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トランペッター 1:35 KV-1 1942年型鋳造砲塔(その2)

●トランペッター 1:35、KV-1 1942年型鋳造砲塔(キット名称「Russia KV-1 model 1942 Lightweight Cast Turret」)の話の続き。今回は細かいパーツのあれやこれや。

とはいえ、1942年型鋳造砲塔のキモと言えるパーツの話は前回書いてしまったので、以降はもうちょっとボンヤリと、「トラペのKVにまつわる話」になる。

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フェンダー

以前にも書いたが、トラペのKVは、初期型(~1940年型)用と後期型(1941年型~)用とで、フェンダー幅が違う。写真は、初期型フェンダー上に後期型フェンダーを乗せてみたもので、およそ1.5mm、幅が異なっている。

これはマキシム・コロミェツ氏の著書、フロントバヤ・イルストルツィヤ(フロントライン・イラストレイション)のKV本(“ИСТОРИЯ ТАНКА КВ”)の図面でもそうなっており、キットが同書の図面を参考にキット化した可能性がある。ただしその他の場所で若干の寸法の差異があるので、この図面をそのままキット化したわけではなさそう。

もちろん問題は「実車ではどうなのか」という話。

フェンダーは現存車両では新造されていることも多いパーツなので悩ましいが、たぶんオリジナルと思われるノヴォクズネツクにある1941年型(主砲はZIS-5だが、フェンダーは支持架が6本ボルトの初期タイプ)にメジャーを当てている写真(たとえばこれこれ。DishModels.ruより)ではおおよそ650mm幅。これは後期型キットのほうのフェンダー幅に相当する。当時の実車写真でも、フェンダーからの履帯のはみだし具合は初期型と後期型で異なっているようには見えず、これは初期型用フェンダー・パーツの幅が誤っている可能性が高そう。

しかし前述のように、フェンダー支持架の取付ボルトが初期型は6本、後期型は4本なので、後期型のパーツをそのまま流用はできない。ちなみに私は、すでに組立済みのKV-2(標準型砲塔)では外側から幅を詰め、切り落としたエッジのディテールを新造した。

なお、後期型のフェンダーパーツなのだが、よく見ると前後に金型差し替えの継ぎ目がある。

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現在のところ、この部分が差し替えになったバリエーションキットは発売されていないと思う(ない……ないよね?)。ちょうどフェンダーが丸まっている部分を差し替えるようになっていることを考えると、これはもしかしたら、フィンランド軍仕様の1942年型鋳造砲塔を発売しようという計画があったのではないか!?……などと妄想。

ところがどっこい。フィンランドが鹵獲使用した「クリム」の1942年型鋳造砲塔は、砲塔上面が組み継ぎになっていない仕様なのだ。そんなわけで発売が中止になったのかもしれないなあ、などと妄想を重ねてみる。

ちなみに私自身、このタイプを買ったのは「フィンランド軍仕様に改造してもいいかも」なんてボンヤリ考えていたからだが、この仕様の差に気付いて「やっぱりやめよう……」にだいぶ傾き中。いや、砲塔上面の改造はそんなに「ものすごい手間」ではないと思うけれど、やはり「1輌しかないもの」の再現って大変だし(しかも実物が残っているのでかなり細かく判ってしまうし)。

ちなみにフェンダー支持架は、初期のKVは全部が穴あき、1941年型あたりでは砲塔横の2カ所のみ穴無し(乗員の乗降時の変形を防ぐためでは?と想像)だが、42年型ではなぜか前方の支持架が穴あきに戻り、逆にエンジンルーム横が穴無しになったものが多い。エンジンデッキにタンクデサントを乗せるためか?

20180324_102613転輪

トランペッターのKV系列は、1S系を除くと、右写真の4種をパーツ化している。一番右の全鋼製転輪が今回のキットにセットされているもの。

一番左はSMK、試作車~極初期の生産型に用いられた緩衝ゴム内蔵転輪の初期型。次が標準型。次は40年型エクラナミの中途あたりから41年型初期に用いられた緩衝ゴム内蔵転輪の後期型。他にも、緩衝ゴム内蔵転輪にはリム部の穴無しタイプや、リム部の小リブがもっと小さく一つ置きになったものなどがある。

1941年型~42年型標準の全鋼製転輪パーツは、緩衝ゴム内蔵転輪や誘導輪の繊細さに比べるとどうも大味で、リム部のフチやリブ(特にハブ部に接続している6本)がどうも厚ぼったい。hn-nhさんは一つ一つコリコリ削って薄くする工作を決行した模様。むはー。

タミヤの41年型のパーツはどうだったかしらん、どこかにストックがあったはずだし、全部交換しちゃろうか、などとも思ったが、タミヤのパーツのディテールのほうがマシだったかどうかは未確認。ただし、転輪内側の軸周りにある小リブはタミヤのパーツにはない(どうせ組んでしまえばほぼ見えないが)。

20180427_230837誘導輪

これは各タイプ共通。外側と内側とで、穴の形状が違うのはトラペのキットで初めて知った。

非常に細かい話だが、ハブキャップの取付ボルトに対応した、ボルト穴周辺の丸く平らな部分が大きくハブキャップからはみ出して見えるタイプと、ほとんど見えないタイプとがあるようだ(わかりにくい説明)。キットは後者で、こちらのほうが標準。

20180323_135125起動輪

トラペKVお約束工作その2。

以前にも書いたが、トラペKVシリーズの起動輪パーツは、表側のスプロケットの取付ボルト部のみが別金型のハメコミで、その取り付け設定がいい加減なため、生産ロットによって(一番肝心な)表側ボルト列の位置がまちまち。

本来は、取付ボルトはスプロケットの歯と同位置にある。今回、私が入手したこのキットに関しては、2つある起動輪表側パーツのうち片方はほぼボルト位置が正しく、修正不要だったのはラッキー(場合によっては両方植え替えることになる)。もう片方はボルトをいったん削り、位置をずらして再接着した。

hn-nhさん曰く、このボルトは実物に比べやや大きめとのことで、hn-nhさんはMasterClubのボルトに植え替えていた。おお、ブルジョアな。個人的にはボルトの大きさにはあまり違和感がない(パロラの実車写真でもこれくらいに見える)のと、ほとんどズレていなかったもう片側に合わせ、ボルト頭はキットのまま使った。なお、フリウル付属の金属製起動輪のボルトはキットよりややおとなしめ。実車写真とよく見比べると、むしろ、キットは歯の外周部との段差が実物よりちょっと強調気味かな?というのが目につくが、面倒なので放置。いずれ、両側ともにボルトの植え替えが必要な場合には、ついでに少し削ってもいいかも。

20180426_223917 ちなみに、キットの起動輪は中央の皿型カバーが別部品で、取付小ボルトの数(および取り付け部の窪み)が多い(16本)の初期型と、ボルトが少ない(8本)の後期型の別を再現している。

トランペッターのキットではパーツ化されていないものの、この中間に、ボルトが3本ごとに1本分間引きされたような形の、過渡期の12本タイプが存在する。コロミェツ氏によれば、12本タイプは1941年の8、9月にのみ作られたものだそうだ(Wydawnictwo Militaria No.320 “KW vol.III”)。

ちなみにこの皿型カバーのボルト位置は、16本タイプおよび12本タイプでは外周のスプロケット取付ボルトのおよそ中央に来ることが多く(ただし例外もあるので、きっちりそこでなければいけない、というものでもないようだ)、8本タイプではズレているのが普通のようだ。やや謎。

サスペンション

サスペンションアーム基部のハブキャップは、初期は6本ボルトだったが、後期は3本ボルトになる。――というのはかなりざっくりした説明で、実際には、6本ボルト用に6カ所の窪みがあるものの、ボルトは3つだけで残り3カ所は穴が塞がれた過渡的な形質のものがあったり、ボルト用の窪みの形状が違ったり(U字形か丸形か)と、いろいろ細かい別があるようだ。

今回いじっている「Russia KV-1 model 1942 Lightweight Cast Turret」では(たぶん1941年型キット以降そうなっているのではと思うが)、ハブキャップ部分が別パーツになったサスアームがセットされていて、6本ボルトタイプと3本ボルトタイプの2種のハブキャップのパーツのうち、後者を使うよう指示されている。ちなみに、このボルト位置はサスアームとは無関係のようで、実車でも割とバラバラ。

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写真上左が取り付けたサスアームで、上右は不要部品として残った初期型サスアームキャップ。しかし不思議なことに、トランペッターの初期型KVでは、もともとキャップ部分も一体に成形されたサスアームの部品が入っている(写真下)。上右のキャップは、一体何に使うんだろう?

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車体ハッチ

車体前方の操縦手・無線手(機銃手)乗降用ハッチは、このキットでは平板でフチ付きのものがセットされている(下写真左)。このハッチに関しては、初期は周囲が緩くカーブした皿型のもの、その後まったくの平板なものに変わり、さらにキットパーツのフチ付きのものになる、というおおよその変遷過程だったのではと思う(割と適当な理解)。前回書いたように初期はハッチ周囲が上面板と別体だが、これは皿型ハッチに対応したもの。

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トランスミッション点検ハッチも、初期は前方ハッチ同様の皿型ハッチで、周囲が別体であるかどうかも同じ。その後、周囲とほぼツライチの平板ハッチになる。これはアバディーンの1941年型で確認でき、タミヤの最初のキットでもこの仕様が表現されている。前方の乗降用ハッチで平板のものが使われだしたのは1940年型の末期(装甲強化型の短砲塔が使われだしたあたり。旧型砲塔でも戦闘室上部の増加装甲が付いているものは平板ハッチが多いようだ)なのだが、ミッション点検ハッチに関しては、装甲強化型砲塔でも(また、ZIS-5搭載型でも)まだ皿型のものが使われているのが確認できる。とりあえず、「前方が平板だから後方も平板」といった因果関係はないらしい。

キットに付属のトランスミッション点検ハッチはパロラの1942年型で確認できるもので(例えばこの写真)、初期の皿型ハッチのように車体面に対し盛り上がっているものの、初期の皿型ハッチの周囲がなだらかにカーブしているのに対し、このタイプはもっと直線的に、面取りされたような処理。車体側周囲の別体もない。また、初期の皿型ハッチよりもやや小径のようだ(キットもそのように表現されている)。一応、「1942年型(つまり後端が角型の車体)になって装甲板構成が変わったのに合わせてハッチも新型になった」ということではと思っているのだが、確証なし。

hn-nhさんの記事によれば、トラペは1941年型にもこのタイプのパーツがセットされているらしい(今、昔の『KV maniacs』の記事を見返したら、そちらにもそう書いてあった。自分では買っていないので、どこかで中身を覗いたか、誰かに教わって書いたらしい)。「フロントバヤ」の図面では、1941年型でもこのタイプのハッチで描かれていたりするので、例によってそれを鵜呑みにした可能性もありそう。

エンジン点検ハッチ

エンジン点検ハッチはふくらみ付きのものがセットされている(下左)。開状態固定用のワイヤーフックが付くアイボルトは左右2カ所。これに対し、初期型KVのキットではアイボルトが中央1カ所のものがセットされている(下右)。ふくらみ中央の突起は一応オプション・パーツが入っているが(A18)、取付指定無し。

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エンジン点検ハッチに関しては、1940年型の終わりごろから、ふくらみのないフラットなものも使われている。コロミェツ氏によれば、フラットタイプが使われ始めたのは1940年8月の生産車からである由(Wydawnictwo Militaria No.320 “KW vol.III”)。アイボルトが左右2カ所になったのもおおよそこの時からではないかと思う。

しかしキットのような「ふくらみ付きでアイボルト2カ所」タイプもその後も使われていて、アバディーンの41年型はこのタイプ。「フロントバヤ」KV本2冊目の、1942年型生産ラインの写真(p11)でも、複数の車輛でふくらみ有りタイプが使われているのが確認できる(同じ写真はたとえばここ)。アイボルトが増えているので、単純に「古いパーツの使い回し」ということではないようだ。

一方、パロラの1942年型鋳造砲塔ではフラットタイプが使われており、ふくらみがない分素通しになってしまうのを防ぐためか、くさび形に防弾リブが溶接されている。溶接砲塔の1942年型で有名な「容赦なし(ベスポシャドヌイ)号」も確か同一の仕様で、トランペッターも、1942年型の溶接砲塔タイプのキット(KV-I model 1942 Simplified Turret Tank)ではこの「リブ付き平板ハッチ」のパーツをセットしていたはず。

なお、平板ハッチの初期(少なくとも1940年型)には防弾リブは付けられていないのが普通。41年型でどうだったかは未確認(なので、確認したほうがいいですよ>hn-nhさん)。

何はともあれ、hn-nhさんがブログ記事中で提示している疑問にはほとんどまともに答えられていない内容で申し訳ないッス。

(この後、もういっぺん続けます)

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コメント

フラットなエンジン点検ハッチはトラペの溶接砲塔1942年型のキットにパーツとして用意されてるのですね。鋳造砲塔タイプにも入れてくれればいいのに。(ドラゴンだったら、そのパーツ1つのためにランナー丸ごといれてきそうですが)
とはいえ、チェリャビンスク・キーロフ工場で写された1942年型の車両群を見ると、ドーム型のふくらみのあるハッチを依然として装備していることなど、1942年型車体でフラットなハッチが標準だった訳ではなさそうですね。トラペの解釈もあながち間違ってないのかも..

1941年車体のフラットなエンジン点検ハッチにリングガードがついているかということを確認できる物証はあまりないのですが、Peko本のKV TANKS ON THE BATTLE FIELDのP104,105の車両がその事例となるでしょうか。P105の車両はM-17エンジン搭載疑惑があったりして事例として適切なのかは留保がつきますが。

というか、むしろフラットなハッチこそがM-17エンジン搭載車の特徴ではないかと思い始めました。(M-17エンジンはガソリンエンジンでいいのですよね?)
....ハッチの膨らみの有る無しは、おそらくはエアフィルターの類のレイアウトの違いに対応したもの.... エアフィルターの位置が変わったとすると全ての車両の適用されそうなものだけどフラットとドーム型ハッチが並存している....搭載エンジンが違うためにハッチの違いが生じている...と考えると、一部の車両にM-17エンジンを搭載した、という記録と符号し時期的にもほぼ辻褄があう....

投稿: hn-nh | 2018年4月29日 (日) 11時27分

セータ☆さんからの情報によると、フラットなエンジンアクセスハッチは「M-17T ガソリンエンジン搭載車用」というのが最近のロシアでの解釈のようですね。

う。私のKV-1は知らずガソリンエンジン車になってしなったということか...

投稿: hn-nh | 2018年4月30日 (月) 06時33分

>hn-nhさん

セータ☆さんのコメント、読みましたよー。

「筒型燃料タンクはガソリンエンジン車」説が出てきた時も、「えー、そうなの?」と思ったんですが、「平板ハッチがガソリンエンジン車」も「えー、そうなの?」マターですね。

基本、我々モデラーにとって最重要なのは、「**がこれこれの形質をしている場合は、**はこうなっている」というディテール上の関連性のほうだと思います。
しかもガソリンかディーゼルかは、内部をチェックして判断するすべを持たない我々にしてみると、結局のところ、「定説がどこに落ち着くのか見守っているしかない」わけで、したがって私の記事の方でもその辺は基本スルーしていますが……。
しかしそれでも、「ひとつひとつ何か判ってくる」感は楽しく、この説もどうなるのか楽しみですね。

なお、私自身は、「1940年型の末期(装甲強化型の短砲塔が載る頃)に平板ハッチが導入されて使用例が多くみられ、その後ドーム型が復活、42年型でまた平板型が見られる」という流れなのかと思っていました(確とした根拠があるわけではなく、単純に写真をあれこれ見ていてのボンヤリした印象)。
むしろ、標準型鋳造砲塔の41年型でも平板ハッチ型があるというのはhn-nhさんのリサーチで知って、「こんなのもあったのか……」と思った程度で、ヌルいです。

投稿: かば◎ | 2018年4月30日 (月) 09時22分

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