ホビーボス 1:35, トルディI
●HOBBYBOSSの「Hungarian Light Tank 38M Toldi I [A20]」のレビュー。ディテールの検討と若干の考証。
発売されたのはもう2年近く前のことになるので、いまさら&いきなり感たっぷりだが、たまたま資料も掘り返し、しかもTristarの38(t)の履帯を整形して繋げていくのが妙に面倒で、肩の凝る作業だったため、例によって浮気中(もっとも、その後こっちの履帯のほうが何倍も厄介であることが判明)。
●まずは実車についてのおさらいというか、こぼれ話というか。
HOBBYBOSSのトルディのキットは、3種類のキットが、トルディI(A20)、トルディII(B40)、トルディIII(C40)の名称で出ているが、実際には、トルディIとトルディIIは外形上差異はなく、つまり1番目のキットは「トルディI(A20)/トルディII(B20)」、2番目のキットは「トルディIIa(B40)」とするのが正しい(一応私の手元の資料では)。
トルディIとIIはコンポーネントが輸入か国産化の違い。生産後期のトルディIIは特徴的な「輪っかアンテナ」でなく、ありふれた棒アンテナになっているようだが、これも絶対的ではなく、最終的には車体前後の登録番号で見分けるしかないようだ(そもそもトルディIとトルディIIはある程度並行生産されていたらしいので、時期による区別は成り立つのか?)。
以前、とあるサイトで、トルディI:H301~H385、トルディII:H386~H490と書いてあった話をしたが、こちらのサイトでは、トルディI:H301~H380、トルディII:H381~H490としている。これはトルディIが80輌、トルディIIが110輌という、一般に言われている生産台数とも合う。
また、トルディIは、MÁVAGとGANZとで40輌ずつ生産したらしい(資料5、p64)。トルディIIに関しては上記サイトに、MÁVAG社製が42輌(H381~H422)、GANZ社製が68輌(H423~H490輌)であるとの記述がある。
トルディIIaは、生き残ったトルディI/IIから80輌が改装されたことになっているが、これの登録番号が確認できる写真は、私は見たことがない。また、特に後期の(おそらくグリーン単色で)黒地白十字国籍マークの場合、初期と同じ位置に車番が書かれていたかどうかもよくわからない。
●キット概観。
パーツの合いは基本的によく、モールドもシャープで、まずまず満足すべきレベルではないかと思う。特徴的な足回りなどの再現度もよく、完成見本などを見た感じでも、しっかりトルディの雰囲気をしている気がする。
ディテール面については後で細々書くとして、模型としてのタテツケに関しては以下の通り。
・前記のようにモールドはシャープで部品の精度も高いが、ゲート位置などはこなれていないと感じる部分もある。
・砲は仰俯可動ではなく、任意の向きに接着するという、1:35では珍しい簡単な構成。
・部品が合わない、というところは基本的にはなく、ほとんどのパーツはピッタリ付くが、特に足回りでは、転輪のサスペンション・アーム等の位置決めがゆるい。上下方向にも、左右方向にも位置を決めづらいので、心配な人はジグなど作ったほうがよい。
・誘導輪はほとんど接地してしまっている写真もあるが、標準的な状態では、わずかに地面から浮く。キットはそのままでは誘導輪のアームがだいぶ下がった状態に付き、ダンパーのパーツ(B6の後側)と干渉気味になるので、転輪の位置と比べつつ調整するのがよいかもしれない。ただし、誘導輪のアームは転輪のサスアームと違ってだいぶ合わせがきつい。
・サスペンションアームの転輪軸は、なぜかきついものとゆるいものが混在している。足回りの塗装の都合で「ロコ方式」を採る場合には、それなりの下処理が必要。
・履帯は独特な形状をそれらしく表しているのだが、(1).ゲート位置の関係で、切り離しの際に破損してしまう危険性大、(2).無事に切り離しても、履板同士の連結がきつく繋げづらい――と、苦労する問題点を2つも抱えている。海外のサイトで見る製作記でも、「リンクを**個も壊した」など、この部分には不満多し。Missing-Lynxで、ザロガ御大が作例を披露しているが、そこでも「タミヤ48シリーズのように、ブロックごとにあらかじめ繋がった(link and length)方式にすべきではなかったか」と書いている。実際、本体を組むのはさほど難しくないキットを、この履帯の存在が熟練者(あるいは根気のある人)向けに跳ね上げているかもしれない。「こりゃタマンネー」という人はフリウルに逃げる道もあり。ニムロードの発売後、BRONCOから別売も出るかもしれない。ちなみにフェアリー企画のキットに付属していたカステン製履帯は、僅かにピッチが違う。
●以下、ディテールチェックを。「重箱の隅」的なものが多く、どこを選んで手を入れるかはお好み次第といったところ。
しかもそう遠くない将来にBRONCOからも発売される可能性は低くないと思うので、カリカリにチューンナップするならそれを待つ、というのも賢明かもしれない。
▼足回り
起動輪のキャップ(と言っていいのか?)部分の横、対称位置にあるドーナツ型(あるいは古銭型?)の突起は、以前にも書いたが、何かのアタッチメントの役を果たすものなのではと思う。これはクビンカの現存車輌(Iのほう)でも確認でき、“原産国”であるスウェーデンのランズベルク軽戦車系列でも見られるものなのだが、資料で当時の写真をひっくり返すと、少なくともI/IIでは付いていないものが圧倒的に多いようだ(ついているものもある)。
転輪、誘導輪のハブキャップは、通常のボルトで止められた表現になっているが、実際には沈頭のマイナス皿ネジのため、遠目にはネジ頭が目立たない。
起動輪ハブキャップに、誘導輪同様、グリス注入口(?)がある。また、ハブキャップ中央の平らな部分は、実車はもっと小さい。
第一転輪、第四転輪に付くショックアブソーバーのアームは、ちょっと形が違う。なお、このアームは、同じくランズベルクL60から発展したstrv m/38やstrv m/40Kと、トルディとでは形状も向きも違うので、strv m/38やstrv m/40Kの写真を参考にする際は注意。
上部転輪の間は、軸を下にずらすことで履帯センターガイドとの干渉を防いでいる。ここは実際には太い軸の上部をU字形に彫り込んでいる(もちろん、そんなものを表現しても見えない)。
●車体前部
車体前部上面の前端のリベット列は、その直前に接合線がある。当初はリベット列の位置が間違っているのかと思ったが、そうではなく、どういう装甲板の接ぎ方になっているのかよくわからないが、どうも接合線が二重になっているらしい。したがって、車体前端からのリベット列の距離はおおよそ正しいのではと思う。なお、このリベット列はキットでは丸頭、かつ抜きの方向の関係でちょっと長円になっているが、実際は尖頭リベットもしくはボルト。
車体前部上面の真ん中あたり、前照灯の前にあるパネルを止めているのは尖頭ボルト。
車体前端の、メーカーによるものと思われる楕円形の小さなタグの位置には2箇所ある。ひとつは前照灯カバーを開いた際に固定する車体側金具の横(前端リベット列より後ろ)。もうひとつは、まさに前端ギリギリ、リベット列より前の中央。車番の判るものとタグ位置を対照させると、以下のようになる。Tordi IIの末尾のM、Gは、前述のサイトにあったメーカーの別で、これを見ると、タグ位置が上のものはマーヴァグ社製、下のものはガンズ社製の可能性がありそう。
- トルディI:H301~H380
H303 上
H309 上 (資料1、p10)
H320?下 (車番不鮮明。この写真)
H338 下 (資料1、p10。ただし車番の下2ケタしか見えず、438の可能性も)
H362 下 (資料1、p9) - トルディII:H381~H490(MÁVAG:H381~H422、Ganz:H423~H490)
H39* 上 M (このサイト写真1枚目)
H399 上 M (資料4、p34)
H440 下 G (資料1、p9)
H453 下 G
前部上面右側の小グリルは若干高さが足りないか。私は一度接着用のベロを切り取って、ほんのわずか、高さを増した。
前照灯のエッチング製カバーは単なるスリット列になっているが、実物は光が上方に漏れないようにする管制用のものなので、ベネチアン・ブラインド状になっている。
車体前部上面、前照灯の前方左に四角く盛り上がったモールドは、クビンカのI型現存車固有の特徴。弾痕か何かに当てたパッチではないかと思われる。
操縦手ハッチ下のひさしが無視されている。
●車体後部
エンジンルームは、本来側面装甲が上面にかぶる構成。中央の大きなアクセスパネル部分は筋彫りを追加するのみでいけるが、前後のルーバー部分は、もし修正しようとすると、リベット列のある枠を若干内側に寄せる必要が出てくる。
エンジンルーム左右側面の通風孔は、組み立て説明図ではルーバーが下向きになるよう描かれているが、そのようにパーツを付けようとするとうまく合わないはず。実際にはルーバーが上向きになるようにする(番号は合っている)。
エンジンルームのアクセスパネル後端近く、左右に付くコの字の金具(パーツA37、A38)はパネルの固定具。実際は車体側に付く2辺は板材、差し渡されているのは丸棒。丸棒の後ろ側にノブ(パーツB1)がぶら下がっており、これを車体側面に付いた金具に引っ掛けてノブを回して締める仕組み(のはず)。したがって、目立たない部分ではあるが、A37・38とB1とがきちんと繋がっているように作りたい。
排気管は先端部分で平らになっているが、キットは明確な段が付いて、丸から平らに変わっている。さすがに、もうちょっと自然に潰した感じに、スムーズに繋がっているのではと思うがクローズアップの写真なし。
●装備品・工具など
ライトガードは、I型キットでは基本、カマボコ型を使用するよう指示されているが、実際には細い帯金を使った簡易タイプと混ぜて使われている例が多い。以前にも書いたように、どういうわけか右がカマボコ型、左が簡易型である場合が多く、とある部隊の写真で、まとまって写っている10輌ほどの車輌(確認できる限り)が、すべてそうなっている例もある。もっともその逆のケースも、キットのように両方カマボコ型の場合もあり、明確な基準はなさそう。
全工具があっさり無視されている。標準の車外装備品は、それぞれ、エンジンルーム横の通気口近くで、右フェンダー上にジャッキ、エンジンルーム右側面につるはし。エンジンルーム左側面にシャベル、左フェンダー上にバール。
後部フェンダー上工具箱の留め金が外れた状態。
キットの後部フェンダー上の工具箱は、外側に2本のプレスリブがあり、側面(車輌を基準にすると前後方向)に留め金があるタイプだが、これは希なタイプ。より一般的には、プレスリブが無く、外側2ヶ所に留め金があるタイプが使われている。ただし、1941年7月27に日に撃破されたとキャプションにあるH399号車がリブ付きタイプを載せているので、比較的初期から使われていたものらしい。また、リブ付きタイプは、上面(フタ部分)にも2条のリブがあるようだ。
●砲塔
砲塔の形が微妙におかしい。具体的には、砲塔後面の「く」の字の角度、上下の長さのバランスが若干違っている感じがする。上面後部の「後ろ下がり」の角度も少し足りないかも。右の修正作業は、確かな寸法的証拠に基づいたものではなく、「こんな感じかなあ」という、あくまで感覚的なもの。上半部は0.3mmプラバン、下半は0.5mm+0.3mmプラバンを貼った。下側に余計に貼ったので、折れ線も若干下に移動することになる。
キューポラが裾広がりな形状になっているのは、プラパーツの抜きの都合で付いたテーパーではなく、どうやら実車もそのようになっているらしい。ただし、砲塔天板が、後部は僅かに後ろ下がりになっているのだが、どうもキューポラパーツはその後ろ下がりに対応していないようだ。もっとも、天板後部の傾斜自体がごく僅かなので、接着の際に埋まってしまうかも、程度の隙間しか開かない(ただし前述のように、この傾斜自体、角度が足りないような気はする)。
キューポラの左側、ペリスコープの後方に立つ柱状のもの(パーツA9)は対空機銃架の取付具。ただし、補強用の“ヒレ”部分は、実車ではもっとずっと薄い。また、パーツでは頭部にキャップのようなものがはまっている形状になっているが、実車ではついていない場合がほとんどであるようだ。機銃架を差し込んだ時の固定に関係しているのではと思われるが、左前と右後ろの2カ所ずつ、根元に長円の大き目の穴(それとも水抜き?)と、上部にやはり長円の小さな穴がある。
帯金でできた独特な形状のアンテナは左側に倒れるようになっており、砲塔左側面上部には「y」型のアンテナ掛けがあるが、キットでは省略されている。トルディIIの場合、前述のように一般的な棒アンテナに変更されている車輌もある。
●マーキング
キット付属のデカールは、
- 国籍マーク:標準的なスタイルのもの
- 車輌番号:H309
- 部隊マーク:モデル・エーシュ・マケット・エクストラの#1では第1騎兵旅団・第一装甲騎兵大隊、#5では第1騎兵旅団の軽戦車中隊と書かれている。
という構成だが、キット付属のカラーシートでは、国籍マークと車輌番号だけ使うように指定されている。Tordi I専用のデカールシートなのに!
これはいろいろな意味で問題含みで、
- 国籍マークはごく一般的なものだが、これを使用する場合は、車番を変更する必要がある。また、多くの車輌で砲塔側面、ハッチの前あたりに描かれている国章のデカールは入っていない。
- 車輌番号H309はおそらく第2偵察旅団所属で、その場合、通常の八角形でなくアウトラインが円形の独特の国籍マークを使用している。下の動画にもあるように、砲塔に国章も描かれているようだ。
- 白い鳥の第1騎兵旅団の第1大隊だか軽戦車中隊だかのマークは、車体左右と砲塔上面ハッチに描かれているが、この部隊の車輌は、車体前部の国籍マークが他よりも小さめ(砲塔の国籍マークと同じくらい?)に描かれている。例えばこの写真。
というわけで、シートに入っている3種のマークがそれぞれてんでんばらばら、組み合わせて使えない状態であるらしい。デカールの担当者、なにやってたんだ……。
車番は読み取りづらいが、H309と思しき車輌が写っている動画。1940年9月10日、マロシュヴァーシャールヘイ(現ルーマニア領トゥルグ・ムレシュ)におけるパレード。丸タイプの国籍表示、砲塔側面の国章などが確認できる。
●資料は
- (1)."Modell és makett EXTRA #1 - Magyar páncélosok a II. világháborúban"(第二次世界大戦のハンガリーAFV)
- (2)."Modell és makett EXTRA #3 - A II. világháború egy magyar haditudósító szemével"(ハンガリー従軍記者が見た第二次世界大戦)
- (3)."Modell és makett EXTRA #5 - A Nimród és társai...II. világháborús magyar harckjárművek"(ニムロードなど…第二次世界大戦のハンガリー戦闘車輌)
- (4)."Magyar Steel", Csaba Becze, STRATUS
- (5)."A MAGYAR KIRÁLYI HONVÉDSÉG FEGYVERZETE", Bonhardt Attila, Sárhidai Gyula, Winkler Lázaló, ZRÍNYI KIADÓ
などを参考にした。一番一般的なはずのグランドパワー特集を持っていないのは何なんだか……。
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コメント
素晴らしい考察です♪
私には何の知識もないので、突っ込めないのが残念(笑)。
サロガさんの作品、凄いですね。実車写真かと思いました。
投稿: TFマンリーコ | 2014年2月14日 (金) 03時54分
ありがとうございます。
ザロガ先生は、ソ連もの、東欧小国ものの資料の著者として名高く(スコードロン/シグナルの「BLITZKRIEG」や「THE EASTERN FRONT」、ニュー・バンガードのT-34やら何やら、などなど)、時々妙な勇み足もあるようですが、どれだけお世話になっていることやら。
一方でモデラーとしても、大胆な改造ものなども含め、面白い作品を結構な頻度で仕上げているようです。アメリカ人ですが、名前からするとスラブ系かしらん。
投稿: かば◎ | 2014年2月14日 (金) 17時16分