000が出たので買ってみたら中身はSupermodelで、そのこと自体にも、しかし意外に細かくアップデートの手が入っていたことにも驚いたことがある。当時書いたレビューはこちら。
その後、CR.32に関しても同様に改修版がイタレリから発売されて、イタレリのサイトのカタログページを見ると、CN型の延長排気管を追加、“のっぺり”だった機首上面も別パーツ化されて空気取入口のモールドが追加されるなど、結構進化しているようだ。欲しいと思っていたのだが、日本国内でイタレリ製品を卸しているタミヤは、このキットは扱っていないようで(売れ筋でないと判断した?)国内ではあまり出回っていない。結局、買いそびれているうちにAZのものが出て買ってしまったので、イタレリ版があっても流石にもう買わないかも。
ちなみに、現在48ではSpecial Hobbyから出ているが、これはどうやら昔のクラエア(Classic Airframes)の再販物らしい。
●AZのキットのディテールを少々。
胴体はこんな感じ。アゴのラジエーターを通った空気は、その後部にある前後二段のギャップから排出されるのだが、下翼付け根上の後方ギャップに比べ、前方ギャップ(左写真で言うと、一番左のランナーゲートのちょっと前方)は浅すぎる感じ。
胴体内側には一応、コクピット部のフレームなどがモールドされている。実際のCR.32のコクピット内部はもうちょっと凝った構造のような気がするが、72ならこれくらいでもよいかも。
全体のモールドは、古いSupermodel製に比べると上品だが、最近の大メーカー製インジェクションに比べるとかなり“有機的”な印象で若干ヌルめ。なんというか、90年代あたりの「古き良きチェコ製簡易インジェクション」の雰囲気を残している気がする。
機首上面は別パーツで、三連の気化器空気取り入れ口?のモールドがあるが、吸気口なのか何なのかちょっと怪しげな形状のうえ、真ん中の穴は型の傷みなのか埋まってしまっている。昔のSupermodelのキットではここは胴体と一体(左右分割)で上面はつんつるてんだったような気がするが、新しいイタレリ版ではこのキット同様に別パーツ化されている。イタレリ版ではどんな表現になっているか、ちょっと気になるところ。
機首先端部はSupermodel同様の分割。オイルクーラーの冷却フィンのモールドがあるが、デカールにチョイスされ、箱絵にもなっている中国空軍機は極初期の生産機で、このフィンガない。箱絵にもなっているくらいだからフィンなしの機首パーツも入っているんだろうと期待したのだが、実際には説明書で「中国空軍機にする場合は削ってね」とシレッと指示されているだけだった。
翼のリブ表現はSupermodelに比べればおとなしめ。上翼前側、左右2カ所ずつに、押し出しピン跡のような丸いモールドがあるが、これは実機にもある、支柱と翼桁の接合部に対応したパッチか何かのようだ。
W字の翼間支柱は、Supermodel同様に1本ずつバラバラでちょっと組み立ては面倒くさそう。
総じて、さすが21世紀の最新キット!Supermodelに比べて格段の進歩!――とまでは行かないものの、それなりに良いキットではないかと思う(歯切れの悪いほめ方)。
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