スロバキア陸軍LT-38メモ
●製作中のスロバキア陸軍のLT-38(ドイツ軍呼称、38(t)戦車)に関する覚え書き。判っていること、判らないことなどランダムに。
●スロバキア陸軍のLT-38は五月雨式に調達されていて、その調達年と数量、スロバキア陸軍の登録番号の関係は以下の通り(資料1)。末尾のカッコはMBI(資料2)にある調達年月で、若干の差異がある。
1940 10輌 V-3000~V-3009 (1941.2)
1941 10輌 V-3010~V-3019
1942 10輌 V-3020~V-3029
1942 7輌 V-3051~V-3057 (1943.2)
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1943 20輌 V-3063~V-3082 (1943.8)
1943 12輌 V-3099~V-3110 (1944.2)
1944 5輌 V-3129~V-3133 (1944.6)
破線より前はメーカーであるBMM社(元のČKD社)から購入しているのに対して、破線以降はドイツから38(t)の中古品を入手している。
●というのが一応、スロバキア陸軍のLT-38の基本情報なのだが、破線以前の新品(?)車輌に関しては、若干の謎がある。
▼最初に調達した10輌のなかでも前半5輌(V-3000~V-3004)は、チェコスロバキア軍制式の3色迷彩が施され、スロバキア軍でも当初そのままの塗装で用いられている。
しかしチェコ解体は1939年3月であり、調達時期から考えても、これらの車輌はチェコ解体後の生産であると思われる。それなのにチェコスロバキア軍迷彩である理由がよく判らない。“輸出用”としてわざわざ旧迷彩を施したのか?
ちなみにそれ以降の車輌はカーキ単色で塗られている。資料2のカラー図版では、ほぼオリーブドラブで表現されている(もっともオリーブドラブ自体、茶系から緑系まで幅広いが)。
なお、破線以降のドイツ軍の中古品群は、全車がそうなのかどうかわからないが、明るく写っている写真が多く、デュンケルゲルプ単色に塗られている可能性が高そう。
▼破線以前の車輌、つまりV-3000~V-3029、V-3051~V-3057は、全車、戦闘室前面が段付きの初期型(アンテナ架から見てA/B型相当)であると思われる。
一方、ドイツ軍向けの38(t)戦車の生産は、40年末にはすでに戦闘室前面が一枚板のE型になり、41年10月には戦車型の最終型であるG型の生産が始まっている。1941年11月から42年3月にかけて100輌余りを受け取っているハンガリーでは、最初の十数輌がF型、残りがG型という構成になっていて、生産時期とほぼリンクしている。
それなのにスロバキア向け車輌は、なぜ1942年になっても段付き装甲板の初期型車輌なのだろう、と不思議に思っていたのだが、これはそもそも、V-3057までのLT-38に関して、「何型か」と考えること自体が間違えているのかもしれない。
ハンガリーの車輌はドイツ軍向けに生産された車輌の中から輸出に振り分けたもの、つまり「Pz.kpfw.38(t)」であるのに対して、スロバキア向けの車両はもともとスロバキアからの発注で生産された「LT-38」であって、スウェーデン向けのS型同様、最初から輸出仕様で作られているものであるらしい。要するに、ライバル・シュコダ社のルーマニア向け「R-2」のような感じ。
もっともそこで再び不思議なのは、41年半ばに生産されたS型が「すでに砲架・機銃架の取り付けが厚くなった装甲板用しかない」という理由から段無し装甲に改修されたのに対して、LT-38は1942年になってもそのまま古い形質で完成していること。予め、LT-38用には旧型のマウントが確保してあったのだろうか?
●破線以降、生産終了後にドイツ軍のデポから譲り受けた中古品は、各型が入り混じっていたのだが、なんとこれらはすべて車台番号が判明している(ただし、ここに記した車台番号順が、そのまま登録番号順に対応しているわけではない)。
V-3063~V-3082(20輌):
25、35、47、60、61、90、93、95(以上A型)
152(*1)、197(以上B型)
261、324(以上C型)
388、435、447、463(以上D型)
522、532、735(以上E型)
1203(G型)
V-3099~V-3110(12輌):
767、802、824、879、896(以上F型)
1200、1291、1326、1334、1454、1580(以上G型)
1603(H型)(*2)
V-3129~V-3133(5輌):
505、514(以上E型)
874、984(以上F型)
1086(S型)
*1:資料2では125。その場合はA型となる。
*2:G型車台の1454、1580とともに自走砲として製作されていたが、戦車型に再改修されたらしい(資料2)。
●スロバキア軍LT-38/38(t)のディテール考察。
当然ながら、スロバキア軍では全部ひっくるめて「LT-38」と呼んでいたと考えられるが、ここでは便宜的にV-3057以前を「LT-38」、V-3060以降を「38(t)」と呼ぶことにする。
・LT-38は戦闘室前面装甲板が段付き、車体機銃装備。車台前面装甲には内部機構用のボルト頭が露出。アンテナ基部は筒型。右フェンダー上に円錐形カバー付きのバックミラー。最前方・最後尾フェンダー架の車幅表示反射板は基本、付いているようだが、ない車輌もあり(もともとあったものが欠損したか)。ターレットリングガード付き。
・LT-38は、ドイツ軍仕様の車間表示灯は付けていない。
・ドイツ軍の38(t)は、1940年の対フランス戦あたりまではガイドホーンが袋状になっている初期型履帯を履いている車輌が多いが、スロバキア軍のLT-38は、最初期のものも、最初から標準型履帯を使用しているらしい。
・LT-38は車台前面中央に軍登録番号。黒の長方形に白字。カーキ単色塗装の車輌は細い白縁付き? 車体後部にもほぼ同じ大きさでナンバープレートが、車体と右フェンダーにまたがるような形で取り付けられているらしい。
・主砲照準器は、ドイツ軍仕様(38(t))では単眼式(TZF38(t))に改められたが(資料3)、スロバキア向けのLT-38では、オリジナルのLT vz.38同様の複眼式であったらしい。その場合、砲塔前面左のドラムの照準孔は2つになる(資料3、p21など)。ただしLT-38の最終ロットであるV-3050番台で照準孔の数が確認できる写真が(私の手元には)なく、最後まで複眼式であったかどうかは確認できない。なお、V-2021号車の写真は、照準孔が2つのもの、1つに見えるものがあり謎。また、当然ながらV-3063以降はドイツ軍仕様なので単眼式のはずである。(2/5追記)
・後半に調達した38(t)は、確認できる限り初期型・後期型の別なく(といっても、確認できる車輌はそう多くないが)、車台前面に予備履帯を装備、車体前端左のG型スタンダードの位置にノテク・ライト装備などの特徴がある。
・38(t)は確認できる限り、初期型・後期型の別なく車体銃は未装備で、指揮戦車型同様、円盤で塞がれている。ハンガリー軍装備38(t)でもこの状態のものは多いので、輸出仕様の標準か? あるいはドイツ軍の車輌でも、装甲列車警備用は車体銃未装備が多いので、戦争中盤以降は、ほとんど装備しなくなっていたのかも。
・前面に予備履帯を装着しているためにLT-38と同じ位置に登録番号は表示できないため、右フェンダー上に新たにナンバープレートを装着。また、後方ナンバープレートはLT-38では車体側に掛かっていたのが、38(t)では完全にフェンダー上に移動。これは、後期型車体ではマフラーが上側に移動したために、従来位置ではプレートが見づらくなったためかとも思う。マフラー位置が低いままの旧型車体の場合はどうなっているのかは未確認。
・38(t)は、右フェンダー後部にブロートーチ収納箱を標準装備。ドイツ軍でこれを装着している例はあまり多くないが、なぜかスロバキア軍の38(t)は全車装備しているようだ。
・スロバキア蜂起時の写真を見ると、砲塔側面後ろ寄りにヘルメットを下げている38(t)がちらほら。この位置には正規にはフック等はなく、何からぶら下げているのか不明。
・トライスターのキットの説明書では判りにくく、同社の38(t)用別売履帯では逆に説明しているので念のため。LT-38/38(t)の履帯は、前から見たときに、起動輪部分で、1リンクごとに、接地リブが上に来る方向になっているのが標準(E/F型の箱絵でもそのように描かれている)。ただし、ドイツ軍の車輌ではたまに逆になっているものもあるようだ。他のドイツ戦車では接地リブが(前から見たときに)下に来る方向で装着するのが標準であるためか。(2/5追記)
●スロバキア軍38(t)のナンバープレートの工作。
シャーシ前面の予備履帯ラックを避けて、右フェンダー上に移動したナンバープレート。
ただし、この部分がクローズアップで写っている写真は手元になく、取り付け方、位置とも詳しくは判らない。
一応、戦闘室前面装甲板より若干前方にあるものと判断、前面装甲板横のフェンダーステイから取付架のようなものを介してナンバープレートが付いているという形にしてみたが、そのあたりは完全に想像の産物。
後部のナンバープレートは、車体から取付架を横に伸ばし、それに付けられているらしい。これはV-3080号車の後方からの写真に比較的よく写っている。
最初は純正部品の尾灯取付架のままでいいのかと思ったが、実際にはもっと単純な板材のようだったので、エッチング枠の切れ端で工作。車体側はボルト2つで固定されているらしい。
黄色の箱は以前に書いたが、ブロートーチ収納箱。
●工作そのものは履帯の面倒くささにメゲメゲ中。
●参考資料
(1)."GERMANY'S FIRST ALLY -- ARMED FORCES OF THE SLOVAK STATE 1939-1945"
C. Kliment / B. Nakladal
Shiffer Military History
(2)."PRAGA -- LT vz.38/Pz.Kpfw.38(t)"
V. Francev / C. Kliment
MBI
(3).「グランドパワー」1999/9 特集:ドイツ38(t)戦車
佐藤光一
デルタ出版
●話は変わるが、Riich.Modelsから、「プラガAV」が出るそうだ。
と、名前だけ言って判る人は少ないと思うので少し説明すると、実車はLT-38と同じチェコČKD社製、6輪の大型乗用車。ドイツで言えばメルセデス・ベンツG4あたりに相当するのではと思う。ドイツ軍でも高級将校用に使われ、ほか、スロバキア、ブルガリアでも使われている。
ICMを中心にドイツ軍のソフトスキンは「え? こんなものまで?」というのがやたらに出ているが、まさかチェコ製車輌、しかももうちょっと一般的であろうタトラのキューベルあたりをすっ飛ばして、プラガAVが出るとは思わなかった。
なんというか、この頃、予想の斜め上的新製品のアナウンスが多過ぎ。
●いやいやもちろん、タミヤのナスホルンだってびっくりですよ。
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