ホルトの鈍牛
●6月に入り、恒例、「週末模型親父」さんのところのSUMICONスタート。
wz.34装甲車、ヴィッカース6t戦車と、このところ未完成リタイアが続いたこともあって、今回は参加をパスするつもりでいたのだが、どうにも(個人的に)そそられるアイテムが発売になり、たまらず購入してしまったので、エントリー締切(6月20日)の直前になって駆け込み参加した。
●それが、先日下北沢のサニーで購入した3つのキットの2つ目。RODEN 1:35、ホルト75重砲牽引車(HOLT Artillery Tractor)。
もともと農業用のトラクターとして開発・生産された車輛だが、折からの大戦勃発で砲牽引車としても多用され、その一方では、近代戦車の開発の祖ともなったことで(知る人ぞ知る程度には)有名。右写真はwikimedia commonsより。
リトル・ウィリーを経由して開発されたイギリスの菱形戦車は「参考にした」程度らしいが、フランスのシュナイダーCA1、サン・シャモン、ドイツのA7Vあたりは、直接ホルトの足回りの設計を流用・拡大改良したりして作られたようだ。
実際には、ホルトのトラクターにはあれこれバリエーションが多くあるらしいが、キットのものは75hpエンジンを搭載したホルト75と呼ばれるタイプで、主に英米軍で使用され、イギリスではライセンス生産も行われたらしい。ちなみに、砲牽引時の速度は時速3km/m。
なお、第一次大戦で登場した戦車は左右の履帯の差動で方向を変えるスキッドステア方式を使っているが、ホルトのトラクターは前部に操向輪を備える、もうちょっと原始的な方式となっている(後のハーフトラックのような装輪・装軌のイイトコ取り、なんてことはこれっぽっちも思っていなさそうだ)。
何はともあれ、ラジエーターからエンジンから何もかも、シャーシフレームに取り付けたそのまま剥き出しの格好は魅力的(……と思うかどうかは大いに個人差がありそうだが)。一般に、非装甲の軍用車輛は「ソフトスキン」と呼ばれるが、この車輛の場合はボディと呼べる部分は(屋根を除いて)ほぼ何もないので、いわば「ノースキン」。……なんだか下ネタっぽい?
説明書に書かれたデータによれば、自重は15トン。エンジンは……見るからに巨大なのに75hp。最高時速は「24キロ以下」だそうだが、砲牽引時は3km/hだそうだ。
それでもこんなのがガタピシグォーグォー言いながらのそのそ走ってきたら(実際うるさそう)、迫力があるのは間違いない。まさにフルドドの中のフルドド。ヘイズルもびっくり。エルアライラーも一目散に逃げだしそう。――ちなみにこれらの言葉で検索すると、まるごと固有名詞を流用したガンダム・シリーズがごっそり引っかかるが、もちろん私が言っているのは原作のほう。
●キットの中身。
(ギアケースの中身などは省略されているものの)フルインテリアキットに近いので、それなりのパーツ数。
写真は順番に、A~Hパーツ。足回りのDパーツは同じ枝が2枚。履帯のGパーツは4枚入っているので、合計パーツ枝数は12枚。屋根・フェンダーのHパーツ(写真最後)の枝が大きく約15cm×約30cm。履帯のGパーツが小さく約7cm×約13cm。その他は全部共通サイズで約11cm×約21cm。
この他に小さめのデカールシートが1枚。アメリカの欧州派遣軍(1918年)とイギリス軍(1917年)の2種の塗装例に対応。
●パーツは全体的に、「あ、RODENだな……」という印象。同社最初の1:35キットであるロールス・ロイス装甲車ほどではないが、全体的にちょっと大味なモールド。
本来、非装甲車輛なので(全体としてはマッシブでも)細部は華奢な造りだが、パーツの厚みがもろに表に出てしまう箇所が随所にある。また、抜きテーパーがきつめで、本来真っ直ぐであるべきところが斜めだったり、パーティングラインを境に山なりになっていたりする箇所多数。
ほか、気になった部分をいくつかピックアップ。
▼屋根パーツは波板だが、裏側中央に棟木が一体モールドになっているために、表面中央にヒケが生じてしまった。これはかなり目立つ部分なので困りもの。
▼屋根パーツと同じ枝に履帯部分のフェンダーパーツがある。緩やかなM字形状にモールドしてあるが、実はこれは表面パターンをうまく抜くためのもので、組み立てる際に両端を下に折り曲げて使う仕組み(裏にV字溝が彫ってある)。なるほど、アイデアだなあ、とは思うが、後々表面に亀裂とかできないかちょっと心配。
なお、表面パターンはぱっと見、菱形網目に見えて、実は菱形部分のほうが逆に浮き上がっているちょっと珍しいパターン。普通の網パターンを間違えてそうしちゃったんじゃないの?と一瞬思ったが、ボービントンの実車を見たら、実際に菱形のほうが浮いたパターンだった(ちょっとキットと印象は異なるが)。
▼巨大なラジエーターはこの車輛の顔。ここにヒケだのなんだのがあると製作意欲を著しく削ぐことになるが、幸い、割と綺麗な出来。ついでにエンジンも非常に巨大(これで75hp!)。友情出演はタミヤの自転車兄貴。ラジエーター上部、エンジン側面に「HOLT」のメーカーロゴが入っている。本来、各文字の端部には小さくツノが付いた字体なのだが、キットはその表現が弱く、一見、単純なゴチック体に見える。……が、許容範囲のレベルだろうと思う。
ロッカーアーム部分などはヘッドと一体で精密感に欠ける(しかもヘッド中央にヒケが出ていたりする)。エンジンも剥き出しなので、ある程度手を入れないとオモチャっぽくなりそう。
▼履帯はハメコミ式で、一応可動だが、ある程度曲げるとぽろぽろ外れてしまう。最終的には接着した方がよさそう。
シュープレート表面は、まずまず満足すべきレベルだが、裏は多少問題あり。リンク部の形状はだいぶいい加減で、本来は側面に2つずつの穴があり、また、ホイールと接する部分は実際にはL字のレール状になっている。
シュープレート裏面には、リンク部にシュープレートを固定する2カ所のボルトのほかに3カ所の丸い凸があり(左右端および中央)、なんだか意図したモールドっぽく見えるものの、どうもただの押し出しピン跡のようだ。
▼ほか、押し出しピン跡が不必要に出っ張っているパーツが多数。もちろん、「単純に削ればOK」というものがほとんどだが、なんだか久しぶりに「懐かしの東欧キット」テイストに触れた気がする。
●すでに製作に取り掛かっているのだが、それについてはまた改めて。
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コメント
プラモって、いい出来でも箱に戻してしまうものと、
なんだか知らないけど
勢いでそのまま作り始めちゃうものがありますね。
投稿: みやまえ | 2018年7月 2日 (月) 21時42分
>みやまえさん
そうですね。
それなりによく出来たキットで「欲しい」と思っていたものなのに、買ったらなんだかそれでキモチ的に一段落ついてしまって、結局積んだままってものも結構あります。
(もちろん、中途半端にお手付き品を次々増やすのも逆に問題ですが)
ちなみにこのホルトはSUMICONエントリー作なので、「このまま“がーっ”と作る」一択です。いや、“がーっ”と完成まで行くのかどうかは未知数ですが。
投稿: かば◎ | 2018年7月 5日 (木) 00時21分