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反転ロータリー

●みやまえさんがコメントで、ブロンコの新製品「ロイド・キャリア」を「高すぎ!」と評していたが、実際、このところの円安もあって、模型はいよいよ高く、年中ビンボーな私は、おいそれと新製品には手を出せないご時勢である(確かに、特にブロンコは高い)。

F1017640 しかし、そんなご時勢下にありながら、「このキット、輸入物で、この出来で、なんでこの値段で出せるの?」と、コストパフォーマンスの高さにのけぞって、先日(昨年末)、思わず購入してしまったのが、チェコのエデュアルド製1:48、ジーメンス・シュッケルトD.III(ProfiPACK版)。

第一次大戦末期に登場した空冷エンジン単発単座の複葉戦闘機。第二次大戦の戦闘機の1:72キットなみに小柄だが、それでも48で、必然的にパーツ数が増える複葉機で、ローゼンジ・パターンの大判のものを含むカルトグラフ製のデカール3枚、彩色エッチング、車輪用のエクスプレス・マスク、カラー印刷の説明書まで付いて、2175円+税だった(秋葉のVOLKSで)。

●実機について少々。

ジーメンスといえば電機系の一大コンツェルンで、現在もドイツを代表する大企業(日本法人は英語読みのシーメンス)。日本の古河電工との合弁会社が両方の頭文字を取って富士電機で、その通信機部門が独立して富士通になった、というのは割とよく言われる日本企業トリビア。そのジーメンスが、第一次大戦当時は傘下で飛行機も作っていたというわけ。

キットのSSW(ジーメンス・シュッケルト・ヴェルケ) D.IIIは、前述のように大戦末期に登場したもの。登場が遅く、しかも大戦終盤のドイツにはフォッカーD.VIIという傑作戦闘機があったから、生産機数はさほど多くなく、部隊への配備数は姉妹型のD.IVと合わせても100数十機であったらしい。

第一次大戦機のなかでも小柄な、というよりも寸詰まりな印象の戦闘機で、木製モノコックのほぼ円形断面の胴体に、頭でっかちの空冷星型ロータリーエンジン、これまた機体の割に大きい4翅ペラと、かなり個性的な風貌。

ここで言うロータリーエンジンは、マツダが得意とした、一般的なシリンダーとピストンの代わりに三角のローターがあるエンジンのほうではなく、エンジン本体がぶんぶん回るもののことで、第一次大戦の頃までの空冷星型エンジンといえば、ほとんどがその形式である。考え方としては、「エンジンがプロペラを回す」のではなく、「プロペラと一体になったエンジンが機体を回す」わけである(もちろん実際には柄のデカイ機体ではなくエンジンとペラの方が回るわけだが)。

なんでエンジンまで回らなきゃならんのか、というのは、エンジンそれ自体にフライホイールの役割を兼ねさせるとか、冷却効率をよくするとか、詳しいあれこれはwikipediaを読んでいただくとして、しかし、当然、重いエンジンが回るぶん機体に働く回転トルクも大きくなる。ロータリーエンジン搭載機は、左右でロール特性がだいぶ異なっていたそうな。

と、普通のロータリーエンジン搭載機でもそうなのに、このジーメンス・シュッケルトD.IIIに搭載された、系列企業のジーメンス・ハルスケ製のSh.IIIは単列11気筒というゴッツイ代物。これでそのまま4翅ペラを直結して一緒に回ったら、小柄な機体では御しきれないトルクになってしまうところ、ジーメンス・ハルスケSh.IIIは「エンジンとペラが反転してトルクを打ち消しあう」という、これまたドイツらしい妙に凝り過ぎな機構を持っているのだった(WINDSOCK DATAFILEではカウンター・ロータリーと表現している)。

第二次大戦末期から戦後にかけて、二重反転ペラというのは時々見るが、エンジンとペラの反転なんていうのは、この系列だけかも……。模型でも、機体側にギアを噛ませて反転を表現したくなるモデラーがいそう(いや、手軽にできるなら私もやってみたい気がする)。

●簡単なキット内容の紹介。

実はエデュアルドから48でジーメンス・シュッケルトD.IIIが出るのはこれが2度目。最初はシリーズ初期、まだエデュアルドがいかにも簡易インジェクション然としていた頃の製品。それでも結構、愛情と気合いのこもったキットだったように記憶しているけれど(比較で写真を出そうと思ったが、棚の奥底にあるらしくて発見できなかった)、流石に新キットが出てしまうと、今から作るのはつらそう。

というわけで新キットのほう。寸法は、基本的にWINDSOCK DATAFILE #29の図面に準拠しているようで、ほぼぴったり重なる(といっても、WINDSOCK DATAFILE #29が出たのはもう20年以上前)。木製モノコックの胴体は筋彫り表現。

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布張りの第一次大戦機の場合、その布張り表現の繊細さがキットの印象を大きく左右するが、このキットは単にリブ表現だけでなく、リブテープを貼った上から縫い止め糸まで表現している。もっとも、基本的にはこの上に2枚、場所によっては3枚のデカールを貼り重ねることになる(ローゼンジ+リブテープ、および国籍マーク)。合板製であるらしい水平安定板は細かい釘表現入り。

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機首のエアスクープは、フチの厚みは少々目立つものの、すべて開口表現。スピンナーの4つの穴も開口しているが(写真を撮ったがピンボケだった)、これもフチが厚いうえ、実機では前から見た時にエッジが直線ではなく楕円になっているはずなので、若干の削り込み工作が望ましい。

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脚柱と胴体支柱は、鋼管に薄板を巻きつけて留めた表現。なかなか凝っているのは確かなのだが、実機写真を見ると、どちらも素直に翼型支柱もしくはフェアリングのような……。

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コクピット内やエンジン周りも、必要充分な細密度でパーツ化されている。シュパンダウ機銃と椅子は、ワンピースのプラパーツと、エッチングと組み合わせるものとの選択式。

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エッチングはエデュアルドお得意の彩色式。椅子の背もたれの右にあるのは、指定塗装例のひとつが翼間支柱にくくりつけている人形。本当は平らじゃないんじゃないかなあ、と思うのだが、そもそもそれほど鮮明な写真が残っているわけでもない(WINDSOCK DATAFILE #29でも『人形かテディベア』と書かれている程度の写り方)。デカールは前述のようにカルトグラフ製で、翼上下全面に貼るローゼンジ・パターン、リブテープ、それからマーキング類の3枚構成。

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説明書はフルカラー。指定塗装は、ジーメンス・シュッケルトD.IIIに乗っていたことがあるエースといえばこの人、エルンスト・ウーデットの「LO!」ほか5種類。

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コメント

いいすね〜ジーメンスシュッケルトの飛行機!
私はロデン/トコ?だったかの1/72と1/32を持っておりますが現在山の中に行方不明です・・・
二重反転は、いま、タミヤのミニ四駆用の小さい径のクラウンギアが安く出回っているので、真鍮パイプと組み合わせれば電動にしようとか愉快なことを企てない限りは結構簡単に実現できるかと。
ジーメンスって言うと京急のハミングするモータですね。おやじが「ドイツ人は粋だな」って感心してましたが、うるさいって人もいたようで・・・

投稿: みやまえ | 2015年1月27日 (火) 23時43分

>みやまえさん

反転ロータリーのギミックには、必ずやみやまえさんが反応して下さると思ってました(^o^)。

ミニ四駆用のクラウンギアですか……ちょっとチェックしてみます。

そういえば、京急の「ドレミファ・インバータ」はジーメンス製だったんですね。引退前にもう一回生で聞きたいなー、と思っているうちになくなってしまいました。ちょっと惜しいです。(wikipediaで音声聴けますが)

投稿: かば◎ | 2015年1月28日 (水) 00時59分

http://www.tamiya.com/japan/products/15462carbon_reinforced/index.htm

これで行けますかね。
うまく機首に収まるかな?

投稿: かば◎ | 2015年1月28日 (水) 01時06分

こっちのです。
http://tamiyashop.jp/shop/product_info.php?products_id=94691&osCsid=
直径は11ミリ位です。ピニオンギアはついてないっぽいです。(買ったのに記憶が無い)
秋葉原のヨドバシとかラオックスで見かけました。

投稿: みやまえ | 2015年1月28日 (水) 21時27分

>みやまえさん

同じ「G13」という名前なので、形状は一緒かな?
それなら、どうせ大量に使うものではないので、ちょっとお高くてもピニオン付きの「カーボン強化」のほうがいいかも?
とにかく、お店で一度見比べて見ます。

投稿: かば◎ | 2015年1月28日 (水) 21時54分

ども、ご無沙汰です。
エデュの新SSW-3、私も入手しましたが、素晴らしいキットですね。
惜しむらくは上面の5色ローゼンジの色合いがなんか妙に淡くておかしい気がします。カルトグラフなのもったいない。。。
因みに、旧キットは確か同社1/48 WW1シリーズの栄えある第1号キットだったと記憶してます。
話題になっているジーメンス春介さんの、反転回転機構は、↓でやっている人がいますね。
それも、なんとTokoの1/72に仕込んでる!!
http://www.dishmodels.ru/gshow.htm?p=9420

投稿: ゆたか@sapporo | 2015年1月29日 (木) 16時23分

>ゆたかん

申し訳ないっ!
たぶんURLが入っていたからだと思いますが、スパムに分類されてました。

ローゼンジの色がなあ……というのは、マクタロウさんも仰ってました。

なお、エデュの48第一次大戦機の一番最初は、確かフォッカーのE.IIIだったと思います。2番目がジーメンスかな?

投稿: かば◎ | 2015年2月16日 (月) 04時44分

初めてコメントさせていただきます。
このエンジンはプロペラとシリンダーが単に逆回転するのではなく回転数も2:1となっていますよ。
回転式で作ろうとされる時にはそこのところも表現しないと…。

投稿: ひげオヤジ | 2015年3月18日 (水) 13時36分

>ひげオヤジさん

書き込みありがとうございます。
回転比に関しては、私も気になっていました。

というのも、先のゆたか氏の書き込みにある、72のTOKO/RODENの作例では、しっかりエンジン側が減速するように作られているんです。

機構の図解がこれです。http://www.dishmodels.ru/picture/glr/09/09420/g09420_8154299.jpg

当初は、反転さえすれば回転比は目をつぶってもいいか……なんて思っていたのですが、72で再現しているものを無視するわけにはいかないかも。

もっとも、そうなると「手軽に再現」からどんどん遠くなるので、ものぐさな私としてはちょっと考え物です。

投稿: かば◎ | 2015年3月19日 (木) 16時10分

>かば@さん、

トコの72の製作記事でその紹介していただいた図解ですが、どうしても私にはまだ理解できていません。
駆動用のモーターがどこにも見つけられないんですよ。
どうなっているのでしょうね。

投稿: ひげオヤジ | 2015年3月23日 (月) 12時03分

>ひげオヤジさん

いや、駆動用のモーターはなく手動でしょう。
元記事には動画(GIFアニメ)が付いていますが、そこでも筆先?でペラを回しています。
http://www.dishmodels.ru/gshow.htm?p=9420

特にSSWの場合は機首も短いので、モーターを組み込むとコクピットから見えてしまいます(特に72だと)。

私も電気系統を組み込むことまでは考えていませんでした。

投稿: かば◎ | 2015年3月23日 (月) 13時03分

ちなみにマクタロウさんから、lonestarmodelsから反転ギア付きエンジンが出る(出ている)ことも教わりました。

http://6014.teacup.com/tankietka/bbs/564

う、うーむ。

投稿: かば◎ | 2015年3月23日 (月) 21時06分

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