自転車と飛行艇と陸攻
●相も変わらず仕事で汲々の日々。23日月曜日まで銀座松屋で開かれていた「ゲゲゲ展」の無料招待券を持っていたのだが結局行けなかった。くうう。
●働く自転車研究関連。
往年の名自転車に、山口ベニー号というのがある。
山口自転車は大正年間に創業、戦後は一時オートバイの製造にも乗り出したものの過当競争により倒産、丸紅資本が入り丸紅山口自転車として活動を続けるも、結局その後消滅したメーカー、であるらしい。
どうもあれこれサイトを見ると、山口ベニーというのは単一の車種ではなくて、実用車(いわゆる働く自転車)寄りのものからスポーツタイプ、婦人用(といっても今風ママチャリではなくデカいもの)までひっくるめたブランド名のようなものであったらしい。
とにかく「山口ベニー号」は、現在でも一線で「働く自転車」として活躍中のものがあり、K女史あたりから名前をよく聞いていたのだが、そのK女史が先日、ある自転車屋で、倉庫からこんなものが出てきたからやろうと言われたとかで、ベニー号のエンブレムを嬉々として事務所に持ってきた。
本来は前部フェンダー先端上に付くもので、クロームめっきも美しいが、それはそれとして飛行機マニアとして気になったのが形状。下面の水切り段差に加えて、ほとんど痕跡くらいに“退化”しているものの垂直尾翼と主翼(それともドルニエ式スポンソン?)位置の突起があって、明らかに飛行艇を模している。
「速さ」とか「軽快さ」を表すのに飛行機を使うのはよくありそうな話で、実際、他社製「働く自転車」で紡錘形のジェット機風エンブレムのものもあるのだが、飛行艇というのはどうもマニアック過ぎる。まさかベニー号は水陸両用だった、というわけでもないだろうし。
山口自転車は戦時中に川西飛行機の下請けをしていました、なんて話があると「ナルホド」だが、どうもそんな気配はなさそう(そもそもweb上に同社社史はごく簡単なものしか見当たらない)。謎。
●27日金曜日、神保町の事務所はまたまたC社長のバイオリン道楽の会合があり、5時に追い出される。
ちょうどこの日は先日も書いた「アジア-パシフィックの自転車生活デザイン展」の楽日だったので、P女史とともに事務所から六本木ミッドタウンの会場に直行。先に行っていたK女史と合流しあれこれ展示を観る。
戦後すぐ、三菱重工業が余剰となった航空機用ジュラルミンの有効活用と技術者、工員の雇用確保のために開発した自転車で、設計主任は九六式陸上攻撃機、一式陸上攻撃機の設計で名高い本庄季郎技師。
残っていた航空機資材の有効活用ということでは、旧中島飛行機、再生間もなくの富士重工業が、爆撃機「銀河」の尾輪を使って試作車を作ったスクーター「ラビット号」が有名だが、こちらはこちらで独創的。
K女史経由で頂いた解説パンフには、フレームの曲げモーメントを一般車と比較で計算した手書き図なども載っていて、単に「材料の再利用でヤッツケで作りました」ではないこだわりが感じられてイイ。デザインも斬新だし、イチジク形の後ろ荷台も妙にお茶目で、これが戦後すぐの1947年(昭和22年)製というのがすごい。もっともその一方で、斜めのメインフレームの上面に打たれたリベット列はよく見るとわずかに不揃いで、手作り感がある。
スチール製が当たり前だった当時、軽量な十字号は性能もよく、長距離レースでも好成績を上げたらしいのだが、新機軸を盛り込みすぎて販売は伸びず、社内でもあまり評価されず、三菱重工の自転車製造自体短命に終わった由。状態がいい車体があれば、今でもちょっと乗ってみたい気はするがなあ。
他、展示品のなかにはビクトリア朝時代の現代型自転車のハシリ(エマさんが乗っていたようなヤツ)、バングラデシュのリキシャ、戦時中のスイス陸軍の軍用自転車、現代の工房製の斬新な自転車、それからもちろん数台の「働く自転車」もあって、なかなか見応えがあった。
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コメント
本庄技師の仕事は思い切りが良くて好きです。
ヨーロッパだと墜落した飛行機の尾輪で即席の猫車とか作ってたそうですね
投稿: 宮前 | 2010年8月29日 (日) 20時13分
>みやまえさん
ヨーロッパでは、放置された戦車の残骸の場合も、転輪は荷車用などによく持って行かれちゃうパーツだった、というような話をどこかで読んだような。
ちなみに十字号はフレームが十字だったからだけではなく、ジュラルミンの「ジュ」とも掛けているとかなんとか。確かに潔い設計という感じですが、フロントフォークが一直線なのはどうなのかなあ、という気はします。
投稿: かば◎ | 2010年8月29日 (日) 21時06分