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Old Gun Base

●毎年秋は、決まって請ける季節仕事でわたわたする。

実を言えば今年は奇跡的に早くスタートしたので、最初のうちは「いぇ~い。余裕♪」なんて思っていたのだが、結局、後半はいつも通りに怒涛の催促に見舞われた。いかんね。

その仕事も先週末ですっかり片付いたので、とりあえず今は嵐の後の薄らボンヤリ状態。

Screenshot_20191115144952 ●上記仕事の最後のジタバタで、先週は水~金と神保町に日参していたのだが、金曜日は午前中に発注元に資料を持って行った後は、「何か問題があったら呼んでください」と言って、事務所で待機状態。

特にすることもないので、午後、北の丸公園から千鳥ヶ淵方面に散歩に出た。竹橋から英国大使館方面に抜ける、いわゆる「代官町通り」沿いに、大戦中の対空機銃の台座が残されているというのを(割と最近)知ったので、それを見に行くというのが第一目的。神保町~一ツ橋近辺にはもう何十年も通っているにもかかわらず、そんな遺構があるのは知らなかった。

代官町通りの西半分は、通りの南側は皇居の塀、北側は千鳥ヶ淵との間の堤になって一段高くなっていて、堤の上は「千鳥ヶ淵さんぽみち」と言う名の遊歩道になっている。件の台座は、この「さんぽみち」上にある。行ってみてわかったが、「Old Gun Base, Chiyoda」の名称で、「Pokémon GO」のポケストップにも採用されていた。

上では「対空機銃」と書いたが、実際には20mmの対空機関砲の台座で、コンクリートでできた二重円筒状のもの。「千鳥ヶ淵さんぽみち」の、そのまた西側に、割と近接して7つ存在している。配置は一直線でも円弧状でもなく不揃いだが、それぞれの間隔は同じくらい(10m程度)。(11/21追記。これに関して、hn-nhさんから「かつての配置と違う」という情報を頂いた。後述。)

20191115_144739 20191115_145124 20191115_145139 20191115_145154 20191115_145208

最初の1枚は、台座のある場所全体を東端から見たもの。2枚目以降は、東端から順番に4つ目まで。

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次は途中から、西側の3基を眺めたもの。続く写真は5基めと6基め。最西端の1基は、ちらりと写っているように、外国人のカップルが仲良くお弁当中(さらにその後はイチャイチャ中)だったために個別写真は撮れなかった。

1基の全体の直径は、測ってはいないが、目測で170cm程度だろうか。2mはなかったように思う。実際に使用されていた時にどういう状態だったのかは(きちんとした資料等が検索で見当たらなかったので)判らないが、内側の一段高くなった円筒上に、高射機関砲のターンテーブル状の砲架が載っていたのではないかなあ、と思う。現在は、ベンチとして使用することを考えてだと思うが、薄い自然石のプレートがモザイク状に張られている(一部剥がれたりしているけれど)。ちょうど腰掛けるのによい高さだけれど、内側の段自体が後から作られたもの……ではないような気がする。いや知らんけど。

ここに据え付けられていた高射機関砲に関してだが、環境省の「千鳥ヶ淵さんぽみち」紹介のページにも、「代官町通り沿い堤塘に残る「高射機関砲台跡」」とあるだけで、詳細は書かれていない。ほか、ネット上でヒットするのは、この台座の探訪記に類するものばかりだが、それらによると、

だそうだ(おおもとの出典は何なのだろう?)。

九八式二十粍高射機関砲は名称の通り1938年に正式化されたものだが、その後、これをベースにいろいろ改良型・発展型が作られたらしく、そのうちどんな仕様のものがこの台座に据え付けられたのかはよく判らない。

台座の格好を見る限りでは、中国で鹵獲した「ラ式二十粍高射機関砲(要するにFlak30)」を参考に砲架を新型にした改良型、二式二十粍高射機関砲あたりが怪しそうだ(Flak30のように、ターンテーブル式の架台付きだったようなので)。

wikipediaの記述に、さらにその発展形として出てくる二式多連二十粍高射機関砲というのも怪しい。専用の指揮装置をつないで、複数の砲が連動して目標を追尾する画期的なシステムだが、昭和19年に正式化されたものの16門が製造配備されただけ、とある。しかし、そんな虎の子の新兵器であればこそ、皇居防衛用に使われたとしても不思議ではない(陣地の構築時期とも合致する)。もっとも、このシステムは「6基が連動する」とあるので、台座が7基あるこの場所とはちょっと齟齬がある(いや、1基は照準装置用だったとか……)。

●なお、この対空機関砲陣地の有効性に関して、「高度10000mを飛来するB-29に対しては(まったく弾が届かずに)役に立たなかった」という記述が多いが、20mmクラスの対空機関砲は低空で飛来する小型機が主な目標で、大型爆撃機相手はそもそも想定されていないはず。おそらくこの高射機関砲陣地は、低空からピンポイントで皇居が銃爆撃される危険に対処すべく設置されたのだと思う。いやまあ、陸軍のことなので、本土空襲が始まって、とにかく「皇居をお守りする」格好だけでも付けなきゃイカンというので、届くとか届かないとか関係なしに「何か置いとけ~」と作った可能性も皆無ではなさそうだけれど。

ちなみにB-29が高高度から爆撃を行ったのは本土空襲の初期だけで、その後は低空爆撃に切り替えているため「高度10000mを飛来する」というのも誤りだが、その「低空」も高度2000m前後だったようなので、20mm機関砲クラスでは有効射程ギリギリというところだろう。

●11月21日追記。

機関砲台座の配置に関し、上で「配置は一直線でも円弧状でもなく不揃い」と書いたが、hn-nhさんからのコメントで、かつてと現在とでは台座の位置が異なっている旨、ご指摘を頂いた。

根拠は、終戦後間もない時期の米軍による空撮写真。以前にも逗子~横須賀あたりの高角砲台をレポートする際、過去の様子を探るのによく利用している国土地理院の「地図・空中写真閲覧サービス」に出ているものだが、今回は(台座それ自体が大きなものではないこともあって)参照するのをころっと失念していた。というわけでで、下は米軍による1947年9月8日撮影、写真整理コード「M451-33」から切り出したもの(hn-nhさんがコメントで引用したものとは同日・同コースの一連の写真の1枚違いだが、基本、写り具合は同じ)。

Chidori

ほぼ同じ範囲をGoogleMapsで表示させてみたのがこちら。一部樹木に隠れていて7つ全部は確認できないが、とにかく、上写真とは全く配置が異なっている。

戦後すぐの状態を見ると、hn-nhさんのコメントの通り、北側に向けて扇形に6基、さらに扇の要部分に1基が配置されている。また、現状のようにただコンクリート製の台座があるだけでなく、周囲をドーナツ状に土塁で囲っているらしいことも判る。ちなみに国土地理院の上記ライブラリには戦時中(1944年)撮影のものもある。解像度があまり高くないので引用は上の写真としたが、戦時中のものをみても、配置は扇型であったことは確認できる。

そもそもこうしたものが現存しているのは、コンクリートでがっちり構築してしまっておいそれと撤去・移動できないからなのだと思っていたのだが、この機関砲座に関しては、少なくとも「処分するには金がかかるから」程度の理由はあったかもしれないが、「簡単に動かせない」というものでもなかったようだ。

それにしても、こんなふうに「扇形に6基、要に1基」という配置だと、6基が実際の機関砲で、1基は管制装置だったかもしれず、となると、装備された砲が、上でちょっとだけ触れた(6基+管制装置で一組だったという)「二式多連二十粍高射機関砲(ケキ砲II型)」なるものであった可能性がちょっと上がってきた気もする。

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コメント

どの駅からもそこそこ時間がかかるので千鳥ヶ淵の機銃座跡は未見です。例によって米軍の戦後撮影の空中写真(1947/09/08_USA-M451-34)を見ると、https://imgur.com/pFb0gYq
北側に向けて扇型に展開する6つの銃座と扇の要部分にもう一基(測距儀を置いた?)の合計7基があるのがわかりますね。いずれも円形の土塁に囲まれていたようです。

現在、扇型の配置で残ってないのは、ひょとすると公園整備の時に少し動かしたのかもしれませんね。

戦後、石を貼ってベンチに仕立てたお茶濁し的な「偽装」には、余りそそられないですね。ジャングルジムの土台にするとかバーベキューテーブルにするなどもっと積極的な使い方も考えられるし、その気になれば撤去も簡単にできそうだけど、そうしないのは、やっぱり将来また役に立つ時がくることに備えて保存してるのかなー(笑)

投稿: hn-nh | 2019年11月18日 (月) 20時16分

>hn-nhさん

なんと!

この手のものは、「おいそれと動かせない/撤去できない」から再利用するものだとばかり思っていたのですが、わざわざ動かしてベンチにしているとは……。

すると、それほど深さがあってがっちり設置してある、というものではないのかもしれませんね。

国土地理院の航空写真で最近のものを見ても、樹に遮られてちゃんとは位置が比較できるものがないようでしたが、とりあえず、今の位置が不規則なのは、GoogleMapの航空写真でも(全部ではありませんが)確認できます。
https://www.google.com/maps/place/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E9%83%BD%E5%8D%83%E4%BB%A3%E7%94%B0%E5%8C%BA+%E4%BB%A3%E5%AE%98%E7%94%BA%E9%80%9A%E3%82%8A/@35.6883134,139.7464947,123m/data=!3m1!1e3!4m5!3m4!1s0x60188c6e4876b03d:0xf7bbc896cde6a926!8m2!3d35.6893408!4d139.7508664

>>どの駅からもそこそこ時間がかかるので

半蔵門線の半蔵門駅(九段下寄り出口)からなら、5分くらいで行けますよー。

投稿: かば◎ | 2019年11月19日 (火) 09時46分

地中深くに固定されてない直径170cm程度のコンクリートの塊りなら動かすのはさほど難しくはないでしょうね。クレーンやブルドーザー使わなくても、造園屋さんは大きな庭石を動かしたりしてます。足場丸太で三又に組んだやぐらに掛けたウインチで石の片側を少し吊り上げて、隙間に差し込んだ棒を梃子に使って押したり、他の固定物にかけた水平ウインチでひっぱったり。全てを浮かせなくても一点で釣り合う状態にすると物体は簡単に回転するのでそれを繰り返すと大きな物でも少ない力で動かせるという話です。

皇居の平川門の近くのエリアにある3つのサークルが何かのか前から気になってます。
https://imgur.com/raFo1Oe

投稿: hn-nh | 2019年11月22日 (金) 05時33分

お久しぶりでございます!
うちの近所は高射砲などの跡地はなく防空壕は沢山ありました
台座部分のコンクリは一般的な物とはやはり強度が違うのでしょうかね?

あと東京AFVの会には今年も来られるのでしょうか?
来られるようなら声かけてくださいね~また夕飯でも食べに行きましょう。

投稿: ケン太 | 2019年11月22日 (金) 22時12分

>hn-nhさん

>>平川門の近くのエリアにある3つのサークル

「行ってみたらただの花壇だった」なんてこともありそうですが、確かにこれは気になりますね。
立ち入り可能エリアなのかどうかが問題ですが、行けるようなら確かめてみたいです。

>ケン太さん

お久しぶりです!
今年は持って行く作品が何にもなくて恥ずかしい限りですが、行くつもりです(というか、現在当日朝で出掛ける準備中です)。では会場で。

投稿: かば◎ | 2019年11月23日 (土) 08時38分

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