「ポテ」か「ポテーズ」か
●ブレゲー27のついでに、戦間期フランス機(とそのキット)について少々。
そもそも戦間期の機体などというものは、軍用機の場合は実戦での活躍もなく、民間機やレース機などでも、当時の記録飛行などに対して現代ではあまり知られていないことも多く、キット的には恵まれていないのが普通。
しかし、ことフランス機に関しては、かつて、エレール(Heller)が自国フランスの誇りに掛けて(?)、かなりの種類を出している(加えて、今ではAzurもある)。エレールのキットはパネルラインが基本凸筋だったり、布目表現がオーバーだったり、全体的にモールドが手彫り感あふれていたりと、今の目で見ると多少古さも感じるものの、基本、実機への思い入れも感じる好キットが多い。
1940年戦役当時の新型機(ドヴォアチンD520やポテーズ631、63-11、リオレオリヴィエLeO45など)のキットが(おそらくそちらの方が相対的に有名機なので)発売時期が古く、さすがにちょっとつらい出来なのに比べ、マイナーな戦間機はエレールの技術がそれなりに上がってからのキットが多いことも、その理由となっている。
もともと戦車モデラーだった私が、第一次大戦機以外の飛行機にも入れ込むようになったのは、大学の時に作ったエレールのPZL P.11cからなので(それもどうなのか、という選択だが)、エレールというメーカーにはそれなりに愛着があり、同社のフランス機(戦間期~大戦)のキットは、古い黄箱や黑箱、再版の白箱、チェコのスムニェル(SMĚR)版等取り混ぜて、かなり持っている。
――そのくせ、ほとんど完成させることもなく死蔵されているのはお恥ずかしい限り。
戦間期のフランス機は、どうも何と言うか、「空飛ぶ軽トラ」というか「空飛ぶオート三輪」といいったデザインのものが多い(実用一点張り、という意味ではなく、「空を飛ぶ機械としてその形はいかがなものか」という意味で)。1940年時の主力戦闘機であったモラン・ソルニエMS406もそうだが、少なくともあれを格好いいと思う人は、世の中、あまりいないと思う(ヒネたモデラー的には「ブサ格好いい」と思うが)。少なくとも、その辺の機体を見ている限り、「フランス人のファッションセンス」というものは、実はだいぶ怪しいのでは、と思えてくる。
上3つは、たまたまストック棚の表層近くにあってすぐに取り出せたもので、どちらかといえば普通にそれなりに格好いい系になってしまった。「うわ、格好悪い」系だと、アミオの角ばった双発爆撃機とかを出したかったところ。
1つ目は、第一次大戦末のモラン・ソルニエA1に連なるパラソル翼戦闘機、モラン・ソルニエMS225.。2つ目は前回の話の中にも出てきたニューポール・ドラージュの一葉半(セスキプラン)戦闘機、NiD42系のNiD622。3つ目のキットは、hn-nhさんのところでも話題になった、サンテグジュペリも乗っていた(そして不時着させた)コードロン・シムーン。
ちなみにサンテグジュペリを、日本では「サン=テグジュペリ」と書くことが多いが、実際の綴りは「Saint-Exupéry」(サン(ト)・エグジュペリ)であり、t音はリエゾンで現れているわけなので、「サン」と切り離して「テグジュペリ」と書くのはちょっと抵抗がある(個人的にそう感じるだけで、サン=テグジュペリと書くのはおかしいよ!と主張するつもりは全くない)。
ところで、箱を開けたらシムーンが2機入っていて、しかも他にもストックがあるようなので、hn-nhさん、一機貰ってくれません?
●さて、表題の話。
フランス語は、英語や日本語のローマ字の感覚で言うと綴りに対して「変な読み方」をすることが多いが、実際には英語よりも規則性は高い(と思う)。単語末の子音は読まない、aiは「エ」、ouは「ウ」、auは「オ」、oiは「ワ」、inは「アン」と読むことなどを覚えていると、なんとなくフランス語らしい、くらいの読みにはなる。
とはいっても、特に単語末の子音に関しては固有名詞では変則読みも多く、飛行機(のメーカー)名でも迷うことがある。
その一つが、戦間期にそれなりに多くの機体を製造した「Potez」で、日本語の資料だと、「ポテ」だったり「ポテーズ」だったり、中には「ポテツ」と書いてあるものもある。日本語版wikipediaの記述でもそのへんが揺れていて、現2018年12月中旬時点で立項されている記事だと、航空機メーカーは「ポテ」、個別機種は、「ポテーズ 25」「ポテ 630」「ポテ 63.11」「ポテ 75」となっている。
ここだけ見ると「ポテ」が多数派だが、英語版wikipediaの「Potez」の項を見ると、名称に [pɔtɛz] の発音記号を添えている。また、外国語の発音に関しては個人的に非常にお世話になっているサイト、「発音ガイドFORVO」には、「potez」単体でのフランス語での登録はないものの、人名らしい「Louis Potez」が出ていて、明らかに「(ルイ・)ポテーズ」と発音している。どうやら「ポテーズ」が正解らしい。単純に「potez」だけだと、クロアチア語での登録が2件ある。もしかしたら創業者のアンリ・ポテーズは元をたどるとクロアチア系だったりするのかもしれない(フランス語版wikipediaにも、そんなような記述はないので、まるっきり想像だが)。
同じくフランスの航空機メーカーだと、「Bloch」も日本語表記が「ブロッシュ」だったり「ブロック」だったりしてややこしい。これも創業者(Marcel Bloch)の名前なのだが、ユダヤ系で、どうも「ブロック」と読むのが正しいらしい。創業者自身が、戦後、(兄のレジスタンス時代の変名を貰って)マルセル・ダッソーと改名、メーカー名もダッソーになった。
このへんは、フランス人だと(慣れで)何と読むかパッと判ったりするんだろうか? 綴りで読みが規則的に導き出せないなんて不便じゃないんだろうか――などと思ったのだが、考えてみれば、日本語の名前なんて、字を見ただけでは読めないものがあふれかえっているのだった(そのぶん、日本語は「フリガナを振る」こともよくあるが)。
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コメント
ロシア語も読めないけどフランス語もよーわからん。
サンテグジュペリのTがサン=テと離れた表記になるのは学んだことない人間には摩訶不思議。プジョーはプジョー=テとなったりしないの?とか。
このジャンルは疎いのですが、戦間期のフランス機の弱っちい感じは魅力的。ブレゲー27の尾翼周りの変なこと。こんな形で空気の乱流とかできたりしないのかしら。羽根は一葉半だし。風の谷とかで飛んでそうですね。
戦車でもキングタイガーとか見るからに格好いいものには萌えない自分としてはこっちのほうがツボかも(笑)
高校時代に飛行機モデラーの友人から「こっちおいでよ」と散々誘われたけど、当時はパネルの凸モールドを筋彫りするとかリベット列をちくちく打ったりとかハードル高かったし、そもそも飛行機は戦車と比べてデカイしで、ついぞ手を出さずじまいになってましたね。
唯一持ってるのはちょっと前にジャケ買いしたフィンランド仕様のl-153 チャイカ(ICM 1/72)くらいかな。
コードロン・シムーン。余っているのならいただこうかしら。そういえばマチルダの連結式履帯(ブロンコ)の余りを予備履帯用におすそ分けしますよ、という話がありましたね。交換しましょうか? 他にオマケもつけますよ(^^ )
投稿: hn-nh | 2018年12月20日 (木) 06時32分
単体では発音しない単語末尾の子音ですが、後ろに母音で始まる単語がくっつくと、発音されるようになる場合があります。これをフランス語文法の用語で「リエゾン」と言います。
プジョー(Peugeot)の綴りも末尾に無音のtが付いてましたね。ただ微妙なのは、固有名詞の場合はリエゾンが起きない場合もあるということで……これは、そもそも「無音の子音が付いているかどうか」自体、その単語の綴りを知っている人以外判らないからなんじゃないかな、と想像しています。
(たとえ話す人は知っていても、聞く側が知らなかったら、リエゾンではなく別の意味の言葉と聞き違える可能性がありそう)
少なくとも、プジョーの後に母音で始まる動詞が続いても、どうもリエゾンは起きないようです。ただし、例えば、Peugeot-experimentalという合成語があったとしたら「プジョーテクスペリマンタル」と読むことになるかも。
では、シムーンは一機差し上げます。お送りしてもいいですし、今度の日曜の東京AFVの会にいらっしゃるなら手渡しでもいいですし(また別の機会でもいいですし)。
投稿: かば◎ | 2018年12月20日 (木) 08時47分
かば◎さん、ありがとうございます。わーい、シムーンが我が家にやってくる!
できれば東京AFVの会に参加して..と思ってます。現在、当日の予定調整中につき、行けることになったら、ここにその旨メッセージいれますね (^^)
となると、こちらから差し上げられるブロンコのマチルダ履帯の余剰分を割出さないといけないのですが、マチルダの履帯は片側一巻きで何枚になるのかしら?
投稿: hn-nh | 2018年12月20日 (木) 14時18分
>>マチルダの履帯
タミヤのキットの指定だと片側69枚なんですが、ブロンコの履帯だと若干のプラスマイナスの誤差はあるかもしれませんね。
投稿: かば◎ | 2018年12月20日 (木) 15時27分
69枚ですか。ブロンコのパッケージには片側71枚とあるから、70枚前後ということですね。
perthmilitarymodelling.com/reviews/vehicles/bronco/ab3531.html
推奨枚数+予備履帯の分を差し引くと、都合20枚ほどの余りが出ることになります。
スプールで切り分け易い12枚分のパーツをお譲りします。
。。えっと、どこにしまったんだっけ。積みプラの山狩りして探しださないと!(汗)
飛行機ネタから脱線してすみません(^^!)
投稿: hn-nh | 2018年12月20日 (木) 16時17分
>hn-nhさん
どうもありがとうございます。
うーん。何か、シムーン以外にも押し付ける、いやもとい、差し上げるものはないかなあ。
投稿: かば◎ | 2018年12月20日 (木) 18時57分
大戦間の飛行機は良いですねえ。
私は先日、Dora Wingsの1/48 Percival Vega Gullを予約してしまいました。
当初は買う気が無かったんですが、ちょいと調べたらベリル・マーカムという女性パイロットが、ヨーロッパからアメリカ大陸への大西洋無着陸単独横断飛行を行ったということで、俄然興味が沸きまして。
別件ですが、色鉛筆はステッドラーの水彩色鉛筆を使っています。
画材店に有ると思います。
投稿: マクタロウ | 2018年12月20日 (木) 22時33分
>マクタロウ さん
>>色鉛筆はステッドラーの水彩色鉛筆を使っています
初めまして、木目も表現技法は参考になります!サイトとあわせて拝見させていただきました。
水彩色鉛筆というのは目からウロコでした。木目のグラデーションはは水彩の透明感が似合いそうです。油性塗料だよく描けていても。どうしても風呂屋のペンキ絵的になりがちですしね。
投稿: hn-nh | 2018年12月21日 (金) 00時20分
>マクタロウさん
パーシバル・ガル・シリーズ、何か聞き覚えがあるな……と思ったら、「世界の名機のコクピット2」に、レース機の「ミュー・ガル」が出ていたのを思い出しました(これは通常のガルやヴェガ・ガルとだいぶ形が違いますが)。
同書の解説には(大雑把に言えば)「フランスのシムーン、イギリスのガル」みたいな立ち位置といったような書き方がされていますが、ウェブ上で写真を見ると、シムーンよりちょっとあか抜けているような気もします。
諸元的には、全長でシムーン、全幅でガルが大きく、最高速度は(おそらく翼幅の違いが効いていて)シムーンが速い、という感じ。
あっ。「パーシバル・プロクター」ってヴェガ・ガルの軍用機型なのか……(wikipediaで知った)。
水性色鉛筆の木目表現は、そのうち試してみたいと思います。
投稿: かば◎ | 2018年12月21日 (金) 08時35分
シムーンは、エレールの塗装指定だと、機内は真っ赤に塗るようになってますが、
実際現存してる飛行機の機内も真っ赤なので驚いた記憶があります
スポーツカー感覚なんでしょうかね
投稿: みやまえ | 2018年12月21日 (金) 23時58分
>みやまえ さん
サンテックスの搭乗機をクラッシュモデルで作ってる人がいますが、機内は赤で塗ってますね。
uoyjjp.blog.fc2.com/blog-entry-38.html
それによると「機体内部は緊急時を考慮して赤色だった」そうです。
どういう意味だろう?
>かば◎さん
日曜日の東京AFVの会、行くことにします。(^^ )
お約束のものお持ちします。約束してないオマケも当然のごとくついてきますが、それは期待しないでくださいw
投稿: hn-nh | 2018年12月22日 (土) 05時36分
>hn-nhさん
はじめまして。
色鉛筆を使い始めたのは、自分の下手くそさからなんです。
ラッカー塗料の上にエナメル塗料で描こうにも、筆じゃあ思ったように描けず、それならと使い始めたのがきっかけです。
最初は普通の色鉛筆を使っていたんですが、イラスト描き用に買った水彩色鉛筆を使ったところ、なかなか良い感じになったもので現在に至るって感じです。
投稿: マクタロウ | 2018年12月22日 (土) 20時05分
>みやまえさん
我が家のストックのシムーン、1機分は、胴体内側がムラムラの筆塗りで赤く塗ってありました(笑)。
上のコメントでも出した「世界の名機のコクピット」にシムーンも出ていて、本当にまっかっかで、最初に見た時に「これは乗っていてすごくイヤなんじゃ……」と思った記憶があります。
>hn-nhさん
>>機体内部は緊急時を考慮して赤色だった
まさか「流血事故時に目立たないように」じゃないですよね……民間機だし。
日曜日、下北沢でお会いするのを楽しみにしています。
たぶんケン太さんとか1-colourさんとか青木君とかと駄弁っているかと(と言っても、誰の顔も知らない場合、全然識別点になりませんが)。
何なら会場で「かばはどこじゃー」と叫んでいただいても(笑)。
hn-nhさんは、ハンドルでお呼びするのはちょっと難しい系ですね(笑)。
まあ、それは実際お会いした時に……。
>マクタロウさん
「模型用の色鉛筆」というのも、私が知らないだけでどこかにありそうな。
ちなみに私はピグメントもまだ使ったことがなくて、今回、ホルトのトラクターを東京AFVの会向けにちょっとお化粧直しする際に、珍しくパステルを(少しだけ)使いました。
投稿: かば◎ | 2018年12月22日 (土) 22時12分
>>hn-nhさんは、ハンドルでお呼びするのはちょっと難しい系
うぅ。発音の仕方まで考えてなかった..(汗)
風体はスキンヘッドのおっさんです。(ネオナチとか仏門とかの理由があって剃ってる訳ではないんですが)そんな見慣れない奴が近づいてきたらそうだと思ってください。(^^!)
そういえば「かば◎」さんて、何て発音するんだろう。「かばまる」「かばにじゅうまる」「かばわわ」「かばダブルオー」
>>「かばはどこじゃー」
そうか、◎はリエゾン:単体では発音しない単語末尾の子音。 なのか??
投稿: hn-nh | 2018年12月22日 (土) 23時44分
飛ばない豚はただのブタだ・・・
と思ってしまうぐらい、飛行機ネタが続いてますな。
最初間違えて、たまんさんのHPに来たのかと思ったよ(笑)
完成したトラクターの写真、どこかで見られるのかな?
越智さん並みに塗装できているのだろうか?
ドボワチンのD.520、わりと好きかも?
投稿: 赤板先行 | 2018年12月23日 (日) 21時20分