●しばらく前に購入した、新レーベルCAMs(Combat Armour Models、戰甲模型)製の第一弾キット、ビッカース水陸両用戦車A4E12初期型のキット紹介。
箱に書かれたキット名称は、
Vickers Carden-Loyd Amphibious Tank A4E12 Early Production
維克斯・卡登・羅伊徳 水陸兩棲坦克 早期量産型
ビッカース・カーデンロイドの音写は数種あるようで、台湾発行の資料本、「抗戰時期國軍 機械化/装甲部隊歴畫史 1929-45 中國戰區之部」には、「維克斯考登勞爾特」の表記で出ている。
以前にも書いたが、CAMsは、Riich Modelsの別ブランドである由。
その後、グムカのブログで触れられていたのだが、このキットは、元ドラゴン、元トライスターのキット設計者、Leeさんという方の手によるものであるとのこと。詳細はこちら。
(1月29日追記:メールで指摘を頂いた。CAMsに関して、Riich.Modelsサイト上のNEWSLETTERSには、“Regional brand of Riich.Models”と書いてあるけれども、実際には非常に小さくはあっても、独立した企業であるそうな。また、上記Leeさんはプロジェクト・マネジメントを担当。実際にキットの設計、箱絵、説明書の制作はT. Wongさんが担当されたとのこと。Wongさん、どうもありがとうございます。)
●実車についての概略はwikipediaを(最初の原稿を私が書いているので手前味噌だけれど)。
若干の補足をすると、唯一まとまった数を使ったのは中華民国陸軍だが、これは、縦横に水路が巡らされた長江デルタ地域での使用を想定してのことであったらしい。
まとまった数とはいっても29輌しかないにもかかわらず、中国陸軍の装備車輌には2仕様ある。砲塔ハッチが左右で直線になっている、キットの仕様が初期生産型、ハッチが大きく半円形で、縁が側面に被るような格好になっているものが後期生産型と、キットの説明書では解説されている。
(1/7追記:このサイトには、ヴィッカース水陸両用戦車は、1934年に中央政府が16輌を購入、別に12輌を広東軍閥政府が1933年以降に買ったと書かれている。……1輌足りない。まあそれはそれとして、これが正しければ、おそらく、もともと広東政府が購入したものが初期型、中央政府が購入したものが後期型である可能性がある。実際、広東軍のものとされる写真の車体はキットと同じ仕様となっている。)
ソ連はこの車輌をサンプル的に輸入し、自前の水陸両用戦車開発の参考品としたため、クビンカに実車が1輌現存している。
さすがに戦間期のイギリス戦車、生産数はせいぜい40輌ちょっと、まともに使用したのは中国軍だけとあってはキット化など望めないと思っていたのだが、ガレージキットをすっ飛ばして、まさかのインジェクションキット化。
「いい時代になったもんですなあ」と言ってもいいのだけれど、要するに、キット化アイテムにいよいよ詰まってきたことと、キット開発の中心である中国の自国ネタであることの相乗効果の産物と言えるかも。
ちなみに、対日戦争中の中国軍ネタファンである私はスクラッチビルドを構想したこともあり、模型ストックの山のどこかに、プラバンで一応は形にした車体基本形がある。他にも、この車輌用のために流用可能パーツを取り分けてあったりする。嬉しいやら侘しいやら。
●キットの構成。インジェクションのプラパーツが4枚、エッチング1枚、デカール1枚。組立説明図は黒・青の2色刷りでちょっと高級な感じ。
プラパーツ4枚のうち、2枚は足回り片側分ずつの同一パーツ(Aパーツ)。車体上・側面、フロートなど、比較的大振りなパーツが中心のBパーツ(写真左)、車体底面・後面、砲塔上下面に前後面、ほか小パーツのCパーツ(写真右)。
フェンダー上の工具箱1つ以外に何の車外装備品もなく、部品はあっさりしたもの。
●車体は各面別パーツの箱組み。側面、上面、底面、前面、後面の6面で、構成としてはオーソドックス。
しかし水陸両用戦車のため前後に曲面があり、特にスクリューが付く後面は、可展面ではあるけれど、なかなか凝ったカーブとなっている。さらにもともと装甲が極薄な車輌なので、各面パーツの突合せは、双方、斜めに削がれている(もちろん、プラの厚みが接合部に出るような構成だと大いに困ってしまうので、箱組みならこの接合法は当然)。
しかし、合わせはかなりデリケートなうえ、ランナーゲートが接着面となる斜めの部分にごつく接続している(右写真)。加えて、側面パーツには若干の反りもあった。とにかく入念な擦り合わせは必須。
説明書では、まず底面に側面、前後面を接着し、最後に上面を取り付けるよう指示されているが、最終的に辻褄の合わない部分が上面に来てしまうと悲しいことになる。むしろ、底面を最後にしたほうがいいのではないかと思う(もちろん、ピタッと隙間なく組み上がることが確実になるまで入念な擦り合わせができるのなら別だが)。
ちなみに私は、後面に両側面、上面、前面という順番で接着した。現段階で底面は未接着。
一見して「リベットだらけ」のこの戦車だが、実際には、周囲の面は基本丸リベット、上面はほとんど六角平ボルトで止められている。なにしろ華奢な戦車なのでリベット/ボルト頭も非常に小さいのだが、一応、キットのモールドも、車体上面は六角平ボルト頭を表現しているようだ(右写真)。
車内は、運転席だけはパーツが入っているが、あとは何もなし。車体後部のシャッター付き吸気口から中が覗けてしまうので、何らかの目隠し措置は必要だと思う。
車体両側のフロート(浮き)を兼ねたフェンダーはコの字になった本体(上の箱組みした車体パーツの左上に一部写っているもの)に底面が別パーツだが、合いはあまりよくなく、こちらも入念な擦り合わせが必要。場合によっては、プラバンで底面だけ作り直してしまったほうが楽かもしれない。
●砲塔はビッカース6t戦車の双砲塔型とほぼ同形。キットも、ミラージュ・ホビーの6t戦車双砲塔型同様、前後左右を別パーツにしてリベットのモールドを入れている(ただし、ミラージュの6t戦車双砲塔型は、最近のものではパーツ構成が変わっているかもしれない)。
その部品分割自体はいいのだが、全体的にリベットの突出具合が車体に比べ大きく、金型に対し面が斜めになるほど、リベットの形が崩れてしまっている。
特に右側面部分のパーツでは、砲塔前面に繋がる突出部側面を抜き方向に正対させたかったのか、そのすぐ脇のリベットは、だいぶ間延びした涙滴形になってしまった(右写真)。少なくともこの部分だけでも修正したい感じ(余力があれば後面左右端も)。
車体後面の曲面のリベットにも同様の傾向はあるが、そちらは場所が場所だけに目立たない。
●足回り。履帯はインジェクションパーツで、部分ごとに一体成型された、いわゆる「リンク&レングス」方式。起動輪、誘導輪に絡ませる部分も1リンクずつではなく、2、3リンクずつ成型されている(したがって正確には「リンクス&レングス」?「レングス&レングス」?)。
ユニバーサルキャリア等と同系で履板が細かいので、この方式がふさわしいとは思うが、若干、部品の細かさに金型がついていっていないようで、パーツに余計な力が掛かって変形している部分、ゲートから切れている部分などがあった。
右写真上の長いパーツは接地面だが、多少波打ったり、パーツに力が掛かって白化している部分がある。ただし、使用できないほどの変形や破損はなかった。
なお、モデルカステンのユニバーサルキャリア用履帯(非可動)もほぼ同形だが、水陸両用戦車の履帯は(おそらく軽量化のため)ガイドホーンが1リンク置きになっている。したがって、もしカステンに履き替える場合は、使用するリンクの半分をちまちま加工する手間が必要になる。
転輪はユニバーサルキャリアと同形(だと思う)。若干の型ズレが見られた。キットの転輪のスポークはまっ平らに作られているが(タミヤのユニバーサルキャリアも同様)、実際には、このスポークは外側から見て、中心に向けてわずかにふくらんでいて、裏面にはリブが付いている。つまり、断面形状はT字型。後期の試作車か、初期の生産型では表側にもリブが付いたものもあるようだ。
ただし、おそらくユニバーサルキャリアの実車写真を見ても、外側からはなかなか「ふくらんでいる」と判らないレベルなので、作り直す手間と効果を考えれば、スルーするが吉、ではないかと思う。
起動輪はこのような感じ。これにキャップと3カ所のボルト頭の極小パーツが付く(どこかにはね飛ばしそうで怖い)。
表面形状はパッと見よいのだが、歯にだいぶ厚みがあり、そのままでは履帯とうまく噛み合わないようだ。
サスはドイツI号戦車と親戚関係。キャリアのコイルスプリング採用前に、初期のビッカース軽戦車・軽ドラゴンに使われたリーフスプリング形式のもの。
形状はそこそこよく出来ているように思うのだが、残念なことに、前側サスの片側パーツに成型不良(あるいは金型の破損?)があり、アーム部分のリブが欠けている。
私の購入したキットの同一枝2枚ともが同じ状態になっていたので、当初生産分のほぼ全部そうなっている可能性がある。右写真の、4つあるサスパーツの左上が問題のパーツ。
車体右側ではこのパーツは内側に回るのでそのまま使っても誤魔化せるが、左側では外側に出るので修正必至。
●エッチングパーツのうち、左下の大振りなパーツは、砲塔下/操縦席のバルジ、および操縦席ハッチの垂直面。抜きの関係でつんつるてんの部分にリベットを付加する目的のもの。
処理としては妥当だと思うが、ここの部分は本来は(前述のように)小丸リベット。凝りたい人はプラパーツに直接リベットを植えてもいいと思うが、大きさ的にも場所的にも、エッチングのように綺麗に列を揃えるのは難しいかも。
フェンダーステイもエッチングだが、その留めボルトもエッチングで別パーツ(0.5mm径以下)というのは、ちょっと組立のハードルが高い(しかもちょうどピッタリの数しか入っていない!)。
●塗装とマーキング。基本、イギリス本国・ビッカース社で施された迷彩のまま。塗り分けパターンは、説明書で図示された3種とも同一になっているが、実際には各車バラバラのようだ。
キットの指定では、クリームイエロー、ブラウン、グリーン、グレーの4色迷彩(+黒の縁取り)だが、ボービントンにあるビッカース軽戦車、ビッカース6t戦車は(同じくビッカース社の迷彩を復元したものと思われるが)、グレーを除いた3色迷彩になっている。どうやら3色迷彩説と4色迷彩説があるようなのだが、それほど多くないモノクロ写真からでは判断しづらい。
砲塔に「龍」と書かれた写真は有名だが、あちらは砲塔ハッチの形状が異なる後期型。
●キットにはいくつか不要パーツも含まれていて、何らかのバリエーション展開も考えられている様子。不要パーツから見ると、同一の砲塔(銃塔)に、空冷機銃が連装で搭載したタイプのようなのだが、今のところ、私はそのようなタイプの写真は見たことがない。謎。
後期型は発売になって欲しい気がするが、砲塔上面およびハッチのパーツが、初期型・後期型関係なく必要なパーツの枝の真ん中に入っていて(前掲Cパーツ)、ちと出るのかどうか怪しい感じ。
●総じて、非常にこの車種に関して「好きでキット化しました」感が詰まっている感じで好感が持てるが、どうもインジェクションパーツとして具現化する技術のほうが若干追い付いていない感じはする。一昔前の簡易インジェクションほど精度が曖昧なわけではないし、バリもほとんどないが、(何度か言っているように)入念なパーツの擦り合わせは必須。
もっとも、少なくとも車体箱組みをしてみた感じでは、擦り合わせを怠らなければパテ不要なレベルには組める感じ。手間は掛かるので、「面倒を厭わず、この車種を組みたい」と思うコアなファン向けキットと言えるかもしれないが、まあ、そもそもそういう人でなければ買わないアイテムとも言えそうな……。
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