●東京AFVの会の折に、ケン太さんより頂いた、Bronco Models製、1:35、“Russian 650mm OMSH Track Link Set for KV-1/KV-2 (Workable)”のレビュー。
KV戦車はそれなりに有名車輌でもあり、別売履帯は、古いモデルカステンの非可動式以来、だいぶあちこちの会社から出ているのだが、どうも「入手しやすく、使いやすい」ものがそれほどなく、ちょっと隔靴掻痒な状況にある。
ブロンコのこのセットは、値段はカステン可動式よりも安いし、形状がバッチリであれば大歓迎な製品なのだが、
Russian 650mm OMSH Track Link Set for KV-1/KV-2
という製品名からして、大いに怪しい(なお、「OMSH」とあるのは工場名かと思うが、はっきり判らない)。
●KV系列の履帯のおさらい。基本、「私の理解では」という範囲での記述なので、間違っていたら御勘弁を。
T-34ほど煩雑ではないが、KV系列にも何種類かの履帯が使われている。細部をあれこれ言い出すとバリエーションが増えそうだが、基本は以下の通り。
標準型KV(KV-1、KV-2)に使われたものは700mm幅で、初期にはすべて1ピースタイプのリンクだったが、1941年型の後期、おそらく鋳造砲塔が使われ始めたのと前後して、2ピースタイプのリンクを混ぜ履きするようになる。
KV-1s、SU-152では、当初、左右フランジを斜めに削ぎ落としたような軽量型履帯が使われる。これも、1ピース型と2ピース型の混ぜ履きが標準。
軽量型履帯は「ちょっとやりすぎ」と考えられたのか、何か不具合があったのか、1s系の後期には、再びフランジが四角くなった履帯に戻る。標準型KVのものと非常によく似ているのだが、実際には左右幅が詰められていて、650mm幅となっている(上記軽量型も650mm幅か?)。これも、1ピース型と2ピース型の混ぜ履きが標準。後継であるJS戦車が初期に最も普通に履いている履帯も、まったく同じものと思われる。
なお、700mm幅履帯と650mm幅履帯は非常によく似ているが、以下のような点で見分けられる。
- KV系列の履帯は内側から連結ピンを挿し、外側でCリングで留める?ような形になっている。ピンヘッドよりも、ピンエンド側がより突出しているが、700mm履帯ではピンエンドが履板フランジのラインよりも凹んでいるのに対し、650mm履帯ではほぼ同一線上になる。
- 2ピース型の履板は、700mm履帯では分割部裏側に盛り上がり(センターガイド)がある。650mm履帯の2ピース履板にはこれがなく、まったく平面になっている。
ちなみに、KVの源流である多砲塔重戦車SMKや、KVの試作型は、標準型よりもやや幅の狭い履帯を使っているように見えるものがある。詳細未確認。
各タイプは、噛み合せ部の寸法はまったく同じで、混ぜて繋ぐことが可能であるらしい。
比較的有名な、KV-1s改造のKV-T戦車回収車の後姿の写真があるが、どうやらこの車輌は、700mm履板、軽量型履板、650mm履板を混ぜて履いている(左側履帯の中央の1枚だけ、幅が広い)。
●そんなわけで、ブロンコの履帯は、標準型のKV-1/KV-2用と銘打って650mm幅履帯を出している時点で、「えっ、何それ?」ということになる。
もっとも、上記のように650mm履帯と700mm履帯は、パッと見の形状はよく似ているので、知らん振りをして標準型KVにこれを使っても、気付くのはよほどのマニアだけ、とは言えるかもしれない。
そもそもこの履帯セットは、同社SU-152用に使われているもののうち、1ピース履板だけを倍にして発売したもの。どうせなら、2ピース履板もそのままにして出してくれたら、1s系用にもJS用にも使いやすかったはず。もっとも、そのタイプに関してはモデルカステンのJS用タイプB(SK-14)があるので、それほど必要性は高くない。
ちなみにトランペッターのSU-152の履帯は、聞くところによるとこれまた悩ましいもので、幅は700mm履帯なのに形状(2ピース履板の裏)は650mm履帯になっているそうな。
●実際のブロンコの履帯セット詳細。ためしに、ピンのランナー一枝分を連結してみた。
表裏のモールドはこんな感じ。表(接地面)には鋳造を示す梨地が入っているが、表現は割と画一的というか、硬め。裏側もフランジ端がカクッと斜めに綺麗に削がれていて、これまたちょっと硬質な感じがする。
ただし、インジェクションの履帯にはよくある、押し出しピン跡がどこにも付いていないのは非常に好ましい。
連結ピンは、(当然そうなっていないと困るが)内側用のピン頭(平頭)と、外側用のピン先(留めリングの段付き)の2種付き。ただし、履板のピン穴開口部がやや大きく、ピン先のほうは、段の部分が履板にほぼ埋まってしまう。
●すぐ取り出すことができた他社の履帯との比較。
まずは、左から、マスタークラブのレジン版、ブロンコ、モデルカステンSK-7。
モデルカステンのSK-7は、間違えて歯数が1つ多いタミヤのKVに無批判に合わせているために、明らかにピッチが細かい。そのため、そのままではタミヤのKVにしか使えない(ただし、トラペその他の新しいKVキットに使用するために、わざわざ間違った歯数で作られた修正用起動輪が同梱されている)。
ブロンコとマスタークラブはほぼ同じだが、厳密には、わずかにブロンコのほうがピッチが広い。ただし、実際に模型に使用する分には誤差の範囲内で、少なくともトランペッターのKVの起動輪には問題なく巻けた。
ピッチの差は、マスタークラブ8リンクに対しカステン9リンク。ブロンコ6リンクに対しカステン7リンク、といったところ。

幅の比較。左はブロンコとマスタークラブ。こうして繋げてみると、幅の違いは歴然としている(逆に言えば、こうして繋いでみないとよく判らないのも確か)。
標準型KV履帯の幅は、後世の1:35戦車模型に合わせたかのような寸法であり、マスタークラブの履帯もきっかり2cm幅。噛み合せは、本来ならまったく同じのはずだが、この2社のパーツ間では、「ぐいぐいやればなんとかはまる」レベル。
右はモデルカステンとブロンコで、ピッチがおかしいカステンは、幅はほぼ標準型に近く、19mm強。こうしてみると、いかにも鋳造部品っぽい有機的なディテールはカステンのほうが「らしい」感じで、寸法間違いが惜しい。そろそろ潔く、トランペッター他の「新しいKVキット向け」に標準型履帯を(できれば初期の1ピースのみと、後期の2ピース混ぜ履きの2種で)出し直してくれないものだろうか。
ついでに、各社接地面比較(左写真)。左から、トランペッターの標準型KVシリーズに入っている部分連結式履帯、ブロンコ、カステン、マスタークラブ。撮影時に適当に並べたので、左右と、真ん中2本とで向きが違う。
ちなみにトランペッターの部分連結式は、ご覧のようにディテールはマスタークラブに劣るが、それなりのレベルには仕上がっているし、幅はきっちり2cm。ただし、裏側にやたらに押し出しピン跡がある(右写真)こと、本来は2分割リンク混ぜ履きであるはずの後期型KVにもこの履帯パーツしか入っていないこと、位置がずれている上部転輪にあわせた弛みが付いていることなどが弱点。
●話がブロンコ履帯からずれた。
というわけでキット名称通りの使い方は出来ず、いささか特殊な仕様のブロンコKV履帯だが、1sでも、なぜか1ピース履帯だけを使っている例がある。
1sとしては割と有名な、砲塔に大きく白で2ケタ番号を書き入れた1部隊の連続写真があるが(たとえばこれ)、この部隊の車輌は、1ピースタイプの履板だけを繋げた履帯を使っている。この仕様を作る場合には、ブロンコの履帯は都合がいいことになる(というより、これしか使い道がない?)。
っていうか、どこか、安くて使いやすい700mm幅・2分割混ぜ履きタイプ出してよ……(現時点で比較的入手しやすいのが、高いフリウルかマスタークラブ・メタル版くらいしかない)。
●まったく関係ない話題。
少し前から、ネット上で、タミヤがソミュアS35を発売するという噂が飛び交っているらしい。しかも製品番号が35344であるとか、妙に具体的。
実際のところ、ルノーR35か、ソミュアS35かは、タミヤが出してもいいんじゃないかと常々思っていて、しかしそう思っている間にR35はホビーボスから出てしまった。残るフランスもののメジャーどころといえばS35だけだったわけで、出るとしたら非常に嬉しい。
●たまたま覗いたmixiで、いしぐりん氏から教えてもらった話題。
エアフィックスの2015年の新製品予定というのがなかなかトンガッテいて、どうやら72の新金型でデファイアントや九七艦攻が出る模様。飛行機がらみのセレクトだが、アルビオンAM463とかいう燃料補給車(リンク先のページでは643になっているが、正しくは463であるらしい)、ベッドフォードMWD軽トラックが48で。これは飛行機と絡めなくてもちょっと欲しい感じ。
●さらに関係のない話。
38(t)系列の操縦席は、ドイツ戦車とは逆に右側にある。なるほど、ドイツとチェコとでは道路が右側通行か左側通行かで違うんだな、と、ボンヤリ思っていたのだが、考えてみればヨーロッパ大陸は、各国とも右側通行のはず。あれれ?
と思って調べ直してみると、どうもチェコも戦前までは左側通行だったらしい。
もっと詳しく調べたらいつ左側通行から右側通行になったのか正確な時期がわかるかもしれないが、もしかしたら、ナチスドイツのチェコ併合で切り替わったのか?
というわけで、38(t)の車体ハッチは、操縦手席の上にあるわけではなく、無線手席の上にある。ついうっかり、「操縦手ハッチ」と言ってしまったりするが、アレは「車体ハッチ」ではあっても、「操縦手ハッチ」というには無理がある。トランスミッションの後ろを回って席に着くことを考えると、砲塔ハッチを使っても「こっちの方がちょっと遠いかな?」くらいではなかろうか。いずれにせよ、いざという時、操縦手は逃げ出しづらくてかわいそうだ。
ちなみに、ドイツ占領下で設計された駆逐戦車38(t)ヘッツァーでは、ペリスコープ位置で判るように、操縦手席は左に移動している。
そういえば、38(t)に「改造キット」を被せて「なんちゃってヘッツァー」を作ったという設定のガルパンはどうなっているのだろうと改めて思ったが、ちゃんと操縦手席は左に移動していた。まあ、そうでないと砲が載らない。
しかし実際の話、本来砲尾の右側から装填するPaK39を右に寄せて搭載してしまったため、ヘッツァーはひどく装填作業のしづらい車輌であったと聞く。それならば、操縦席は右側のままで、砲は左に寄せて搭載したほうがよかったんじゃないだろうか。
ところで、ヴィッカース6t戦車は、操縦席が右側にある。イギリスは左側通行だからこの位置は当然だと言えるのだが、同じヴィッカース社の水陸両用戦車は、操縦席が車体左寄りにある。なんつーいい加減な。
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