●前回書いたように、珍しく、おそらく発売日当日(?)にタミヤの新製品、バレンタインを買ってきた(MM352、イギリス歩兵戦車バレンタインMk.II/IV~BRITISH INFANTRY TANK Mk.III VALENTINE Mk.II/IV)。
以下、ネタバレ(旬のネタであるタミヤのバレンタインの紹介、の略)。
箱絵は北アフリカのサンド(ライトストーン)単色のイギリス英軍所属車。バレンタインと言えば、本家イギリス軍の戦車としてはほぼ「北アフリカ用」「本国での訓練用」というイメージだから、これは妥当なところかと思う。
箱を開けてパーツをざっと見て最初の印象は、「うわ、バレンタインて、小せえ……」というもの(Miniart、AFVクラブのキットは持っていないが、VMのキットは持っているので「1:35のバレンタイン」は初見でないはずなのに)。
デカールは箱絵になっているイギリス軍1種と、レンドリースのソ連軍2種。もともとレンドリースのソ連軍車両を作りたい私としてはそれでもいいのだが、「バレンタインはイギリス戦車なのに!」と思う派にとってはちょっと不満の出そうな構成。選ばれたイギリス軍車両も、右側面にのみ大きく「3」と書かれているだけで目立つマーキングは他になしという地味な例で、2色以上の迷彩塗装だとか、目立つ部隊マークや識別帯入りとか、もう1,2例あってもよかったんじゃないかと(そっちでは作らない私でも)思う。
プラパーツは枝が5枚。うち2枚は同一の足回りのパーツだが、実際にはそれぞれさらに2つの枝が合体した形になっている(Aパーツ+Pパーツ)。転輪部分(Pパーツ、写真左側)を差し替え可能にしてあるのは、いずれ後期型転輪のキットも出せるようにという含みだと思う。タミヤがミニアートのように小刻みにバレンタインの各形式を出すようにも思えないので、最有力候補はアーチャーかな? ちなみにビショップはこのキットと同じ中期型転輪が普通のはず。
車体上部+フェンダーパーツの枝(Bパーツ)は、ランナー裏に大きくリブがくっついていて、車体上部やフェンダー、サイドスカートのパーツに反りが生じづらいようになっている。
ちなみに車体床面・側面パーツ(Dパーツ)のほうにはリブが入っていないが、こちらは形状的に反りが生じづらいか、それとも箱組で修正可能レベルという判断なのではと思う。
ちなみに車体箱組に関しては、車体前面・後面は側面に挟み込む形状になっているが、わざわざ接着の手順をややこしくしてまで(説明書でも注意喚起されている)挟み込み式にした意味はいまいちよくわからない(前面は上下ラインが違うので間違える可能性は低いし、後面は両側ダボ以外にも工夫のしようはあったはず)。
ほか、ちょっと組んでみた感じでは、タミヤらしく丹念な削り合わせなどなくてもピタピタと部品が組み合わさり、「買って、切り離して、組み立てる」プラモデルという工業製品の完成度の高さではやはり他の追随を許さない感じ。もちろん、それだけがプラモデルじゃない、というところにタミヤのツラさもあると思うのだけれど。
●このように「流石はタミヤの新製品!」という感じのキットであり、ささっと組んで旬のネタを楽しむ、というのも十分ありだと思うが、やはり私自身のスタンスとしては、それなりに手を加えられる部分があるなら加えたい。というわけで、現時点でちょっと気になる/気付いたポイントを以下に。
なお、私自身はバレンタインに関しては「う~ん、タミヤから出るなら作るか~」くらいの入れ込み度。タイプの変遷・細部の特徴に関してもほぼ付け焼刃の知識なので、以下も、そんな「割といい加減な知識ベース」であり、思い込みで適当なことを書いてしまっている可能性もあるかもしれない。ご了承いただきたい。
また、前述のようにAFVクラブ、Miniartのキットは持っていないので比較もできない。どなたか詳細レポートしてくれないかしらん。
●砲塔
▼パーツの抜きの関係で、前面下の「ベロ」部分のボルト頭(4つ)が省略されている。
右写真では、トライスターのIV号戦車で大量に余るサスペンション基部パーツのボルトを削ぎ取って移植した(割と使い勝手のいいサイズのボルト頭なので、結構重宝している)。
それにしても、このバレンタイン初期型砲塔もそうだが、どうしてイギリス軍AFVというのは、こんなふうに砲耳を奥まった位置に持ってきているものが多いのだろう。バレンタインもMk.IIIでは砲塔容積を稼ぐために砲耳位置を前進させているが、初期の巡航戦車や軽戦車Mk.VI、ダイムラー装甲車、コメットなども奥まった感じだから、何かそうしたい理由が(しかも、たぶん「えー。内部容積を狭めてまで、そこにそんなにこだわる必要ないじゃん」と思うような“イギリスらしい”理由が)あったのではないかと思う。
▼主砲の照準口と思われるものは防盾左側にあるが、防盾カバー部の右側に、もう一つ穴がある。クルセーダーMk.I/IIの砲塔も形状は違うが同様の配置で、車長用の前方視察装置か何かではないかと思う。(追記。ラヴァさんよりコメントを頂きました。この穴は擲弾(発煙弾)発射機だそうです。情報ありがとうございます。)
この部分、キットのパーツでは防盾カバー外側と同心円(同心円筒)状に窪んでモールドされているのだが、実際には、窪んだ内側の円筒面の中心は砲耳中心よりもちょっと前寄りになっていて、内側円筒面は下部よりも上部でより深くなっている(キットでは同じ深さ)。
そこで、窪みを彫り直し、さらに、この部分の軸線に対応するボルト(キットでは省略されている)を側面に追加した。ちなみにこの尖頭ボルトは六角ではなく四角なので、手近に流用できるものがなく、プラ材から削り出した(おかげでいびつ)。
掘り直した結果、長円の穴の底も深さが不均等になってしまったので穴を貫通させ、ほぼ同じ深さになるように裏側から削り込んだ。内側の工作は未完。
なお、この防盾カバー部分(パーツD19)に関しては、砲塔上面部分は実車と分割線が異なっている(本来一体であるところに分割線が来る)ので注意。天井板(パーツD23)側の前端左右にモールドされているパイプ断面のようなものはボルト穴。最初は、タミヤが取材した車輌で欠損していたのをそのまま再現してしまったのかと思ったが、戦時中の実車写真でもボルトがないように見えるものもあるので、何か外付け装備用のボルト穴なのかも。
▼砲塔後部の通風孔部分は、本来一体の鋳造部品であるところがいくつかのパーツに分割されているので、丁寧に接合線を消す必要がある。また、通風孔のヒサシ下は、実車ではちょっとエグレたような形状になっているようだったので、そのように加工した。小さなボルト頭はいったん削り落とし、後で再生した。なお、この鋳造の通風孔張り出しの上面左右にも(砲耳カバーパーツ同様に)本来はボルト穴があるようだ(本体側のふくらみは表現されている)。砲耳カバー部分同様、ボルトが植わっているのがデフォなのかどうかはよく判らない。
●足回り
▼キットの転輪のゴム縁部分は、他の戦車と同様の角ばった形状をしている(いわば長方形断面)。しかし、実際のバレンタインの転輪のゴム縁は、側面が丸く膨らんだ(いわば角丸長方形断面)独特の形状をしている。
このゴム縁形状は、履帯のガイドホーン内側がゆるやかに曲線で立ち上がっていることにも対応しているのではないかと思う。キットの転輪は上記のように単純な角ばったゴム縁を持つため、ガイドホーンとの間隔も開き気味になる。これは単純に「ゴム縁の角をやすって丸くする」では対応できない問題で(ゴム縁全体の幅が足りないので)、修正するとなるとかなり面倒くさそう(というか、いい対処法が思い付かない)。個人的にはだいぶ残念。
▼履帯は、実際にはガイドホーン外側の窪みと対応して表から裏に貫通する穴が開いているのだが、キットでは埋まった状態になっている。これは先に発売されたSU-76Mも同様だったので、最近のタミヤ・スタンダードの処理なのだろうか? II号戦車では開いていたので、やってできない処理じゃないと思うんだがなあ……。箱を開けてチェックして、「ああ、ついでにAFVクラブかブロンコの別売履帯があったら一緒に買ってくればよかったな……」と思った(ピッチは合うのか、またAFVクラブとブロンコのどちらの出来が良いかなど未チェック)。
▼ごっついサスペンション基部は、パーツの抜き方向の都合で、フランジの横方向のボルトは省略されている。ちなみに、V字のフランジの内側がボルト頭、外側がナットのようだ。
そもそも奥まっていてそれほど目立つ部分でもないと思うので、追加するかどうかはお好み次第という感じではないかと思う。裏側とか内側とかにもボルトがたくさん植わっているようなのだが、さすがにそこまでは知らん。
▼誘導輪基部は、車体から突き出た部分が、キットのようにつんつるてんのものと、リブ付きのものとがあるようで、特定車輌を作る時には注意が必要ではと思う。Mk.Iとされる現存車輌ではリブがなく、Mk.VやMk。IXではリブ付きなので、前者が初期仕様のようだ。誘導輪の変更とリンクしてたりしないといいなあ……。
またリブ付き、リブ無しに関わらず、グリース注入口なのか、本来はボルト頭付きの突起が数カ所にある。
写真の起動輪基部上部の四角く欠けた部分には、誘導輪位置調整装置のロックレバーのパーツ(D7、D8)が付くが、本来は、そのレバー中途から垂直に伸びたロッドが、フェンダーの穴を通して上に突き出ている(キットは、フェンダーの穴が浅いくぼみで表現されているのみ)。
また、誘導輪基部(D13、D14)には、本来、回転用のバー(工具箱上に装着されるパーツC21)を差し込む長四角の穴が2箇所にあるが、キットのパーツは抜きの都合で穴が埋まっている。
●資料など。
▼現存車輌のwalkaround(主なもの)。
REGION AFV
形式的にキットと合致するのは上2つ。ソミュール、クビンカともに誘導輪基部にリブあり。クビンカの車輌は、車体前面・操縦席前面に、増加装甲を貼り増し、砲塔リングガードもある。
SVSM Gallery
Mk.VIはカナダ生産型で、基本はMk.IVと同仕様。外形的特徴に関しては、この写真で見る限り、転輪は初期型、砲塔左に小ハッチはなく、Mk.II/IVというよりむしろMk.I仕様に近い。このMk,VIの写真集はDishModelsにもUPされている。
DishModels
カナダ製車輌。レンドリースでソ連に渡り、ウクライナで発掘されたもの(Dishmodels表紙からの検索で探し出せなかったが、セータ☆さんのところからリンクが張ってあったので再び行き着けた。セータ☆さんどうもありがとー)。Mk.VIよりさらにカナダ独自の仕様が加わったもの。
Primeportal
ダックスフォードのジオラマ仕立ての展示品の写真はあまり点数もなく、妙にスッキリとレストアされているが、とりあえず、誘導輪基部がつんつるてんタイプなのは判る。
Surviving Panzers website
▼大戦中の写真
鳥飼行博研究室
IWM由来の写真が多数。
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