●今日(7日)、仕事帰りに秋葉原に寄ったら、ミラージュの新製品、クブシュが入荷していた。VOLKSはミラージュを直接仕入れているので他の店より安く、2100円(税別)。今時の1:35キットの値段じゃないなあ。
待望のアイテムだったこともあり、早速購入したので、ざっと気になった点など書いてみることにする。
前回予告の、FIRST TO FIGHT 1:72のwz.34装甲車2種のレビューはまた今度。
●クブシュは、1944年夏のワルシャワ蜂起の際、蜂起軍の1部隊がありあわせの材料ででっちあげた1輌だけの装甲車(兵員輸送車)である。その製作の経緯や戦歴などは、ざっとwikipediaにも書いてあるので、そちらを参照していただきたい。また、現存する実車およびレプリカのディテール、写真資料などは、以前の記事を参照のこと。
ただひとつ触れておくと、(以前の記事でも触れたように)ベースとなった車輌には、従来説であるシボレー157説と、最近出てきたシボレー155説があり、どうやら今回のミラージュのキットはシボレー155説を採っているようだ(説明書解説文による)。
この155説というのは、ネットであれこれ見てみると、どうやらホイールベースの寸法が判断の根拠であるらしい。例えばこのページの図版等参照。
もっとも、157は通常形式のトラック、155はキャブオーバーで、見るからにトラックシャーシにありあわせの材料で装甲を被せただけのクブシュで、わざわざ面倒なハンドル位置の変更など行ったのかどうか、個人的には疑問も感じる。
また、現存するクブシュのオリジナル部分は基本、ドンガラのみで、シャーシは別物にすげ変わっているらしい。そんな状態で、「ホイールベースから考えて」という根拠が成り立つのかどうかもよくわからない。
もっとも、ミラージュの説明書には妙に詳しく製作過程等が書かれており、何か別の根拠(伝承とかメモとか写真とか)が残っていたのかもしれない。
●キットは大きく左右分割された装甲車体、操縦席前面、ボンネットハッチ、若干のスカート部などが別部品。
1:35キットとしてはだいぶプリミティブな感じはするが、シャーシとエンジン、駆動伝達系、サススプリング、操縦席などのパーツも入っている。
装甲車体は。左右で溶接ラインが違っているのを表現していたり、頑張っている部分はあるのだが、その一方でエッジ部分の溶接ラインは表現されていなかったり、“生ぬるい”部分が多々ある。1:48のカラシュ軽爆撃機のキットあたりで見せた頑張りとこだわりはあまり見られず、総体的に言って「まあ安いキットだし、こんなもんなのかねえ」レベル。
キットがそんな調子なのに組立説明書は妙に頑張っている。A4版4ページ(つまりA3版の2つ折り)の組立説明図、A4版1枚、カラー印刷の実車解説と塗装説明図が入っているのだが、実車解説は(しっかり読み込んでいないが)改段落もなくびっしり長文だし(片面がほぼ文字で埋め尽くされている。ポーランド語、英語の対訳なので実質半ページ弱)、塗装説明の下にまた小さく5面図があるので何かと思ったら、実車の弾痕の位置が図示されていた。それだけこだわっているのに、図が小さすぎて非常に分かりづらいのがちぐはぐな感じ。
その他にも、説明図をよく読むと、「この部分は戦後に手を加えられたところで、戦時中は付いていない」とか、解説が細かい。それだけ、キットそのものもこだわってくれればねえ……。
●おそらくこのキットで最大の「情けないポイント」がタイヤ。なんと、wz.34装甲車キットとまったく同じものが入っている。
wz.34装甲車のキットは、初版のセルティ版ではこれとは違うゴムタイヤが入っていて、このタイヤはその後ミラージュ版になってからか、あるいはその途中のAGA版かアンコール版で変わったものだが、パターンもゴムタイヤから格段の向上があるわけではなく、ご覧のように1:35としてはお粗末。
またそもそも、クブシュ(というか、シボレーのトラック)と、もっとずっと小ぶりなwz.34装甲車が同サイズのタイヤを使っていたのかどうか。しかもミラージュのwz.34のキットは、実際には1:35よりも一回りスケールが小さい。
ちなみに、どれだけ正確かどうかはわからないが、Jan Tarczyński, "Pojazdy ARMII KRAJOWEJ w Powstaniu Warszawskim"(書名は「ワルシャワ蜂起における国内軍の車輌」というような意味。wkł, Warszawa 1994)に出ている簡単な4面図をキットの大きさに拡大した場合、タイヤ直径はキットより3mm強も大きくなった。
TOKO/RODENのGAZトラックのタイヤをホイールごと流用しようか検討中。
追記:
シボレー155もしくはシボレー157のタイヤサイズを探していて、以下のページに行き当たった。
oldtimery.com -- "Polski" Chevrolet 157
記事内容は、戦前のポーランドで、シボレー157が大量にノックダウン生産だかライセンス生産だかされた経緯が書かれたもの。とりあえずこの記事では従来説に則り、クブシュは157ベースで製作されたものと紹介されている。
さて、この記事の末尾に諸元の表が出ていて、もちろんポーランド語なのでよくわからないのだが、このなかの以下の項がどうもアヤシイと、文章を手打ちして、自動翻訳に掛けてみた。
koła/ogumienie : tarcze stalowe 20x5" (przód pojedyncze, tył bliźniacze), Ogumienie rozmiar 650x20
ホイール/タイヤ:スチールディスク20x5(フロントシングル、ツインリア)、タイヤサイズ650x20
あたり!
さて、この古いタイヤサイズの表示法がよく判らないのだが、別途調べると、GAZ-AAのタイヤは「6.50-20 inches」とある。どうやら同サイズと考えてよさそうだ(もとは同じアメリカの旧式トラックだし)。一応、155と157が同一サイズのタイヤを履いているという前提ではあるが、GAZのタイヤの流用でなんとかなりそう。ホイールも5つ穴で都合が良い。
●なにしろ実車がポリゴンで作ったCGのように多数の面の組み合わせで構成されているので、各面の向きだの大きさだの辺の構成する角度だの、細かい狂いはあれこれ生じている模様。
また、特に側面部分の大きな平面は1枚板の装甲板は調達できず、左右とも何枚かを接ぎ合わせて製作されているが、その溶接ラインにも、キットと実車では多少のズレがある。また、前述のように各エッジに入っているはずの溶接線は、キットではほとんど省略されているので、それは各自お好みで追加すべし。
▼まず右側面。
後ろの縦線は、本来、銃眼の後辺と接している。銃眼がもっと後ろにあるか、縦線が前にあるかのどちらか。
その前の面(中央の面)は、キットでは後ろ側の面よりも広いが、実車ではむしろ狭く、しかも下へ行くほどすぼまっている形状。前側の溶接線を後ろに下げ、ちょっとナナメにするとよい具合になりそう。
その前の面の上部に入る横方向の溶接線の位置はだいたい合っているが、心持ち下げるくらいがいいかも。その前の助手席横の面の最上部は三角に別材を足してあり、溶接線がある。
なお、車体横の銃眼と、助手席横のスリットは、キットではスリットのほうがやや下だが、実車では逆にスリットのほうがやや上(銃眼の上のラインと同じくらいのレベル?)。
▼左側面。
車体後部左右の三角面に斜めに入る溶接線は、キットでは左右が同じレベルにあるが、実際には左の線はもっと下にある。
側面の溶接ラインはおおむね正しい位置にあると思うが、助手席横の面に細かく入る溶接線が省略されている。
また、助手席横のクラッペ風に付いているスリット(溶接されているので開閉しない)は、キットでは板の上下辺と平行にスリットが入っているが、実車は斜めになっている。
クラッペ風に貼ってある小さな板材の後方に細かく2本入っている溶接線は、装甲板に直接開けたスリットの位置が悪くて埋めた痕か?
▼戦闘室前面。
ここだけの話ではないが装甲板の接ぎ合わせ工作は荒っぽく、現物合わせで適当にやっているらしい。前面最上部の左右の接ぎ合わせはきっちり合っておらず、別材でスキマを埋めているらしく、溶接線がV字に入っている。
また、助手席前の銃眼は、最初に穴を開けた位置がよくなかったらしく、一度ふさいでもっと右に開けなおしている。そのため、今ある銃眼のちょっと横に、埋めた痕がある。
▼ラジエーターグリル。
車体最前部のグリルは、ミニスケールキットか?と思うような階段状パーツ。
ここはまた、実車ではいかにもクブシュらしいところでもあり、このグリルの1枚1枚が微妙に長さや角度にズレがある。ちなみに、ワルシャワ蜂起博物館にあるレプリカのほうは、この部分が奇麗に揃って工作されている。
●塗料はファレホ推奨だそうで、まあそれはいいのだが、色指定が商品番号とは違う、たぶん色調を示す番号の下3桁で書かれていて、どうもサッパリわからない。
一応、主な色だけ対応表で調べてみた。
車外・迷彩色(淡色グレー)/指定番号870:ミディアムシーグレイ、FS36270相当
車外・迷彩色(濃色グレー)/869:グレイバイオレット(RLM75)、FS36132、36152相当
ホイール/895:ダークグリーン(RAF用、またはRLM71、RLM81)、FS34079、34097相当
車内(おそらく防錆塗料)/982:ダルレッド、FS30076、30109相当
シャーシ/861:黒
ただし、キットの指定でも、多くの塗装図でも、現在のレストア実車およびレプリカでも、明細塗装は明色の上に暗色の吹き付けになっているが、どうも戦時中の実車写真を見ると、暗色の上に明色を吹き付けている可能性があるように見える。
ちなみにキットの塗装図は、明色と暗色の配置それ自体は、だいぶ頑張って再現しているように思う。
最近のコメント