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タミヤ35新作、シムカ・サンク(2)

●タミヤの新作、シムカ5についてのあれこれの続き(7月30日/8月2日加筆)

●実車についてのおさらい。

この車はもともと、イタリアで開発され、1936年に発売された超小型車、フィアット500(チンクェチェント)Aトポリーノで、シムカ5(サンク)というのは、そのフランス生産型。

トポリーノという愛称はトーポ+指小辞で、ハツカネズミ系のネズミの、そのまた子ネズミ/小ネズミの意。そういえば、昔イタリア語を習った時ほとんど最初に出てきた例文が、

È un topo. エ・ウン・トーポ(これはネズミです)
Un topo è piccolo. ウン・トーポ・エ・ピッコロ(ネズミは小さいです)

――だった。ちなみに、この例文からあまり進まないうちに挫折したので、これは私が話せる数少ないイタリア語の文章である。英語のThis is a pen.同様、この先イタリアに引っ越すことがあったとしても、一生口にしないような文章だ。

なんて脱線は措くとして、トポリーノは名前通り、とことん小型の車で、後席無しの純粋2人乗り。現代で言えば、ベンツの「Smart」とほぼ同一コンセプト、車格も近い(もっともイタリア人は3人目、4人目が無理矢理ぎゅーぎゅー後に乗り込んで、後輪サスを破損させる事故を頻発させたそうだ)。

シムカ5は前述のようにフランス生産型で、もともとフランスでフィアット車を扱っていたディーラーが、関税対策で工場を立ち上げ、国内生産を始めたもの。戦前から、ドイツによる占領以降も生産が続けられている。

さて、このへんまではキットに同梱のリーフレットにも書かれているが、実はドイツのNSUの工場でも、「NSUフィアット」のブランド名でトポリーノをある程度まとまった数、生産したらしい。となると、ドイツ軍が戦時中に使用した可能性のあるトポリーノは、フィアット製、シムカ製に加え、自国ドイツ製まであったことになる。

タミヤのキットの指示塗装例の1つで、パッケージにも採用されている「陸軍第3歩兵師団」所属とされている車輌の写真がここのページの下のほうに出ているが、どのような根拠か、それをNSUフィアットだとしている(ドイツだから、というだけの理由か?)。私自身は、NSUフィアット独自の特徴というのがどんなものなのかは知らないが、一応、目に付く範囲では、写真の車輌はシムカ5の特徴に合致しているように思える。

なお、タミヤのキットは「ドイツ軍スタッフカー」として出るわけだが、流石に2人乗りのミニカーでは、士官の私用としてならともかく、軍用車としては使いづらかったはずで、部隊マークや戦術マーク入りの戦時中の写真は多くないようだ。

Bundesarchiv_bild_101i305067430a_itちなみに、Sd.Kfz.250の上に乗用車を積んだ有名な写真があるが(右、ブンデスアルヒフより)、フロントグリルあたりは似ているものの、センターピラーがあるので確実にトポリーノではないことが判る。一回り車体が大きいフィアット508C/1100ヌオヴァ・バリッラ(新型バリラ)ではないかと思う。

フランスで「シムカ8(ユイット)」の名で生産されているのがこの車のはずだが、右写真は撮影場所がイタリアなので、たぶんフィアット製のオリジナル。

●フランス製もイタリア製も仕様がまったく同じならキット名も「フィアット500Aトポリーノ」でいいのだが、実際は細部にちょっとした差異がある。

トポリーノはファンが多い車だし、フィアット製、シムカ製の仕様の差など、生産時期別に事細かに、判る人には判っているに違いなく、いずれそんな方の詳しい解説が模型誌等に出ることを期待しつつ、ここは私の付け焼刃の知見を。

▼フィアット500Aトポリーノ

  • 時期によってはない可能性もあるが、標準的には、ドア横の外側、前後フェンダー間にステップがある。タミヤのシムカ5からトポリーノに改造する際には主要な改造ポイントになりそう。
  • バンパー未装着。もちろん後付で付けている場合もあるだろうし、生産後期のものには付いているのかもしれないが、少なくとも戦時中の写真では普通、付いていないようだ。
  • シムカ5と違い、車体埋め込み式の方向指示器は付いていない。左右のフロントピラーに付いている車体があるが、これは生産時期によるものかと思う(戦時中の写真で、すでにこの位置に方向指示器を付けている)。フロントピラーより下、シムカの方向指示器よりは上に、明らかに取って付けたような方向指示器を持つ車体もあるが、これはオプション装備かオーナーの改装の可能性が高そうな気がする。
  • 車輪のハブキャップ中央に「FIAT」のロゴ。時期によるのか、単に車輪交換の結果なのか、このロゴがないように見えるものもある。
  • 前述のように後輪サスの破損が相次いだため、後期にはシャーシおよびサスが改良されている由。いつからかはよく判らない。また、それがシムカ製にも波及していかどうかは判らない。
  • 右ハンドル車がある。イギリス向け輸出用?

▼シムカ5

  • おそらく生産初期にはフィアット・トポリーノ同様に前後フェンダー間のステップがあるのだが、その後、このステップが省略される(おそらく1939年生産型途中より)。ややこしい。
  • ドア直前、エアフラップドア直後に、埋め込み式の方向指示器を標準装備。おそらく方向指示器のせいでエアフラップ後縁のラインが(方向指示器が無いものと比べて)微妙に違うという話もあるのだが、どうも私にはよく判らない。
  • バンパーを標準装備。
  • 近付いてみればロゴが違うのだろうが、フロントグリル上のエンブレムは、ぱっと見にはフィアット製もシムカ製も似たような形状(NSUフィアットも)。
  • ホイルキャップにロゴ無し(あるいは一部シムカのロゴ入り?)。
  • パイプフレーム?の露出した、ちょっと簡素なシートの使用例あり。キットのパーツが再現しているタイプ。
  • トポリーノ・エンスーな、でろり笠松さんによれば、シムカ5はトポリーノよりも大きめのヘッドライトを装着しているように見える例がある、らしい。

例えばこのページ下に、連合軍に接収されて使われた(その末に壊れて捨てられた)車輌の写真があるが、埋め込み式の方向指示器があり、ステップがなく、バンパーが付いているところからみて(トポリーノだとキャプションが付いているが)、シムカ5だろうと思われる。

●ディテールアップ・ポイントについて追加でいくつか。

・床にベタでモールドされたペダルが気になったので調べてみたが、有名車の割に、web上にwalkaround的な写真があまりなく、車内の写真がなかなか見つけられなかった。少ない写真に、後継車であるフィアット500Cトポリーノの写真も参考にすると、左2つ(クラッチとブレーキ?)は丸ペダル、右のアクセルはちょっと斜めに長いものが付いている。

・オープントップ型のルーフは、キットでは単純に折り畳まれたパーツが付いているが、どうやら左右に開閉用のアームが付いているようだ。ちなみにキットでは折り畳んだルーフについて、軍用車らしくカーキの色指定になっているが、ここは本来はゴム引き布で黒っぽいものなのではないだろうか? なお、細かいことを言うと、折り畳んだ状態で3段目(一番下の段)には透明な窓部分が見えているのが普通。

・キットでは省略されているが、エンジンフード(パーツA7)には、後部左右にフード固定用の留め具が付いている。

●疑問点。

キットのシートは、割と簡単な作りで、背もたれ上部はフレームが露出したタイプのものがになっているが、シムカ5に、こうしたシートの形状は実在したのだろうか?

少なくとも実車写真を見る限りでは、フィアット・トポリーノもシムカ5も、革張りのバケット・シート状のものが普通であるらしい。なお、質の高いレジンキット、モデル・ビクトリア製のトポリーノでもそちらの形式のシート付きとなっている。

先述のこのページには、プロトタイプのものだという簡単な図も出ているが、並んでいる量産型がバケット・シートなのに対し、プロトタイプはキットのものに似たシートになっている。生産初期にはキットのようなシートだったのだろうか?

あるいは、大戦の勃発で、シムカ5は「民間向け生産は中止され、フランス軍向けに切り替えて生産が続けられ」(キットの解説リーフレット)たとのことなので、これは軍用に簡略化されたシートなのだろうか?(希望的観測)

(その後、でろり笠松さんより、同タイプ椅子の使用例を教えていただいた)

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コメント

毎度テキトウすぎてお恥ずかしいです。ごめんなさい。

「シムカ5のライトはフィアット5000Aより大きい」という事実はないです(たぶん)。

ただ、トポリーノ系には妙にライトが大きく見える個体があって、そういう例はシムカ5にしか見られない気がする、とは感じていました。つまり、一部のシムカ5はライトが大きいかもしれず、よって、ライトが大きいとシムカ5っぽいというニュアンスで書いていたと思います。

もっとも、資料は洋書のわずかなだけという頃なので見た写真自体が特殊例だったかもしれません。現在のネットから得られる画像の方が遥かに参考になるので、どうか、私の妄言は無視してください(笑)

それにしても・・・タミヤが出すとはショックでした。装甲車の改造キットが待たれますね(笑)

投稿: でろり笠松 | 2012年7月30日 (月) 19時26分

>笠松さん

私の交流範囲内で最もトポリーノ/シムカに詳しい笠松さんにご登場いただけるとは、心強い。ライトの件、本文訂正しました。シートの件も、もしご存知でしたらぜひご教示いただきたく。

シムカ装甲車に関しては、もっとガラの大きい装甲車と一緒に2両、横から撮った写真が有名なのですが、改めて検索してみると、現存しているのかレプリカなのか、博物館にあるんですね、アレ。

改造対象としてもいけそうですが、しかし、シャーシと車輪しか使わず、せっかくの可愛いボディはまるっきり無駄になるのが心理的に難点な気がします。

投稿: かば◎ | 2012年7月31日 (火) 15時39分

再びMMM誌の記述によれば、NSU製は基本的にトポ準拠とのこと。wikiに載ってるNSUの解説を読む限り戦前にフィアットの子会社になってるみたいなので、辻褄は合いますね。で、『NSU製は全車民間に売られたので直接軍に納車されたものは無いのだ』みたいな事をどこかで、しかもタミヤンの発売アナウンス後に読んだ記憶があるのですが、改めてどこで読んだ文章だったか思い出せません。ついこないだのハズなのに(゚ー゚;。もしかしたら暑さのあまり幻覚を見たのかもしれませんが・・・

投稿: hide | 2012年8月 1日 (水) 17時55分

あ~
笠松師匠だ~

そーいやヴィッカース・クロスレイ装甲車もインジェクション化するそうで
なんつーか
「出せそうな状況(気分?)のうちにドンドコ出して下さい」
という感じですかね。

投稿: めがーぬ | 2012年8月 1日 (水) 22時20分

シートに関しては私も知りませんでしたが、下記サイトの1937(青)と1938(茶)にパイプフレームが確認できるので存在はするようですね。他にも当時ものの写真で見つけました。

ただ、ざっと見たところ、その前後の年式もパイプが確認されないので、一時的な採用なのか、たまたま低グレード版なのか、納品先違いなのか推測も難しいですね。

複数あるライト形状に関しても分かりやすい法則がないようで意外とメンドクサイ奴です(笑)

http://www.simcaworld.net/simca/simca5/s5.html

あの装甲車は大きい方もレプリカ?が存在していて、抵抗運動の証として地元の誇りだったりするのでしょうね。

めがーぬさん、ヴィッカース・クロスレイも驚きです。日本でいえば戦車よりデカいし、リベットだらけで存在感は凄そうです。が、ピットロードなので出来が不安だったりして。

投稿: でろり笠松 | 2012年8月 2日 (木) 04時37分

おお。笠松さんご紹介のサイト、いいですね。
写真が拡大できないのはもったいないですが、それぞれに年式が入っているのが有難いです。これを見ると、シムカ5でもどうやら1939年型の一部くらいまではステップがあって、その後省略?されたようだ、というのがわかります。

タミヤのキットのような椅子もちゃんと存在するようだというのが判って、ちょっと安心しました。まあ、タミヤの場合「現存の特定のサンプルに引きずられて、復元部分もそのままパーツ化してしまう」というのをよくやるのですが、同じ型式の椅子を使っている例が2台以上あるからには、一応「純正部品」である可能性が高そうですね。

hideさん、NSUの件ありがとうございます。それにしても、「NSU製は全車民間に売られたので直接軍に納車されたものは無いのだ」ってのも、なんだか笑っちゃう話ですね。占領下のシムカ製は直接軍に納入してたんでしょうか……こんな、ほとんど軍用で使いようがなさそうな車を!? いやまあ、あればあったで何かには使えるでしょうから、NSU製だって徴用されて使われているものがありそうですけれども。

それにしても、ヴィッカース・クロースレイは驚きですね。アイテム的に、これは私もぜひとも欲しいです。ピットロードから、ということはトラペ製ということになるんでしょうが、海外ではトラペブランドで出るのかな。

投稿: かば◎ | 2012年8月 2日 (木) 12時15分

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