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ヴィッカース・クロスレイM25装甲車

F1032689●そんなわけで(どんなわけで?)、しばらく前に発売されたピットロードの「ヴィッカース・クロスレイM25四輪装甲車」(1:35)について少々。

●実車についての蛇足

実車は1920年代にイギリスで開発・生産された装輪装甲車で、日本軍における戦歴等々はwikipediaでも参考にしていただくことにして、若干の補足として、なぜかあまり語られない開発と生産に関して。

キット名称のM25は「1925年型」の意味だが、これは便宜的な名称ではないかと思う。クロスレイでの名称はIGA1というらしい。

もともとはこの装甲車体もドーム型の砲塔もロールスロイス装甲車のインド向け(Indian Pattern)改修型用に設計されたもので、それをそのままクロスレイ製トラックに載せたものがこれ、というような開発経緯だったような。そのあたり、“MECHANISED FORCE British tanks between the wars”(HMSO)という資料で若干触れられていたような気がするのだが、いざとなるとこの資料がどこに行ったのか見当たらない。資料読みの資料知らずっていうか、宝の持ち腐れっていうか。

ベースとなったのはクロスレイのIGL(もしくは小改良型のIGL1)というトラックで、この車輌自体がIndian Government Lorryの名が示すようにインドからの注文で製作されたものであるらしい。装甲車もインドでのニーズに応えて開発されたもので、IGA1という名称は、元のトラックの伝から考えれば、Indian Government ArmouredCarの1型、ということなのではないかと思う。ロールス同様、この装甲車も俗に「Indian Pattern」(インド型)とも呼ばれるが、インド向け以外にもその他植民地用、輸出用を合わせ、全部で450輌ほどが作られたらしい。戦間期としては結構な数量である。

なお、同じくヴィッカース・クロスレイの装甲車で6輪のタイプもある(同じドーム型砲塔を載せたものもある)が、これは1930年頃に製作された、BVGBritish General Vehicle)トラックベースのもの。

このへんの細かい話は、このサイトに詳しい。戦間期のクロスレイ製軍用車輌の通史はこのページで、4輪のIGA1装甲車に関してはこのページ

●キット概観

プラモデルとしてのタテツケは非常によく、若干ダボがきついように感じる部分はあったが、基本的に合いは良い。上部装甲ボディはスライド金型を使って一体成型、シャーシのラダーフレームも一体成型で、歪みも生じない。パタパタと組んで、4輪がしっかり接地した。

細かい寸法的な部分は正直よく判らないが、資料も多くない車輌だろうに、上手くまとめていると思う。というわけで、ストレートに組む分にはほとんど何のストレスも感じずに、ユニークなスタイルを再現できる。ただし部品数が少なく価格が抑え目であることと二律背反でではあるけれども、パーツの厚みが目立つ部分があったり、ボルトやリベットの大きさ/形状があまり区別されていなかったりと、幾分大味なのは否めない。

なお、戦間期のイギリス車輌、しかも植民地軍用および輸出用となると、いろいろ塗装例もあって楽しそうな気がしてしまうが、実際には供給先によって細かく仕様に差があり、しかも写真資料に乏しく、結局のところ、キットが謳っている通りに日本海軍陸戦隊所属車として作るのが穏当。

満州事変で使われた日本陸軍所属車は古風な迷彩が派手でよいが、パーツを見ると、不要部品として陸軍の星章のパーツも入っており(I-12)、いずれ車輪パーツを変えるなどして陸軍仕様も発売するつもりもあるようだ。ほか、不要部品として海軍陸戦隊の錨章も入っているのだが(D-4)、これは何に使うやらよく判らない。

●車輪

幅の狭いソリッドゴムタイヤ付きの車輪をパーツ化している。ソリッドゴムタイヤは元からの仕様でパンクを防ぐための手段だったらしいが、幅が狭くて接地圧が高く、軟弱地ではすぐに車軸あたりまでめり込んでしまい、南アメリカはじめ各地の植民地軍では空気入りタイヤに変更された例も多いようだ。

日本陸軍装備車も空気タイヤ付。海軍陸戦隊がソリッドタイヤのままなのは、基本的に上海の市街地(道路上)でのみ使うことを想定していたためだろう。

Cro01 タイヤ部分は表裏分割で凹凸のトレッドパターンを表現しているのだが、ちょっとこれはどうなのかな、という感じ。

上海の陸戦隊の車輌は、あまり鮮明な写真がなく、トレッドパターンもなんとなく黒く点が並んでいるくらいにしか判らないのだが(少なくとも私が見たことがある写真では)、英軍車輌では鮮明なものがあって、それによると、パターンは右のように、三角の穴が噛み合ったような形状で続いている。

もちろん、日本の陸戦隊の車輌は独特のタイヤを履いているんだよ、という可能性がないとは言えないが。

●シャーシ

前述のようにラダーフレームが一発成型の1パーツ。もちろん本当はフレームはコの字なのだろうが、基本、私は見えないところは適当にそれらしくなっていればいいというスタンスなので特に構わない。

フレーム左右に付くスカート(C-5、C-6)も厚めだが、これも表から厚みは見えないので可。右スカートには2箇所のふくらみがあり、後ろ側はシフトレバーに対応、実際レバーと伝達シャフトのパーツが付く。前側はステアリングに対応しているはずだが、ここは一切機構は無視。だからといって前輪が自由にステアリングできるようになっているかというとそうではなく固定。

駆動系は一通りパーツ化されている。IGA1装甲車に使用されているエンジンは(もとのIGLトラックともども)20/25という大型乗用車/トラックのものだそうな。そのエンジンの写真というのがここに出ているが、どうもキットのエンジンとは形状が違う。単にテキトーにパーツ化したのか、日本海軍に初期に配備されたものはエンジンが違う(とwikipediaにある)というのをフォローしているのか、写真が間違えているのか、あるいは装甲車への搭載にあたって強化改良しているふうがあるので、その結果形も違ってきているのか、いろいろ可能性はあるが、私には判らない。……それにそもそも見えないのでノー・プロブレム(それなら言うなよ)。

そもそも、せっかくエンジンを、ファンやらラジエーターへの配管やら多少の補機類やら含めて再現しているが、ボンネットはまったく開かないのであまり意味はない(ただし、装甲ボディを取り外し可能に組むことは出来る)。

さて、エンジンはトランスミッションに比べ、軸位置が若干上になるよう取り付けることになっていて、そのため、エンジン・トランスミッション間の伝達軸(I-26)も斜めになっている。そういう形状なんだと言われれば「ふーん、そうですか」としか言いようがないが、このエンジン軸位置のおかげで、前側に付くエンジン始動用ハンドル(I-23)がフレームと干渉し、だいぶ前下がりになってしまう。これは実車では(真横から寄って撮った写真を見たわけではないので断言はできないが)真っ直ぐ出ているようなので、少々おかしい。

細かい話だが、この始動用ハンドルは実車に比べほんの少し前に出過ぎのように見える。また、キットでも(狭義の)ハンドルが真上になった位置で止めるようになっているが、実際にはこの位置で止めるための固定具がシャーシ側から出ているようだ。(狭義の)ハンドルと軸の間のゆるいS字部分は、キットはそれらしく鋳物か何かで作ってあるような表現になっているが、実際はただの板パーツらしい。

詳しい資料があるわけでもないのに書き始めてみるとだらだら長引いて息切れがしてきたので、次回に続く。

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