スターリングラード・トラクター工場
●週末模型親父さんのところのAFV模型のネットコンペ、SUMICON 2016のお題に選び直した、cyber-hobbyの「T-34/76 STZ Mod.1942」の製作記(というか、製作前の下調べ)。
T-34を生み出したのは現在のウクライナ、ハルキウにあるハリコフ機関車工場(第183工場)だが、スターリングラード・トラクター工場(STZ)はそれに続いて、1941年から生産に入った2番手の工場である。正式名称は「エフ・エー・ジェルジンスキー記念スターリングラード・トラクター工場(スターリングラードスキー・トラクトルニー・ザヴォド、イーエム・Ф・Э・ジェルジンスコゴ、ロシア語の読みが正しいかどうかは不確か)。他の工場の場合、基本、「第**工場」と番号が振られているのだが、STZだけはなぜか番号がない(本当にないのか、単に伝わっていないだけなのかはよく判らない)。
STZは、ハリコフ機関車工場がウラル地方のニジニ・タギル(スヴェルドロフスク州)に疎開を行うために操業を停止している間もT-34の生産を支え、その後、スターリングラード攻防戦で工場が壊滅するまでT-34を前線に送り続けた。ドラマだなあ。STZにおける生産台数は、ロシア語版のwikipediaによれば、1941年に1256輌、1942年に2520輌の計3776輌であるらしい。
10年以上前の「グランドパワー」には、STZは、背の高いナット砲塔搭載型(要するに1942/1943年型)も若干生産したと書かれているのだが、実際には、背の低いピロシキ砲塔搭載型しか作ってないのではと思われる。
●前回書いたように、このキット(以下STZ1942とする)はまともに組めないレベルで車体上下が合わない。すでに一度、なんとか合わせてみようとあっちを削りこっちを削りして、収拾が取れなくなった経験があるのだが、改めて「どう合わないか」を検証してみる。
- とりあえず、車体上下の基本パーツのみを重ねると、問題なく合わさる、ように見える。
しかし車体前部に関しては、前端部の縦幅が大きく、前端パーツを合わせようとすると明らかな段差が生じてしまう。
- 車体後部はさらに深刻で、車体上下を合わせた状態で上下後面パーツを合わせようとするとうまく合わさらず、シャーシ後面板が浮いた状態になる。
- 逆に後面パーツの整合を優先させると、車体上部が1ミリ以上浮き上がる(尻上がりになる)。
これに関し、とりあえずまともに組めるはずの、通常の(ハリコフ工場製の仕様の)1941年型の車体パーツと比べてみる。その結果判るのは、
STZ1942の車体上部は、戦闘室部分でおよそ2mm長い。
- エンジンルーム部分の長さはほぼ同じだが、戦闘室が長い分、そのまま後方に移動している。
- その結果、車体後面板の角度が立った状態になっている。またそのために後面板下端の位置がおかしくなる。
- また、車体上下の整合とは関係ないが、戦闘室が長いぶん、砲塔の位置もずれている。実車では砲塔の裾と戦闘室上面前端との間にはあまり距離がないが、STZ1942キットでは明らかに幅がある。
- 車体下部に関しては、基本、同一寸法で出来上がっているようだ。ちなみにSTZ1942キットの車体下部は、装甲板の組接ぎを表現。
STZ製のT-34はハリコフ機関車工場製と車体上部の基本寸法自体が違うのだ、ドラゴンはそれを忠実に再現しようとしたのだ、などという驚天動地の事実はたぶん出てこないだろうと思うし、そもそも、仮にそうだとしても実車で「車体上下が合わない」わけはないので、何らかの対処が必要になる。
●とりあえずの各ブロックごとの製作計画および若干の考証ポイントメモ。
▼車体下部
基本、STZ1942キットを使用し素直に組むつもり。車体下部に関しては、STZ1942キットとその他のキットとでは同一寸法で出来ているようなので、そのまま使用可ではないかと思う。
右写真では判りづらいが、STZ1942キットの車体下部は側面と底面が組接ぎになった仕様を表現している。なにしろシャーシのみの写真というのは稀なので断言できないが、これはSTZ製車体でも後期の車体なのではないかと思う。
キットにはエラの削れていないタイプの砲塔も入っているが、こちらを使う場合には、組接ぎになっていない車体の方がふさわしいかもしれない。そんな場合、あるいはもしもパッと見では判らない範囲で寸法の誤差がある場合は、車体下部もハリコフ工場製仕様のキットなどから持ってきた方がよいことになる。
ただし、ハリコフ工場製仕様その他キットの車体下部は、おそらくナット砲塔搭載以降の仕様に合わせてあるので、若干の改修が必要になる。後期仕様のポイントは、第一転輪のダンパーがダブルになっていること(初期型の場合は前方のダンパーが不要)、サスアーム用の穴前方に突起があること(初期の車体にはない)。
後者はキットでは単に長方形のブロックがボルト止めされているだけに見えるが、実際には後期のサスアーム(不要パーツA2、A3参照)基部にある突起と噛み合うようになっている。これはおそらく、サスアームの軸を車内側で止めるのではなく、単純に、(1).サスアームを90°近く回して車体に差し込み、(2).そのまま通常の作動範囲位置まで回すと、それだけでアームが抜けないようホールドされる――という仕組みではと思う。
STZ1942キットではこの抜け防止突起(金具)のモールドはなく、サスアームも初期型標準の丸断面のものを使用するようになっている(ちなみにこの丸断面の初期型サスアームは1941年型までならハリコフ工場製車輌でも必須のはずだが、
現時点ではSTZキットにしか付属していないようだ。貴重 6/29追記。1942年型、1943年型キットには不要パーツとして入っているようだ。このパーツが含まれるQ枝には、1942年型、1943年型用の新型誘導輪が含まれるため(STZ1942キットではその部分のパーツが除かれている)、ナット砲塔型キットにはもれなく付いてくるのではと思う。)。
さて、ここで悩ましい問題がひとつ。通常の1941年型であれば、確かに「丸型サスアーム+抜け防止突起無し」でよいはずなのだが、実際には、「丸型サスアームであっても抜け防止突起付き」という過渡期の仕様があるらしいこと。そしてSTZ製の後期の車体(つまりキットの仕様)の場合、そのような仕様である可能性があること。
たとえばボルゴグラード(旧スターリングラード)で保存されているこの車両(LEGION AFV)は、キットの仕様に近いが、「丸型サスアームで抜け防止突起付き」になっている。もちろん現存展示車輌の場合は後の改修が入っている可能性もあり、この車輌も前部フェンダーや工具箱などが交換されているが、サスアームは元からのパーツである可能性が高いのではと思う。
追記:アルマゲドンのT-34本に、スターリングラード・トラクター工場でドイツ軍に鹵獲されたらしいT-34車体の写真が出ているが、この写真で、車体側の抜け防止突起が確認できる。やはり突起付きと考えた方がよさそうだ。さてこの場合、STZ1942キットのシャーシに突起を追加したほうが楽なのか、ハリコフ工場仕様のシャーシに組接ぎ表現を追加したほうが楽なのか……。
▼足回り
そもそもこのタイプを作る場合の大きな課題となっていた後期550mm履帯やSTZ特有の転輪類がパーツ化されていて、「たとえ車体がまともに組めなくても、STZ用の改造パーツ一揃いがこの値段で売っていると思えばいいや」と無理矢理自分を納得させたモデラーも多いのではないかと思う(私もそうだが)。
キットに付属している緩衝ゴム内蔵転輪は、穴の周りに立ち上がりがないシンプルなタイプで、STZ車体で一般的に使われているもの。
後のウラル戦車工場製1942年型でよく見られる緩衝ゴム内蔵転輪は穴の縁に立ち上がりがある(タミヤのキットにも入っていた)。ただし、右のブンデスアルヒーフ所蔵の写真のように、明らかにSTZ製と思われる車輌でも後者のタイプを使っている例はある。おそらく、鋼製リムの初期型、後期型というような位置付けなのではと思う(キットに入っている方が初期型)。
なお、後のゴム縁付きの穴開き転輪は内外合わせて一体鋳造だが(工場で、鋳型から出したばかりの転輪のバリをハンマーでガンガン落としている写真があったような)、この鋼製リム・緩衝ゴム内蔵転輪は、ハブとリムの間に緩衝ゴムが挟まって別体であるためもあり、内外は連結していない。したがって、(キットは内外のパーツの穴がきっちり揃うようにダボ穴が付いているが)実車はどうやら穴の位置は適当。これについては、以前セータ☆氏のGIZMOLOGにも考察が出ていたので参照のこと(ここやここ)。
起動輪・誘導輪もSTZ製車体特有のもの。誘導輪に関しては、上で紹介したボルゴグラード現存車輌のように、「もしかしたら10個ボルトのハブキャップに対応しているのでは?」と思われるバリエーションもあるようだ(通常は5個ボルト)。起動輪はこれ以前に出たSTZ1941キットでは履帯を引っ掛けるローラー部がない「なんだこりゃ」パーツだったようだが、本キット(STZ1942)では改修されている。起動輪中心の窪みは前述ボルゴグラード現存車輌ではもっとシャープでリブも中心に向けてもっと長いが、これは若干の形状のバリエーションがあった可能性もある。
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