●前回、「次はモデラーらしい話を書いてみるつもり」などと安易に予告してしまったくせに、それがなかなか書けずに間が空いてしまった。
それでもまあ、何とか予告通り、「モデラーと言いつつ作っているのはフキ味噌ばっかり」という状況よりは、いくらかモデラーらしい話をひとつ。以前からつらつら考えている、ルノーR35の仕様考証のメモを書いておくことにする。
といっても、一回で書き上がる話ではなく、今回は本題に入る前のポイント整理みたいなもの。その割にくどくどしているけれど、お暇な方はお付き合い下さい。
●ルノーR35は第二次大戦におけるフランスの主力軽戦車で、1935年4月29日に最初の発注が行われ、量産が開始されている。
R35の車両登録番号は 50001 以降が割り振られている。その後、足回りが完全別設計のものに挿げ替えられた(足回り以外は基本的に同じ)ルノーR40に生産が切り替わっているが、登録番号は引き続きで、現在のところ知られている、R40の最も若い番号は 51549 であるとのこと(「TRACKSTORY」による)。
一方、「シャール・フランセ・ネット(chars-francais.net)」に出ているR35の写真で、番号が判るもののうち最も大きいのは 51526 だから、素直に番号通り作っているとすれば、R35の総生産台数は1526輌以上、1549輌未満ということになる。
フランスで生産されたルノーR35系列は、基本的にR35とR40の2タイプだけである。バリエーションとして地雷処理装置を付けたものなどはあるが、テストされたのみで量産に移されたものはない。ただし生産途中に導入された改良や、細部の仕様変更はあり、その主要なポイントについて以下に列記する。
== 砲塔 =========
砲塔は「APX R」という規格品で、オチキスH35系と共通している。以下の仕様変更は、オチキスでも同様。
また、APX R砲塔の場合、側面に鋳造管理番号やメーカー名、例えばFAPS(Forges et Acieries de Paris et de la Seine:パリ&セーヌ製鉄製鋼所)のロゴが鋳込まれているものもあるが(*1)、供給ルートの差があるのか、オチキスではしばしば見るものの、ルノーでは滅多に見ない気がする(*2)。ただし、これはたまたま有名な写真に写っているものがあるかどうかだけの差かもしれない。
さらに、砲塔それ自体、おそらく生産工場による差異で、形状に微妙な違いがあるように見える。特に右側面前方がふっくらしているものと、痩せているものがある気がする。が、明確にタイプ分け出来ていないので、とりあえず現時点では追求しないことにする。
- 注1:FAPSのロゴが何を示すかは、確か「ARMES MILITARIA MAGAZINE」由来の知識。
- 注2:ただしルノーでもまったく例がないわけではなく、例えば51159号車はFAPSのロゴ入り砲塔を載せている。
▼主武装
主砲はルノーFT譲りの(「TRACKSTORY」の記述からすると、本当にFTから譲られているものも多かったのではと思われる)SA18、いわゆるピュトーの37mmだが、後期には長砲身のSA38に進化していて、R40では基本、全車がSA38装備になっている。
したがって、R40に生産が切り替わる直前には、R35もすでにSA38装備になっていたものと考えられる。また、オチキスでは既に配備されている車輌でも小隊長車以上は優先的に換装が進められたとのことで(実際に、旧型エンジン車、いわゆる「H35」でも長砲身の車輌がある)、R35の既生産車でも後に換装されたものがあったのではないかと思われる。
とはいえ、写真資料を見る限りでは、長砲身のオチキスは割とよく見られるのに対して、長砲身のR35はあまり多くない(R40の写真もそれほど多くない)。長砲身のオチキス(いわゆる「H39」)は順調に生産が進んでいたのに対し、ルノーはR35からR40への移行に手間取り、それがちょうど主砲交換の時期に重なってしまったのかもしれない。
▼砲塔視察口
砲塔前面左側と、左右側面に付けられた外部視察口。鋳造の砲塔本体にほぼ正方形の穴が開いており、ここに視察装置の付いたブロックをはめ込むようになっている。当初は「シュレティアン式」(*3)と呼ばれる双眼鏡タイプの視察装置付きが使われたが、のちに単純なスリット状のものになっている。
なお、このスリットタイプのものの場合、スリットの上部はひさし状に出っ張っているが、ふっくらと出っ張っているもの、下端が尖ってしゃくれているもの、ひさし部分が別体で作られているように見えるものなど、いくつかバリエーションがあるようだ。
- 注3:この「シュレティアン」という名は「TRACKSTORY」に出てきたように記憶しているのだが(いい加減だなあ)、メーカー名なのか装置の考案者名なのかよくわからない。
▼対空機銃架取り付け基部
砲塔後面ハッチ開口部の上に突起が付けられている場合があり、これは対空機銃架の取り付け用であるらしい。実際、ここに機銃らしきものをくっつけて走っているR35の写真がある。
もっとも、こんなところに機銃を付けたら、ハッチの出入りも著しく制限される上、いったいどんな姿勢で撃つものなのやらも悩む。
== 車体 =========
▼車体前部上面増加装甲
車体の鼻先部分、鋳造部分の上面と、右側のギア点検用カバー(これも鋳造)の上面に、薄めではあるが、増加装甲がリベット(?)止めされている車体がしばしば見られる。当初はこの部分だけかと思ったが、その後部、操縦手用ハッチ下半分の左右、圧延鋼板の部分にも貼り増されているようだ。
▼操縦手用左右視察口
戦闘室上部の操縦手用バルジは左右に視察用スリットがあるが、これが単なるスリットだけのものと、スリット上部がひさし状に出っ張っているものがある。生産初期の記録用写真等では出っ張りのない形状であること、一方R40では標準でひさし状であることなどから、生産後期に導入された改良であることが判る。
▼エンジンルームグリル保護枠
エンジンルーム上面のグリルハッチ類の保護のため、その周囲に枠状の出っ張りが設けられた車体がある。これはソミュールにある2両のうちの片方、それからクビンカの現存車輌でも確認でき、車体上部の鋳造部品と一体で作られていることが判る。これも上記操縦手用スリットのひさし同様、生産後期の特徴。
▼装備品
R35の右フェンダー、戦闘室横位置には、後半がシートラックになっている工具箱が標準装備されている。これが、初期には前半の工具箱、後半のシートラックの高さが同じなのだが、生産後半の車輌では前半の工具箱のほうが若干高くなり、途中に段が出来るようになる。
ちょっと余談。右フェンダー最後部にはラックがあってジャッキ台とジャッキハンドルが付き、その前方外側に湯沸しみたいな形状のジャッキが装着されるのが標準。しかし生産初期車輌の写真では、作られた当初は直方体の角材のようなジャッキが装着されていて、ラックもそれに合わせて前後に四角い枠のようなものが付いている。おそらくある時点で、これらはラックごと標準仕様に交換されたのではと思う。
▼尾橇
「TRACKSTORY」によれば、AMXにより開発され、1938年に導入されたもの。ただし「既に生産された分の車輌のほとんどには、フランス戦までに供給することはできなかった」とある。R40の場合は標準装備のはずだが、こちらも付いていない車輌がある。生産中に開戦を迎え、最後の方は付ける余裕がなくなったらしい。
== 足回り =========
転輪ボギーの両側面に、転輪すれすれの位置まで、下端が楔形になったカバーが付いている車輌と、付いていない車輌とがあるのだが、これは本来付いているものが取れてしまったか、そのままか、という違いではないかと思う(実は詳しく調べたら生産時期と関連があった、とかだといやだなあ……)。一応、時期的な差異と思われるのは次の箇所。
▼誘導輪
誘導輪には放射状に6本のリブがあり、その間に大きく丸い穴があるのだが、おそらく生産後半の車輌では、この穴がパッチで塞がれている。
パッチはそれぞれが4本のビスだか小リベットだかで止められている。わざわざそんな面倒な手間をかけてまで、積極的にこの穴を塞がねばならない理由がどこにあったのかは謎。しかし改めて考えると、オチキスの誘導輪も穴あきから穴無しに進化している。
●こんなところが、とりあえず時期に関係すると思われる仕様のバリエーションなのだが、問題は、
- それぞれの細部の差異を安易に「初期」「後期」と判断しているが、本当にその順番は正しいのか。
- そもそも実際に生産時期に連動しているものなのか。
- 連動している場合に、いつ、という時期の特定は無理としても、生産何両めくらいから変化しているのか。
――ということである。
そのあたりの検証を、次回以降に行ってみたい(作業自体がかなりの手間なので、すぐには無理そうだけれど)。
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