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潰瘍性大腸炎

●時折触れているように、現在私は潰瘍性大腸炎なる病気に罹っていて、しかもどうやら、この病気は一生モンであるらしい。

厚生労働省が指定する特定疾患、いわゆる「難病」の中に入っているのだが、その特定疾患の条件というのは、(1).原因不明で治療法が確立されておらず、(2).経過が慢性で負担が大きい、という2つ。

かといって私自身は深刻な闘病生活を送っているわけでもなく、普通の人より若干体調なり食生活なりで不自由なのと、毎日薬を飲まなければならない程度だが、それはたまたま現時点で私の病状が軽いからで、世の中には、本格的にこの病気で大変な苦労をしている人も多い。

それはそれとして、その「潰瘍性大腸炎」の注目度が俄かに上がってしまった。自民党総裁に返り咲いた安倍晋三氏の持病がこれだからである。

●しかし、新聞紙上等での、この病気の(というよりも安倍氏の病状に対する)解説が、実にいい加減というか、薄っぺらい。

実を言えば、基本的にネット上で政治に関わる主張だのなんだのはなるべくせず、論評もしないようにしよう、というのが最近の私の方針なのだが、以上のように私にいささか関わることでもあり、これに関しては、どうしてもちょっと引っ掛かる。

振り出しは某SNSのつぶやき欄で(twitterとの連動)、模型仲間のK氏が「良記事」として、読売新聞の今年1月の連載記事を紹介していたこと。記事は、安倍氏の潰瘍性大腸炎についてインタビューを交えて4回連載でまとめている(→記事:連載第1回)。

ひとが良記事と言っているものにガーガー言うのも何だが、これがどうにも「なんだそりゃ」な内容。大筋は病歴と首相辞任に至る経緯の話で、これはしばらく前に病気について明かしたことのほぼ繰り返し。引っ掛かったのは最後の章で、曰く、

  • とある健康食品を紹介され、それを青汁に混ぜて飲んだら体調がよくなった。
  • さらに2年前に発売された新薬が効いた。
  • その結果炎症が消え、今は「完治に近い」。

しかし潰瘍性大腸炎は多くの場合、寛解(症状が軽減または消失)と再燃(再び悪化)を繰り返すところに特徴があり、また特定疾患に選定されていることからも判るように、まず完治はない(上で「完治に近い」とあるのも、そこを踏まえている)。寛解状態がキープできているとしても再燃のリスクがまったくなくなりはしない。

もちろん、すこぶる調子がいいと本人が言っているのを疑う理由はなく、それはそれで目出度い。しかし少なくとも病気の記事としてみるならば、どう寛解に持って行き、どうそれをキープしようとしているのかが大切なはずだが、その辺はさっぱり端折り、要するに、「今はほら、こんなに元気です」「うわあ、それはよかったですね」で終わっている。そもそも病気の経過を詳しく追う体裁の記事であるにも関わらず、一切、医者に取材したような形跡がないのは何故?

ただ、ここで気を付ける必要があるのは、この記事は今年1月付のものであって、その時点では、安倍氏は(戦後を通して、総裁に返り咲く例はなかったことから考えて)まるっきり“過去の人”であったろう、ということである。それならば再燃のリスクが低かろうが高かろうが大した問題ではないという判断でこんな記事になったと思えなくもないし、大物政治家が直ったと言っている以上、それ以上突っ込まなくていいや、ということだったのかもしれない。

●と、そんな風に思っていたら、読売新聞は再び総裁になってからの記事も、どうやらこの調子で通しているような気配がある。いやはやまったく。

隅から隅まで目を通しているわけでないので何だが、他にもっときちんと解説している記事があるんだろうか。

別に病人が総理総裁になるべきではないと言っているわけではない。歴史上でも、病気をおして首相だの大統領だの国王だのに就いた人はたくさんいる。ただ、これこれこういう病気であると明らかにしているのであれば、報道は、その病気がどういう性質のものなのかはきちんと踏まえておく必要はあるだろう、という話である。

●ところで、J-castの「出馬安倍元首相「復活」の秘密 2年前発売の特効薬が劇的に効いた」という記事を読むと、上の読売記事にある「2年前発売の新薬」が、2009年12月にゼリア新薬から発売された「アサコール」であるらしいことが判る。

しかし、そもそも裏付けは要らない、ネット上その他であれこれ言われていることをまとめればそれでいいというのがJ-castの基本方針であるらしい以上、仕方のないことなのかもしれないが、これが上の読売以上にいい加減な記事である。

まず、「アサコール」を潰瘍性大腸炎の特効薬だとえらく持ち上げているが、本当に「特効薬」が登場しているなら、それから2年以上経っても潰瘍性大腸炎が(治療法未確立、難治性の)特定疾患に指定されたままであることに、少しでも疑問を覚えなかったのだろうか。……いやまあ、お役所仕事だから特効薬が出ても2年程度はそのままだよ、ということもあり得るかもしれないけれど。

アサコールは商品名で、5-アミノサリチル酸薬(5-ASA)製薬のうち、副作用を軽減する目的で改良されたメサラジンという薬のひとつである。代表的なものがゼリア新薬の「アサコール」と杏林製薬の「ペンタサ」で、これは大腸に届く前に薬が溶けてしまうことを防ぐコーティングの種類が違うだけ。この他に、すでに後発薬も多数出ている。

当然ながら、未認可の新しい特効薬とかいったものではありえず、むしろメサラジンはおそらく、現在の潰瘍性大腸炎の内科的治療の中では最も一般的なもので、実際、私もペンタサを処方されて飲んでいる。いずれにせよ、メサラジンはなるべく寛解状態をキープし、再燃を防ぐために使われる「抑える」薬であって、病気を完治させる働きはない。記事中にはゼリア新薬の「(売れ行きが)伸びていることは確かです」とのコメントがあるが、比較的最近発売された改良薬で、現在の治療法で一般的に使われており、患者は毎日飲み続ける必要があり、しかも患者数そのものが急激に増えている病気なら、売れ行きが伸びるのは当たり前。

安倍氏はもうかれこれ40年も潰瘍性大腸炎と付き合っているということだから、その間の薬や治療法の改良も経験していて、そんななかでメサラジンがよほど身体に合ったということも実際にあるかもしれないが、それでも安易に「特効薬」に仕立てていいわけはない。治療法や薬の処方は症状によって医者は適宜判断するものだと思うが、これでは記事を鵜呑みにして「なぜ私の薬はアサコールじゃないのか」と騒ぐ人だって出てこないとも限らない。迷惑な話である。

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かば◎の迂闊な日々」カテゴリの記事

コメント

 ふむ、なるほど…。やはり直接関わってる人でないと判らない、知らないことは多いんだなぁ、と改めて思いますねい。

 ちなみにワタシは自民党総裁選に関してはもともと町村さん推しだったわけでして(短期のリリーフでも良かったわけなので)。安倍さん推しじゃなかったのはまさにこの病気のことがあったからなんですよ。「完治しない」ということはいつ再発するか判らないわけで、前回と同じことになる可能性もないではない、そこが一番の懸念なんですよね。薬で体調をコントロールするといっても限度もあるんではないのかなぁ、と。

 このことでこの病気に関する社会的な認知と理解が進んで、よりよい治療法の研究や医療費助成の増額等が検討されるようになると良いのではないかなぁ、とも思いますです。

 とまれ、お大事に。

投稿: KWAT | 2012年9月30日 (日) 23時32分

 そうそう、このエントリ、ツイッターで紹介していいっすか?

投稿: KWAT | 2012年10月 1日 (月) 00時51分

>くわっちん

>>直接関わってる人でないと判らない、知らない

いや、私だって医者ではないので、知識は基本的にwikipediaレベル、難病情報センターの一般利用者向け解説(ブログ記事の一番上のリンク)レベルです。専門的知識がなければどうこうではなく、普通、その病名が判ればそれがどんな病気か簡単に調べてみる、それくらいのことはしておいてよ、ということです。

ここに書いて上げちゃった以上、ツイッターで取り上げるのも何もご自由にどうぞ。

投稿: かば◎ | 2012年10月 1日 (月) 02時01分

ウチのかみさんのリウマチと同じですなあ。
リウマチも、今の時点で完治することはありませんが、数年前から出て来た生物製剤がかなり症状を押さえ込んでくれています。
でも、テレビのバラエティ的医療番組あたりだと、さも「完治」するような取り上げ方をしていたり・・。
現在、その病気で苦しんでいる人に対しても失礼だし、何も知らない人には間違った認識を与えてしまうのは本当に迷惑な話です。

かばさんも、どうぞお大事に。

投稿: マクタロウ | 2012年10月 2日 (火) 23時02分

>マクタロウさん

マクノスケさんは関節リウマチなのでしたよね。日記等で拝見するに、痛みも治療のあれこれも大変そうで、私なんぞが「なんちゃって病気」でああだこうだ言うのは恥ずかしくなります。お大事にとお伝え下さい。

それにしても、うまくすれば進行を食い止め状態をキープできるものを、無闇に腫れ物扱いされるのも癪だし、かといって、根拠なく「直った直った」と「イイ話ダナー」仕立てにすれば、それが「患者に希望を与える」ことだとステロタイプに決め付けられるのは腹立たしい。

別に常に治療に役立つ情報を盛り込んで欲しいなんて期待はしませんが、少なくともミスリードを誘引するような扱い方はやめてほしいものですね。

投稿: かば◎ | 2012年10月 3日 (水) 14時40分

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