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2020年9月

FIAT CR-32 "Chirri" AZ model 1:72

●しばらく前にチェコ、AZmodel製の1:72、FIAT CR32のキットを買ってきて、そのままキットの山の上に積んであったのだが、こういう、日本語でレビューの上りそうのないキットの紹介をするのも意味がなくもない気がするので、とりあえず簡単に(だいぶ飛行機製作から遠ざかっていて、このキットを近々いじる予定もないので本当に簡単に)。

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同社からは同じ72のCR.32キットが数種出ていて、私が買ったのはそのうちExport(輸出仕様)と但し書きのあるもの(キット番号AZ7612)。ボックスアートは中国空軍機。箱裏がオーストリア空軍、ドイツ空軍、中国空軍の塗装/デカール説明。

実際にはCR.32の最大の国外ユーザーはハンガリーだと思うのだが、これに関してはハンガリーだけで別キット(AZ7613)。他、本家イタリア空軍(AZ7620)とスペイン内乱(AZ7621)が出ている、らしい。プラパーツは全キットおそらく共通で、箱とデカールだけの違いではないかと思う。

●実機は1933年初飛行、34年から生産開始された、世代的にはソ連のI-15やイギリスのグラディエーター、ドイツのHe51や日本の九五戦、チェコのアヴィアB-534あたりと同じ「最後の複葉戦闘機」群のひとつ。もっともイタリアが恐ろしいのは、これの後にもう一度新設計でCR.42という(まさに「最後の最後」の)複葉戦闘機を開発・生産していることで、その保守性が目立つ。ソ連もI-152、I-153とI-15の改良型を開発・生産しているが、一方で世界初の低翼単葉引込脚の戦闘機I-16を実用化したりしている。

形式名のCRは設計者チェレスティーノ・ロザテッリの頭文字とされることもあるようだが、同じロザテッリ設計の爆撃機BR.20(日本が輸入したイ式重爆)のことを考えると、「カッチャ・ロザテッリ=ロザテッリ(設計)の戦闘機」の頭文字ではないかと思う。もっとも、マッキのMC.202などは「マッキ/カストルディ(設計者)」の略だというし、レッジャーネRe.2000、サボイア・マルケッティSM.79、カプローニCa.311などはメーカー名の頭文字。さらに同じフィアット社でもG.55などは設計者のカブリエリの頭文字だけという具合で、イタリア機の型番はおよそ統一性がない。

CR.32はまっさらの新型というよりは、直前のCR.30をちょっと絞って小型化し性能向上させた改良型という感じ。CR.1に始まるロザテッリの戦闘機の共通の特徴としてW型トラスの支柱がある。第一次大戦中のフィアット・アンサルドS.V.Aも同じ支柱形式だが、これもロザテッリが関わっているらしい。

飛行張り線と着陸張り線を省くその支柱形式はオシャレと言えなくもないが、機首周りは液冷エンジンのくせに割とゴツゴツしていて、尾翼のアウトラインなども含め、AVIA B-534やハインケルHe-51のようなスマートさには欠ける。

スペイン内乱時にはすでにやや旧式化していたもののそれなりに活躍。第二次大戦突入時にもイタリア空軍ではなお戦闘機として最多(保有戦闘機の約3分の2!!)だったらしい。何なんでしょう、この中途半端ぶり(ここまで来ると逆に「イタリア空軍、パねぇな!」と言いたくなる感じ)。

●キットは海外産の72レシプロ単発機キットとしてはよくあるキャラメル箱入りで、プラパーツの枝は2枚。

風防パーツはインジェクションではなく、透明シートに輪郭が印刷されたもの。綺麗に切り抜いて折るのはやや面倒な気もするが、仮に分厚いインジェクションパーツが入っていたりするよりは、こちらのほうがはるかにマシ。デカールは上掲の箱裏塗装図にある4種に対応。印刷は綺麗でズレもない。

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説明書は3色刷り? もっとも色付きが活かされているのはメーカーロゴと機種名、塗料リストくらいなものなので特に意味なし。

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機種名部分にあるように、一応、CR.32と小改良型(武装強化型)のCR.32bis、消炎延長排気管付きのCR.32CNのコンパチということになっていて、実際、後2者に対応したパーツも入っているのだが、付属のデカールの塗装例にCR.32CNは含まれておらず、果たしてこれをコンパチに含めていいのやら、ちょっと怪しい。

●余談。過去、CR.32の1:72キットとしては、往年の名作、Supermodelのものがある(大学生の時、初めて行った海外旅行の際にフィレンツェの模型屋で買ったキットが、まだ未完成のままストック棚の奥に眠っているはず)。

SupermodelのCR.32は、scalematesによれば1973年の発売。確か翼面、胴体の布張り部は手彫りっぽい有機的な布目模様、リブなども強調気味で、コクピット後方、胴体側面のパネルはなんだか大げさな筋彫りだったような。Supermodelはイタレリの初期に内紛で?分離独立したメーカーで、大戦中のイタリア空軍機を中心に製品展開していたが、その後活動停滞。現在、旧製品の金型の多くはイタレリに移っているようで、いくつかは基本設計はそのままに、部分的に金型がアップデートされてイタレリブランドで再版されている。以前(もう10年以上前)、イタレリから1:72のレッジャーネRe2000が出たので買ってみたら中身はSupermodelで、そのこと自体にも、しかし意外に細かくアップデートの手が入っていたことにも驚いたことがある。当時書いたレビューはこちら

その後、CR.32に関しても同様に改修版がイタレリから発売されて、イタレリのサイトのカタログページを見ると、CN型の延長排気管を追加、“のっぺり”だった機首上面も別パーツ化されて空気取入口のモールドが追加されるなど、結構進化しているようだ。欲しいと思っていたのだが、日本国内でイタレリ製品を卸しているタミヤは、このキットは扱っていないようで(売れ筋でないと判断した?)国内ではあまり出回っていない。結局、買いそびれているうちにAZのものが出て買ってしまったので、イタレリ版があっても流石にもう買わないかも。

ちなみに、現在48ではSpecial Hobbyから出ているが、これはどうやら昔のクラエア(Classic Airframes)の再販物らしい。

●AZのキットのディテールを少々。

胴体はこんな感じ。アゴのラジエーターを通った空気は、その後部にある前後二段のギャップから排出されるのだが、下翼付け根上の後方ギャップに比べ、前方ギャップ(左写真で言うと、一番左のランナーゲートのちょっと前方)は浅すぎる感じ。

胴体内側には一応、コクピット部のフレームなどがモールドされている。実際のCR.32のコクピット内部はもうちょっと凝った構造のような気がするが、72ならこれくらいでもよいかも。

全体のモールドは、古いSupermodel製に比べると上品だが、最近の大メーカー製インジェクションに比べるとかなり“有機的”な印象で若干ヌルめ。なんというか、90年代あたりの「古き良きチェコ製簡易インジェクション」の雰囲気を残している気がする。

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機首上面は別パーツで、三連の気化器空気取り入れ口?のモールドがあるが、吸気口なのか何なのかちょっと怪しげな形状のうえ、真ん中の穴は型の傷みなのか埋まってしまっている。昔のSupermodelのキットではここは胴体と一体(左右分割)で上面はつんつるてんだったような気がするが、新しいイタレリ版ではこのキット同様に別パーツ化されている。イタレリ版ではどんな表現になっているか、ちょっと気になるところ。

機首先端部はSupermodel同様の分割。オイルクーラーの冷却フィンのモールドがあるが、デカールにチョイスされ、箱絵にもなっている中国空軍機は極初期の生産機で、このフィンガない。箱絵にもなっているくらいだからフィンなしの機首パーツも入っているんだろうと期待したのだが、実際には説明書で「中国空軍機にする場合は削ってね」とシレッと指示されているだけだった。

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翼のリブ表現はSupermodelに比べればおとなしめ。上翼前側、左右2カ所ずつに、押し出しピン跡のような丸いモールドがあるが、これは実機にもある、支柱と翼桁の接合部に対応したパッチか何かのようだ。

W字の翼間支柱は、Supermodel同様に1本ずつバラバラでちょっと組み立ては面倒くさそう。

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総じて、さすが21世紀の最新キット!Supermodelに比べて格段の進歩!――とまでは行かないものの、それなりに良いキットではないかと思う(歯切れの悪いほめ方)。

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ノームかグノームか

 ●フランスの航空機エンジンのGnomeは、正確には語頭の「G」も発音して「グノーム」と読むのが正しいらしい。大学の時にフランス語を習っていたのに知らんかったよ……。

「日本人にとってなじみが薄い読み方をする」というだけで、実際には英語に比べてずっと綴りと読みは規則的なフランス語だが、「gn」という綴りは、通常は「ニュ」という発音を表す。地方名の「ブルターニュ(Bretagne)」や「シャンパーニュ(Champagne )」、ファッション・ブランドの「アニェス・ベ(agnès b. )」(日本では普通「アニエス・ベー」と表記)、三銃士の主人公の「ダルタニャン(D'Artagnan )」 などがその例だにゃん。実際、フランス語の子音の綴りの発音解説サイトなどを見ても、「gnはニュと読む」としか触れられていないのが普通。

というわけで、Gnomeについても、フランス語の正確な発音だとおそらく「ニョーム」で、それだとカナ表記としてもなんだか据わりが悪いので慣用で(英語読みとしても通用する)「ノーム」、なのだと思っていた。

もっとも、では語頭だと必ず「グヌ」になるのかというとそうでもなく、このGnome(地精)とか、Gnostique(グノーシス派の)とかは外来語(ギリシャ語由来)だからGも発音する、くらいの感じらしい(そもそも語頭にGnが来る単語は珍しく、手元の中辞典では、この2単語の関連語・派生語も含めて10数語しか出ていなかった)。

まあ、Gnomeの場合イギリスでもライセンス生産されていたりして、その場合は当然英語読みするだろうし、そもそもファンタジー世界のキャラ名として「ノーム」もそれなりに通っているので、「ノーム」と読んだままでも構わないと思うけれども。

●ちなみにフランスのエンジンのGnomeは、第一次大戦機ファンには「グノーム(ノーム)」、第二次大戦機ファンなら「グノーム・ローン(ノーム・ローン)」の名前で馴染みがあるのではと思う。

もともと「グノーム」と「ル・ローン」は別会社だったのが1915年に合併。グノーム・ローン(正式な社名はSociété des Moteurs Gnome et Rhône/ソシエテ・デ・モトゥール・グノーム・エ・ローン。間の&(et)を略してGnome-Rhôneと表記されることもあるが、これはブランド名かも)となる。

合併してからもしばらくは「グノーム」「ル・ローン」両系統のエンジンを作っていたが、興味深いのは、この両系列のエンジンは連合国側、枢軸国側両方の陣営で使われていたこと。例えばフォッカー・アインデッカーは一貫してグノーム系列のエンジンを使用しているし、フォッカーDr.IやフォッカーD.VIIIはル・ローンを搭載している。両方ともドイツのエンジン・メーカー、オーベルウーゼルでコピー生産されたものだが、単純にパクっているわけではなく、(少なくとも初期モデルに関しては)きちんと戦前にライセンス権を購入しているらしい。

……というわけで、ドイツのオーベルウーゼルに関しては、「フランスのロータリーエンジンを作っていた会社」みたいなイメージでいたのだが、今回ちょっと調べ直してもうちょっと面白い(入り組んだ)経緯が判った。

そもそもは1890年代、ドイツのオーベルウーゼルが小型ながらパワフルな単気筒エンジンを開発してGnomと名付け商品化、ヒット作となる。おそらく、「小さいがしっかり仕事する」というようなイメージから、Gnom(地精・小人)の名を付けたのではないかと思う。これをフランスの会社がライセンス権を購入して生産(綴りはフランス語でGnomeとなる)、さらにはその技術をもとに多気筒のロータリーエンジンを開発し、これが前記のGnomeシリーズとなった、のだそうだ。

●グノーム・ローンは、戦間期から戦後の一時期までは、バイクや自動車も手掛けていて、エレールからは下のような大戦中のオートバイの1:35キットも出ていた(というか、今でも出ているかも)。箱には車種形式など書かれていないが、実際には「AX2」という800ccのオートバイ(+サイドカー)で、1938年に登場。軍用としては1940年までに約2700台がサイドカー付きで生産されたらしい(キットの説明書とか「Kfz. der Wehrmacht」とかより)。

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例によってつまみ食いしてちょっといじってあるが、車輛本体のパーツ構成は2枚目写真のような感じ。これに(箱絵にあるように)フィギュア3体が付く。

Scalematesによれば、発売は1970年代後半で、タミヤのBMW R75サイドカーから数年後の発売ということになるが、出来としては同程度だろうか。1:35インジェクションのバイクのキットの常として、ワイヤースポークは太目で実感を損ねているため、なんとかしたいところ(まあ、頑張っているとは思うけれど)。SWASH DESIGNのタイヤ&スポーク・セットに交換するのが最もスマートな解決法だとは思うが、同製品は現在メーカー在庫切れ。

ちなみに、キットの箱の中には、これに使おうと思って調達したのであろう1:48第一次大戦機用のワイヤースポークのエッチングパーツが入っていた。大きさ的にはちょうどいいくらいの感じだが、もちろん型押しはされておらず平板で、しかも硬そうな洋白だかステンレスだかのエッチングなので扱いづらそう。

20200909_142237黒いセイバー。( → )

(いやまあ、なんとなく。そう読めちゃったので)

●セブンイレブンのコーヒーから、通常のホットコーヒー(ブレンド)の一段上の「高級キリマンジェロブレンド」がいつの間にか姿を消してしまい、地味にショック。

と言いつつも、実際に+αのお金を払って飲んだことはあまりなく、実は「コーヒーを10杯飲んだら1杯ただ」のクーポンを使うとキリマンジェロブレンドもそのままただだったので、そんな時だけありがたく飲んでいただけなのだが(セブンイレブンには「そんなヤツに飲ませるために商品化したんじゃねえ!」と言われそう)。

(10/17追記:しばらく間をおいて、「グアテマラブレンド」が登場した。どうやらある程度の期間限定で「高級」系を交替させて回していくらしい)

●久々に(資料整理のため)神保町の事務所に行ったので(17日)、夕方、事務所を出てから、「(hn-nhさんのブログで知った)消えゆく御茶ノ水駅の古レール柱屋根の見納めに行くか……」などと思いつつ文坂(駿河台下からお茶の水駅方面への明大通りの坂道)を歩いていたら、坂を登り切ったあたりで事務所から「スマホの充電アダプターとケーブル忘れてるぞ~」と電話。一度事務所に戻ったら再び坂を上る気力をなくし、結局、御茶ノ水駅は見ず。まあ、もう屋根の撤去は終わっちゃってたかもしれないし……(すっぱいぶどう的な)。

なお、その際に、今年初めに設置された鉄腕アトムのデザインマンホール蓋を発見。あ、これって、こんなところにあったんだ~。

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アトムは明大の図書館棟の前あたり。ウランちゃんはもっと坂の下、三省堂前への斜めの脇道への分岐近く。実はアトムよりさらに駅寄りにお茶の水博士のマンホール蓋もあったはず(帰宅後検索して知った)。

この千代田区の「アトム」はじめ、今年初めに都内各所で設置されたデザインマンホールに関しては、マンホールカードの特別版が3月に発行・配布開始されるはずだったのだが、コロナ禍の影響で配布が延期に。開始時期については「改めてお知らせいたします」のままとなっている。

(10月1日追記。また事務所に行ったついでに、改めてお茶の水博士を撮影してきた。場所は明大12号館の前。仕事が長引いたのですっかり日が暮れてから行ったのだが、意外に明るく撮れた)

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20200918_162930 ●ひと夏に一度は食べたい浪花家(鎌倉浪花家)の宇治金時。

涼しくなる前に、なんとか今年も食べた。写真の角度のせいもあるが、去年よりも若干、盛りが低くなったような……(もっとも、以前の盛りが多過ぎた気もする)。

●前回投稿した日の前後、件のヒメグルミの樹を見に行ったら、すっかり果肉は腐った実がまだいくつも落ちていたので3度目の収穫。しかし「果肉がほとんど残っていなくて処理が簡単でラッキー♪」と思ったのは早計で、洗って干した後で割ってみたら、中の仁はほとんどが痛んでいて、無事なものは1割もなかった。実が落ちて早々に収穫しないとだめなようだ。

代わりに、と言っては何だが、カヤの実やぎんなんがちらほら落ち始め。逗子と鎌倉の2カ所でカヤの実を少しだけ収穫。重曹溶液に漬けてアク抜き中。

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III号戦車D型 FIRST TO FIGHT 1:72

20200829_005947 ●先月末に川崎の実家に行った帰り、横浜のVOLKSで、FIRST TO FIGHTの比較的最近出た製品、III号戦車D型(1:72)を買ったので、そのレビューなど。

以前にも書いているように、「FIRST TO FOGHT / WRSESIEŃ 1939」は、1939年9月(WRSESIEŃ 1939)のドイツのポーランド侵攻当時の両軍の車輛、火砲、兵士などを1:72で展開しているシリーズ。他ではキット化されづらいポーランド軍車輛や、ドイツ軍車輛のなかでもちょっとマイナーな初期の仕様のものを取り上げているうえ、このIII号戦車D型でシリーズの通し番号はすでに73と、なかなか充実したラインナップに成長している。キットの開発・生産はポーランドのIBG社が請け負っているそうで、IBG自体が展開している「THE WORLD AT WAR」シリーズのキットとはパーツ設計上かなりの共通点がある。

関連する先行キットのレビュー。

あれ。THE WORLD AT WARのIII号B型のレビュー書いてないや。

●というわけでキット内容。

構成はシリーズ共通のもので、モノの大小にかかわらず同一サイズの箱に、戦史、実車解説、組立・塗装説明などが書かれた表紙含め全12ページの小冊子付き。もっとも冊子は全編ポーランド語のみの対訳無しなので、基本は絵を見て「ふーん」と思う程度(もちろん、本気で読むつもりがあればスキャンしてOCRソフトにかけてGoogle翻訳さんに助けてもらうという手もないわけでもない)。

パーツは枝三枚、それからデカール。デカールはポーランド戦時の国籍マークの白十字だけで、複数キットで共通のもの。

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8つ転輪の初期型III号としては、THE WORLD AT WARシリーズでしばらく前に出たIII号戦車B型に次ぐもので、前述のように両キットは同じIBG社の手によるもののため、砲塔パーツの基本設計などは共通(ただしディテールはきちんと両型で違えている)、モールドの精密さなども似通っているが、こちらのD型のほうが後発キットであるため、「改良されてるなあ」と思わせる部分もある。

E型以降の「標準型」III号戦車とは基本、何から何まで違うので、むしろ、同じFIRST TO FOGHTのIII号戦車E型/III号指揮戦車E型とは部品設計上共通する部分はない。また、いささかトンデモな部分があったIII号戦車E型/III号指揮戦車E型よりも今回のこのキットのほうがだいぶ出来がいいように思う。

▼足回り

その「改良されてるなあ」と思う新機軸が足回り。このシリーズ、足回りは基本、履帯含めて一体成型のいわゆる「ロコ方式」なのだが、その場合、複列の転輪類は表裏一緒、逆に転輪が単列の場合は履帯の複列のガイドホーンが繋がってしまって、ちょっと斜めから見た時に実感を損ねることになる。

が、このキットでは、転輪・上部転輪は履帯の半分と一緒に別パーツ化され、また起動輪・誘導輪も履帯とは別にして(起動輪は表側のみ)、全体の再現度を上げている。

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  • 転輪のボギーアームが内側転輪のリム部分と一体化していてやや実感を損ねている。
  • 起動輪の歯部分がやや分厚い上、表側と裏側で厚みが違っている。
  • THE WORLD AT WARシリーズを含めての欠点だが、CADデータのコピペのせいか転輪のパターンの向きがすべて揃っているのが不自然。
  • とにかくパーツのゲートが多くて処理・整形が面倒。

などの欠点はあるものの、従来の処理よりはかなり精密度が上がっている感じがする。なお、分割された転輪部分の部品の合いはそれほど悪くなく、若干のすり合わせのみで歪みも隙間もなく接着できる(どのみち、変に曲がったりしなければ多少隙間が出来ても見えないが)。

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上の2枚の写真は、とりあえず組んでみたこのD型キット(左)と、比較用の THE WORLD AT WAR のB型の足回り。B型キットでは起動輪も一体成型のため、表裏の歯が繋がって「厚切りなると」状態になってしまっている。

▼車体

常識的な上下分割。複雑なサスペンションはスライド型を用いた一発抜き。ショックアブソーバーの細いアームなどは「ロッド」ではなく「板」になってしまっているが、どのみち足回りの間からチラ見えする程度なので、(個人的には)これで十分。シャーシの後面はマフラー等一体。オーバーハング下は実車ではルーバーとかメッシュとかになっているのではと思うが、このキットではべったり埋まっている(が、これまたひっくり返さない限りは見えないので、このスケールなら気にしない)。

D型って、こんなにシャーシ後面が鋭くナナメなの? というのが若干気になったが、実車写真では陰になるのでばっちり確認できるものが見当たらない。なお、miniartの35のD型も似たような感じのようだ。

エンジンルーム左右の通風孔は別部品。

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  • OVM類は、ジャッキなど縦に高いもの以外は一体モールド。シリーズ共通ではあるが、消火器が「カマボコ形」になっているのはちょっと寂しい。THE WORLD AT WARシリーズのII号戦車のように別部品だったら嬉しかったが、まあ、この程度は我慢。
  • このシリーズ共通だが、操縦席左側のクラッペは車体上部と一体成型。抜きの方向の関係で形が潰れているのは致し方ないとして、THE WORLD AT WARのB型のクラッペはまだまだクラッペらしく見えなくもない感じだったのが、このキットではもっと崩れた形状。クローズアップで撮っておくのを忘れた。
  • シャーシ前面の四角いブレーキ点検パネルはシャーシと一体成型で、抜きの関係で上辺のエッジが斜めになっている。
  • 本来、B~D型では、主砲のクリーニングロッドはアンテナケース側面に取り付けられているが、キットではアンテナケース横のフェンダー上に取り付けるようになっているうえ、75mmクラスの主砲でないとおかしいくらいに太い。フェンダー上に取付穴が開いているのも困りもの。
  • 戦闘室とエンジンルームの間に本来あるべき分割線がない。
  • 車体前部牽引具上の左右の前照灯、車体後部のスモークキャンドルの取付位置が曖昧。前照灯はもしかしたら牽引具上にポチッと出っ張っている極小の突起の上に接着しろということなのかもしれないが、その場合は接着面が小さすぎてとてもまともに取り付けられない。
  • 車体前部の牽引具のL字ピンの頭が成型の都合で水平になっていて、見た目上もちょっとよくない上に折れやすい。

もっとも、ミニスケールのキットとしてはディテールは比較的細かい方だと思う。

▼砲塔

シリーズは違うものの、同じIBG社の手によるTHE WORLD AT WARシリーズのA型、B型と基本設計は同じパーツ。ただし細部ディテールのモールドは微妙に違っている。キューポラはB型までの単純な円筒形のものではなく、IV号戦車B型以降と同型のがっちりした装甲シャッター付きのもの。パーツは一発抜きだがそれなりの形になっている、と思う。

内部防盾と一体の主砲・同軸機銃のパーツは、明らかにTHE WORLD AT WARシリーズのB型と同じ設計データに基づくものなのだが、THE WORLD AT WARシリーズのB型ではスライド型を用いて砲口に穴のモールドを付けていたのに対して、こちらは単純な2面抜きで砲口部にランナーゲートが来ている。

ちなみにD型までの砲塔は、主砲は同じ37mmKwKでも、E型以降の砲塔とは(側面ハッチが片開きだ、というだけではなくて)基本設計自体が別物。砲塔前半部の傾斜もきつく、その分、砲塔前面はE型以降の砲塔よりも狭いはず。……というのを、最近まで「まあ、何か違うっぽいよね」くらいにしか認識しておらず、改めて資料をひっくり返して再確認した。

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  • 周囲のハッチ/クラッペ類は一体モールドで、そのため、下辺はきちんとエッジが出ておらず、砲塔本体とナナメに接続している。THE WORLD AT WARシリーズのA型、B型でも同様だったのだが、よりパーツを抜きやすくするためか、さらに下辺エッジがダルく感じる。
  • THE WORLD AT WARシリーズのA型、B型同様、同軸機銃が太過ぎ。車体前面機銃も同じMG34だが、そちらのパーツはまだマシ。
  • 主砲の駐退器カバー部分にヒケが出ていた。

●そんなこんなで、とりあえず組み上げてみた。

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8つ転輪の初期型III号戦車は後の6つ転輪の標準型よりも車体が長く、特にD型はB/C型よりも後端オーバーハング部が長いので、さらに間延び感がある(車体長はIV号戦車よりも長い)。

▼気になった箇所のみ、若干手を入れた。

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砲塔クラッペ・ピストルポートは一体モールドのため下辺エッジが斜めになっていて印象が悪かったので削り込んでエッジを立てた。側面ハッチについては、下側にある小リベットを再生するのが面倒くさかったのでそのままとした。砲塔上の手すりは0.3mm金属線に交換。

操縦手席左側のクラッペは、一体モールドでまるっきり形が崩れていたので(一度はそのままにしようと思ったのだが、結局我慢できずに)作り直した。対空機銃架左側に飛び出した部分がクラッペにかぶさるような形になっていて、このままでクラッペが開閉できない格好になってしまっているのだが、そのままとした。ちなみにTHE WORLD AT WARのB型も操縦手席左のクラッペは一体モールドなのだが、本キットほどは形が崩れていなかった。

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クリーニングロッドは作り直し、装着位置もアンテナケース側面に。フェンダーにあったパーツ取付穴は埋めた。気合の入った(そして工作力のある)ミニスケール・モデラーなら、埋めた後のフェンダーパターンも再生するかもしれないが、私はそのまま。ちなみに元パーツは右写真のように巨大。先端どころかロッド部分さえ37mm砲身に入りそうにない。

戦闘室とエンジンデッキの間には筋彫りを追加した。

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主砲と同軸機銃には穴開け加工。同軸機銃はいかにも太く、以前にIII号A型を作った際にはフジミ76のI号戦車のMG15のパーツの銃身と交換したのだが、ストックが尽きてきたのでこのキットに関しては左右から削り込んでほんの少し細くしただけ。

フェンダー先端裏側は削り込んで薄くした(前後とも)。牽引具のL字ピンは0.3mm金属線、前照灯の柄の部分は0.5mm金属線に交換した。

●FIRST TO FIGHT、THE WORLD AT WARの初期型III号戦車勢揃いの図。

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左からA型、B型(ここまでがTHE WORLD AT WARシリーズ)、D型(本キット)、E型(後2者がFIRST TO FIGHT)。E型はキットとしては指揮戦車E型のものだが、以前のレビューで書いたように中身は「通常の戦車型にアンテナを付けただけ」のお手軽キット。しかも履帯、フェンダー、転輪ディテールは40cmm履帯幅仕様になってしまっているなど、出来としては一段落ちる。

なお、FIRST TO FIGHTでは本キットのバリエーションとしてIII号指揮戦車D1型も出ているのだが、これは指揮戦車E型のキットとは大違いで、砲塔や車体上部は戦車型と別に新規にパーツを起こしているらしい。これはぜひ欲しい。

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駆け足の夏

●なんだかんだで1か月近くもブログの更新が滞ってしまった。

「締切がある仕事は頻繁に遅れるくせに締切のないブログは割とマメに更新する」のがスタイルだが(あかんヤツ)、これだけ間を開けてしまったのは久々かも。

ずっと書かずにいるうち、(更新のためにログインする前の)ココログのトップ画面がこれまでと別のデザインに変わっていてびっくり。

●8月15日の終戦記念日が近くなると、わらわらと戦争ネタが取り上げられるのは日本の夏の風物詩のようなものだが、ちょうどその時期、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの「戦争は女の顔をしていない」(岩波現代教養文庫)を読む。

ちなみに「そのタイミングだから読んだ」というわけではなく、ずいぶん前に市立図書館に予約を入れていたのが、ようやく順番が回ってきたため。もちろん、「べっ、別に、世間が回顧ムードだから読んだわけじゃないんだからねっ!」と言いたいわけではなく、むしろ「読む時期としてはいいかも」と思ったりもした(実際には“大祖国戦争”の終戦は5月なので、8月15日はあくまで読者たるこっちの感傷でしかないが)。

もともとは数か月前にマンガ版を読んだのをきっかけに、「これは原作のほうも読まねば」と思ったのだが、実際に読んでみると、マンガ版は話を壊すことなく、なかなかうまくイメージを補完しながら描けている気がする。とはいっても、マンガ版では書き尽くせていないところも、また、これはちょっと印象が違うかも、というところも若干はある感じ。マンガ版を読んだ時の感想はこちら

マンガ版を読んでイメージしていたのとちょっと違ったのは、1人のエピソード(1人に対するインタビュー)が基本、だいたい同じくらいのボリュームで載っているのかと思ったらそうではなくて、数ページにわたるものもあれば、ほんの数行しかないものもある、ということ。ただし、その後で改めてマンガ版を読んだら、マンガ版の方でも(他人のエピソードにくっつけて)断片的エピソードも取り上げられていた。

この本を読むうえで、ミリオタ的知識が必要とは言わないが、それがイメージを補ってくれる部分は確かにある。何人かのエピソードに「(古い)1トン半トラック」という言い回しが出てくるが、「ああ! たぶんインタビューに答えているばあちゃん(たち)は、ポルトルカ(GAZ-AAの愛称)って言ってるんだな」というのが判るし、その大きさ、ガタピシ具合もイメージできる。

レニングラードの話で、「市電の三番でキーロフ工場まで行くことができて、そこはもう前線」(p157)という一文が出てきて、中身が疎開した後のキーロフスキー工場が交戦の場になっていたことも判る。女性戦車兵が、中戦車では割といた一方で、重戦車(IS)に乗っていたのは希少だったという話も興味深い。弾が重いから? 「自動小銃は七十一個の薬莢でとても重い」(p175)とあるのは、弾数からPPSh-41(のドラム弾倉)であるのが判る。自動小銃ではなくて短機関銃と表現する方が一般的な気がするが、これは元の語が「アヴトマット」だったのだろうか?

訳として「これはちょっとどうなの?」という部分もいくつかあった。「戦車のハッチから引きずり出すのはとても大変。ことに砲台から引きずり出すのは」(p144)は、「砲塔」と訳すべきだろうし、「私たちのところにあったのは? 三十四型の戦車で、たちまち燃えてしまうんです」(p443-444)は普通に「T-34」と書いて欲しかった。「友軍のY-2型飛行機が降りてきました」(p341)とあるのは、元のキリル文字をそのまま残してしまったための判りづらさで、これはおそらくU-2(複葉の練習機、ポリカルポフPo-2の初期の名称)のことだろう。

●ディテールの感想から入ってしまったが、話の中身は話が詳細なぶん(そしてイメージが固定化されないぶん?)マンガ版よりさらにツラい。実際の戦いの凄惨さだけでなく、戦争が終わってからも、個人にとっての戦争(の傷跡)が終わらないのがまたツラい。

語る元女性兵士たちに対しても、この著作自体に対しても、「祖国を守り抜いた(英雄的な)戦いの勝利の暗部をほじくり出すな」的批判がずっと付きまとっていることが、前書き等々からも判る。あるいは、語って欲しい元女性兵士自身からそう言われることもあるし、いちどは語った人が、それを理由に「表に出さないで欲しい」と言い出すこともある。

もちろん、「戦勝国」だからこそその圧力も強いのかもしれないが、戦争の悲惨さ、汚さを振り返ることが「立派に戦った人たちを貶めることになる」との非難に繋がるのは日本も同じことで、むしろ近年(実際に戦争を知る世代が減るにつれて)ますますそうした声が強まっているように思えるのが、どうにも薄ら寒い。

なお、著者のスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチは、その姓からベラルーシ人だろうなとは思っていたが(実際には後から調べたら、父がベラルーシ人で母はウクライナ人だそうだ)、 今のベラルーシでは体制に嫌われて著作は発禁状態だそうだ。

その昔、渡辺ミッチーが外務大臣だった時代(ソ連崩壊直後の頃)に国会で「ベルラーシ、ベルラーシ」と言っていて、それを後藤田正晴が苦笑いして聞いているのがテレビに映ったことがある。……というのを思い出した(関係ない)。

●ついに逗子市にもカラーマンホールが登場。お隣の葉山町同様に1枚だけの特注品。逗子駅前ロータリー、マクドナルド前のちょっと駅寄りに設置された(8月17日に設置された由)。

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葉山のカラーマンホールは、スタンダードの図柄そのままをカラー化したものだが、逗子市のものは標準品(右)とは別図柄で、逗子海岸の田越川河口側に立っている「太陽の季節」碑越しの海と富士山。石原慎太郎という人は好きではないので「結局逗子ってシンタローなのかよぅ」と思わなくはないが、まあ、その辺はこれ以上ぐじぐじ言わない。

これを機会にマンホールカードの申請も行うそうな。

なお、3月に発行予定だったがコロナ禍で延期されてしまった、東京都の特別版マンホールカードは、どうやらまだ発行時期未定らしい。

●ヒメグルミ(と若干のオニグルミ)のその後。

数日放置して果肉部分をもう少し腐らせた後で足で踏んでとりあえず剥ける分だけ剥き、さらに残った果肉をまた放置して腐らせたり洗ったりを何度か繰り返して、核果を取り出した。写真2枚目、左のハート形がヒメグルミで右の普通のクルミっぽいのがオニグルミ。ずいぶん形が違うが、生物種としては同じJuglans mandshurica の変種なのだそうだ(一般に流通しているシナノグルミ/カシグルミは別種でJuglans regia )。

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思ったより歩留まりが悪く、核果を割ってみると中身が腐っているものも(体感)1割くらいあったが、1/4ほどは川崎の実家に持っていき、残りのほとんどは溶かした砂糖をからめた(4枚目)。

●8月の後半だったと思うが、セブンイレブンの店内にいたら、BGMで「あれ、聞き覚えがあるけど何だったっけな」という曲が掛かって、ちょっと考えて、トラベリング・ウィルベリーズの「Handle with care」だと思い至った。選曲シブい!

店内で掛かっているのはインストゥルメンタルだが、原曲はこちら。

ちなみに私自身は自分ではそこそこヘビーなビートルズ・マニアだと思っていたのだが、ジョージ・ハリソンが中心になって数枚のアルバム(公式には2枚)を出した覆面バンド、トラベリング・ウィルベリーズのことを知ったのは比較的最近。ヌルし。

もっとも覆面バンドとは言っても、上のようにまるっきり顔出しでPVなど作っているので、正体を隠す気は皆無。ボブ・ディランがシレッとバックボーカルを務めていたりして妙に贅沢(リードボーカルを取っている曲もある)。

ちなみにセブンイレブンの店内BGMの曲目は同社のサイトで公開されているが、それを見ると、トラベリング・ウィルベリーズの「ハンドル・ウィズ・ケア」は、9月16日~24日の曲目リストにも名前が出ている。同期間に(トラベリング・ウィルベリーズのメンバーだった)ロイ・オービソンの「プリティ・ウーマン」も取り上げられている。担当者がロイ・オービソンのファンなのか?

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