スペシャル・アーマー 1:35 3.7cm KPÚV vz. 37M
●前々からちょっと気になっていたキットなのだが、チェコ、CMK/MPM系のレーベル、スペシャル・アーマー(Special ARMOUR)の「3.7cm KPÚV vz. 37M」を、横浜のヨドバシで初めて店頭で見て思わず購入。
ちなみにSpecial ARMOURはSpecial HOBBYの陸物ラインナップのレーベルで、以前CMKで出ていたLT vz. 35(35(t)戦車)やフォルクスワーゲンなども、現在はSpecial ARMOURで出ているようだ。
●3.7cm KPÚV vz. 37Mはシュコダ社製、チェコスロバキア軍制式の対戦車砲で、「KPÚV」はチェコ語の対戦車砲(Kanón Proti Útočné Vozbě)の頭文字、「vz.(vzor)」はポーランド語の「wz.(wzór)」と同じで「(年)式」の意。末尾のMは機械化部隊用にゴムタイヤを履いたタイプを示すのだそうな。ちなみに木製スポークの歩兵部隊用はwz.37P、ほかに騎兵部隊用のwz.37Jというのがあるらしいが、後者はPやMと何が違うのかよく判らない。
説明書によれば、「この時期、この種の砲のなかでは最高(At that time, this weapon was the world's best in its category)」であった由。1938年時点で、チェコスロバキア軍はPタイプ390門、Mタイプ300門を保有していたらしい(Jタイプはどこにいった?)。
また、ユーゴスラビア、ハンガリー、ブルガリアにも輸出されたらしい。チェコ解体に伴い、多数がドイツ軍に接収され、「3.7cm PaK 37(t)」の名で(あるいはユーゴで鹵獲したものは「3.7cm PaK 156(j)」の名で)使われている。また、スロバキア軍も158門(および旧型であるvz. 34を113門)をチェコスロバキア軍より引き継ぎ使っている(スロバキア軍の保有数については“GERMANY'S FIRST ALLY - ARMED FORCES OF THE SLOVAK STATE 1939-1945”より。他は基本、説明書の解説文から)。
なお、Lt vz. 35(ドイツ呼称Pz.Kpfw.35(t))の主砲として搭載されているのは、これの一代前の3.7cm KPÚV vz. 34の車載型で、多孔式のマズルブレーキなどよく似ているが、vz. 34(社内呼称A3)は砲身長が40口径なのに対し、vz. 37(社内呼称A4)は47.8口径と長砲身化されている。ちなみにLt vz. 38(ドイツ呼称Pz.Kpfw.38(t))に搭載されたのは同じく47.8口径だがさらに新型のシュコダA7。
●中身は小振りなランナーが2枚。2つ合計で、両手のひらを合わせた程度。TOMやMIRAGE HOBBYのボフォース37mm対戦車砲とおおよそ同等の、比較的少なめの部品数。「小口径の対戦車砲なんてそんなもんだよ」と言われてしまえば、そうかもしれないけれども。
大きいほう(左側)のランナーは一部が切りかかれているが、ここは、先に発売された歩兵型(Pタイプ)用のスポーク車輪が入っていたところ。
こちらの機械化部隊型(Mタイプ)のキットには、半身になった車輪パーツが8枚、つまり2種類入っている。
違いはホイールディスク部の形状で、右写真で右側の、比較的のっぺりしているほうは、ドイツ軍用の塗装例のひとつの場合に使用するもの。(大きさは違うが)ディスク部の形状それ自体はラインメタルのPak36やFlak30あたりと似ていて、ドイツで作成された(あるいは別の何かから持ってきた)交換パーツであるらしい。
しかし、ゴムタイヤを2種類入れるのであれば、いっそ木製スポークもそのまま入れてしまってコンパチキットにしてもよかったんじゃ……。
チェコ型のタイヤのほうは、ゴムタイヤ部分の側面(両面)に「MATADOR」のロゴ入り。Matador Bratislavaは、1905年創業のスロバキアのゴム製品メーカーである由。現在も後身の自動車タイヤメーカー、Matador, a.s.が活動しているらしい。しかしこういうメーカーロゴって両面に入ってるもの?
この手の牽引砲の「顔」とも言える防盾は、そこそこ頑張っているとは思うものの、やはりなお厚め。さらに、防盾の表側〈前側)にクリーニングロッド?測量用のポール?――どちらなのかよく判らないが、4本重ねて付けているロッドは、取付用のベルトも含めて一体成型で、いまひとつ実感に乏しい。
車輪の前に位置する、防盾左右下部は実物は別体で、内側の蝶番を介して繋がっている。実物は、この接続部に段差があり、別体部がちょっと前側に出ている。蝶番自体は裏側で、蝶番にツメが生えていて、この別体部分はこれ以上後ろ側には曲がらない(前方にだけ曲がる)仕組みのようだ。かつ、蝶番上下を繋ぐロッドにスプリングが巻いてある。
運搬時は折りたたむのか、それとも単純に、(防盾を可動にしておくことで)車輪との間に何か物が挟まっても大丈夫、という仕組みなのか。今ひとつよく判らないが、個人的には後者の可能性が高そうな気がする。
もうひとつ、砲の重要なアクセントであるマズルブレーキは、実際には細かい穴が多数開いているのだが、キットのパーツはご覧の通り。砲口部を開けている一方で、側面の孔は潔く省略している。まあ、確かに1:35でこれをモールドで表現しろというのは大変だとは思うけれど。
35(t)戦車用の金属砲身は何社かから出ているが、基本、マズルブレーキは砲身と一体になっているのではと思う(少なくとも日本で一番手に入りやすい、パッション・モデルズの製品はそう)。で、35(t)用はこの砲よりも砲身長が短いので、そのままでは使用できない(もちろん、金属の砲身をゴリゴリ削り飛ばしてマズルブレーキだけ移植するという手もあるが)。あるいは、ブロンコの35(t)の砲身パーツはスライド型でマズルブレーキの穴もそれなりに表現されているので、そちらにパッションの砲身を使い、余ったプラパーツをこちらに使うという「玉突き流用」がいいかもしれない(などとパーツ一つ切り離さないうちに皮算用)。
中口径以下の対戦車砲では、開脚式の砲架は、運搬時には単純に閉じるだけ、というものが多いと思うが、この砲はちょっと凝っていて、脚の中途から前方に折り畳み、全長を短縮するようになっている。この仕組みは前身の3.7cm KPÚV vz. 34も、また、より大口径の4.7cm KPÚV vz. 38(ルノーR35やI号戦車に載せて自走砲化されたヤツ)も同様。
キットは、この折り畳み機構を、真っ直ぐな状態と折りたたんだ状態、2通りの脚パーツをセットすることで選択式にしている。車輪・脚という、もともと細かい中では比較的「大物」のパーツが選択式なので、実際に使うパーツはますます少ない印象。
●説明図/箱裏で取り上げている塗装例は4種。チェコスロバキア制式の3色迷彩が2種(片方はチェコスロバキア軍、もう片方はスロバキア軍)、あと2つはドイツ軍の塗装で、グレー単色と、グレー地に白の冬季迷彩。スロバキア軍のものにのみ、防盾の隅に描き入れた二重十字の簡易国章(?)のデカールが用意されている。
●先行の木製スポークタイプ(P型)は2016年発売らしいが、このキットは今年、2017年発売のようだ。もしもっと早く入手していれば、New Kit Con参加作をこれにしていたかも。
パーツも少ないし、小さいし、楽そう――と思う反面、ディテールの解像度はCAMsのビッカースに比べると低いので、むしろ苦労したりして。
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コメント
レーベル名に怪しさを感じて様子見をしてましたが、CMKなんかの系列だったのですね。タイヤのロゴとかは地味に嬉しいけど、射出成型の圧も少し低めのようで、モールドはちょっと甘いのかな。なんとなく1/72テイスト。
ランナーを見ると、木製スポークのバージョンでは逆にタイヤの部分を切り取ってパッケージングしてそうですね。
投稿: hn | 2017年12月10日 (日) 17時12分
>hnさん
>>レーベル名に怪しさを感じて
飛行機も作っていると、「Special HOBBY」はCMK/MPM系でそれなりによいキットを出しているレーベルとして馴染みがあり、しかもこの「Special ARMOUR」はパッケージのデザインはほとんど「Special HOBBY」と共通なので、「ああ、それなら大丈夫そう」と安心できるんですが……。
怪しまれたんじゃ、「系列レーベル戦略」失敗ですね(笑)。
ちなみに、木製スポーク型は、まさにそういう枝になっています。
投稿: かば◎ | 2017年12月10日 (日) 18時59分