ホビーボス 1:35, 39Mチャバ(レビューその1)
●前回書いたように、HOBBYBOSSの「Hungarian 39M CSABA Armored Car」を購入したので、そのレビュー。ディテールの検討と若干の考証。
ただし、パーツをざっと見て、気になったところをチェックしてみただけなので、目の付け所は割とバラバラ。やはり実際に作り始めてみないと気付かないところも多いと思う。
●ボックスアートは割と勇ましく戦闘中といった風情のチャバ。
もっとも(マーキングのところで詳しく触れるが)箱絵のマーキングは対ソ戦以前の試験的国籍マーク。これを付けて出動したのは(外交交渉で獲得した)北トランシルバニア進駐くらいのはずなので、射撃中なら演習時ということになる。
なおHOBBYBOSSはボックスアートにおいて、ごく最近の例で言うと、フィンランド軍のT-50が複数進撃中(実際には1輌しか鹵獲使用していない)という、トンデモ素敵なボケをかましてくれている。それに比べると、このボックスアートはまともだ。
(……箱も小さめだしパーツ数もあっさり目なのになんでこんなに高いんだよぅ、という恨みがあるので若干辛口です。)
●話は前後するが、実車のチャバは、ハンガリー出身の自動車・軍事技術者、ニコラス・ストラウスラー(シュトラウシュレル・ミクローシュ)設計の装甲車で、オランダ東インド軍が使って日本軍とも対戦したアルヴィス・ストラウスラーAC3D装甲車とは兄弟分に当たる(実際全体のスタイルは非常によく似ている)。
ストラウスラー自身は大戦勃発前からイギリスで活動していて、イギリス空軍向けの爆弾トロリー、ノルマンディー上陸作戦で活躍した戦車浮航用DD装置(シャーマンDDで有名)などを開発した。要するに、ストラウスラー設計の兵器は、枢軸・連合両陣営で使用されたことになる。
●キットのパーツ構成は、車体下部と砲塔がスライド型で個別に成型(合わせてAパーツ)。足回りがBパーツで同一の枝が2枚。Cパーツは車体上部と前後のハッチ。Dパーツはハッチ、アンテナ、工具その他。Eパーツは砲塔前面・下面やフェンダー、武装など。個別になっているAパーツを除くと、枝は5枚。BパーツはD,Eの半分くらいの面積だし、Cパーツは部品が3つだけなので、パーツ数はさほど多くない。
タイヤはゴム製で2種。ごく小さなエッチングパーツとデカールシート2枚。
写真1枚目がB・Cパーツ(Cパーツは車体上部切り離し済みで2つのハッチ部分のみ)。2枚目がDパーツ、3枚目がEパーツ。4枚目のエッチングは、長辺が27mm弱。
全体のスタイルは、組み上げていないので何だが、「まあいいんじゃないかなあ」くらいの感じ(いい加減)。それが信頼に足る図面かどうかという問題はあるが、とりあえず、“Magyar Steel”(Csaba Becze, STRATUS, 2007)に出ている1:35の図面とはほぼぴったり整合する(砲塔前面下部の幅がわずかに違う程度?)。
なお、もうちょっと古い資料、“A MAGYAR KIRÁLYI HONVÉDSÉG FEGYVERZETE”( Bonhardt Attila, Sárhidai Gyula, Winkler Lázaló, ZRÍNYI KIADÓ)に掲載されている図面と“Magyar Steel”の図面は作図者が違うようなのだが、線の太さが違うだけで図面としてはかなり似通っている。
●足回り。前述のようにタイヤは2種類入っている。前回も書いたが、私、「あれー。タイヤが2セットも入ってらぁ。入れるとき間違えたなこりゃ」なんて思ってました(←迂闊者)。
実車でよく見られるパターンは3種(他にもマイナーなバリエーションがあるかもしれない)で、そのうち2種がカバーされていることになる。一応、私の手元の資料やネット上でかき集めた実車写真を見ると、キットのパーツ図によるとII番、右写真の下のトレッドパターンが細かいほうが最も一般的であるようだ。
上の方の、トレッドパターンが粗めのほうのパーツには、側面に刻印が入っている。“Magyar Steel”の図にも書き込まれているが、刻印は「SARKANTYUS CORDATIC」。おそらくCORDATICがメーカー名で、検索してみると戦間期のカタログやらポスターやらの画像がヒットした。
メーカーそのものについて説明してくれているページは発見できなかったが、どうやらハンガリーにあったメーカーらしい。SARKANTYUSのほうはおそらく商品名で、検索したらゾウガメやら鳥やらがヒットしてちょっと混乱したが、マジャル語(ハンガリー語)のweb辞書を引いたら「拍車」と出た。タイヤの名称としてはふさわしそうだ。
トレッドパターンの細かいほうには、刻印は入っていない。なお、実車写真でタイヤの刻印が読めるほどの鮮明なクローズアップはなかなかないが、数少ない例からみると、「SARKANTYUS CORDATIC」という刻印が入っているべきなのは、むしろトレッドパターンの細かいほうのタイプのタイヤなのではないか、という疑いが濃厚。あんだえー。
ちなみに、キットのタイヤが表現している2種以外に比較的よく見られるもう1種のトレッドパターンは右図のような感じ(白い部分が溝)。とある掲示板で拾い読みしたところによると、チャバのタイヤにはSARKANTYUS CORDATICのほかにFIRESTONEがあるそうだが、そのFIRESTONEのタイヤのパターンがどれに当たるのかは、現時点では私にはよく判らない。
2017/2/2追記。イギリス軍のスキャメル・パイオニア・トラクターに、右上図とそっくり同じパターンのタイヤを履いている例がある(もちろんタイヤサイズは違うだろうが)。IBGで発売予定のキットもCG絵ではそのパターンで、Firestoneのロゴが入っていた。というわけで、右上図のパターンのタイヤはFirestone製である可能性が高そう。
書き添えておくと、これらのタイヤは3種とも、前から見た時にトレッドパターンがV字になるのが正規の方向のようだ(わずかに例外はある)。キットの組立説明書では、左右で装着方向が逆になるように描かれているので注意が必要。
さて、チャバの車輪は、だいぶきつくポジティブ・キャンバーが付いている(正面から見た時、タイヤに逆ハの字に角度が付いている)。詳しくはwikipediaのホイール・アライメントの項を読んでいただきたいが、とにかく、逆ハの字にしておくと、パワステなどがなくとも操舵が軽くなるのだそうだ。もっとも、チャバがやたらに横転している写真が多い気がするのは、もともと重心の高そうなことに加えてこのキャンバー角も一役買っているのではないか、とも思ったりする。
閑話休題。そこでキットなのだが、実際に組んでいないので推量混じりなものの、どうも前輪にはキャンバー角が付くものの、後輪はまっすく付くような構成になっている感じ(違っていたら済みません)。前輪のみのステアリングなら当然それでいいはずだが、実際には、チャバは後輪もステアリングするし、実車写真を見ても、後輪も逆ハの字になっている。写真ではよくわからないが、とりあえず“Magyar Steel”の図面によれば、前後輪のキャンバー角は同一。
(長くなったので今回はここまで)
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コメント
単純な(しかし長年の)疑問なんですが、「CZABA」って「ちゃば」って読み方で良いんですよね?!(音だけだと「烏龍茶」も「ホビボス」もどっちも「中国産ちゃば」)
投稿: かさぱのす/かさぴー | 2016年5月 2日 (月) 15時36分
>かさぴー
昔の雑誌記事か何かで「クサバ」という読み方も見たことがある気がするんですが、読みは「チャバ」です。
マジャル語における「cs」の読みが「チュ」音だそうで、以下のページには、まさに「cs」の単語例として「csaba」を上げています(まさか装甲車の名前として上げているわけではなく、おそらく人名として上げているのではと思うのですが)。
http://www.geocities.co.jp/SilkRoad-Desert/8678/hyoki.html
「世界の発音」サイトでも、実際のハンガリー人の発音例を聞きましたが、「チャバ」でした。
http://ja.forvo.com/word/csaba/#hu
というわけで、ご推察の通り一つ前のタイトルは烏龍茶とホビボスを掛けてます。
投稿: かば◎ | 2016年5月 2日 (月) 20時59分