ホルトの鈍牛(6) 足回りの検証
●「週末模型親父」さんのところの「SUMICON2018」のエントリー作、RODEN 1:35、HOLT 75 Artillery Tractor製作記。
とはいっても、今回は実際の「製作」はほとんどなく、ほぼ「あーでもないこーでもない」編。
先述のエンジン工作(前編・後編)は、この車輛を作るうえでの大きな山場だが、それに並ぶのが足回り、特に後部のクローラー部分だと思う。とはいえ、エンジン工作はほぼ「ディテールアップ」の範疇だったのに対して、足回りの方は形状/バランスの修正がメインになりそう。
●以前にも書いたように、一言で「ホルト75」と言っても、生産時期によるのか、生産工場によるのか、仕様の差が激しく非常に悩ましい。
とりあえず、キットの仕様に近いと思われる可動実車が少なくとも2輌ある。その1輌がこちら(Aとする)。
もう1輌はこちら(Bとする)。写真はwikimedia commonsより。
インペリアル・ウォー・ミュージアム(IWM)の写真検索で出てくる、第一次大戦中の軍用型も、おおよそこの2つの現存実車の仕様に近い。
●しかし一方で、キットはどうなっているかというと、どうも足回り各所のバランスやディテールにかなり疑問点が多い。
キットの組立説明図の塗装解説にある4面図は、ほぼキットのバランス通りになっているので、ここに掲示してみる。
① 上掲の写真と比べて分かるように、起動輪の下側で、履帯の地面からの「持ち上がり」がだいぶ大きい。起動輪それ自体、上掲実車の仕様に比べて径が小さいようだ。ただし、歯数はどうやら同じ(スポークに対する歯の位置は違う)。
② 履帯に関しては最初のキット評でも書いたように、表面(接地面)の形状はそこそこいいのだが、裏から見るとだいぶ問題が多い。そもそも、キットのシュープレートは鋳物か何かのように厚みがあるが、実際にはプレスで薄く、表面の2本の盛り上がりは、当然裏では窪みになっている。リンク部の形状は実車とだいぶ違い、側面の2つの穴は無視されており、転輪が当たる部分のフランジもない。また、現存実車にはないが、IWMの写真で確認できる限りでは、軍用型ではグローサーが装着されているのが標準のようだ。加えて、上述のように起動輪が「小径かつ歯数が同じ」なので、そのぶんピッチも上掲仕様よりも短いことになる。……問題多すぎるだろソレ。とはいえ、さすがに履帯自作はいやだ。
③ 転輪を保持する桁後端は、キットでは「クレヨンしんちゃん」というか、下ぶくれなラインになっているが(判りにくい説明)、上掲仕様ではもっと単純な形状。キットのような仕様は少なくとも私がかき集めた写真の中では確認できない。
④ 上部転輪は、上掲実車のAではキットのように地面と平行だが、Bでは、よく見ると後ろ上がり/前下がりのナナメになっている。IWMの第一次大戦当時の写真ではどれも前下がりに見えるので、2種類の仕様があったというよりも、現存実車Aはレストア時に平行になってしまった可能性もありそう。単純に上部転輪を斜めにするだけなら工作は大して複雑ではないが、下手に手を付けると起動輪との位置関係がおかしくなる(履帯との関係で、起動輪を下手に大径化できないため)。
⑤ 転輪ユニットは片側4カ所のコイルスプリングで支えられているが、このパーツがお粗末(後述)。
⑥ 誘導輪位置調整装置の付け根と、前述のサススプリングとはキットでは(この図のように)だいぶ離れているが、上掲実車の仕様ではほとんどくっつきそうなくらい近い。
⑦ 転輪軸部は、上掲実車の仕様では、「フランケンシュタインの首のボルト」状に出っ張っている。上部転輪の軸も同様。下部転輪はキットでは(この図でも)すべて同じ高さにあるが、実車では、どうやら第一転輪だけはわずかに上にずれているようだ。まさか第一転輪だけ径が違うとか、ないよな……。
⑧ 前述の⑥とも関係するが、転輪桁の前部、誘導輪軸を支える部分はもっと寸詰まり。もっともフェンダーの長さの都合もあり(しかも上部構造物との関係から見ると、フェンダーの長さはキットの状態でおおよそバランスが取れているように見える)、単純に切り詰めれば済むということにはならない。
⑨ 前述⑥、⑧と関係するが、誘導輪はもっと大径。履帯のラインも、上部は(上部転輪から)この図のようには垂れ下がらず、下部はこれほど地面から持ち上がっていない。
――というように問題山積ではあるものの、それぞれ別の場所と微妙に関わってくるため、修正はなかなか難しい。したがって、根本的な修正は諦め、「そこそこバランスが上掲実車仕様に近付くように」くらいのゴールを目指すことにする。
●「あーでもないこーでもない」話だけでは何なので、若干の工作に関しても。
▼上述のサススプリングについて。
キットのパーツは左写真のようになっているが、若干の型ズレ&パーティングライン近くで若干の形状の崩れがある。……だけではなく、この写真だとコイルが右回りだが、裏面は左回り。つまり、コイルバネではなく「ナナメの蛇腹」になっている。ドラゴンのI号戦車といい、こういういい加減なパーツ設計って意外に多いな……。
というわけで流石に使う気になれない。ミニ四駆とか、何かその手のもの用にちょうど会うバネがないだろうか、などとも思ったが、探し回るのもそれまた面倒臭そうだったので自作することにした。
I号A型を作った際に、第一転輪サスペンション用コイルバネを作るのに使った0.5mm径アルミ線にもう一度お勤めを果たしてもらうことにし、タミヤの2mm径プラ棒に巻き付けてコイルを作成。最初きつく巻いてから、伸ばしたり縮めたり、最後は爪の先で間隔を調整した。真鍮線に比べ、アルミ線は柔らかく腰がないので、(実際のバネの機能を負わせたりはできないが)こういう工作には向いていると思う。
このあと、一度プラ棒から外して必要な長さに切断予定。なお、最終的にこのバネは8個必要だが、上右写真の長さでは8個分に足りないので、もう少し追加して巻く必要がある。
▼キットの足回りのなかでも、誘導輪の径が明らかに足りないのはだいぶ目立つ気がするので、ある程度の大径化を試みることにした。
実車写真から大きさを割り出して――というのが本来あるべき道筋だが、そもそも他部分の寸法の正確さが(上記のように)大いに怪しいところで、誘導輪だけ正確にしようとしてもあまり意味がない。
そんなわけで、「これくらいなら無理なく交換できて、それなりに履帯の傾きも自然になるのでは」という、かなり適当な工作。
工作は、
① キットのパーツの三角の穴を、リム部ギリギリまで削って拡大。写真は6つの穴のうち2つだけ削った状態。
② 6カ所削り終わったら、T字断面になっているリム部の立ち上がりを削り落とす。
③ 新たなリムを作成。タミヤIV号戦車D型の誘導輪パーツを利用。リム部だけ残してスポークを削り落とし、さらにその外側に0.5mmプラバンの帯を巻いた。1からリングを作るのが面倒/歪みそうと思ったためにタミヤのIV号D型誘導輪を使ったのだが、内側の細かいリブを削るのにだいぶ手間取った。そもそもパーツの流用というのは楽するために行うものなのに、本当に省力化できたのか怪しい。
④ リムにスポーク部をはめ込み、リムの縁をヤスって整えて工作完了。
右写真はキットパーツと、大径化工作終了後のものとを並べて撮ったもの。
| 固定リンク
「製作記・レビュー」カテゴリの記事
- ずしのむし(2023.11.02)
- ポーランド・メタボ士官(2023.08.26)
- つれづれSU-100(5)(2023.06.24)
- つれづれSU-100(4)(2023.04.01)
「ホルト・トラクター」カテゴリの記事
- ホルトの鈍牛(12) 改めての完成披露(2019.01.20)
- ホルトの鈍牛(11) とりあえずの完成披露(2018.12.06)
- ホルトの鈍牛(10) 屋根の組み上げ(2018.10.21)
- ホルトの鈍牛(9) 操縦席その他(2018.10.10)
- ホルトの鈍牛(8) 履帯(2018.09.20)
コメント
動画を見る限りなんとも素朴な設えで装軌車両というよりポンポン船といった風情。
ハンドルは回転ギア比を大きくして前輪を曲げているのでしょうが、グルグル回すもなかなか曲がらずで。
ローデンのホルトの足回りはやっかいそうですね。なんでしょう?車軸の高さが実車と違うのかしら?
まあ、自分だったら履帯のフチを薄く削るくらいでお茶を濁しておしまいにしてしまいそうですが... タミヤのB1bisも履帯のプレス部分の厚みを薄く削る必用があって、それで敬遠したままになってます。
投稿: hn-nh | 2018年8月 5日 (日) 06時16分
>hn-nhさん
いいですよね。このポンコツ感。
ちなみにステアリング機構は、この長~いステアリングシャフトの先端に、上のサススプリングの枝写真上に一緒に写っている傘歯車が2つ付いて回転軸が直角に曲がり、その先にウォームギアがあって、前輪ユニットの丸い枠に付いた半円の歯車と咬んでギリギリ回す仕組みです。
ちなみにこのハンドル、上の動画だとちょっとわかりづらいんですが、お気付きになったでしょうか……ただの「輪っか」ではなく、大砲のハンドルのように、リング部分から直角に取っ手が出ているんです。
きつめにカーブするときには、よほど盛大に回さなきゃいけないんだろうな、というのが想像できるハンドルです。
タミヤのB1bisは基本よく出来たキットだと思いますが、確かにあの履帯はちょっとションボリしますね。
普通のスチロールなら「さっさと削ろう」と思えるのですが、あの柔らかめの樹脂は簡単に削れないし。
一応、フリウルの金属履帯を、仲田さんが水道橋にあったお店をたたむ際の特売で、1輌分は手に入れています。
投稿: かば◎ | 2018年8月 5日 (日) 08時18分
誘導輪の大径化は必要だったとすると、起動輪も、、ですか?
大変そうですが、、
それにしても薄っぺらな前輪で操舵ができたのでしょうか、頼りない感じがします。
ごろゴリと削られてリムが無くなるのでは、そもそも土を噛む突起くらい付いていても良さそうな気もしますね。
投稿: hiranuma | 2018年8月 5日 (日) 08時19分
ストックのB1bisを調べてみました。
たしかに分厚いです。
組み立て式にしたからでしょうか。
削ればいいか、と思ったのですがプラ剤ではない!?
それは困ります、この戦車のポイントなので薄くしないと。
投稿: hiranuma | 2018年8月 5日 (日) 08時27分
>hiranumaさん
上に書いたように、起動輪を大径化するなら、履帯を全部自作する羽目になります(ピッチが違ってくるので)。
流石にそんな面倒なことはしたくないので、起動輪はそのままです。
前輪は、上写真・動画を大きめにしてみると判ると思うのですが、左右端近くに「タガ」状に突起があります。
動力のない、ステアリング専用の前輪なので、横滑りしなければ機能を果たせるわけです。
SUMICON掲示板にも書いたのですが、「タガ」部分を地面に食い込ませることでステアリングを利かせているわけで、アスファルト道路の上を走らせたら、結構大変そうです。
投稿: かば◎ | 2018年8月 5日 (日) 08時37分
かば◎さん
ちゃんと見ていないでごめんなさい。
エンジンも前寄りでヘビーフロントなのでより操舵が効くのかもしれませんね。
石畳で使われたら曲がれなかったのでしょうかね。
B1bisのキャタピラ部品をチェックしてみました。
ナイフやヤスリで削れます。
内側をメインに削る必要があるのでテーパーができることが課題ですが、
そこを調整して薄削できたらなんとかなるかもしれません。
これだけをやると続かないので何かのついでに少しづつ、1個ずつ削って
ストックしていくとできるかもしれません。
キャタピラのペラペラ感を出せたらB1bisは半分できたようなものかも。
投稿: hiranuma | 2018年8月 5日 (日) 15時01分
>hiranumaさん
B1bisの履帯、普通に削れますか?
一般的な硬質スチロール樹脂のプラパーツよりも粘りのある樹脂で、ヤスリを使うとけば立つ感じ……というような印象だったのですが(今、実物が出てこないのでうろ覚え)、普通に削れるようなら、今お手付きのものに加えてもう1輌欲しいかも。
投稿: かば◎ | 2018年8月 6日 (月) 11時14分
かば◎さん
普通に削れます。
その他のプラパーツと同じ材質のようです。
しかし、シューの厚みが0.9mmか1mmあるので
少なくとも0.3mm以下にしないとスケール感が出ません。
ナイフで内側をカンナがけしてみましたがしばらくやっても
0.1mm程度エッジにテーパーをつけるとイメージが損なわれるし表側を削ると
形が違ってきます。
1日1個のつもりで61個×2だから4ヵ月
この方法でも1個を削るのにかなり時間がかかるのでナンセンス。
別の方法として内側の取付部をキレイにカットして
ヤスリがけすれば効率は上がるかもしれません。
それにしても寸法合わせして接着なのでそれなりの手間が。
パーツ調達で600円(値上げしていなければ)。
草履のように湾曲しているので治具が欲しくなります。
投稿: hiranuma | 2018年8月 6日 (月) 11時55分
報告です。
あの後、頑張って削ってみました。
8個できました。
生産性がイマイチ。
多少回を追ってスピードは上がるとはいえ、、、
リューターは巻き込みキズになるのでダメ。
突起部をカットしてヤスリがけするのは試みていないのでなんとも。
よい方法があればご教示ください。
投稿: hiranuma | 2018年8月 6日 (月) 18時15分
できた8個を接続してみたら、、イイです。
シャカシャカした芋虫みたい。
横から見た薄さがリアルで苦労が報われます。
本気で削りストックしてみるかな、、。
投稿: hiranuma | 2018年8月 6日 (月) 19時02分
確か、発売から間もなくの模型誌(どの模型誌だったかは忘れた)の製作記事では、リューターでガンガン削ってました。
とにかく1輌分はフリウルを確保してあるので、さらにもう1輌作りたくなったら工作を検討したいと思います。
投稿: かば◎ | 2018年8月 6日 (月) 22時13分