戦うプーさん/「クブシュ」Mirage HOBBY 1:35
●令和に入って作り始めたものが2つ。片方は先日レビューを上げた、THE WORLD AT WARの1:72、II号戦車b型で、これもある程度作業が進んだら再度レポートを上げるつもり。そしてもう一つが、今年の初めに「そろそろ手を付けるか~」と書いた、Mirage HOBBY 1:35のクブシュ(Kubuś)。というわけで、そのクブシュの製作記第1回。
平成年間のお手付きキット多数、場合によっては昭和の頃に手を付けて放置してあるものもあるはずで、「作るならそっちを先にしろよ」というものはいくらでもあるのだけれど。
●これまでにも散々書いているけれども、クブシュ(Kubuś)は、1944年夏のワルシャワ蜂起の際に、市内ポヴィシュレ地区にいたポーランド国内軍の1部隊(「クリバル」部隊)が、ドイツ軍の拠点となっていたワルシャワ大学の攻略用に1輌でっちあげた即席装甲車。より詳細な実車解説は、
▼wikipediaの日本語記事:とりあえず現時点で、日本語でクブシュの概略を知るにはコレ(のはず)。
▼Samochód pancerny "Kubuś":ポーランド語の実車解説、作戦解説など。google翻訳さんあたりに頼ろう。
そもそもガレージキットでも出たらスゴイと思うようなネタなのだが、自国ポーランドのMirage HOBBYが、1:35と1:72でまさかのインジェクションキット化を果たしてくれた。愛されてるなあクブシュ。発売されたのは2014年で、私も早速購入した(……だけで、今まで積んだままになっていた)。その頃からの当「かばぶ」の過去記事は、
▼「クブシュ!」:Mirageからのキット化を聞いて喜んで書いた記事。ポーランド・ワルシャワに現存している実車とレプリカの話、およびその識別点など。なお、記事内の実車walkaroundへのリンクは切れているので注意。2014年4月19日。
▼「MIRAGE HOBBY 1:35 Kubuś」:キット入手時に書いたレビュー。おおよそのキット内容、実車の溶接ラインとキットのモールドの比較、ベース車輛に関する若干の考察など。2014年8月8日。
▼「浮島」:今年初めに書いた雑記。後半に、クブシュの資料等について触れている。2019年1月30日。
上に書いたように、過去記事で紹介したウェブ上のクブシュのwalkaround写真はリンク切れになっているので、現時点で閲覧可能な、実車写真が見られるサイトをいくつか。
▼KUBUŚ - Powstańczy Samochód Opancerzony - MWP / MPW [FOTO](ポーランドの模型関係の掲示板に貼られたもの)
▼strefa cichego(クブシュ以外にも、結構マイナーな車輛、砲などの写真があるサイト)
▼MUZEUM WOJSKA POLSKIEGO - Powstańczy samochód pancerny "Kubuś"(写真点数は少ないが、現存実車を所蔵しているポーランド軍事博物館の所蔵品紹介ページ)
▼Odrestaurowanie wnętrza samochodu pancernego Kubuś(何やらポーランド語の確認窓など出たりするので注意。現存実車の比較的最近のレストア。一応、記事の日付は2015年9月。内部の設備あれこれはたぶんオリジナルと全く違っているが、二重装甲の様子などが観察できる。前面外側装甲を貫通した銃弾が内側装甲で止められていることなどが判って興味深い)
▼Samochod pancerny Kubuś - ostatni z remontów.(上記事の続編で、記事の日付は2015年11月。同じく確認窓に注意。さらに多数の内部写真)
▼Ćwiczenia załogi i desantu powstańczego samochodu pancernego "Kubuś"(イベントに引っ張り出されたクブシュの動画。ディテール・ウォッチにはたいして役立たないが、床下にしか出入口がないクブシュの乗降の大変さが判る。他にもyoutubeには、ワルシャワ大学襲撃の再現イベントに引っ張り出されたクブシュ実車の動画などが上がっている)
▼Samochód pancerny "Kubuś" znowu jeździ (wideo)(走行可能にレストアされたクブシュ実車の動画。自走可能で作ったレプリカの立場が……)
▼Panzerserra Bunker - Kubuś - Polish armoured car / armoured personal carrier - case report(モデラーによる製作解説ブログ。出所は不明だが寸法・角度データ図などもあり。vol de nuitさんに教えて頂いた)
ただし、現存実車は(車内だけではなく外観上も)若干の戦後の改修が入っており、少なくともワルシャワ蜂起当時のクブシュの再現を目指すのであれば鵜呑みにできない部分もあるので注意が必要。
●表題は、ポーランドで「くまのプーさん」が「クブシュ・プハテク(Kubuś Puchatek)」と呼ばれて親しまれているため。
ただし、この装甲車自体は直接くまのプーさんにちなんで名付けられたわけではなく(一時は日本語版wikipediaにそのような記述がされていたこともあるが、現在は表現を弱めてある)、製作主任であった技術者、ヨゼフ「グロブス」フェルニクの戦死した妻のポーランド国内軍メンバーとしてのコードネームからのもの。クブシュという単語自体はポーランドで一般的な男性名「ヤクブ」の愛称であり、グロブスの妻のコードネームがプーさんをイメージしていたかどうかは定かではない。
もともとコードネームは秘密活動用のものなので、性別が違っているのはそれほど奇異ではないようで、実際に出撃時に運転手を務めたフィヤウコフスキ軍曹は女性名「アナスタシア」のコードネームを持っている。
ただし、指揮官のタデウシュ・ジェリニスキ士官候補軍曹のコードネームは「ミシュ」(熊/テディベア)なので、プーさんとの何らかのイメージのつながりはあったのかもしれない(もちろん、クブシュ以前からずっと「ミシュ」と名乗っていた可能性も大いにある)。
●製作方針。何しろ車外装備品の類はほとんど何もない(ノテク・ライトと車幅表示棒程度)ので、その方面で精密度を手は使えない。
キットは車内もある程度表現されているものの、おそらく実車は長らく放置されている間に車内のアレコレは一度喪失していて、近年の車内写真も撮影時期によって(椅子等が)がらりと変わっていたりするため、それら資料写真は(少なくとも戦時中の状態の再現には)役に立たない。もともと、私自身が「模型は基本、外から見えるところだけでいいや」派であることにもる。
というわけで、基本は表面の装甲板の溶接表現に手を入れることを中心に進める。なお、装甲板の面構成について、一部「実車とちょっと違うナー」と思う場所もあるが、解消しようとすると大幅にプラバンで車体を構成し直す必要が出てくるため、(面倒くさいので)それには目をつぶることにする。要するに具体的には、
- 位置の修正、強弱(太い細い)を含めた溶接跡の再現
- 実車の工作の粗さ、微妙な左右非対称の再現
を目指す。
なお、キットは天井に防盾が追加され、操縦手用の視察口が改修された、2回目の出撃以降の姿を再現している。最初の出撃時の姿というのも興味があるが、とりあえず、ネット上や資料本等で見かける当時の写真も改修以後のものばかりで、改修以前の姿は文章で触れたもの以外見つからなかった。また、キットの説明書には出撃で負った弾痕位置の説明なども入っているが、そこまで再現するかどうかは現時点では決めていない(面倒くさいし)。
●1st Step。おおよそ説明書の指示に従って、シャーシから組み立て始める。
キットにはエンジンも入っているが、総じてだいぶおおらかな出来。一応、エンジンから駆動軸が後輪デフまで繋がってますよーくらいの感じだが、この辺は、組み上がってしまうとほぼ全く見えないので、個人的には気にしない。そもそも、ベース車輛がシボレー155であるのか、シボレー157であるかも(少なくとも現時点で私には)よく判らず、しかもその両者とも詳細資料など手元にないので、こだわりようがない。そんなわけで、この部分は基本、キットの指示に従ってパーツを付けていくだけ(むしろ、いくつか部品を省略)。
なお、前輪もステアリング機構は丸無視。パーツにハンドルは付いているのだが、ハンドルシャフトはなぜかエンジン側面に繋がっているという謎レイアウトになっている。
ただし、キットの車輪だけはレビューで書いた通りあまりにプアな出来なので交換の予定。
ちなみにキャビン内からエンジン部分や前輪ハウジングが筒抜けになっているが、少なくとも実車の現状ではその通りになっている。
●装甲車体基本形は大きく左右分割されている。ただし、位置合わせのダボなどは一切なく、また、若干のバリなどもあって、ズレが発生しないかちょっと気を遣う。私は内部の作り込みはせず、ハッチも閉めてしまう予定ということもあって、分割線上に0.3mmプラバンの切れ端などを貼って位置決め/接着部の補強を行った。
キャビン前面は別パーツ。本体との合わせは微妙に合っていない感じで、若干の削り合わせを必要とした。
操縦手前面の視察口、および操縦手左の視察スリット部に貼り増した板、エンジンボンネットおよび車体後端スカートの車体側ヒンジは、どれも寝ぼけたモールドだったので、後々作り直すことにし、この段階ですべて一度削り落とした。
レビューでも書いたようにキットの溶接ラインのモールドは一部で位置がずれており、また、(レプリカと違って)実車では場所によって太かったり細かったり、非常に工作の粗さが目立つ仕上がりになっていて、それがクブシュ実車の特徴ともなっている。これに関しては全面的に入れ直すつもりで、これまたすべて削り落とした。
以上の作業の過程で、特に車体左側面および後面のピストルポート(あるいは視察口?)の位置がちょっと気になったので、この2か所は開け直すことにして一度埋めた。
後面に関してはキットよりもやや下に、左側面はやや上に開け直す予定。
溶接跡に関しては、いつも通り、伸ばしランナーを貼って溶かす方式の予定。ランナーの色が違うと溶接線の太さの違いが把握できなくなるので、タミヤの同色のランナーを使って微妙に太さの違う伸ばしランナーを量産した。
●製作方針の項で触れた、装甲板の面構成自体の「ちょっと違うナー」について。例えばラジエーター用ルーバーのある最前面の上の細長い装甲板だが、この下端の角度が、実車に比べるとかなり開き加減になっている。
上右写真で黄色で示した部分。下はwikimedia commonsから拝借してきた実車写真。
その面の後ろに連なる(ボンネット側面にあたる)装甲板の上下幅にも少々関わってくる。
実を言うと、多少なりと問題を改善しようと、上左写真(車体右側面)では、問題の角の上辺に繋がる面を少し削り込んで、わずかではあるが角度を鋭くしている。車幅表示棒取付部の凹を埋めた後がエッジにかかっているか、いないかで削り込みが判ると思うが、角度の変化自体はパッと見て判るほどには変わっていない。というよりも、おいそれと変えられない。
それも当然で、上写真に黄色で示した2辺によって、上の面の角度はおのずと決まってしまっているわけなので、ここを大胆に削り込むと、この面が明らかな曲面になってしまう。それを防ごうと思うと、このあたり一帯をすべてプラバンで作り直す必要が出てくる。
そんなわけで、これらの点に関しては、「誤魔化せる部分は誤魔化せる範囲で」という、比較的ヌルい姿勢で臨む予定。
なお、工作自体も、気が向いたときにゆるゆると進めていく感じになると思う。
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コメント
かば◎さん
クブシュ:どこかのお菓子か!?みたいな名称の装甲車。
見かけは厚紙細工としか思えないのですが、実用性があったものか?虚仮威しだったのか?という疑問符がつく装甲車ですね。
迷彩塗装された姿がまたサメか何かを思わせる感じが。
投稿: hiranuma | 2019年6月13日 (木) 22時45分
おおお、ついにかば◎さんによるクブシュ製作記が...!
私もこれを参考に格闘してみようかなぁ...笑
続編がとても楽しみです。
ご存知かもしれませんが、下記サイトも製作時の参考になりそうです。
http://panzerserra.blogspot.com/2015/10/kubus-polish-armoured-car-armoured.html
投稿: vol de nuit | 2019年6月14日 (金) 02時36分
>hiranumaさん
兵器の有効性というのはあくまで相対的なものなので、トラックベースの簡易装甲車でも歩兵相手には重大な脅威ですよ~。
もっとも拠点攻略に使われたので、参加した作戦は2度とも失敗に終わっていますが、破壊されずに残っているのは立派かと。
詳しくはwikipediaをどうぞ。
>vol de nuitさん
このサイトは知りませんでした!
解説の上の方ではシボレー157がベースと書いてあるのに、下の方ではシボレー155に変わっていたり、ちょっと「?」な部分はありますが、現在のレストア・クブシュがGAZ 51ベースのシャーシを使っているとか、寸法・角度の図とかは非常にありがたいです(ボディは基本、大きくいじらない予定ですが)。
レストア・クブシュのエンジンがその後フォードGPAに変わっているというのは、「え?本当?」という感じですが(GPAのエンジンて、要するにジープですよね……)。
記事中の参考サイト一覧に加えさせていただきます。
投稿: かば◎ | 2019年6月14日 (金) 14時14分
モールドを全て削ぎ落として面出しするモデリングを見ると、なぜかme20さんを思い出します。
薄い鉄板を継ぎ合わせたフォルムがこの車両の特徴だから、きっちり面だしする作業が効いてきそうですね。溶接跡も正規車両の工場での半自動溶接と違って、て仕事のラフさを(汚くみえないように)表現するのが楽しそうです。
車内や車体裏など見えないところはこだわる必要はないと私も思いますが、キットのエンジンドライブシャフトのディテールの気の抜けかたは!
投稿: hn-nh | 2019年6月14日 (金) 18時59分
>hn-nhさん
写真を見て頂けばわかるように、表面は「ざっとモールドを削り落としている+α」程度で、me20さんの美しい面出しなどとはとても比較になりませぬ。
実際、上記のボンネット横下面など、ぱっと見で判らない程度にわざと曲面にしちゃったりもしていますし(^^;
キットの駆動系は、確かにミニスケールキット並みです。
しかし(継手の表現は置くとしても)ドライブシャフトをこんなど真ん中で「ヘの字」曲げるやり方があるんですねえ。……って、本当にそうなんだろうか。
投稿: かば◎ | 2019年6月14日 (金) 23時41分
2009年版タルチンスキ本のクブシュの章の機械翻訳などメールさせていただきましたが、そちらに届いてるかしら?
アドレス違いや容量制限などでサーバーにはねられてて届いてなかったらお知らせください。(あいつ、資料くれると入ったままちっとも送ってこない。。なんてことになってなければいいな、との確認までにご連絡)
投稿: hn-nh | 2019年6月16日 (日) 07時15分
>hn-nhさん
たったいまメールを確認しました。
どうもありがとうございます!
私の持っている旧版タルチンスキ本も、私が以前機械読み取り/機械翻訳を試みた結果を持っているので、それとも比較しつつ、じっくりと拝見させていただきます。
うー。楽しみ。
投稿: かば◎ | 2019年6月16日 (日) 09時09分
2009年版の増補改訂版もGoogle先生の翻訳で読む限りは、Kubusに関しては特に新知見が加わったりしている訳ではなさそうですね。塗装色を推測するヒントなどがどこかにあれば..と思ったのですが。
テキストから得られる模型的なヒントというと、タイヤ部分の側面保護装甲はメンテナンス用にボルト止めになっていたようですね。それを踏まえて実車写真を観察すると、側面装甲のエッジに対して鉄板1枚分の面違いになっているのが確認できます。
模型では一体成型になってるようですが、それは切り離して、プラ板でつくったパーツを上から貼ってやると、よりリアルかも知りません。
投稿: hn-nh | 2019年6月16日 (日) 17時37分
>hn-nhさん
はい、ここは作り替える予定でした。
ただ、0.3mmプラバンだとちょっと厚過ぎ(段差が付き過ぎ)になる一方で、金属板だと変形と塗料の剥離が怖く(かといって真鍮やアルミ、銅ではなく、ステンレスでは扱いづらいし)……と、しばし悩んだ結果、現状、腰のあるタミヤの透明プラバン(0.2mm)を使おうか、というところに行きついています。
スチロール樹脂なので接着や塗装にも特に問題がなさそうだし。
そういえば、昔、グンゼのIII号かIV号は透明プラバンをカットしたシュルツェンが入っていたような……というのを思い出しました。
投稿: かば◎ | 2019年6月16日 (日) 19時13分