« スロバキア陸軍LT-38メモ | トップページ | ふんど »

スロバキア陸軍LT-38メモ(2)

●スロバキア陸軍、LT-38/38(t)の考察その2。塗装とマーキング。

スロバキア陸軍のLT-38/38(t)の塗装は、主に次の3種に分けられるのではと考えられる。

▼チェコスロバキア陸軍制式の3色迷彩(ただし前回書いたように、完成はチェコスロバキア解体後)。最初の5輌(V-3000~V-3004)のみ。チェコスロバキア軍の3色迷彩は、例えばタトラのOA vz.30装甲車では全車同じパターンで塗られていたが、LT-38では各車パターンはまちまち。色はダークグリーン、アースブラウン、オーカー。3色の面積はほぼ同じくらいで、塗り分け線はくっきり。転輪類の中に塗り分けはなく、いずれか1色に塗られている。これに関しては、ロールアウト直後の写真で確認しやすい(V-3000とV-3001とされる)。

配属されて間もない頃と思われる写真(資料3、p12など)を見ると、マーキングは当初、車体の前後に軍登録番号(黒地長方形に白文字)のみ。

1941年夏、ソ連侵攻に伴い、若干のマーキングが付加されるようになる。1941年7月22日、ウクライナのリポヴェツ(ルィーポヴェツィ)近辺で撮影されたV-3003号車の写真(資料2、p49など)では、砲塔側面に白のスロバキア十字(いわゆるロレーヌ十字と同形)、およびドイツ式の3桁の砲塔番号「314」が確認できる。砲塔番号は白縁付き赤か、白縁のみか、モノクロ写真からは判別し難いが、同時期・同様の塗装のLT-35の写真では、数字内側と、外の地色に明らかにトーンの差が確認できるものがあり、白縁付き赤の可能性は高そう。

「314」という砲塔番号は、V-3000~V-3004が当初第3中隊の第1小隊に配属された(資料2)という記述とも合致。また、後述の「V-3000/311号車」と考え合わせると、登録番号順に砲塔番号が割り振られたらしいことも判る。なお、この斜め前から写されたこの写真では確認できないが、後述の「211号車」から判断すると、3桁の砲塔番号は砲塔後面にも記入されていた可能性が高い。

やはり3色塗装のV-3000号車のパレード時の写真で、砲塔に「3**」の番号が書かれているものの、スロバキア十字はないものも確認できる。V-3000は早い段階で撃破され全損しているが、その時の写真ではスロバキア十字と数字「311」が確認できるので、V-3000~V-3004の砲塔番号とスロバキア十字は、砲塔番号が先に書かれたらしい。ちなみに同時期のLT-35の場合は、「十字のみ」「番号のみ」「十字と番号両方」などが確認でき、記入法はあまり厳密でなかったらしい。

これら3色塗装のLT-38は、ソ連遠征から本国帰還した後に、それ以降の生産車に準じてカーキ一色に塗り直された。また1942年5月からは、砲塔側面に楯状の国籍マークが記入されるようになった。先のV-3003号車の、この状態の写真も残されている(資料1、p40)。

▼V-3005号車以降のLT-38(MBB社からの直接購入分、つまりV-3057号車まで)は、「カーキ」の単色塗装。モノクロ写真で見てもだいぶ暗めに写っている写真が多い。資料2には「brown-tinted color(茶色がかった色)」との説明がある。

1年目の戦闘に加わったLT-38はV-3009までの10輌のみのようだが、後半の5輌、V-3005~V-3009号車は、第2中隊の第1小隊に配属された(資料2)。前半5輌同様、開戦前は車体前後の登録番号のみ。ただし、この写真を見ると、どうも登録番号の黒地に白縁のないもの、あるものが混じっているようだ。

開戦後、第3中隊の5輌と同様のマーキングが施されたらしく、カーキ単色に、砲塔側面前方にスロバキア十字、側面と後面に砲塔番号「211」を記入し、LT-35やLT-40と一緒に写っている写真がある(資料2、p58)。登録番号は写っていないが、「314」の例から類推すると、V-3005号車ではないかと思われる。資料2にはこの車輌のカラー図も掲載されている(p37)。番号は白縁のみで記入されているように描かれているが、白縁付き赤の可能性も捨て難い。

また、行軍中のV-3006号車の写真もあるが、これは車体前部上面に対空識別用のナチ党旗(スワスチカ)を載せ、砲塔側面前方にスロバキア十字。その後方に番号があるかどうかは、光が反射していてよく判らない。ただし、V-3006は7月27日にソ連軍のトーチカとの戦闘で撃破され失われており、その時の写真(資料1、p67)では、うっすらと「212」の番号が見える、ような気がする。

前述のように、1942年5月には、国家色の白・青・赤に塗られた楯形の新国籍表示が導入された。これ以降は、砲塔側面ほぼ中央にこの国籍表示、車体前後に登録番号という、いささか地味な塗装で統一された。配備後に訓練中とされるV-3020番台と思われる一群の写真(資料3、pp50-51)などで確認できる。web上では、例えばこれ

ところで、前回の記事で、この一群までの登録番号の、特に車体後部のナンバープレートに関し、

車体後部にもほぼ同じ大きさでナンバープレートが、車体と右フェンダーにまたがるような形で取り付けられているらしい。

と書いたが、新たにネット上でこんな写真を見つけた。これを見ると、この時期のナンバープレートは、どうやら正規のブレーキランプ用のステイの上に取り付けられているらしい。

▼V-3063以降の“元Pz.kpfw.38(t)”、つまりドイツ軍のデポから受領した中古車輌は、基本的にドイツ軍当時の塗装で使われたらしい。資料2の塗装の項の説明には、「国籍表示の楯と登録番号を書き加えたのみで、元のダークグレイかサンドイエローのまま」とある。実際にはモノクロ写真だけなので、スロバキア軍基本色のカーキなのか、ドイツ軍の色なのかは判りようが無く、「そう書いてあるならそうなのかな」くらいのことである。

ドイツ軍塗装だった場合には、受領した時期(1943年夏以降)から考えて、すでにドイツ軍車輌の基本色はダークイエローに切り替わった後であり、ダークイエローの車輌が多かったはずである。この後期の登録番号を持つ「元38(t)」の一群の写真は、1944年のスロバキア対独蜂起時の写真だが、多くの写真で、車体色は初期の一群の単色塗装よりもだいぶ明るく写っており、これもダークイエローであることの傍証となる。

また、V-3131号車(資料1、p95)では車体前面の予備履帯が外れた後にまだら模様が付いているように見え、予備履帯を装着したままで全体を塗装し直した(つまりグレーからダークイエローに塗り直した)ようにも見える。

ただし、デポに置きっ放しの中古車輌ということで、旧塗装のままのものも混じっていた可能性はないとは言えない(役に立たん考察だなあ)。

また、「ドイツ軍時代の塗装のまま」ということであれば、2色迷彩、3色迷彩の車輌も混じっていてもよさそうだが、とりあえず、V-3063以降の車輌で、はっきりと多色迷彩と言い切れる写真は、いまのところ見たことはない。

マーキングは戦争中盤以降の規定通りで、砲塔側面中央に国籍表示の楯、車体前後に登録番号。ただし、前回書いたように、車体前面は予備履帯ラックになっているため、前部の番号は右フェンダー上に移動。後部の番号も外側にずらされている。

|

« スロバキア陸軍LT-38メモ | トップページ | ふんど »

資料・考証」カテゴリの記事

38(t)戦車」カテゴリの記事

コメント

写真の詰め合わせPDF。
惜しいことに本文は全部ロシア語。

http://www.panzer38t.ru/Reestr-part6slovak.pdf

投稿: かば◎ | 2014年2月 2日 (日) 03時11分

ありがとうございます!

投稿: みやまえ | 2014年2月 2日 (日) 20時38分

あらら。このネタでみやまえさんが引っ掛かるとは(笑)。

ところでバンタムお買いになったんですね。
模型屋で箱を開いて、「うわー。なんかイイな」と思ったんですが、塗装例のネタが何にも思い浮かばなかったのでパス。

それでも、あのテーブルみたいなボンネットはなかなかステキです。

フォードGPだったら、AVGが使った青天白日付きのがあるんだけどナー。

投稿: かば◎ | 2014年2月 2日 (日) 23時55分

スロヴァキア軍の三色迷彩はきれいなので、一度やってみたい気がしますが、今、38tの初期型のまともなキットで手に入るもの、ありましたっけ? 私、クリッパーのB型改造キットを入手しそこなったのを、未だに悔やんでます!(笑)

投稿: TFマンリーコ | 2014年2月 3日 (月) 00時07分

トライスターのB型が入手難なのが惜しいですね。
またLT-38は、ほぼB型相当だと思うんですが、ターレットリングガードをどこからか持って来る必要があります。

特に追加工作などなくスロバキア軍3色迷彩をするなら、LT-35(=35(t))を作るという手もありますが、1度作った車種は同型では作らない主義をお持ちでしたっけ。

投稿: かば◎ | 2014年2月 3日 (月) 02時42分

>ターレットリングガードをどこからか持って来る必要

マケットでC型指揮を作ったとき、「C型はターレットリングガードいらないんだよな…」と勘違いして切り取ってしまい、慌てて再生したことがあります。

>1度作った車種は同型では作らない主義

主義っつうほど確固たる信念があるわけではありませんが(笑)、食指が動かなくなっちゃうんですよ。虎Ⅰとか、三突Gとか、同じ型の中でもバリエーションがある場合は別ですけどね。

投稿: TFマンリーコ | 2014年2月 5日 (水) 00時10分

>TFマンリーコさん

35(t)系列に関して言うと、ルーマニア向けのR-2やブルガリア向け(元アフガニスタン向け)のT-11は仕様に違いがありますが、ドイツ軍の35(t)とスロバキア軍のLT-35は、もともとチェコスロバキア軍向けのLT vz.35を接収しただけ。塗装しか違わないので、マンリーコさん的には外れてる感じですね(笑)。

トライスターは、自社サイトはまだあるのですが、更新は止まっちゃっている感じですね。個人的には38(t)はトライスター一択な感じなので(もうE/F型は作りそうにないのでトラペは除外するとして)、復活して欲しいものです。

(そういえばトライスターのB型って、スロバキア軍の3色迷彩のV-3003/砲塔番号314号車のデカール入ってるんですね)

投稿: かば◎ | 2014年2月 5日 (水) 15時49分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: スロバキア陸軍LT-38メモ(2):

« スロバキア陸軍LT-38メモ | トップページ | ふんど »