« ほっち、きっす、頬寄せて♪(3) | トップページ | キイチゴ三昧 »

ブロック崩し

●「ブロンコ沼」から女神さまが現れて、

「あなたが使うのは、この歯数が正しくてサイズが違う起動輪でしょうか、それともサイズが正しくて歯数が違う起動輪でしょうか」

と訊ねるので、そっと見なかったふりをして森の外に出ることにしました(これにてひとまずお話はおしまい)。

……ここで「いえ、女神さま! 私が使うのはサイズも歯数も正しい起動輪でございます!」と言ったら、女神さまは褒めてくれるのかなあ。「よくぞ申しました、ではこのサイズが違う起動輪も、歯数が違う起動輪もあなたに授けましょう」って言われても嬉しくないしなあ。

●というわけで、ひとまずオチキスに関してはそれぞれ(3キット)そっと箱にパーツを戻して、何かとてつもない精神の高揚期が来るまで再び熟成させておこう……と思ったのだが、その前に。

起動輪ほどではないものの、これまた簡単に対処は出来そうもないと思った「誘導輪の形状が変(より正確には、再現度が(かなり)不十分)」という問題だが、(前回も触れたように)hn-nhさんは、過去、オチキスの自走砲の工作で、キットのパーツをコリコリ削ってそれなりの形に仕上げていたことが判明。その写真がある記事はこちら

いやいやいやいや。ちょっと待って。一度リム部を削り落すとかじゃなくて、キットのパーツを彫り込むだけで、そんなふうにできるの?

というわけで、「そっと箱にしまう」前に、私自身も削ってみることにした。主に使用した工具は、丸棒ヤスリ(の先端)と、先日も紹介した刃先を研いだマイクロドライバー(マイナス)。結果はこちら。

20200526_005907

左がピットロード/トラペ、右がブロンコ。2つ削るのに1日がかりだった(もちろん、そればかりやっていたわけではないが)。

総括:やってできないことはない、ということは、とにかく判明(が、もちろん面倒臭い)。また、ここまで削ってもhn-nhさんほどディスク部の「ふっくら感」は再現できていない。しかし、これ以上削るとリム部内側のあたりでパーツに穴を開けちゃいそうなんだよなあ。また、仕上がり具合もhn-nhさんの作例よりだいぶ粗い。前回、hn-nhさんを「人間ろくろ」と評したが、改めて「人間NC旋盤」と呼ぶことにしたい。

ちなみにわざわざ別会社のものを1個ずつ削っているのは、最初、「部品をオシャカにするかもしれないから、小リベットのモールドがないブロンコを実験台にしよう」ということで右を削り、次に「なんとかなりそうだから(本番として)トラペを削ろう」と左を削ったため。

なお、実際に作業した感じではブロンコのもののほうがプラが柔らかく削りやすかったが、me20さんの評にあるように、ちょっとケバ立つ感じがした。また、ここまで削ってしまうと片方を捨てるのももったいないし、どうせ両方一緒に見えるわけでもないので、これで1輌分として削り作業は終了、ということにしたい気も。

●今回キット比較をするために改めて押入れのストックの山をごそごそしていたら、久しぶりに目にするキットとか、「あっ、これ、前に探していて見つからなかったやつだ!」なんていうのも出てきたり。

「久々に目にした」一つがこれ。チェコ、KP製の1:72「AERO MB-200」。箱が汚いのはご勘弁。

20200525_004954

KPはまだ東欧が「共産圏」だった頃のチェコスロバキアで活動していたメーカー。というか、ボチボチ新製品もあるようで、今でも活動しているらしい。

そもそもNOVO-FROG以外、「東側」のプラモデルなんてなかなか日本の模型店には出回っていない頃から、KPは結構模型店の棚で見かけることが多く、後から思うに、「さすがチェコは先進工業国」ということなのか、それともプラモデル趣味が存在する文化があったのか。初期の製品は、アヴィアS-199(メッサーシュミットBf109の戦後チェコスロバキア生産型)とか、レトフŠ-328、アヴィアB-534、B-35といった国産機中心で、アイテム的には変わり種、しかし技術はちょっと……という感じだった。

しかし、その後次第に技術が向上して、このMB-200は、(scalematesによれば)1985年発売で、まだ東欧革命前のものだが、「かなり素敵なキット」と言える内容になっている。

ちなみにキット名称はチェコの航空機メーカーAEROの名を冠しているが、実機はフランス、マルセル・ブロック社が開発した双発重爆で、アエロはライセンス権を取得して生産したもの。本国フランスでは、第二次大戦でもまだ少数(本来の爆撃機としてではなく偵察や輸送用途で)使われたらしい。ちなみに、後継機種で低翼・引込脚になったMB210も、キットがエレールから出ている。

マルセル・ブロック(Marcel Bloch)はユダヤ系の航空機技術者で、彼のメーカーはこの爆撃機のほか、第二次大戦勃発時にはMB150シリーズという空冷エンジン装備の単発戦闘機も開発・生産しているものの、これはぼろぼろ欠陥が露呈してほとんど活躍できなかったなど、あまりぱっとしない。しかし、戦後は姓を兄のレジスタンス時代の変名に改名し、会社名も「マルセル・ブロック社」から「マルセル・ダッソー社」に変更。その後、超ベストセラーのジェット戦闘機、ミラージュ・シリーズを生み出している。戦前・戦中はぱっとしないのに、戦後大躍進したという点では、ミグなどとも近いかも。

なお、「Dassault」はもともと「D'Assault」(英語ならof assault)。つまり「マルセル・ダッソー」は「突撃マルセル」の意味なわけで、なかなかスゴイ名前。「突貫カメ君」っぽい。

20200525_005057 20200526_133404 20200526_132820 20200526_133045 20200526_133033 20200526_132927 20200526_132915 20200526_132947

KPの初期の製品はパーツも分厚く、バリも結構出ていて難物感が高かったが、このキットは部品もシャープでスッキリしている。

飛行機モデルといえば胴体は左右分割が普通だが、旧式機らしく四角い断面のこの機の場合は大胆に箱組。4枚目写真にあるように、エンジンナセルも箱組。整流板かよー、みたいな細かいリブのある主翼表面も綺麗なモールド。ただし、尾翼周りなど一部にちょっとだけバリがあり、透明パーツの透明度もやや低め。デカールはかなり黄変していて使えなさそうだが、そもそも私はフランス機として作りたい気がする(あるいはスペイン共和国軍とかブルガリア軍とか)ので無問題。手書き感あふれる組立説明図も素敵。

何と言うか、非常に主観的な話になってしまうが、「ワクワク感溢れる模型って、こういうものだよなあ」と思わせる内容。問題は、決して誰もがワクワクするわけではないアイテム選択だろうが、また、そういうアイテムに(傍目では理解しづらい)力の入り方が見られるところが、ワクワク感を覚える源のような気もする。

……いや、そこまで褒めるなら仕舞い込んでないで作れって(←自分ツッコミ)。

●ブロックが出てきた在庫の山のブロック崩しの発見物その2。ロシア、マケット/モデリストの1:48、モラン・ソルニエG/H。

これは以前「そういえばあれ、どこに行ったかなあ」と探して見つけられなかったもの。意外に山の浅いところにあった。

20200525_2043011 20200525_204316

左の汚いのが箱の表。右が裏。そう、このキット、外箱と内箱でまったく同じ紙を使っているのだ。もちろん、内箱の方がやや小さめに折ってある。

マケットは陸物キットを見ても想像できるように、ここ自体がメーカーではなくてあっちこっちの金型(あるいは最終製品)を扱っている商社のような感じなので、このキットも併記している「モデリスト」のほうがそもそものメーカーなのかも。

箱にはローマン・アルファベットで「Moran G」、キリル文字で「Моран Ж」と書かれている。形式の「G」が、ロシア語だと「Г(ゲー)」ではなく「Ж(ジェー)」になるのは何故? 音じゃなくてアルファベットの順番?

箱は横幅で25cm弱しかなく、一昔前の1:72大戦機クラス。しかも箱を開けたら、なぜか2機分入っていた……。ありゃま。

20200525_204948 20200525_205242 20200525_205146 20200526_145328

もちろん最初から2機入りだったということではなく(そういうキットも世の中にはあるが)、なんとなく、後からもう一つ、何かの機会に入手したようなおぼろげな記憶が。そのまま一つの箱にまとめて忘れていたらしい。

小さい箱に2機分なのに箱に大分余裕があり、(古典機ゆえということもあるが)パーツ構成はごく簡単。

こういうロシア・東欧製の怪しいキットだと、モールドもでろでろだったりすることも多いのだが、このキット場合は、(飛行機キットの肝の一つと言える)主翼後縁が素晴らしくシャープに薄い(それでいて、一機のほうの主翼はプラにゴミか何かが混入してまだらになっている)。

古典機によくある、裏側が窪んだ翼型は、本来ならリブとリブの間の布地は凹んでいるのではなく、むしろやや出っ張っているくらいでないと変なのだが、これは圧倒的多数の古典機キットが等しく間違えているので、ことさらこのキットを責めても仕方がない、美しい主翼に比べて、尾翼はボッテリしているのはご愛敬。

さて、中身は2機分だが、それぞれちょっと流通経路に違いがあったらしく、説明書も2種類入っていた。ひとつはA4版表裏でペラリと一枚。

Morane01

片面はまさに「組立説明図」なのだが、昔のレベル72の説明図もこんな感じだったかなー、みたいな簡単なもの。いや、キット自体の構成もこんなもんだし。しかしもう片面はキットの内容からするとギャップも甚だしい、ちょっと本格的な細部図解も含めた図面。これを見てディテールアップしろと!?

しかし、もう片方の説明書はさらに面白い。こちらはA4版2枚、裏表の4ページ。

Morane02 Morane03

1ページ目は英語のそれなりの長文の実機解説。下に出典資料も列記してあるのが誠実。2ページ目が組立説明なのだが……。いやこれ、組立説明図って言えるの? 翼の取付け等については全く触れられていない一方で、胴体の図解は詳細で、一部構成品については「これはキットのパーツに含まれていないが自分でなんとかせぇ」みたいなことが書かれている。スパルタ!?

興味深いのは、こちらの説明書ではキット名称が「モラン・ソルニエ H」になっていること。実を言えば、キットはG型とH型の折衷のようなところがあり、H型として組む方がより簡単、ということであるらしい。また、箱はG型表記なので、もともと最初の説明書が入っていたものであるらしいことが判る。

3ページ目はモラン・ソルニエH型(G型との相違点含む)の1:48図面。この図解で、キットの主翼は基本H型で、G型の場合はリブ一つ分スパンが長いらしいことが判る。そして4ページ目は改造の手引きとして、モラン単葉機のライセンス生産型である、ドイツのファルツE.I/IIの図面と相違点の解説。スバラスゴイ。

ちなみにこのモランG/Hは、有名なフォッカー単葉機に非常によく似ているが、これは、戦前のベストセラーでドイツで(ファルツが)ライセンス生産もされていた本機のデザインを、フォッカーがほとんど丸パクリしたため。はっきり言って、見た目上は尾翼が尖っているか、“コンマ”形か、くらいの違いしかない。ただしフォッカー単葉機は本機と違って鋼管フレームを採用したこと、初めて実用的なプロペラ・機銃同調装置を搭載したことで「名機」として歴史に名を残すことになった。

●他にも、いつどういう経緯で入手したのかさえ全然覚えていない、(いろいろな意味で悪名高き)フェアリー企画の1:72「満州国軍オースチン装甲車」なんてのも出てきたりしたが、これはまたいつか、機会があれば。

|

« ほっち、きっす、頬寄せて♪(3) | トップページ | キイチゴ三昧 »

かば◎の迂闊な日々」カテゴリの記事

製作記・レビュー」カテゴリの記事

怪しい在庫」カテゴリの記事

オチキスH35/38」カテゴリの記事

コメント

ご無沙汰です。
モラン、ウチにもあります。
ウチのやつは1枚ペラの組説でした。
もう一種の方が、資料として使えそうで良いですね。
もっとも、あのキットを本気で作ろうと思うと気が遠くなりますが。
(MB-200も買ったような記憶がある)

投稿: マクタロウ | 2020年5月26日 (火) 22時58分

沼の女神さまに頼んでも正しいドライブスプロケットはでてこないでしょうね(笑)
そういえば、ブロンコのオチキス誘導輪にはハブ周りの8本のボルトが表現されなくて、それも追加工作したんだよなと思い出しました。ディスク部の削り込みとかどうやったっっけな。うん、これは成仏させる必要あり、ね。

マケットの説明書は素敵ですね。簡単な組み立て説明図の他に「沼のガイドマップ」付き。1/48にしてパーツはこれだけかというシンプルさですが、それ以上に1枚でレイアウトされた説明というのは改めて魅力的。部品と構成の「全体視」ができる。
最近のキットのように複数のページにステップバイステップで作業工程を追っていくは作りやすいのでしょうが、今自分がどこの何を作ってるのか理解できなくなって不安になることもありますよね。それに比べると、1枚で完結する説明書は図鑑の類に載ってる図解みたいでなんとなく嬉しくなります。

投稿: hn-nh | 2020年5月26日 (火) 23時13分

>マクタロウさん

マクタロウさんなら、このモランG(あるいはH)も持っているのではと思っていました(しかしMB200もお持ちとか)。

モランは古い72並みの簡単なキットですが、まあ、実機も簡単ぽいし(そういえば、最初期のエデュアルドのモランLも棚の奥に寝ているはず)。

エンジンはノームですね。アフターパーツなどもありそうですが、う~ん。私は、このキットを作るときには、キットのパーツで間に合わせちゃうかな。

マクタロウさんが作ったら、ビシッとキレッキレの姿になるんだろうなあ、と思うと、とても見てみたい気がします。

投稿: かば◎ | 2020年5月27日 (水) 10時32分

>hn-nhさん

たった1つの図ですべての組立が図解されているという素敵説明図の最たるものはこれですよ!

http://kabanos.cocolog-nifty.com/.shared/image.html?/photos/uncategorized/2011/02/21/p1020212inst02.jpg

旧ソ連「アガニョーク」の「ソユーズ宇宙船」。
私が持っている怪しい在庫品の中でも、おそらく最も怪しいヤツです。
でも、キットの出来は意外なほどにいい、という……。

中身については以下でちょっと紹介しています(なんと震災前の記事)。

http://kabanos.cocolog-nifty.com/blog/2011/02/post-24a6.html

投稿: かば◎ | 2020年5月27日 (水) 10時40分

ソユーズの組み立て説明書、素敵ですね。紙質の悪い印刷など雰囲気抜群。
本物の宇宙船もこのくらいの部品数でできてそうな感じに見えて..(笑)
楽しそうなキット。1/30というと手に載せた写真みても結構でかい。

ソ連の宇宙船は昔のSFというか深海の探検装置にも思えるデザインでいいですよね。

スターウォーズもいいけど、やっぱり「惑星キンザザ」だな。
https://www.youtube.com/watch?v=9N-CaohU29U

投稿: hn-nh | 2020年5月28日 (木) 06時20分

>hn-nhさん

「惑星キン・ザ・ザ」……名前はうっすら聞いたような気がしますが、どんな映画なのかというのは、予告編と、さらにちょっと調べてみたネット上の情報でようやく知りました。

本編もモスフィルムから全編がyoutubeに上がってますね。
https://www.youtube.com/watch?v=EYHv8eJrW2Y

うーん。しかし、パパっと切り替わる英語字幕じゃよく内容がつかめないなー。

それから……何この日本語題名!
「惑星キン・ザ・ザ」じゃないじゃん!
「惑星プリュク」じゃん!
「キン・ザ・ザの惑星」なら合ってるけど!

投稿: かば◎ | 2020年5月28日 (木) 11時38分

「ガンマー第3号 宇宙大作戦」なら憶えてる

投稿: めがーぬ | 2020年5月28日 (木) 12時06分

>めがーぬさん

これは題名も何も知りませんでした。
youtubeで予告編見てみました。
なんじゃこりゃあああ(笑)。

「東映が世界に問う」というアオリに思わず笑ってしまいました。ミドリからプラモデルも出てたんですね。うーん。覚えてないなあ。

投稿: かば◎ | 2020年5月28日 (木) 14時37分

「宇宙生物が宇宙ステーションに持ち込まれ、危機的状況になる」
ってストーリーは中々なんですが
いかんせん宇宙生物があまりにもチープ。
それでも、子供視点だとけっこう怖い映画でした。

ちなみに同時期の似たような「邦画なのに外人が多いSF」に
「緯度0大作戦」っつーのがあります。
こっちは東宝なので・・・まぁ・・・それなりですかね。

投稿: めがーぬ | 2020年5月29日 (金) 22時16分

>めがーぬさん

youtubeで予告編見ました。
なんというか、
「うわぁ……うわぁ……」
としか言えませんでした。うはははははは。

投稿: かば◎ | 2020年5月30日 (土) 22時22分

古い記事にすみません。
先日、駿河屋から購入したモラン・ソルニエHが、かばさんが持っているキットでした。
まだもう一つ残ってます。
https://www.suruga-ya.jp/product/detail/603199408
注文するときに「Gと同じキットなのではなかろうか?」と思いながらポチりましたよ。
こちらの記事は後から思い出しました。

投稿: マクタロウ | 2024年8月18日 (日) 15時54分

>マクタロウさん

ええっ。元から一つお持ちだったんですよね。
(まあ、我が家にも2個分あるわけですが)

まあ、もともと「GでもHでも行けますよ」的キットではありましたが(もひとつ言えばファルツでもOK)。

投稿: かば◎ | 2024年8月18日 (日) 22時35分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« ほっち、きっす、頬寄せて♪(3) | トップページ | キイチゴ三昧 »