First to Fight 1:72 wz.34装甲車
●先日購入した、First to Fightの「WRZESIEŃ 1939(1939年9月)」シリーズ、1:72のwz.34装甲車のレビュー。
実車解説は、日本語概略ならwikipediaで。
さらに詳しくは、The PIBWL military siteで。同サイトのwz.34のページへのダイレクトリンクは、こちら。
また、以前当「かばぶ」でも、なんだかとりとめなく細部ディテールの考証をしたことがあるので、お暇な方はどうぞ(1回目、2回目)。
●キットは初期型装甲車体と後期型装甲車体の2種が出ていて、キット番号はPL1939-007とPL1939-009。ちなみに間の008はI号戦車B型のキットに振られている。
同梱の資料小冊子(表紙含めて12ページ)は、一応、私が購入したものは、それぞれのパッケージと同一の号がきちんと入っていた。もっとも写真は少なく文章主体で(ただしセンター見開きはカラー4面図)、しかも(C2Pのときにも触れたが)全編ポーランド語のみなのが残念。読めれば詳しい開発史とか、実戦記録とか、いろいろ面白いことが書いてあるかもしれないのに。
キット名称は前者がWZ.34、後者がWZ.34IIとなっているが、もともとwz.34装甲車は、シトロエン・ケグレス・ハーフトラックをベースとした装甲車(wz.28)を改修したもので、ここを見ると判るように、wz.28時代から装甲形状の新旧の別がある。
これらサブタイプの差は、PIBWL military siteに詳しく書いてあるし、キット付属の小冊子のセンターにも(ポーランド語だが)書いてあるように、エンジンとリアアクスルの違いによるもの――つまり中身の差なので、実際には装甲形状ときっちり対応しているわけではない(むしろPIBWL military siteでは、新型ボディの車輌が当初wz.34無印やwz.34-Iに改修された可能性を指摘している)。
また、当初のwz.34(無印)やwz.34-Iとして改修された車輌が、さらにアップデートされて-II仕様になった例も多かったらしい。というわけで、キット名称はあくまで便宜的なものと考えたほうがよい。わざわざ混乱を招くキット名称にするよりも、PIBWL military siteのように、「early body」「new(late) body」でいいんじゃないかと思うんだがなあ……。
●肝心の中身は、両キットとも基本パーツ群は一緒で、まったく同じ枝が1枚。
シャーシはフレームが床と一体、駆動系はサスペンションと一体で、これをはめ込んで車輪を付ければ、もう足周りは終了。しかし、ロコ組み足回りの装軌式車輌に比べれば細かい出来、と言えるかもしれない。実際、先日組んだC2P牽引車に比べると、こちらのほうが部品数が多い。
装甲ボディはスライド型を用いて、ころんと一体成型。この装甲ボディだけが(箱と冊子以外では)両キットの差。写真は左が旧型装甲ボディ、右が新型装甲ボディ。
旧型は戦闘室側面が段付きで、もともとハーフトラックの装甲車だった名残りで、下部だけシャーシ幅に合わせて狭まっている。
新型はこれを簡略化して全体が狭く、その代わりに、後部を傾斜させて内部容積の減少を若干補っている。
総じてモールドはシャープで、セルティ~ミラージュの1:35のwz35装甲車のキットよりも出来がいい、と言ってよいのではないかと思う。もちろん、問題がないわけではなくて、それは以降。
●まずはボディ。キットは前述のように、ボディだけを取り替えて旧型、新型としているわけだが、PIBWL military siteでは、旧型ボディ、新型ボディではシャーシそのものに若干の差があり、旧型ボディではホイールベースが新型よりも短いのではないかと指摘している(詳しくはPIBWL military siteの実車解説ページを参照のこと)。この場合、エンジンやリアアクスルを換装しても、旧ボディ用、新ボディ用でドライブシャフトの長さが違っていたりすることになる。いや、それともエンジンに対してフロントアクスルの取り付け位置が違うだけなのかな?
ただしこの辺は、しっかりした一次資料の裏付けはなく、正確な寸法は判っていないようだ。
個人的には、装甲ボディの形状が細かく部分ごとに違うので、旧ボディと新ボディとではボディと車輪の位置関係がちょっと違い、それでホイールベースが短く見えている可能性もあるのではと思う。いや、軽く思いつきで言っているので信用しないで下さいね。
また、1:72で考えると、ホイールベースの差はそう厳密に追求せずともいい問題のようにも思う(実際、写真で見比べても「これ、本当に違うのかなあ?」レベルなので)。
なお、車輪に関しては、セルティ~ミラージュの1:35ではだいぶ情けない形状だったホイール部が、そこそこ実車に似た形状になっているのが嬉しい。
後輪ホイールはくぼみ方が足りないように思うが(実車は、ホイールは前輪後輪同じもので、裏返して使っているのだと思う)、許容範囲(少なくとも私には)。
●それよりも問題は、旧型ボディと新型ボディは、単に戦闘室側面と後面が変わっただけではなく、そもそも「似て異なる」ものであることで、実際には、おそらくほとんどすべての面で形状が違う。
どうもこのキットでは、その区別がどうもあいまい。
右写真は、新旧ボディの戦闘室上面の比較で、上が旧ボディ、下が新ボディ。旧ボディに比べ新ボディは幅が狭く、そのため左右に、砲塔の裾部保護の張り出しが設けてある。この点に関してはキットも表現しているのだが、不十分。
新ボディの場合、砲塔を12時の方向に載せても左右の裾部がボディをはみ出すのだが、キットでは戦闘室の幅とちょうど同じ程度になっている。
旧ボディでは左右に若干の余裕があり、これはキットでもそうなっているのだが、実際には、旧ボディの戦闘室上面は新ボディに比べ前後幅が大きく、しかも砲塔はギリギリ後ろに載っているため、砲塔よりも前にだいぶ余裕がある。しかもこの部分には弓形にスプラッシュガードが設けられている。キットでは写真のように、前後幅は新ボディと同一で、砲塔搭載位置も同じになっている。
ディテールメモの1で書いたように、旧ボディのなかでも一部の車体(おそらく旧ボディの初期型)では、ボンネットの最前部にゆるやかに丸くなった固定部があるのだが、キットは新ボディと同一形状になった後期(たぶん)型。
戦闘室側面の形状の差、下部のシャーシ左右のヒレ部分の形状の差などはよくフォローされているようだが、細部のディテールは、基本、同一形状・同一位置になっている。しかし、実際には若干の差がある。
キットでは、ボンネット横のルーバーとその下のアクセスハッチが、後端でほぼ揃う位置に並んでいる。このキットの位置は、基本的に新ボディのもの。
旧ボディでは、ルーバー、ハッチともにもう少し後方にあり(ルーバーがボンネット側面装甲のちょうど真ん中あたり)、点検ハッチの後端は、左側面ではルーバー後端よりやや後ろ、右側面ではルーバー後端よりもやや前にあるようだ。ややこしいなあ。
なお、フェンダー取付架の形状も新旧ボディで異なるのだが、これはそもそもキットでは表現されていない。
戦闘室前面のバイザーフラップが、新旧ボディで形状も枚数も違うのはしっかりフォローされているが、どうも戦闘室前面は、旧ボディでは立ち上がり開始位置が新ボディより前にあり、傾斜がもっと寝ているような気がする(写真等でしっかり測ってはいないので、あくまで印象)。
装備品のうち、左側面の工具箱は、実際には側面の下から4分の1ほどに、フタの下端と蝶番がある。また戦闘室右後部に一体モールドさてれいるツルハシは、実際はもっと大きく、刃が装甲板をはみ出している。シャベルの位置には若干のバリエーションがあるようだが、旧ボディの場合は戦闘室右側面にあるほうが一般的ではと思う。
●砲塔は共通ランナーの中にあってスライド金型など使わない一発抜きだが、それでも、側面のリベットはそれなりに表現されている。
側面のバイザーフラップの下端がナナメになっているのを何とかしたい程度?
ちなみにHENK OF HOLLANDのページを見ると、この砲塔のキューポラハッチを開けられるようにした、砲塔まるごとのレジン代替パーツ(フェンダーのエッチングおよび車長フィギュア付き)が、Tank Modelsというところから出ているらしい。
武装はピュトー37mm、オチキス8mmの選択。一応、組立説明では、旧ボディの方は8mm機銃、新ボディの方は37mm砲を付けるように図示されているのだが、もちろんどちらを付けても構わない。
なお、キットは機銃・砲ともに新型の丸マウントだが、旧ボディの場合、実車ではルノーFTと似た四角い旧型マウントであることが多いようなので、気になる人は要改造。
●以上、総じていろいろ頑張っているキットだと思うのだが、新旧装甲ボディの違いが中途半端なのは、特に旧ボディのインジェクションキットとしてはおそらく初であるだけに残念。もっともそれをきっちり直そうとすると、かなりの切った貼ったか、下手をするとボディのスクラッチくらいの大工作が必要になり、何のためのキットか状態になってしまう。
せっかくのシャープなキットでもあることだし、とりあえずこのキットの楽しみ方としては、各自どうしても気になる細部ディテールの修正程度に収めるのが平和なように思える。
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コメント
比較用にさっと旧モデルが出てくるのって素晴らしいことだと思います!
投稿: みやまえ | 2014年8月17日 (日) 00時58分