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LET IT BE

"I Dig a Pygmy", by Charles Hawtrey and the Deaf Aids.

Phase One : in which Doris gets her oats.

●5月8日はビートルズのアルバム、「LET IT BE」のイギリスにおける発売日で、今年はその50年目なのだ――というのを、facebookでの知人の書き込みで(日付が変わる直前に)知り、駆け込みで聴き始める。"DIG A PONY"あたりで日付が変わった(時差が8時間あるからOKだ)。

有名な話だが、「LET IT BE」は、ビートルズの「最後に発売されたアルバム」ではあっても「最後に録音されたアルバム」ではない。アルバム制作そのものをドキュメンタリー映画として撮るという特殊な環境下で続けられた、だらだらとメリハリのないセッション。録音された音源は膨大になったもののアルバムとして仕上がるまでに紆余曲折があり、その間に、後から録音された「Abbey Road」が発売。一度はお蔵入りになったアルバム「GET BACK」が再編集されて「LET IT BE」として発売される頃にはビートルズ自体がすでに分解していた、という次第。

しかし、私はどうしてか、このアルバムが一番好き。

他のアルバムが「とにかく綺麗に整えられている」のに対して、「LET IT BE」はどうにも"ユルイ"というか――「スタジオ・ライブだから」と言ってしまえば聞こえはいいものの(それならそれでノリとか即興の緊張感とかがあって然るべき)、要するに、アレンジで取り繕っているものの、演奏にどうにも締まりがない。でも、それがいいのだ。果物は腐る直前が美味いというか、表に出ていないところで壊れていくのがそこはかとなく感じられる(と、後付けで思っているだけかもしれないが)寂寥感がイイとか。

今は音楽を聴くにもほとんど「ながら」で、PCで漫然と流していることが多いのだけれど、それでも、「LET IT BE」に関しては、最初のジョン・レノンのおふざけフレーズ、「あ~ぃ、でぃが、ぴぐみぃ~!……」だけでもうゾクゾクしてしまった感覚を時々は思い出す。

●その「I Dig a Pygmy!....」をはじめ、曲間にちょっとしたセリフとか戯れ歌が挟まるのもこのアルバムの特色で、その一環として、(これは正規に録音曲目としてカウントされているが)曲「レット・イット・ビー」の直後に、港町リヴァプールの俗謡「マギー・メイ」が入っている。

……に関するトリビア。

ディズニーの映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」の現時点での最新作(5作目)、「パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊」には、ポール・マッカートニーが主人公の叔父「ジャックおじさん」として特別出演しており、牢屋のなかで朗々と「マギー・メイ」を歌っているシーンが収められている。

同シリーズの第3作には、主人公の父親としてストーンズのキース・リチャーズが出演している。キース・リチャーズが父親で、ポール・マッカートニーが叔父! ジャック・スパロウ船長、パねえな!

●前述の「だらだらと続けられたメリハリのないセッション」(いわゆるGET BACKセッション)に関して言うと、その録音テープは、海賊版の多いビートルズの中でも特に定番の音源になっている。

昔、主に西新宿の「海賊レコード屋」で結構ビートルズの海賊盤を買い漁っていた時期がある(その近所に伝説のAFV模型屋、MOKがあった頃だったか、あるいはそれより前か)。そんな中で手に入れた「SWEET APPLE TRAX」はGET BACKセッション由来の海賊盤としては名盤で、海賊版にしては珍しく、カラーの立派なジャケ入りの2枚組(当然、レコードの時代)。

もっとも、最初に聴いたときにはあまりのメリハリのなさぶりに愕然としたものだった。何しろ一曲をちゃんと通して演奏しているものがほとんどなく、不真面目で断片的なものばかり。こんなもん、海賊盤としてでも出す価値あるのか?と最初は思ったものの、しばらくすると、それはそれで面白いと思うようになった(最終形態では消えてしまったフレーズがあったり、録音時期としてはしばらく後になるABBEY ROADや、解散後のソロアルバムに収められた曲の原型があったり。「DIG IT」のロングバージョンや、「SUZY PARKER」も、これで初めて聴いた気がする。(追記:改めて調べたら、「DIG IT」のロングバージョンも「SUZY PARKER」も「SWEET APPLE TRAX」には収録されていないっぽい。記憶、アテにならなすぎる!)

もっとも、GET BACKセッションの海賊盤としては、その後donjiさんから借りたCD17枚(?)組というバケモノみたいなヤツには負ける。

しかしそれらをひっくるめて、こうした「未発表音源」は、最近はほとんどyoutubeなどで聴けるようになってしまい、海賊盤漁り自体が"今は昔"の話になってしまった。

●なお、発売されたアルバム「LET IT BE」は、お蔵入りになったアルバム「GET BACK」の音源をジョンとジョージがフィル・スペクターに託して再編集されたものだが、ポール・マッカートニーは「勝手にいじられた」とひどく立腹した(特に「ロング・アンド・ワインディング・ロード」のオーケストラ)。

それだけなら単なる「LET IT BE」制作裏話だが、なんと発売から30年以上経って、ポール・マッカートニー主導のもと、フィル・スペクターのアレンジを排し、「これがもともとあるべきだったアルバムの姿」という触れ込みで、「LET IT BE...NAKED」が発売された。

まさにポール・マッカートニーの怨念の所産という感じだが、実際に発売されたものの内容は、「本来目指していた、自然な感じの演奏」かといえば……例えて言えば、よくネット上で話題に上っている、「美しすぎる芸能人のスッピン画像」みたいな感じ。「いや、確かに厚塗りの化粧はしていないかもしれないけれど、それ以前に画像いじってんじゃね?」と言いたくなる不自然さ。

発売時にさっそく買って聴いたのだけれど、私の当時の印象は「なんだかウィングスがビートルズの曲を再録して作ったみたい」。ビートルズマニアの後輩は「海賊盤以下」と切って捨てていた。結局、その当時何度か聴いたものの、今はCD棚のどこかに埋もれて全然聴いていない。はっきり言って、ビートルズの音楽における黒歴史以外の何物でもない気がする。

●鎌倉・小町に何か月か前にオープンしたダジャレ・パン屋、「BREAD IT BE」についてはあえて触れぬ。

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かば◎の迂闊な日々」カテゴリの記事

コメント

NHK-FMで「ディスカバー・ビートルズ」という番組が4月から始まっているのはご存知でしょうか.1年間かけてビートルズの最初から最後までをやるそうです.日曜日午後9時からの1時間番組です.

投稿: 青木伸也 | 2020年5月 9日 (土) 16時45分

(・∀・) 去年の今頃は84枚組Get Back Session complete でクタクタになって悶絶してました.....。

投稿: donji | 2020年5月 9日 (土) 17時38分

>青木君

おおぅ。ラジオを聴く習慣がないもので、それは全く知りませんでした。
でも、手元にラジオがないや……と思ったんですが、ネット経由でパソコンで聴けるのかな。

日曜ってことは明日ですね。

投稿: かば◎ | 2020年5月 9日 (土) 18時04分

>donjiさん

実は上の記事を書くのにゲットバック・セッションのことを検索して、そこで84枚組の存在を知って気が遠くなりかけたところでした。
えーーーーーー。donjiさんあれ入手したの!?

さすがにそれは「借りたい」って言いません(笑)。

ちなみにdonjiさん的には「naked」の評価はどうスか。

投稿: かば◎ | 2020年5月 9日 (土) 18時06分

84枚組:聴き終えての感想 「いまからでも遅くないから原隊に復帰して普通のビートルズファンに戻りたい」

naked: トゥイッケナムの寒々しさも、アップル地下スタジオの詰め込み感も、屋上パフォーマンスの開放感空気感も胡散無償しちゃってまぁ、「アウトオブ問題外、デジタル模造品につき以後この手法を禁忌とすべし」

であります。せめて「おかげさまでオーディションに合格できたと存じます」くらいは収録してくれって(^^;)

投稿: donji | 2020年5月 9日 (土) 21時51分

NHKらじるらじるで1週前の放送まで聞けるようになっています.5/3の放送では中盤のコーナーでラトルズがかかってました.

投稿: 青木伸也 | 2020年5月 9日 (土) 22時45分

>donjiさん

さすがにdonjiさんでも84枚組はきつかったですか。
……っていうか、84枚組を一気に聴くというのがちょっと(笑)。

donjiさんも「naked」酷評ですね。
おおよその傾向として、ビートルズ・マニアであるほど、「naked」の評判は悪いような気がします。
たぶん、あまり思い入れのない人だと、「あ~。音が綺麗になってるの?」くらいで聴いちゃうんだと思うんですが。

>青木君

さっそく先週分聴いてます。
えっ。ニール・イネス死んじゃったのか……。

投稿: かば◎ | 2020年5月10日 (日) 00時15分

1日1枚ペースで3ヶ月かかりましたw
当時編集を任されたグリン・ジョーンズや
フィル・スペクターの呆然漠然のキモチがよくわかったような
気がしました。気が。

ラトルズと言えば、パンクルズというビートルズ・トリビュートバンドが、
ビートルズのカバーにラトルズのカバーを紛れ込ませてたことがあり、
なんつー手の込んだことを! とニヤニヤしたことがあります(°▽°)

投稿: donji | 2020年5月10日 (日) 14時25分

>donjiさん

>>1日1枚ペースで3ヶ月

それはもう何かの修行のような。
他では聞けないような素敵なテイクとかありましたか?

バングルズなら「Manic Monday」ですが、バンクルス、なんですね。それは聞いたことがないかも。
最近たまたまyoutubeで聴いたビートルズ・トリビュートバンドで「The Analogues」ってのがあるんですが、ホワイト・アルバムを(レボリューション9を含めて)全編ステージで演奏していて感心するやらおかしいやら。
(「バンガロー・ビル」の最後で「Hey, O....」と叫んで「ジェントリー・ウィープス」に入る、というのもきっちり再現しています。マニアってのはもう(笑))
https://www.youtube.com/watch?v=fase-ART0VM

トリビュート・バンドがマニアをニヤリとさせるというと、「DIG A PONY」を「All I want is...」で歌い始めるというのも、割と定番な気がします。

投稿: かば◎ | 2020年5月10日 (日) 15時35分

あ、パンク風カバーでパンクルズ。綴りは Punkles、だったかな。

しっかし、
Revolution 9をステージでぇ?アヒャー(°▽°)

するってぇと、「なんば無いの、なんば無いの」はもちろん、
ジョージの「エルドラード」とかジョンの「ふんがも!ふんがももももも!」とかヨーコの「もしもスッポンポンになったらーん(英語で)」とか終盤の「おったんちん!おったんちん!」もやるってことですかい?いやまいったな(^^;)

トリビュートバンド各位は、みんな趣向を凝らして
屋上パフォーマンス再現をやってくれるので、YouTube 見てると楽しいです。

投稿: donji | 2020年5月10日 (日) 16時19分

>donjiさん

Punklesでyoutube検索したらごそっと出てきました。
本当にパンクや……。
残念ながらラトルズネタは上がっていませんでした。

アナローグスはオランダのグループで、「ビートルズがライブをやめて以降の作品を(アルバムごとに)ステージで再現する」というのをテーマにしているようです。
姿形などはまったく追求していない代わり、楽器はほぼ当時のものを使い、演奏はなるべく正確にという方向性のようです。

投稿: かば◎ | 2020年5月10日 (日) 23時00分

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